29 DEC

複雑化社会のテレビビジネスについて考える。〜「VR FORUM 2020」セッションレポート

編集部 2020/12/29 09:00

ビデオリサーチ主催のカンファレンス「VR FORUM 2020」が、2020年11月17日(火)にオンライン開催された。「メディアの新しい価値を見逃すな。」というテーマを掲げ、様々な講演が展開。今回は、その中からビデオリサーチ 営業局 営業企画部長 河辺昌之氏によるセッション「複雑化社会のテレビビジネスについて考える。」をレポートする。

本セッションは、河辺氏のほか、日本テレビ放送網株式会社 取締役 執行役員 営業担当 データマネジメント室長の黒崎太郎氏、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 執行役員/デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 取締役/一般社団法人日本インタラクティブ広告協会 理事の山田覚氏もゲストで登壇。複雑化社会における生活者の変化を放送局ならびに広告会社はどのように捉えているか、またその際に必要なメディアパワーの示し方を焦点に、ディスカッションが行われた。

左から日テレ黒崎氏、博報堂DYMP山田氏、ビデオリサーチ河辺氏

■コロナ禍におけるテレビのコンディションは?

ビデオリサーチ 河辺氏

「コロナ前の生活習慣に戻ろうとする流れ、コロナを機に新たな価値観のもとで生活をはじめようとする流れのふたつが、同じ文化圏やコミュニティのなかでも並立し、個々人の価値観が複雑化している」と河辺氏。テレビにおいても外出自粛期間中、家族で一緒にテレビを見るという習慣に「回帰」した例もあれば、在宅しながらタイムシフトやキャッチアップで個人視聴する、という「分散」ケースも多く見受けられたと語る。

この流れを踏まえ、「地上波の視聴率が非常に上がったというところが、自分たちにとっては嬉しいこと。それがテレビの力ということだと思う」と山田氏。「いろいろ見るものが増えたという意味では、クリエイティブをどんどん作っていくわが社にとっては良いこと。積極的にこのコロナを捉えて、前向きにいこうという気持ちがある」と、ポジティブな意見を示した。

博報堂DYMP 山田氏

その一方で、黒崎氏からは「緊急事態宣言の頃はPUT(Persons Using Television:総個人視聴率)もアップしたものの、またこれが結構落ち着いてくる、元通りには戻らないのではないか」と危機感の声が。今年10月から日本テレビがプライム帯を中心にTVer上で30番組にわたって地上波同時配信を行っていることに触れながら、「分散化したり複雑化したりというところに、できるだけテレビ局としても応えられるように試みている」と語る。

日テレ 黒崎氏

ビデオリサーチでは、今年4月より「新視聴率」の計測を全国化。「365日を通じ、全国でどの番組をどれだけの人が見ているのか、具体的な人数で表現できるようになった」と河辺氏。

具体的な例として、今年4月クールにおける、日本テレビのバラエティ番組「世界の果てまでイッテQ!」を例に挙げ、「日本全国で7500万人もの人々に番組がリーチしていることが可視化された」とした。

日本テレビでは、2年前より視聴率の指標を世帯視聴率から個人視聴率へと全面的に切り替えているが、「新視聴率」においてその計測範囲が全国化したことにともない、局内に貼り出される視聴率速報では、個人視聴率とともに視聴人数も表記されるようになったという。

「『屋根の数より人の数』というところで番組を見るようになってきている」と、黒崎氏。世帯視聴率を個人視聴率に切り替えた当初は表記上の数字がこれまでの3分の2ほどの値となったため、不安の声もあったというが、「いまはもう、みんなが個人視聴率の指標で効果を分析することに違和感がなくなってきた」と語った。

■広告主が望む“使いやすいテレビ広告”とは?

つづいて、日本アドバタイザーズ協会 電波委員長の小出誠氏がVTRでコメント。

日本アドバタイザーズ協会 電波委員長 小出誠氏

「デジタルに比較して、テレビは若干過小評価されているのではないか」と小出氏は切り出し、「個人視聴率をオールに直すと、500から600GRPレベルでも6億回ぐらい全国のテレビ画面で動画のCMが流れているというほどのボリューム感がある」と、その優位性を説明。さらに「ブランドセーフティやビューアビリティの面においても、テレビは安定している」とし、「その点をテレビ局側からもアピールすれば、広告主の宣伝部門などは社内説得をしやすくなるのではないか」と、ポジティブな側面を強調した。

しかしその一方で、「使いやすさの点では、長い間なかなか改善されてこなかったのではないか」と苦言も。「今やデジタル広告では『6秒動画』もある。発注のリードタイムや予算規模、『何秒』という単位も含めたフォーマットの自由度をふくめ、テレビ広告がいかに使いやすくなるか」と小出氏。「素材の入れ替えのタイミングや考査についても、さらなる改善が必要」と語る。

アド・エクスペリエンス(広告体験)という観点では、「『CMまたぎ』について、『もう少し何とかならないのか』という声が各方面から聞かれる」と小出氏。テレビ局に対しては「広告主のことを考えていただいてのことだろう」と理解を示しながらも、「広告主のCMを好意的に見てもらえるかどうかという視点で検証したらよいのではないか」との意見が挙げられた。

さらにセッションでは、元電通イージスCIOのAndy Donchin氏もVTRでコメント。

元電通イージスCIO Andy Donchin氏

アメリカでは「広告をターゲットに届けるために、データが使われている」といい、「データがテレビ広告の価値を高めている」とAndy氏。「テレビ広告を出しているときと、そうでないときでは、WEBで検索される回数が違うのが統計を見ても明らか」といい、「これはテレビ広告の有用性の証拠である」と結論付けた。

