TBSラジオ萩原氏、FM802山下氏、J-WAVE小向氏、TVer須賀氏

20 JAN

デジタルデータはアナログラジオをどう変えるのか〜【InterBEE 2020レポート】

編集部 2021/1/20 13:30

一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、毎年幕張メッセで開催している「Inter BEE」を、11月18~20日にわたってオンラインで開催。「メディア総合イベント」のニューノーマルを目指し、オンライン上で様々な展示、並びに50以上の講演、セミナーが実施された。

本記事では、その中から放送とネットやビジネスとの「CONNECT」をテーマとし、InterBEEのひとつの目玉企画「INTER BEE CONNECRED」のセッションより、「デジタルデータはアナログラジオをどう変えるのか」の模様をレポートする。

長らく一方向メディアであった放送にとって、ユーザーデータをどう収集、分析し、それをコンテンツ制作やサービスにつなげていくかが重要な課題となっている。そんななか、ラジオ各局は、パソコンやスマートフォンでラジオを聴くことのできるサービス「radiko(以降、ラジコ)」のデータ提供ダッシュボード「radiko viewer」を通じてリスナー属性や行動データを把握し、番組制作や広告ビジネス、コアファンの育成に役立てている。

今回は、ラジオにおけるデータの活用を進めるラジオ3局の代表者が登壇し、その実例を紹介。テレビにおけるデータ活用の将来像にもつなげながら、放送局のデータ活用の可能性を思考する。

パネリストは、株式会社FM802 802編成部長 山本剛志氏、株式会社J-WAVEコンテンツマーケティング局デジタルマーケティング部長 小向国靖氏、株式会社TBSラジオUXデザイン局 UXプランニング部長 萩原慶太郎氏、株式会社radiko取締役 岡田真平氏(VTR参加)。モデレーターを株式会社TVer 取締役 須賀久彌氏が務めた。

■「日記式」からradiko viewerへ ラジオ聴取率データの変遷

「これまでラジオの聴取率は年数回行われる日記式調査(15分ごとに聞いていた番組をアンケート形式で回答するもの)によって集計されていたが、今年大きく進化をし始めた」と須賀氏。

「今年4月、日記式調査とラジコの聴取データをかけあわせた聴取率調査『ラジオ365』がスタートし、これまで年数回だった調査スパンがデイリーとなり、データも毎分単位へと大きく詳細化したほか、民放99局が加盟するラジコの『ダッシュボード』機能(現在のradiko viewerを通じ、毎分ごとの実数データ(radiko viewerでは推計プロフィールデータも)が提供されるようになった」と語った。

■分単位の“盛り上がり”やリスナープロフィールを可視化する「radiko viewer」

最初に岡田氏がVTRで登壇。ラジコ参加局(民放ラジオ99局+NHK+放送大学)すべてに提供している「radiko viewer」の代表的な機能を紹介した。

岡田氏

「radio viewer」は、全部で11種類の分析画面を提供。その中から代表的なものを3つ紹介。聴取ログをほぼリアルタイムで可視化する「聴取者推移状況(リアルタイム)」画面では、直近60分間の毎分ごとの聴取データを表示。前週と今週との比較も行える。画面には聴取者の性別・年代のほか、SNSでのシェア数もあわせて表示され、「先週と比べて今週聞かれているのか、今週はどう盛り上がっているのを見ることができる」という。

「radio viewer」では、番組ごとの聴取ログを放送回ごとに詳細分析することも可能。ライブ・タイムフリー(聴き逃し再生)など形態別の聴取者数や、番組への連続聴取率をもとにしたリスナー定着率を確認できるほか、「アンケートや位置情報などの外部データをラジコのログデータと組み合わせ、リスナーのプロフィール分析が可能」と岡田氏。「(得られたログデータを)番組制作だけではなく、営業活動にも活用できるようになっている」と説明した。

ダッシュボード①
ダッシュボード②
ダッシュボード③

■データ利用は「リスナーの解像度を上げるため」TBSラジオのケース

続いてTBSラジオ萩原氏が、自社におけるデータ活用の取り組みを紹介。

萩原氏

同局では2019年3月に電通との協業で、ラジコのログデータからリスナープロフィールを分析する「リスナーファインダー」を社内公開し、テストランニングを含めてスタート。当初は同局の単独プロジェクトであったが、「ラジオ業界全体で知見を共有したい」という思いから、規模を発展させるかたちで「radiko viewer」の誕生へと繋がったという。

