博報堂DYメディアパートナーズ代表取締役社長 矢嶋弘毅氏

08 JAN

コロナ禍でメディア利用に変化!新たなスタイル「オンライン同期」がコンテンツを強くする~メディア環境研究所:MEDIA NEW NORMAL ウェビナーレポート

編集部 2021/1/8 08:00

博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所は2020年12月9日と10日の両日にわたり、「MEDIA NEW NORMAL コロナ禍は生活をどう変えたか メディアはどう変わるか」と題したウェビナーを開催した。

このウェビナーは、生活者とメディアの今を切り取り、メディアビジネス進化へのヒントを提供することを目的として開かれており、今年は7月に続いて2回目。本記事では、「『オンライン同期』がメディアコンテンツを強くする」とタイトルが付けられた初日の模様をレポートする。

まず登壇したのは博報堂DYメディアパートナーズ代表取締役社長の矢嶋弘毅氏。続いてメディア環境研究所所長の島野真氏が挨拶を行い、キーノート発表からトークセッションは同研究所上席研究員の3人、森永真弓氏、野田絵美氏、小林舞花氏によって進められた。

■動き出したレイトマジョリティ。山が動いている!

冒頭の挨拶において矢嶋社長は、「新型コロナウイルスの影響下で過ごした10か月という短い期間に、生活者側に大きな変化が起きています。この状況下でメディアはどう変わって行くのでしょうか」と問いかけた。

メディア環境研究所所長 島野真氏

これを受けて島野所長は7月に開催された同ウェビナーの内容を引用し、「従来、情報のイノベーションをリードしていたのは男性ビジネスパーソンが中心のアーリーアダプター。しかしコロナ禍による生活のデジタル化を見ると、女性、中高年層がリードしている。まさに、山が動いていると言えるのではないでしょうか」と語り、「以前の見方では変化を見誤るのではないか」と指摘した。

そしてこのレイトマジョリティ層が動き始めた後の現状を、同研究所の9月末時点の調査を紹介することで明らかにする。コロナ禍で利用したサービスの一覧によると、決済、買い物、交流、仕事などさまざまな生活の中のシーンで、デジタルサービスが使われてきていることが示された。

高年齢層の行動が変わり、若者層の意識も変わっているという状況の元で、生活者が今何を求めているのか、メディアや情報の送り手にとってのチャンスはどこにあるのか、という問いのヒントは、続くキーノートにおける提言で明らかになることとなった。

■この上なく楽しく、一度知るとやめられない「オンライン同期」

メディア環境研究所上席研究員 森永真弓氏

キーノートでは「オンライン同期」というキーワードが取り上げられ、生活者のインタビューも取り混ぜられて説明が進められた。森永氏は10月に実施した同研究所の調査「コロナ禍の生活気分に関する調査2020」の結果を引用し、世の中の気分は「不安」と「退屈」であったという結果を示した。

そのうえで、「確かに今は不安と退屈なのだけれども、少し状況に飽きてきたことも含めて、それらを解消し、楽しさを求めて、自ら楽しさを生み出そう、という活動をしている生活者が、もしかしたらオンライン上に出現しているのではないか、という仮説を持ちました」と語り、この兆しをつかむための米国・中国のユーザーインタビューを紹介した。

森永氏は、他のインタビュー調査も含めて見えてきたことが4つあると指摘。コンテンツを楽しむためには「同時性」と「態度が相互共有」できることが大切で、仲間とは「ゆるくオンライン状態」が維持され、仲間はもともと「共感性が高い」同士である、ということだ。

これらが実現されるオンライン上でのコンテンツとコミュニケーションの同期行動は、「この上なく楽しく、一度知るとやめられない」とし、この状態を「オンライン同期」であると説明した。

■生活者はさまざまな工夫を用いて「オンライン同期」を楽しんでいる

これまでリアルでは「コンテンツの周囲に人々が集まる」ことがスタンダードとして確立されていた。しかし、調査を進めるうちに、オンライン上では「共感者の中にコンテンツがある」という実態が見えてきたという。不特定多数で盛り上がるより、仲間内で共感率が高いコンテンツで盛り上がりたいという需要だ。

