05 FEB

テレビのビジネスモデル大転換は起こるのか!? 「異業種に学ぶビジネスモデル革命・延長戦」~Inter BEE 2020 オンラインセッションレポート

編集部 2021/2/5 08:00

2020年11月に行われたInter BEE 2020で注目を集めたセッション「デジタルに舵を切れ!異業種に学ぶビジネスモデル革命」の延長戦が、2021年1月19日に配信された。

昨年のセッションは、デジタルとの融合により、大きく変化しつつあるテレビ業界が、異業種の新聞・雑誌メディアのDX事例より、今後のビジネスにおけるヒントを探るという形で行われた。そして今回は、“テレビ”のインターネットへの展開やビジネスモデルの大転換について、パネリストが議論するものとなった。

パネリストは、前回モデレーターを務めた蜷川新治郎氏(株式会社TVer 取締役CIO 兼 株式会社テレビ東京ホールディングス コンテンツ統括局 兼 株式会社テレビ東京コミュニケーションズ)と、引き続きの登場となる古田大輔氏(株式会社メディアコラボ代表)。モデレーターは境治氏(メディアコンサルタント)という顔ぶれとなった。

デジタルへ舵を切れ! 異業種に学ぶビジネスモデル革命~【Inter BEE 2020レポート】

■「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」で分析をしてみる

延長戦の前半は、前回の振り返りを兼ねて古田氏が新聞業界を軸にしたビジネスモデルの変革を改めて紹介し、蜷川氏がテレビ業界に当てはめて議論を深めていく展開。

古田氏はビジネスを語るうえでよく用いられるという「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」の図で、新聞業界でもテレビ業界でも同じような分析ができることを示した。

この図は縦軸に市場の成長性、横軸に市場シェアを取り、右上は成長性があり金も生み出す“スター”。右下がお金は生み出すけれども成長性が限られる“牛”で、左上が成長性は高いけれどもお金はあまり生み出さない“問題児”、左下が“負け犬”と分類するものだ。

新聞社では紙の新聞が、テレビ局では地上波が“牛”に当てはまり、共にデジタル部門は“問題児”であると古田氏は説明し、「ただし、新聞社やテレビ局自体は“牛”ではないし、共にインターネットメディア(“問題児”)を持っています。このように一社の中にこのポートフォリオが組み込まれていると分析しなければ見誤ることになります」と続けた。

パネリスト:古田大輔氏

一方で蜷川氏は、「“問題児”であるインターネットメディアが、“牛”を殺しちゃうと思っているからいけないんです。確かに“問題児”にはお金がかかるけれど、少しでも働いてくれるようになれば、総和で増えればいいというポートフォリオになると思います」と現状を踏まえた指摘を行った。

パネリスト:蜷川新治郎氏

■空気は変わってきたけれど、金額の大きさが問題として残る

次に古田氏は「ゲームは変わった。ルールを覚え、戦略を練る」というスライドを示し、新聞紙や地上波を“野球”に、デジタルを“サッカー”に例えて、「“野球”のルールのままで“サッカー”をするのは無理がある」と説明した。

その上で、「5年前と今ですごく空気が変わっています。いよいよ新聞紙が厳しくなって、デジタルをやらないといけない状況だという認識が広がった」と話す。

「“バット”を振るしかできなくて“ボール”は蹴れないと嘆く人もいます。でも、みなさんは鍛え上げられたプロ野球選手です。運動神経や基礎体力はすごく高いから、ルールを覚えれば絶対に“サッカー”でも活躍できます」と古田氏は期待を語る。

一方で蜷川氏は、「確かに雰囲気は変わっているけれども、まだ“野球”をやりたいと思う人が多い。例えば広告収入において、“野球”でホームランを打った時の金額の大きさと、“サッカー”の1点取った時の金額を比べるとまだ大きな差があるように感じている人が多い。もう少し違う価値観で、とらえられれば……」と、テレビ業界の現状を明らかにした。

■テレビは、リーチは捨てずに奥行きを作り、セグメントマスを目指すべき

後半はモデレーターの境氏が、「前回のセッションで非常に面白かった」という部分に焦点を当てたトークが繰り広げられた。その1つは、「テレビはバーティカルメディアになれるか?」というテーマ。

モデレーター:境 治氏

“バーティカル”とは垂直や専門性という意味で、以前のメディアが不特定多数の老若男女に情報を届ける“マスメディア”であったことに対し、インターネットの世界ではある分野に特化した“バーティカルメディア”の方が優位ではないか、といった論点があるのだと言う。

前回のセッションではこの点について古田氏は、「基礎体力があるテレビがどういう戦略戦術を取るのか見えてこない」と指摘したが、蜷川氏は“セグメントマス”という言葉を使い、「エリアを絞ってバーティカルに進めていきたい。でもリーチは捨てずに奥行きを作る」と答えた。

今回、境氏がこの点の補足説明を求めると蜷川氏は、「放送でのリーチだけにこだわるのではなく、インターネット経由など代替の手段でコンテンツがリーチし、(コンテンツが強くなれば)、コミュニティやマーチャンダイジング、リアル・バーチャルイベントで奥行きを作れるということです」と語った。

そしてテレビ東京の例を引き合いに出し、深夜帯でも人気のアニメは、グッズやイベントが成功しているので、「ビジネスコンテンツではコミュニティを作っていくことを進めていきたい」と述べた。

■コンテンツはプロダクト。その収益にまで意識を持てる人材が必要に

また境氏は古田氏が語った“プロダクトマネージャー”という言葉を取り上げ、改めて説明を求めた。

古田氏は、「プロダクトマネージャーが何をしているかは、100人に聞けば100人違う答えをするでしょう」としながらも、「何がその社の収入を生み出しているのかを議論する時には、新聞社ならば販売局や広告局、そして編集局も巻き込んだ議論をしないといけない。でも編集局は独立性を保たなければいけないので、みんなの言葉を仲介する役割の人が必ず必要になります。その役割を担う人がプロダクトマネージャーです」と具体的に述べた。

すると蜷川氏は多様化するテレビ業界の現状を鑑み、「収益に関わることをすべて理解したうえでコンテンツを作ることが求められていると思います。タイムテーブルや視聴率という有限のエリアの中のパズルや数字の取り合いではなく、一つひとつのコンテンツがプロダクトであるという思想を持って運営するプロデューサーが求められる」と続けた。

さらにデジタル人材やビジネスについて熱い議論が繰り広げられたが、最後に境氏は、「タイムテーブルや視聴率といった単純な話ではなく、長期的なコンテンツのマネタイズについてもプロデューサーが見るべきでしょう」と話をまとめた。

現在テレビ業界で見え始めているビジネスモデルの変革は、コロナ禍という特殊な条件の元だからこそ起こり得たものなのか、それとも本質的な大転換につながるのか、今後も注意を払い続けなければならない、と感じさせた延長戦だった。

【動画】InterBEE2020「「異業種に学ぶビジネスモデル革命・延長戦」アーカイブ配信中