(左から)森下氏、美和氏、布瀬川氏、奥氏

15 JAN

同時配信とその先の課題~コロナ禍で潮目が見えてきた23時台をだれが押さえるのか~ 【InterBEE 2020レポート】

編集部 2021/1/15 08:00

一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、毎年幕張メッセで開催している「Inter BEE」を、2020年11月18~20日にわたってオンラインで開催。「メディア総合イベント」のニューノーマルを目指し、オンライン上で様々な展示、並びに50以上の講演、セミナーが実施された。

その中から放送とネットやビジネスとの「CONNECT」をテーマとし、InterBEEのひとつの目玉企画「INTER BEE CONNECTED」のセッションより、「同時配信とその先の課題~コロナ禍で潮目が見えてきた23時台をだれが押さえるのか~」の模様をレポート。

コロナ禍によって訪れた生活者のメディア接触形態に関する調査結果をもとに、そのなかでも特に変化が顕著となった22〜23時台の行動の変化についてフォーカス。同時配信・キャッチアップふくめ、これからのテレビ視聴サービスのありかたを探った。

パネリストは、株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ メディアイノベーション研究部長 美和 晃氏、株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ メディアイノベーション研究部主任研究員 森下 真理子氏。コーディネーターを株式会社電通 ラジオテレビビジネスプロデュース局EPD 布瀬川 平氏、モデレーターを株式会社電通 電通メディアイノベーションラボ 統括責任者・電通総研 フェロー 奥 律哉氏が務めた。(肩書は当時のもの)

■テレビの視聴ピークは前倒し傾向。22時以降は「パーソナルなメディア接触」が顕著に

電通メディアイノベーションラボ 森下氏

最初に森下氏が、ビデオリサーチ社のパネルデータ「MCR/ex」をもとに、2020年6月における生活者のメディア接触率を昨年2019年と比較して紹介。

テレビ・インターネット全般・ネット動画・SNSの4カテゴリにフォーカスした。

「テレビは20時台後半に利用率のピークを迎えている」と森下氏。19時台においても去年より4.5ポイントほど増加しているという。一方ネット動画については「22時台にピークを迎え、伸び幅として去年比で2.7ポイントほど増加している」という。

今回議題となっている“23時台”の動向について、森下氏は「テレビのリアルタイム視聴や録画視聴の行為者率が減っている」とし、「テレビの視聴ピークの時間帯がだんだん“前倒し”になっている」と指摘。

あわせて「インターネットの利用、具体的にはスマートフォンでのSNS・ネット動画視聴の行為者率が去年より増えている」とし、「22時以降は自分の部屋に戻って自分の時間で何かをするといったような『パーソナルなメディア接触』が行われている」と語る。

こうした変化の背景には、コロナ禍にともなうテレワーク化など、いわゆる「ニューノーマル」な生活スタイルが大きく影響しているという。森下氏は続ける。

「早朝7時台の就寝率が平均で去年より8.5ポイント上昇し、上振れの傾向にある。つまりそれだけ、朝寝ている人が増えたということ。寝る時間はこれまでと大きく変わらない一方で起きるのが遅くなり、寝る時間がトータルとしては増えた」

とくに12歳から19歳においては「(今回の調査において)特に朝7時台、(12〜19歳の)6割ほどが寝ていた」と森下氏。「おそらく(コロナ禍による休校やオンライン授業化によって)朝に登校する必要がなくなり、『通学に合わせるため早起きしなくてもよくなった』ということがダイレクトに響いていたのではないか」と語る。

コロナ禍における在宅時間の増加にともない、「ネット動画の利用率増加が非常に目立った」と森下氏。「全体平均では、全ての時間帯において基準に置いた起床在宅率をはるかに上回る伸びを示した」という。

その一方で、テレビは特に「女性60代のテレビとの親和性の高さが浮き彫りとなった」という。

「若者層に関しても、19〜22時台において、これまでよりも高い割合でテレビが見られていた」と森下氏。「今後の編成や放送内容が(これらのニーズに)合致すれば、若い人々にも今後さらにテレビを見ていただける余地はある」と語った。