続いてセッションでは、日本における、データを駆使した新しいテレビ広告セールスの取り組みを紹介。黒崎氏からは、日本テレビで始まった「Smart Ad Sales」という取り組みが紹介された。このシステムでは、データに基づいたプランニングを行い、スポットCM枠を指定した時間で1本から購入できるという。

この仕組みのバックエンドでは、ビデオリサーチが開発した「枠ファインダ」というツールが稼働。ビデオリサーチをはじめ、さまざまな会社の提供する視聴データを横断することで、性・年代以外の様々な切り口から、客観性、透明性の高いプランニングが行えるようになっているという。

山田氏は、博報堂DYメディアパートナーズとGunosyの協業によるツール「Guhack」を紹介した。こちらは、デジタル広告の世界でこれまで行われてきた高速なPDCAサイクルをテレビ広告の世界にも持ち込み、DX化したもの。また、博報堂DYメディアパートナーズが保有する生活者DMPとテレビの視聴データを連携させた「AtmaDataDrivenTVSpot」では、ビデオリサーチの提供するパネルデータに加え、スマートテレビをはじめとする実数データを材料とすることで、サイト来訪者やリーチ効率など、クライアントのKPIに直結するターゲット設定をより効率的に行えるようになっているという。「商品やサービスによって、ゴールデンタイムは変わる」と山田氏。

「テレビのメディアパワーはいまだ圧倒的な力を持っていますが、同時に、断片的でかたよった情報による“偏見”も払拭しなければならない」と河辺氏。元電通イージスCIO・Andy Donchin氏による米国の事例を引用しながら、「広告主に対して、データを駆使したリブランティングは必須となっていく」とし、「サンプリングデータと実数データを『いいとこ取り』の形で駆使することで、届けたいターゲットや示すべき効果に応じて最適なプランニングが行える環境が求められている」と述べた。

■新視聴率、その先へ

セッションの最後では、河辺氏が、ビデオリサーチにおける「新視聴率」の先を見据えた取り組みについて説明。

ビデオリサーチは昨年6月、実数ログを有効活用するための会社「Resolving LAB(リゾルビング・ラボ)」を新たに設立。国内の主要テレビメーカーから500万台規模にのぼる視聴ログの提供を受け、ビデオリサーチがこれまで行ってきたPM(People Meter:機械式計測)視聴率に準拠した個人視聴ログを生成し、コミュニケーション活動の最適化を支援するという。

また、ビデオリサーチのパネルデータ「ACR/ex(Audience and Consumer Report)」も活用し、プロフィールの推計付与を実施。よりクライアントのKPIに近いターゲット分析を可能にする取り組みを進めていると語った。

「500万台分の実数データを個人視聴に分離することができれば、およそ1300万人規模の『顔のわかる個人視聴ログ』を分析できるようになる」と河辺氏。パネルデータとの連携が可能になれば、「『輸入車を買いたい人の視聴率(視聴ログ)』といったように、戦略ターゲットに基づいた分析も可能となる」といい、これまで視聴率調査では細分化が難しかった領域においてもより深い視聴者インサイトを得られるとの見通しを示した。

■攻めと守りを駆使しながら「一番いいパフォーマンスを出す」

今回のセッションを振り返り、「いま得意先が求めているのは、テレビを使おうがデジタルを使おうが『一番いいパフォーマンス出してくれ』ということ」と山田氏。「常に同じ土俵に乗るためにもDXは必要」としながらも、「ビューアビリティやブランドセーフティの部分に関しては、絶対に変えてはいけない」と語った。

黒崎氏も「メディアパワーの可視化、数値化ということをきちんとしていく」と発言。「山田氏の挙げた高速PDCAのように、クライアント側が動いていることに対して、われわれも追いついていけるように、いろいろルールを変えたり、臨機応変に応じていかなければいけない」と語った。

最後に河辺氏が、「これまで視聴率調査で培ってきたノウハウを活かし、第三者企業としての立場も含めながら、今後のテレビ業界全体に貢献していきたい」と抱負を述べ、セッションが終了した。

■ビデオリサーチの取り組み 米企業と違法動画対策の合弁企業も

「VR FORUM 2020」最終セッション「メディアの新しい価値創造に向けたビデオリサーチの取り組み」では、ビデオリサーチ 代表取締役社長 執行役員の望月 渡氏が同社の新たな取り組みを紹介。

同社ではメディア指標事業のほか、大規模生活者調査の「ACR/ex」事業、広告実態を調べる広告統計調査事業、テレビスポット取引プラットフォーム「枠ファインダ」など、多角的に事業を展開。さらに今年7月にはアメリカのMuserk(ミュザーク)社との合弁会社「Muserk V.I.D.」を立ちあげ、動画共有サイト上にアップされた違法動画の検知・取り下げ事業にも進出した。

「Muserk V.I.D.」では、コンテンツホルダーの違法動画監視に加え、閲覧対象者の属性や視聴回数をマーケティングデータとしてダッシュボード形式で提供している。

「ビデオリサーチは、メディア業界の共通基盤のサポート役を担うべく事業を続けてきた。今後も必要な投資と専門領域の研究、人材育成などに取り組んでいく」と望月氏。次世代型メジャメント企業化を目指し、新たに経営計画を立案したと述べた。

「メディア業界の共通基盤を整備することで、次世代型メジャメント企業化が可能になっていく」と望月氏。「メディア業界の共通基盤・事業を標榜することは、ひろく広告会社様、広告主様にも貢献できることにもなる」と述べ、全セッションを締めくくった。