テレビと異なり、これまでのラジオにおける聴取率調査は、一定の期間ごとに1週間単位で実施される日記式(時間帯ごとに聞いていた番組を回答する方式)にて行われてきた。調査が実施される週間には各局が「スペシャルウィーク」と銘打ち、リスナーの興味を引くゲストやプレゼント企画を実施するのが慣例であったが、TBSラジオは2018年末をもってこれを“廃止”。業界内外で大きな話題を集めた。

「TBSラジオは首都圏における聴取率1位を100期以上にわたって取ってきたが、実際の営業売上にシンクロしているとは言い難かった」と萩原氏。「テレビと異なりラジオの聴取率データはカレンシーデータとなっておらず、GRP換算での取引までには至っていなかった」と述べ、「『聴取率って何のための数字だったっけ』ということをちゃんと探るべく、(聴取データのリアルタイム化と可視化という)挑戦に乗り出した」と語る。

「ラジコの存在によって、聞く側にとってライフスタイルの転換が起こっている」と萩原氏。「たとえば(TBSラジオの深夜帯番組である)『JUNK』の場合、ライブでの聴取は全体の3〜4割程度であり、ほとんどはタイムフリーでの時差聴取」であるという。

「一連の取り組みの動機は『リスナーの解像度を上げること』。聞いている人の解像度を上げ、行動を分析していく」と萩原氏。「コロナ禍もあってリスナーの生活態度やライフスタイルが変わるなか、それに対してどういうふうに向き合うかが重要」といい、「こうした課題に対応するため、リスナーファインダー、転じてradiko viewerが生まれた」と語った。

■「ラジコデータをもとに番組テコ入れを実施→聴取率UPに成功」FM802のケース

続いてFM802山本氏が、自局における取り組みを紹介。

山本氏

全国のFM局では唯一の「1局2波」体制をとる同局では、大阪府とその周辺地域を対象に、10〜30代をターゲットとする「FM802」、40〜50代をターゲットとする「FM COCOLO」の2波を運営。いずれも音楽を主体とした編成に力を入れている。

「音楽放送局として、関西発のヒットを一緒にリスナーの方々と作っていく、音楽を大切に届けていく」と、山本氏は局のコンセプトを説明。「リスナーとアーティストをFM802が媒介する」とし、人気アーティストによるキャンペーンソングの書き下ろしやライブイベントの開催を積極的に行っているほか、FM802のコアターゲットとする10代に向けたエンゲージ施策として、学校へアーティストが出向いての公開録音なども実施しているという。

前述の通り「1局2波」をとっている同局では、リスナー層の年齢の持ち上がりにしたがって、看板DJが同一局内で「チャンネル移動」を行うケースがあるという点も大きな特徴。

2013年4月には、FM802にて長らく朝の看板番組「HIRO T'S MORNING JAM」を担当してきたDJ・ヒロ寺平氏が、FM COCOLOの同時間帯の番組「HIRO T'S AMUSIC MORNING」へ移動し、FM802側では新DJ・大抜卓人氏を起用して新番組「TACTY IN THE MORNING」をスタートさせるという大改編を実施。この際、リスナーの動向を把握するための手段としてラジコの聴取ログが活用されたという。

 

「当時は看板DJであった寺平氏と新参の大抜氏とのあいだには知名度に大きな差があったため、(寺平氏の番組に定着していた)リスナーがFM COCOLOの新番組へと移動し、FM802がリスナーを失う可能性が高かった」と山本氏。「FM COCOLO(の新番組)も成功させながら、FM802もパワーを落とすわけにいかなかったため、番組構成や選曲のバランスを徹底するべく、ラジコの視聴データを日々追いかけて実証していた」という。

山本氏は、この当時のFM802・FM COCOLO両局のラジコ聴取データを比較した図を紹介。寺平氏のFM802担当最終回から翌週の大抜氏新番組にかけて大幅に聴取率を下げたたことを受け、選曲の見直しなど、スタッフ・DJを含めたテコ入れを行ったところ、大抜氏の担当番組も「(開始)3ヶ月後には寺平氏担当時に近い聴取率に回復した」と語った。

■「データ起点の顧客コミュニケーションプラットフォームを構築」J-WAVEのケース

続いてJ-WAVE小向氏が、自局の取り組みを紹介。

小向氏

「世の中へのイノベーション発信」をテーマに同局が推し進める「INNOVATION WORLDプロジェクト」では、「AR三兄弟」の川田十夢氏をナビゲーターに据えた番組を軸に、第一線で活躍するアーティストやクリエイティブディレクターをフィーチャーした兄弟番組の展開や大規模ライブイベント「INNOVATION WORLD FESTA(イノフェス)」を開催。ラジオ局の枠組みを超えた幅広い取り組みとして注目されている。

