HTB報道情報局報道部・坂本英樹氏

12 OCT

ブラックアウトの体験から生まれた24時間配信するHTB「北海道ニュース24」の可能性〜インタビュー(後編)

編集部 2020/10/12 08:00

HTB北海道テレビの報道部がニュース動画を24時間配信するサービス「北海道ニュース24~HTBニュースLIVE」の提供を始めている。ローカル局における災害報道のあり方が問われているなか、既存の配信プラットフォームを活かし、最低限のコストとシステムでいかに効率的に緊急放送を行うことができるのか。そんな問い掛けから始まったHTBのデジタル化の取組みの一環が具現化した。立ち上げから携わるHTB報道情報局報道部・坂本英樹氏に「北海道ニュース24」導入の理由と狙い、可能性について聞いた内容を前・後編にわたってお伝えする。

■火事の生中継映像を配信、機動力を活かした配信も

8月13日から提供開始したHTBの「北海道ニュース24」では、前編で紹介したように、日々のローカルニュースから緊急放送まで対応し、YouTube経由で24時間ライブ配信している。これを運用している「HTBニュース」のチャンネル登録者数が9月15日時点で6万人を超え、普及しつつある。北海道知事の会見や小樽市で発生した新型コロナウイルスに関する緊急会見などは生配信をし、道内のニュースソースの一つとして、何かあった時に「北海道ニュース24」に訪れてもらえるようなコンテンツのバリエーションを増やすことにも挑戦している。

坂本氏:つい先日、狸小路で発生した火事の生中継映像を配信し、ツイッターやLINE等のSNSでも情報を拡散しました。こうしたニュース取材の機動力を活かしたものも積極的に配信したいと思っています。

これまで配信ならではの試みとして、はこだて未来大学が主催した「はこだて国際科学祭」のオンラインイベントとして企画された乳がんについてのシンポジウムの同時配信も行いました。それをアーカイブ化したので、現在もその動画をいつでも視聴することができます。作り込んだ完全オリジナルコンテンツを配信する具体的な予定は今のところありませんが、イベントやドキュメンタリー上映、トークイベントなどを配信することを検討しています。

運用にあたり、専従者は置かれていない。報道部内では基本、日々のニュースデスクの業務に組み込み、技術部内はマスター卓の勤務担当者がトラブル時に備えて監視を行っている。コンテンツを増やしていくことを考えると、増員も必要になってくるのだろうか。

坂本氏:低コストで人員がかからない形を運用の基本としているのですが、一部の方から「何回も同じ動画が流れる」というご意見をいただいているのも事実です。ローカル局が日々お伝えできるコンテンツは量が限られているとは言え、違う視点を持てば配信できるコンテンツはまだまだあるはずです。そのため各部署との連携を強めて展開を広げていくことも考えています。

■地元のニュースコンテンツを届けることを第一に

チャンネル登録者数の目標値は設けていない。道民にはもちろん、また北海道以外の国内のどこからでも、海外からも無料で視聴できるツールとして使われることを目指す。「北海道ニュース24」に求められていることは何だと考えているのか。

坂本氏:北海道のニュースを広く届ける、ということに尽きます。テレビを見たくても見られない環境にある方や、北海道にはいないが北海道で起きている今の情報を知りたい方に、配信という一つの手段を通してニュースコンテンツを届けることが求められているのは確かです。ただし、地上波だけでは限界があるという考え方には至っていません。デジタル化が進み、スマホの普及で誰でもどこでも手軽にコンテンツを得られる時代でも、ローカル放送局の重要な役割の一つは信頼できる「地元のニュースコンテンツ」を届けることをシンプルに捉えています。

災害報道を地上波だけでなく、配信を使って届けたいという想いから立ち上げた経緯があるが、民放局としては収益性向上を見据えているのだろうか。

坂本氏:ニュースのマネタイズは喫緊の課題です。ニュースを出すことがまずは重要だと主張すると、マネタイズの方向に向かない傾向はありますが、民放局としてはシビアに考えていく必要があります。

HTBと言えば、テレビ事業以外のメディア事業にいち早く着手してきた歴史がある。今回の「北海道ニュース24」の立ち上げもHTBの価値を総合的に高めていく意識もあってのことなのか。

坂本氏:HTBは以前よりデジタル化の部分で注目していただいていますが、ここ数年、各局が新たなことに取り組み、埋没してしまうのではないかと危機感も持っています。動画配信の取組みは、キー局の動向をみていると、爆発的に視聴者数を増やしています。なかでも、系列キー局のテレビ朝日はお手本にさせてもらっています。ただ、それをローカルに落とし込み、先進的な取組みにしていくことが必要です。「北海道ニュース24」ではそこに行けば、すぐ最新映像が流れるプラットフォームを目指していますので、ニュースのデジタル化とニュースの展開の仕方を強く意識しています。

最後に、放送局がネットを使ってニュース配信していくことの可能性についても語ってもらった。

坂本氏:やはり災害時の緊急同時放送のツールとして活かしていくことで可能性が広がっていくと思っています。北海道胆振東部地震の時、北海道全域がブラックアウトになり、放送波を流していてもテレビが映らない状態が続きました。本社機能は失われていなくても、テレビとしての機能を失ってしまったのです。届かないジレンマを北海道全局が体験しました。だからこそ、災害時を含めて報じているものをどうしたら届けることができるのか、ということを意識したプラットフォームを目指しています。「北海道ニュース24」を立ち上げることができたことによって、放送波で緊急放送を流すのと同時に、タイムラグなく同時配信ができるようになりました。インターネットに繋がっていればどのスマホ上でも緊急時にすぐさま災害報道を視聴できる。どうしてもやりたかったことがまずは実現でき、新たな可能性も探っていきたいと思います。

同時配信はコンテンツによっては検討事項も多いが、災害報道の視点からはニーズがあり、ローカル放送局にとっても役割を再認識させるものになっているのではないか。YouTubeを利用した先行事例としてシステムや体制などが各局で共有されながら、広がっていくことに期待したい。同時にニュースのマネタイズを考えるきっかけも与えていくのではないか。

【関連記事】ローカルニュースを24時間配信するHTB「北海道ニュース24」の狙い〜インタビュー(前編)