メディア環境研究所上席研究員 野田絵美氏

野田氏は、国内のメディア生活において、冒頭で紹介された生活気分の第3位「楽しい」に着目。「4人に1人が楽しいという気持ちを持っています。不自由な生活の中、この状況を前向きに捉え直している人たちが生まれているのです」と言い、国内のユーザーインタビューの例を取り上げた。

野田氏が紹介した事例では、テレビドラマを同時共有のコンテンツにしてオンライン上で一体感を生みだしたという工夫が。続いて小林氏が行ったインタビューでは、子供たちが「オンライン飲み会をしている親の様子」を見て、その便利さに気づいてZOOMとオンラインゲームを同時に繋いで、あたかも同じ空間でゲームを楽しんでいるかのような使用方法も紹介された。

メディア環境研究所上席研究員小林舞花氏

そして小林氏は、コロナ禍で会えなくなった友人とSkypeでつながり、オンライン散歩をしているシニアのインタビューを紹介。そこでは「オンラインで映像や音声を同期するだけではなく、服装やお弁当のような物理的な物も共有し、五感をフルに刺激して一体感をつくるといった工夫がなされていました」と報告し、「オンライン同期」には体感が重要なポイントになると指摘した。

まとめとして野田氏は、「世の中の不安や退屈さを跳ねのけ、仲間と一緒にいたい、人恋しいという気持ちが、幅広い年代を『オンライン同期』に導いています。それは同時共有のコンテンツを、共感性の高い仲間で共有しながら、仲間だけで盛り上がれる“小部屋”を用いることで、気持ちまでシンクロさせていました」と語った。

■コンテンツを核とした新しいつながりがビジネスチャンスとなる

野田氏はまた、「この『オンライン同期』こそ、私たち情報の送り手にとって、もうすでに目に見えているビジネスチャンスです。私達が先んじて、コンテンツと同期する仕組みを提供することで、新しいコミュニティ、そして生活者との新しいつながりを作ることを可能にするのではないかと考えます」と、「オンライン同期」のさらなる可能性に言及した。

続くトークセッションでは、「オンライン同期」を具体的にどのようにビジネスチャンスに変えていくのかが活発に話し合われた。ガラケーからスマートフォンに替えたばかりの人が気軽に「オンライン同期」するなど導入ハードルは下がっている。ライブ観戦も、リアルでは会場までの旅費や日程などがハードルになるが、オンラインであればそのハードルが一気に下がり、そこで浮いたお金をグッズ購入に充てるといったファンの動向も出ている。また、アメリカでは、コロナ禍によって授業がなくなった講師と学生がゲーム「マインクラフト」で繋がり、その中で街づくりを行いながら民主主義について講義。その参加費を払うといった形も現れているという。

例えば、テレビの旅番組や料理番組であれば、これまでは放送後に紹介したアイテムを販売することはあったが、紹介するアイテムを視聴者に事前に販売・配送することで、放送や配信(=出演者)と同期しながら楽しむことが可能になる。テレビの放送後だと瞬く間に売り切れてしまい買い逃すことも少なくないが、この方法であれば番組ファンの満足度向上にも繋げられると提案するなど、ビジネス面でも示唆に富む内容となった。

締めくくりとして島野所長は、「コンテンツを真ん中にして、周囲に同時性や相互性を高めるサービスを組み合わせ、よりリッチな体験を提供する仕掛けを提供する。ここに注目することで、新しい企画や、新しいマネタイズの可能性が出てくると我々は思っています。ぜひ、このオンライン同期の考え方を、みなさんのビジネスで活用していただきたい」と提言を行って初日のウェビナーは終了した。

※データ出典

博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所ウェビナー2020 「MEDIA NEW NORMAL コロナ禍は生活をどう変えたか、メディアはどう変わるか『オンライン同期』がメディアコンテンツを強くする」