データ活用においては、自社で構築したカスタマーコミュニケーションプラットフォーム(CCP)を運用。ラジコの聴取データをはじめ、WEBやSNS、自社アプリ等のログ、同局が運営するリスナー会員サービス「J-me(ジェイミー)」の会員データ、さらにはキャンペーンにおけるアンケートやチラシ配布などを通じたコンバージョン情報まであらゆるデータを集約し、横断活用できるようにしているという。

「データを起点にしたコミュニケーションプラットフォームを作ろう、という提唱からCCPがスタートした」と小向氏。「これまでは、せっかく実施しても十分な効果検証を行わないまま終わる施策が山のようにあった」と語る。

「コミュニケーションが不在で、『もしかしたら伝わっていないのではないか』『誰に伝わっているのだろう』といった疑問がずっと課題として内在していたと」と小向氏。そんな状況を打破するため、同局で実施するあらゆる施策のデータを「CCPにすべて統合し、そこを施策の着地点とすることを決めた」という。

「ラジコからの聴取ログデータはもちろん、リスナーの行動履歴もCCPに入れていく。イベント開催の際も電子チケットの購入者を中心に購買データを入れていったり……とにかく(J-WAVEに接触した人々の行動を)捕捉していく」と小向氏。「適切なターゲット・タイミング・手段においてメッセージを最適化し、CX(Customer eXperience:顧客体験)を改善していく」ことが狙いと語る。

「J-WAVEでは『J-WAVE NEWS』というニュースサイトを運営しているが、訪れた人が何に関するニュースを読んでいるかで、『その人が誰に興味を持っているか』が情報として付加されていく」と小向氏。「自社で主催する大型フェス『J-WAVE LIVE』にアーティストが出演する際、単に『J-WAVE LIVE開催!』ではなく『◯◯さん出演!J-WAVE LIVE』と情報を発信することで、コンバージョンやCTR(Click Through Rate:クリック率)など、コミュニケーションのありかたが相当に変わってくる」という。

「誰が何のチケットを買ってくれたのかわかるならば、相手に対して手法を変えながらコミュニケーションしていくことが可能」と小向氏。「チケットを買ってからイベントまでの間にワクワク感を煽ることもできるし、ライブ後に帰りの電車のなかで『◯◯さんのバックステージ写真』を見ることが出来たら、さらに感動が高まり、『来年もライブに行こう』と思っていただける流れを作れる。それらが全てデジタル上の行動として蓄積されるので、それらをまたすべてCCPに投入することで、CXを改善し続けていくことを目指す」と語る。

「例えば、『30代でアウトドアに興味のある層』へのアプローチを前提に広告商品を提案する際、まずオンエアでのコミュニケーションにはradikoViewerを活用し、ターゲットの含有率が高い時間帯を提案できる」と小向氏。「これにCCPをプラスすることで、(イベントや他コンテンツふくめ)J-WAVEが抱えるファンの中にいる同様の層にもアプローチできるだけでなく、『メールマガジンやLINEを登録していないが、J-WAVEの放送は聞いている』というような層を抽出することができ、そこに対して広告を提案する、というような3段構えで放送とデジタル両方の施策をバランス良く提案できる」と強みを語る。

さらに「KPIという面でも、メルマガやオンエア内容など、どんな施策によってコンバージョンが生まれたのかを細かく把握できる」と小向氏。継続して多方面のデータを統合、蓄積することによって「それぞれのコンバージョンどのくらい効果を持続させたか」といった振り返りも可能だという。

「たとえば、イベントのチケットを買ってくれた人はJ-WAVEリスナーの層にすごく近いが、チケットの無料配布で来てくれた人は属性が異なる、というような気づきもあった」と小向氏。「そうした方々がラジコとのリスナー層とどうマッチングし、どれだけ継続してくれてるのか、といったことも今後見えてくるようになるだろう」と展望を語った。

■「マスメディアから、クラスメディアへ」データ時代の“ラジオの役割”

