メディア環境研究所所長 島野真氏

12 JAN

「地域アクション」でメディアと生活者の絆をつくる~メディア環境研究所:MEDIA NEW NORMAL ウェビナーレポート

編集部 2021/1/12 08:00

博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所は2020年12月9日と10日の両日にわたり、「MEDIA NEW NORMAL コロナ禍は生活をどう変えたか メディアはどう変わるか」と題したウェビナーを開催した。

このウェビナーは、生活者とメディアの今を切り取り、メディアビジネス進化へのヒントを提供することを目的として開かれているもの。本記事では、2日目のウェビナー「『地域アクション』でメディアと生活者の絆をつくる」の模様をレポートする。

最初に登壇したのはメディア環境研究所所長の島野真氏。キーノート発表のスピーカーは同研究所の上席研究員である新美妙子氏と曽根裕氏が務めた。パネルディスカッションには株式会社朝日新聞社 総合プロデュース本部 デジタル・ソリューション部の松下智彦次長、森ビル株式会社 オフィス事業部 営業推進部兼企画推進部の竹田真二部長補佐が参加した。

■コロナ禍で、身の回りの「地域」に対する関心が増加している

コロナ禍の現在において、島野所長はまず、「生活者はいま、身の回りの『地域』に対する関心が増している」と指摘。

9月時点におけるメディアニューノーマル調査によると、「家族や友人、地域など身近なコミュニティをより大切にしていきたい」が51.5%、「自宅の近隣の情報を調べるのが増えた」が25%、「買い物や飲食などはなるべく近所で済ませている」が72.2%と、地域への意識や行動が定着している結果が得られたという。

同研究所は、「地域でつながる」の先にある「生活者とメディアの関係の進化」を「地域アクション」と捉え、新たなメディアビジネスの兆しがあるとして、新美氏と曽根氏によるキーノート発表に移った。

メディア環境研究所 上席研究員 新美妙子氏

新美氏は「地域アクション」には、①生活者と同じ目線に立つ、②地域の未来や目標に向けて旗を掲げる、③人を感じさせるコンテンツや仕組みを通して人感をつくる、④メディア自らが行動する、という4つのポイントがあると語る。そしてこれらのポイントに沿って、具体的な4つの「地域アクション」を紹介した。

■生活者とメディアの絆を深める「地域アクション」

◎西日本新聞社「あなたの特命取材班」(https://anatoku.jp/

「あなたの特命取材班」(通称:あな特)は、LINEで生活者と新聞社がつながり、双方向のやり取りを通じて生活者の困りごとを世の中ごとにし、社会課題として解決していくという取り組みだ。

新美氏は、「生活者が単なる相談者ではないのがポイントで、新聞社と一緒に社会課題を解決していく仲間になるという所が大きなモチベーションにつながっている」と、特徴を説明した。

生活者が困りごとを送り、取材班が読み、走って取材し、写真を撮って原稿を書き、記事にして印刷されて読者の手元に届くという、すべての過程を感じられた時に新聞社を同志だと感じるという生活者のインタビュー映像を紹介。情報が作られる過程に参加し、新聞社とのやり取りを通して人間味を感じることによって絆が生まれていると述べた。「あな特」の参加者を対象にした定量調査によると、約8割の人が「期待感や親近感が高まった」と、新聞社に対する意識の変化が見られたという。

◎中海テレビ放送「中海再生プロジェクト」(http://gozura101.chukai.ne.jp/nakaumi/

鳥取県米子市のケーブルテレビ局、中海テレビ放送による「中海再生プロジェクト」は、国の干拓・淡水化事業により水質汚染が進んだ中海の再生を目指した、同局と市民のプロジェクト。2000年に干拓事業は中止となり、翌年に「中海物語」という番組が月1回でスタートしたことがきっかけとなって、同局が事務局となったNPO法人中海再生プロジェクトの発足に至る。

メディア環境研究所 上席研究員 曽根裕氏

中海テレビ放送の担当者インタビューが紹介され、曽根氏は「放送することが目的ではない。生活者の行動を起こすことが目的である」という言葉が印象的だったと語る。日頃から地域・市民のためにという思いで取り組んでいる同局が、「10年で泳げる中海を」という旗を掲げ、同じ目線に立って自らが行動し続けたからこそ生活者も立ち上がり、地域課題の解決につながったのだという。

◎京阪神エルマガジン社「Meets Regional」(https://www.lmagazine.jp/meets/

大阪の出版社、京阪神エルマガジン社の「Meets Regional」は、京阪神エリアの読者に向けて街と店の情報を発信する雑誌。これまで紹介した地域アクションとは違い、新しくプロジェクトやサービスを立ち上げたわけではなく、雑誌づくりそのものが「地域アクション」になっている。