■「サブテレビ代わり」のニーズが高い同時視聴

電通メディアイノベーションラボ 美和氏

続いて美和氏が、今年9月に全国約9000人を対象に実施した「動画視聴スタイル調査」の結果を紹介。「(テレビ局のネット)同時配信を利用する予定がある」という回答は50%以上に達しているという。「各社の同時配信が出てきて、十分に見られる環境が整ったならば」、という仮定のもとでは「これぐらいの人たちが見る可能性がある」と美和氏。さらに「この結果は3年前とほぼ同じ水準」といい、同時配信に対する視聴者の期待の高さを裏付ける。

続いて美和氏は、同時配信を「どのようなシーンで見たいか」というアンケート結果を紹介。「見るつもりだった番組の放送時刻までに家に戻れなかったとき」「録画予約を忘れてしまったとき」といった回答が多く、「アポイントメント視聴を確実にしたいというニーズが期待されている」と語る。

さらに「机やテーブルの上に端末を置き、いつでも見たいときに見たい」「家の中でテレビを直接見られない部屋や場所で用事をしながら見たい」「家の中で家族がテレビ(で他の番組)を見ている間に別の番組を見たい」などといったニーズも高いと美和氏。「個人の視聴に特化した『サブテレビ代わりの利用』が、アポイントメント視聴に続くニーズとして期待されている」という。

■同時配信は「視聴習慣者の流出を止める“予防ワクチン”」

一方で、「『普段からテレビ代わりに見る』というニーズは、若年層においてもスコアが低い」と美和氏。「(同時配信は)“1台目のテレビ”としては期待されていない」という。

「同時配信はテレビ離れした人を引き留める効果があるのでは」と期待する向きも多いが、「個人全体で1割ほどの人はすでにリアルタイム視聴習慣が失われており、年代別に見ても、若い人たちほど視聴習慣が失われている」と、美和氏は厳しい見方を示す。

「テレビの視聴習慣があれば、視聴頻度に関わらず6〜7割近くの方々が『(同時配信を)利用する』と答えているが、テレビのリアルタイム視聴習慣がなくなってしまった人は7割近くが『利用予定がない』と答えている」

「(同時配信は)すでにテレビ離れをしてしまった人への“特効薬”ではない」と美和氏。

「時間があればスマホでネット動画を見る人が増えたいま、(同時配信は)他メディアへの流出を食い止める、ある種の“予防ワクチン”的な存在」と語った。

■追いかけ視聴、視聴者同士のチャット…「付加機能」でWAUベースの視聴を獲得

今回の「23時台」というテーマにからめ、「(同時視聴は)ゴールデン・プライムのニーズが高い」と美和氏。「平日と土日で分けて見た場合も、19時〜22時のいわゆるゴールデン・プライム帯、さらに23時が平日土日問わず非常に高いスコアで出ている」という。

「20〜30代の独身層が個室でリラックスモードになっているとき、そろそろ寝ようか、というタイミングでのサブテレビ代わりの役割が期待できる」と美和氏。「自宅での『くつろぎ時間』とは、ゴールデン・プライム帯とイコールの時間帯であることがわかる」と語る。

「視聴したいニーズの中心がゴールデン・プライム帯にもともとあるので、見たい番組がある方にとっては、サービスがゴールデン帯に限定されていても同時配信のニーズは高い」と美和氏。「逆に言えば、同時配信なしに、キャッチアップのみでこのニーズに応えきるのは難しい」と指摘する。

続いて美和氏は「同時配信と同時に、(視聴をより深く楽しむ)付加機能」の重要性を提起。

「同時配信に今後あったらよい機能」というアンケートでは、「BSの無料放送まで、ネット同時配信で見たい」という回答がもっとも多く、ついで「(番組開始後も時間をさかのぼって視聴できる)追いかけ配信・スタートオーバー機能」、「同じ番組を見ている人同士で感想や意見をその場で交換できるコミュニティ機能」、「予約した番組の放送開始時に通知する機能」などが上位を占めたという。

「(番組への)アポイントを確実にしたいというニーズや、見逃し配信とセットで同時配信を楽しみたいというところにも非常にニーズがある」と美和氏。「動画配信サービスの世界では、『Netflix Party』のように『(ユーザー同士の)コメントを見ながら一緒にコンテンツを楽しむ機能』がすでに人気を得ている」という。

「こうした付加機能を入れることによって視聴のトリガーが増え、ビジネスベースでも回しやすくなる」と美和氏。付加機能を実装できた場合と、実装できなかった場合の視聴頻度をシミュレーションしつつ、「付加機能が実装できるかが、同時配信においてWAU(Weekly Active User:週次アクティブユーザー)ベースでの定着を左右するカギとなる」と述べた。

