左から)パネリスト:古田大輔氏、長崎亘宏氏、モデレーター:蜷川新治郎氏

09 DEC

デジタルへ舵を切れ! 異業種に学ぶビジネスモデル革命~【Inter BEE 2020レポート】

編集部 2020/12/9 08:00

一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、毎年幕張メッセで開催している「Inter BEE」を、11月18~20日にわたってオンラインで開催。「メディア総合イベント」のニューノーマルを目指し、オンライン上で様々な展示、並びに50以上の講演、セミナーが実施された。

本記事では、その中から放送とネットやビジネスとの「CONNECT」をテーマとし、InterBEEのひとつの目玉企画「INTER BEE CONNECRED」のセッションより、「デジタルへ舵を切れ! 異業種に学ぶビジネスモデル革命」の模様を紹介。現在、デジタルとの融合により、大きく変化しつつあるテレビ業界が、異業種の新聞・雑誌メディアのDX事例より、今後のビジネスにおけるヒントを探るという形で行われた。

モデレーターを務めたのは蜷川新治郎氏(株式会社TVer 取締役CIO 兼 株式会社テレビ東京ホールディングス コンテンツ統括局 兼 株式会社テレビ東京コミュニケーションズ)。パネリストは古田大輔氏(株式会社メディアコラボ 代表)と長崎亘宏氏(株式会社講談社 ライツ・メディアビジネス局 局次長)。

■紙メディアからデジタル総合メディアへと変貌を遂げたニューヨークタイムズ

本セッションは、新聞業界に詳しい古田氏と出版業界の長崎氏から、それぞれのビジネスモデル革命を聞き、テレビを代表して蜷川氏が類似点や相違点を探し出し、今後進むべき道を模索するカタチで進行。数多くの取り組みが紹介されたが、ここではテレビの未来を示す鍵となるような事例を主に紹介する。

古田氏は、新聞の中でも最もDXに成功したと言われるNYT(ニューヨークタイムズ)の事例を取り上げた。NYTは10年前には潰れると言われ、買収の噂も出ていた。しかしどん底からデジタル総合メディアへと一気に変貌を遂げる。「その起点になったのは、2012年にCEOに就任したのマーク・トンプソン氏です」と古田氏は言う。

パネリスト:古田大輔氏

英国BBCから来た改革者は、「NYTは新聞紙じゃない、総合メディアである」とインタビューで答えている。「新聞紙は、WEBやスマートフォンなど数あるプラットフォームのひとつに過ぎない」と語ったのだという。2014年にまとめられたデジタル改革のための社内資料(BuzzFeedが入手して公開)では「NYTはジャーナリズムでは勝利している。しかし、届ける部分では我々は負けている」と自分たちの価値と弱点を定義。

資料を引用しつつ「自分たちはこれまで、質の高いジャーナリズムにプライドを持つあまり、読者は勝手に来てくれると思っていた」ことが問題だったと指摘した。

そしてNYTはネットメディアの手法を参考にし、ユーザーとのタッチポイントを細かく分け、施策を打ち始める。古田氏は、「当たり前のことをやっていなかったと認めたうえで始めたのです」と大逆転の鍵となるきっかけを語った。

さまざまな取り組みの結果、NYTは単にデジタル化に成功しただけではなく、読者も劇的に若返っている。「自分たちの強みを活かしつつ、新興メディアに負けている部分を丁寧に改善し、それを上回るものを作り上げた」と古田氏は成功の要因を示した。

■「データをパブリッシングする」ことへの変革を遂げた講談社

長崎氏は、「2015年がターニングポイント」だと語った。それまでの3~5年は、出版業界は雑誌部数の減少とともに、広告収入も厳しく、本業で赤字を出すまでになっていた。

パネリスト:長崎亘宏氏

そこで同社の野間省伸社長が社員総会で「出版の再発明。版(データ)をパブリッシングすること」と発言したことが大きな波紋を巻き起こしたのだと言う。長崎氏は、「先程のNYTのように、社員は全員驚きました。データのパブリッシングは、紙、アプリ、電子配信でも読者ニーズに合わせて何でも良いということですから」と振り返る。

広告部門では「出版広告の再発明。メディアビジネスのDX」という課題のもと、古いスタイルを捨てる“脱雑誌広告営業”に取り組む。その施策は、メディアラインナップの再編、積極的なコンテンツ拡張、メディア+ライツビジネスの連携といったものだった。

これらの取り組みにより、同社の広告収入の構造は大きく変化。プリントメディアの統廃合、デジタルメディアへのシフトを続けた結果、2010年から7年間で半減した広告収入は2018年からアップトレンドに転換し、5年前の水準にまで回復。2015年から2020年にかけてデジタル広告収入は9.2倍の成長を記録し、広告収入全体の60%に達した。

長崎氏は、「まずは自らのやり方を疑うところから始まり、デジタルベースへの転換、紙からデジタルではなくて、あくまでもデジタルベースで考えることが大事でした。そしてコンテンツを起点とし、メディア価値のみならず、読者のクオリティを価値にすること」などにより変革が進んだと言い、同社は根底から考え方を変えたと強調した。

■テレビ関係の人間が、他人事にせず責任を持って進めることが大事

後半部分は3人のクロストークとなり、お互いの疑問や提案をぶつけ合う形となった。蜷川氏は“データ”というキーワードを提示し、「テレビは、視聴率という極めて明快なデータを元に非常に分かりすくビジネスができてきました。そして、インターネットの普及により、様々なデータが取れるようになりましたが、一方、雑誌や新聞はネットの普及によりどんなことが起こったのか」と2人に尋ねた。

モデレーター:蜷川新治郎氏

長崎氏は、「人ベースのデータで広告をパーソナライズすることが当たり前になりました。さらに人と人とのコミュニケーション、いわゆるCtoCも加味する。そして私たちが活用したいのは、その先にあるコミュニティ単位のデータです」と答える。

パネリスト:長崎亘宏氏

すると古田氏が、「雑誌のように多様で大量のコンテンツがあれば良いけれど、テレビは作品作りに人手とコストが必要でコンテンツの数が少ないですよね」と指摘。

パネリスト:古田大輔氏

これに対し、蜷川氏は「まさに、日経新聞では1日に約1000本という記事が出ますが、テレビ局は1日に数十番組。主要5局のコンテンツがキャッチアップで見られてもおそらく1週間で1000の単位です。この少ないコンテンツを全員に見てもらうのがテレビです」。また、「30分のテレビ番組を見るには30分が必要。24時間365日でコンテンツを提供しているけれども、これを超えることはできない」と続けた。

一方で古田氏は、「テレビは歴史として積み上げてきたもの、コンテンツを作るパワーがあります。クリエイティビティの高い人たちも多く、それがインターネットで見られるようになれば、もっと環境が良くなると期待しています」と将来のテレビのあり方に期待を寄せた。

最後に蜷川氏は、「従来の“テレビ”というサービスの終わりは、少なからず見えてきているのかもしれません。新聞や雑誌といった紙媒体も、形を変えてイノベイティブに生き残っているわけで、テレビも遅かれ少なかれそれは訪れる。そこに向かって一人ひとり、テレビの人間が他人事にせず責任を持って進めていくことが今日、お二人の話を伺って重要だと思いました」と、今後のテレビの行方に対する決意を表してセッションは終了した。

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