セッション後半のテーマは、現代におけるラジオのストロングポイントについて。

「ラジオの強みは、いろんなライフスタイルに馴染める点」と小向氏。「メディア体験は多様にはなってきたが、ラジオはより多様になっていく」と、萩原氏も同意する。

「ラジオのストロングポイントは、行動履歴(のデータ)が(直接施策に)効くという点」と萩原氏。「リスナーの生活スタイルの解像度を上げると同時に、位置情報やWEBのアクセスデータ、決済データなどと接続するなどして『どういった行動がどういう結果につながったか』を可視化することは、今後、広告施策にしても、コミュニティを育てるにしても必要」と語る。

一方、山本氏が挙げたのは、「ながら接触」「ローカリティ」の2点。「『ながらの利点』があるからこそ、リスナーのライフスタイルに寄り添うことができ、信頼へと繋がっていく」としたうえで、「ローカリティが共感やコミュニティの熱量につながっていく。あなたにとっての特別なDJが存在する、という魅力をラジオを通じて生み出していきたい」と語った。

「広告メディアとしてラジオ業界を考えたとき、データ活用の未来はテレビとラジオでは少し違うように思う」と萩原氏。「ラジオの売りはコミュニティ」と語る。

「弊社の三村(孝成)社長は『(SNSでの)シェア数に注目せよ』という方針を強く打ち出している」と萩原氏。「『JUNK』の水曜日を担当する山里亮太さんが結婚した際には、番組のシェア数が前週比500%を打ち出した」という。「シェアという行動は人の感情を示す」と萩原氏。「人の感情を可視化することが重要だとわかってきた」という。

「ラジオは、マスメディアではなくなりつつあると思う」と萩原氏。「アメリカなどの事例を見ても、最近はコミュニティエンジンとしての役割を期待されている」と語る。

「TBSラジオの平日昼ワイド『たまむすび』で、『今ここにいるよ施策』というものを実施した」と萩原氏。「有料で参加を募集し、スタジオブースに設置されたZOOMの画面ごしに番組に公開参加してもらうという実験を行った」という。「ラジオが生活に密接し、なおかつ70年ぐらいインタラクティブだったからこそ、この世の中に対して『自分の居場所を作る』ビジネスを展開できるのではないか」と萩原氏。

「マスメディアだからラジオだけで商売をしています、という感じはなく、全て『J-WAVEが発信する情報』としてとらえている」と小向氏。

「ラジオの聴取者ではなく、ソーシャルメディアだけの接点もあるかもしれないし、J-WAVE NEWSの愛読者かもしれない。J-WAVE LIVEのファンかもしれないし、イノフェスにのみ足を運ばれているのかもしれない。しかしそれも全て含めて顧客」といい、「ラジオは主軸にはあるのかもしれないが、こだわりはしない。繋がっておくと何かいい情報が来て、ちょっとほっこりする、幸せになる、そういうサービサーになりたい」と語った。

「20数年前に入社した際、当時直属の上司であった(現会長)栗花落(光氏)に言われたのが『FM802はマスメディアではない。クラスメディア(特定の層をターゲットとするメディア)である』ということ」と山本氏。「ひとつのコミュニティとして、熱量を可視化できるものや、多くの方々にとってちゃんと共感できるようなデータがあると、番組作りの方針もより明確なものへとなっていく気がする」と語った。

■「番組とライフスタイルのマッチング」をデータで補強していく

セッションの最後、登壇者がひとりずつ感想を述べた。

「データを磨くことで次やるべきことがわかるし、KPIが立てやすくなり、分析に終わらなくなる。コミュニケーションを主語にデータを磨いていきたい」(小向氏)

「弊社でも、データの利活用に向けた議論が部を横断してはじまった。いろいろな動きにも引き続き注視しながら、最終的にはやっぱりリスナーさんクライアントさんに有益なものを届けたい」(山本氏)

「ラジオはソーシャルエンジンであるべきと思う。番組とライフスタイルのマッチングがこれからは重要となっていく。『心』にみんなお金を投下し始めたので、それこそ心を動かしてきた私たちにとってはチャンスと考えている」(萩原氏)

これを受け、「世の中の企業が、CRM(Customer Relationship Management:顧客管理)やデータなど、デジタルマーケティングを重要視するようになってきている」と須賀氏。「TVerのなかでも『テレビ番組のCRMを立ち上げるのはどうか』という話も上がっている」と語った。

須賀氏

「今後、ファン、コミュニティーという視聴者、聴取者一人一人を見ていくCRM的な考え方をするときに、テレビは大きすぎるが、ラジオは規模としてとても有用。」と須賀氏。「それぞれ各局のみなさんが持つデータを今度はクライアント側のCRMにも接続し、価値を体感していただける仕組みを作りだすかたちとなれば」と述べ、セッションを締めくくった。

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