曽根氏は、「この『Meets Regional』は、ローカルエリア情報の偏りを埋めている」と言う。いわゆるグルメサイトでは、大都市なら多くの人が評価するため精度が保たれるが、そうでない地域では、少人数の評価しかないため評価が偏り、ぶれることも多い。そこで、いわゆるグルメサイトの向こう側にある、検索では出てこない情報を自らの足で稼いで生活者に届けている」と続けた。

同誌編集長のインタビューから曽根氏は、「ドキュメント誌」「スモールサークル」という2つのキーワードに注目。街の生の動きを捉える「ドキュメント」というスタンスには、生活者と同じ目線で真摯に地域に向き合っていることが表れており、街の「スモールサークル」に入って地域の人たちを巻き込んで作る、という雑誌の作り方もユニークであると説明。同誌からは人感が滲み出ていて、地域のハブとして機能している点でコンテンツ作りそのものが地域アクションであると評価した。

◎静岡新聞社・静岡放送「しずおかMIRUIプロジェクト」

https://www.at-s.com/news/special/mirui/index.html

「しずおかMIRUIプロジェクト」は、静岡新聞社・静岡放送が地元の企業と共に地域経済の旗振り役となり、各企業のリソースを使って未来を育てるクラウドファンディング事業。MIRUI(みるい)とは静岡弁で「若い、未熟」という意味を持つ。

このプロジェクトは単なるクラウドファンディングではなく、参加できるのは静岡を盛り上げていく気概のある事業者という点が特徴。さまざまな形でのPRというバックアップの仕組みも充実している。静岡新聞社・静岡放送の担当者インタビューを行った曽根氏は、「取材・掲載・放送という情報発信だけではなくて、その先に踏み込んで一過性ではないつながりができている」と語る。

メディアが同じ目線でユーザーニーズを聞き取り、本当に必要なところまで自ら行動してソリューションを提供し、事業者が次のステップに進むサポートまでを一気通貫で行なっている。これは静岡新聞・静岡放送が徹底的に地域のために動き、地域経済を活性化させるという旗を掲げているからだと述べた。

以上の4つの「地域アクション」から新美氏は、「すべて、その過程から生活者を巻き込み、地域の未来に向かって行動し続けている」と共通して見えてきたものを総括し、「メディアが発している熱量が伝播して、自分も何かをやってみようという気持ちが入った時、それが生活者の『行動源』になる」と続けた。「メディアの役割は『情報源』から『行動源』へ」、4つの地域アクションから見えてきたメディアの役割をこのように定義した。ネットで簡単に生活者とつながれるようになった時代だからこそ、つながりを絆に変えていく必要がある。メディアが「情報源」だけではなく、「行動源」になることで、生活者との絆を作ることができると考察した。

■メディアと生活者との新たな関係~「地域アクション」から考える 未来づくり

後半部分で行われたパネルディスカッションでは、朝日新聞社の松下氏と森ビルの竹田氏がそれぞれの立場からの「地域アクション」と「行動源」に関して意見交換を行った。

キーノートの内容を受けて竹田氏は、「メディアの力は、ただ伝えるだけではなくて、伝えた先の行動を促せるところがすごいですね」と語り、松下氏は「メディアは自分たちで行動して、生活者と一緒に先を考えて、一緒に未来をつくることが必要。当たり前のことですが、実践するのはなかなか難しい」と所感を述べた。

一方で松下氏は朝日新聞社の取り組みの一例として、クラウドファンディングサイト「A-port」(https://a-port.asahi.com/)やバーティカルメディア、記者サロンを紹介。生活者とつながることで新たな関係を築き、「行動源」になっていく取り組みを示した。

それに対して竹田氏は、「我々が街づくりで気をつけていることは地域ごとの違い。大切なのは、そこでどんな生活が営まれているのか、歴史や気候、地形による文化の違いなどを丁寧に紐解くこと。(メディアの)プロの編集力やジャーナリズムでストーリーをつなぐことで、そこに共感が生まれ、次のアクションにつながるのではないか」と述べた。

クロージングトークにおいて島野所長は、「地域に対して関心が高まっている生活者に対して『地域アクション』を設計し、生活者を巻き込み未来をつくっていく。それでメディアやブランドと生活者の絆がより強固で永続的なものとなり、新しいビジネスにつなげることがでる」と本日の内容をまとめた。

また、「生活者にとって身近な生活圏で共にアクションを行なうのは、都市部でも全国でもビジネスとして活用できると考えている。ぜひこの『地域アクション』をみなさまのビジネスにご活用いただきたい」と提言を示し、2日間のウェビナーを締めくくった。

※データ出典

博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所ウェビナー2020 「MEDIA NEW NORMAL コロナ禍は生活をどう変えたか、メディアはどう変わるか『地域アクション』でメディアと生活者の絆をつくる」

コロナ禍でメディア利用に変化!新たなスタイル「オンライン同期」がコンテンツを強くする~メディア環境研究所:MEDIA NEW NORMAL ウェビナーレポート