■同時配信を“呼び水”に、キャッチアップ・カジュアル動画視聴へと広げる

「実は、『同時配信でなければ見ない』という回答は視聴予定者全体の4分の1ぐらい。他の方々は『スタートオーバーさえしてくれてれば見る』、あるいは『キャッチアップだけでも見る』という回答も多い」と美和氏。「同時配信が一種の“呼び水”となり、キャッチアップが視聴される可能性が非常に高い」とし、「キャッチアップに誘導するという意味でも、『同時配信もやっている』という状態で接触面を広げておくことが非常に重要」と示唆する。

美和氏は、「同時配信をどういうプラットフォームで見たいか」という各年齢階層ごとのアンケート結果を紹介。ティーン(13〜19歳男女)層(調査上は15〜19歳)、M1(20〜34歳男性)・F1(20〜34歳女性)層ではYouTubeなどの動画共有サービスがもっとも多く、ついでTVerなどの民放公式サイトが挙がったという。

一方、M3(50歳以上男性)・F3(50歳以上女性)層ではTVerなどの民放公式ポータルが最も高かったほか、時事問題に対する関心の高さから「ニュースアプリ・サイトで見たい」という回答も多かったという。

電通メディアイノベーションラボ・電通総研 奥氏

「いまの若者たちはYouTube上で、ドラマ・アニメ・バラエティといった従来のような番組のジャンルと異なるカテゴライズ、フォーマットで視聴している」と奥氏。「現在の10〜20代は、カジュアルに短い尺の動画をいろんなフォーマット、いろんなモチベーションで視聴している」といい、「こうした方々に放送由来のコンテンツを見ていただくためには、たとえ尺の切り刻まれたものでも、そのモチベーションに素直に応えていくような動画コンテンツも必要」と語る。

「現在は『まとめ動画』や『面白い動画』、『やってみた系』のように、たとえばスポーツであろうと料理番組であろうと“横検索”をして動画を閲覧する(スタイルがトレンド)」と奥氏。「横検索を呼び水に、途中から縦(=カテゴリベース)の構造に入ってもらう形もあるのではないか」とし、「“共有型”のカジュアル動画視聴に慣れ親しんだ若者に向けて、コンテンツの橋渡し役となる短尺のいろんなコンテンツを提供することで、それによって波及の効果も見込めるのではないか」と語った。

■「シェアの取り合い」から「各局連携しての“パイ拡大”」へ

電通 ラジオテレビビジネスプロデュース局 布瀬川氏

「テレビにまつわるコンテンツを通じ、若者も含めてちゃんと広告がリーチするのかという観点はやはり重要」と布瀬川氏。「同じ人が何回も見る、というようなフリークエンシー的な考えではなく、『幅広く、すべての人に届く』ことも担保していかにサービスを考えていくかがポイントであるようにも思う」と語る。

「目線をその若い方々に向けてみると、一日のなかでも特に22〜23時台という『パーソナルな時間』を大事にしたいという志向のもと、モバイルデバイスを経由してメディアに触れる率が高くなっている」と森下氏。

「テレビから離れてしまった人も含め、うまくリーチの中にもう1回戻すためには、普通に同時配信しているだけでは足りない」とし、「(テレビ視聴へ)うまく呼び込む仕掛けも含め、セットで実装していくことが非常に大事」と呼びかけ、布瀬川氏も呼応した。

「寝る前にちょっと見てみたら面白いコンテンツだった、と思っていただき、『やっぱり全編をちょっと違う時間帯で見てみよう』、というような行動にどうつなげていけるかというところは重要なポイント」

「今年はコロナということで、時計の回転の速さが3年分ぐらい早かった感じがある」と奥氏。「ネット利用行動のほとんどのシーンは屋内で起こっているとこれまでも述べてきたが、今回のコロナ禍にともなう生活変化がそれにいっそうの拍車をかけた」と語る。

「民放もNHKも含め、全ての動画コンテンツを出しているサービス事業者が、その中で縦横無尽にユーザーのニーズに合わせ、分断なく動ける環境を作ることが、実は(テレビ視聴そのものに対する)パイを広げることにつながる」と奥氏。「(各局ごとに)シェアだけを取りに行く時代ではもうない」と危機感をふくませながら、テレビ業界全体で連携しての取り組みの重要さを強調し、セッションを締めくくった。

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