境治氏、森永真弓氏、遠藤諭氏

24 MAY

新型コロナが与えたTV・ネット動画視聴へのインパクト〜Interop Tokyo2021〜「すべてはオンラインへ 」レポート

編集部 2021/5/24 08:30

インターネットテクノロジーの最新動向とビジネス活用のトレンドを伝えていくイベント「Interop Tokyo 2021」が、4月14~16日にかけて千葉県・幕張メッセで開催。特別企画「Connected Media」では、放送業界の最先端の取り組みを紹介する専門セミナーが行われた。

ここでは、4月15日(木)に行われたセッション「すべてはオンラインへ 〜新型コロナが与えたTV・ネット動画視聴へのインパクト」の模様をレポートする。

本セッションでは、動画配信サービスの急激な拡大によってテレビが「放送を視聴するデバイス」から「オンライン端末のひとつ」へと変化しつつあるなか、オンライン化によって人々とコンテンツとの関わり方がどのような状況にあるか、データをもとに議論した。

パネリストは、株式会社エム・データ 顧問研究員・メディアコンサルタントの境治氏、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員の森永真弓氏。モデレーターを、株式会社角川アスキー総合研究所 主席研究員の遠藤諭氏が務めた。

■テレビ関連ツイート コロナ禍は「ドラマタイトル+『ほっこり』」が突出

遠藤諭氏

まず遠藤氏が、「Twitterエンタメ全量解析で見えたコロナ禍のテレビ」と題し、2020年におけるツイートトレンドの推移をアカウント数ベースで紹介した。

「日本では、高い瞬間風速を記録したツイートのほとんどが、実は、テレビ由来の話題」と遠藤氏。そうした中で、『この恋あたためますか』『おカネの切れ目が恋のはじまり』(いずれもTBS)などが、2020年の秋シーズンを中心に放映された恋愛系ドラマでは上位を占めたという。

「緊急事態宣言とともに『ドラマタイトル+ほっこり』というキーワードが突出した」と遠藤氏。コロナ禍前の2019年と比較すると、その成長度は実に7.7倍にも及んだと語る。

■境氏「ネット配信が放送を凌駕しつつある」 森永氏「アプリでもテレビが見られている」

境氏は、インテージ社による視聴ログ「MediaGauge TV」のデータをもとに、「テレビ受像機を通じてどんなコンテンツが見られたか」という調査結果を紹介。「2020年春のステイホーム期間中、テレビは2019年よりも見られている時期があったが、その後は昨対比100%を切った状態が続いた」と指摘する。

境治氏

その一方で「2020年、テレビでアプリ(=ネット動画コンテンツ)を閲覧した回数は前年(2019年)よりコンスタントに多く、とくにステイホーム期間中においては昨対比160%程度あった」と境氏。「2020年、地上波テレビは2019年に比べてあまり見られなかったが、動画配信は盛んに見られた」と語った。

(出所)インテージ Media Gauge TVデータ

続いて境氏は、テレビ1台あたりの視聴時間推移データを紹介。「グラフのうえでは地上波の視聴時間が圧倒的に多く、アプリでの視聴時間が少ないように見える」としながらも、「2019年末には地上波:アプリが5:1という割合であった視聴時間比が、2020年末は4:1へと縮まっている」と指摘。「テレビ受像機でさえストリーミング視聴の割合が増えており、ネット配信の勢いが放送を凌駕しつつある」と述べた。

(出所)インテージ Media Gauge TVデータ

これに続き、「TVerにおいて、テレビデバイス経由でのアクセスがPC経由のアクセスを抜いたという現象もある」と森永氏。「例えば(2021年の)年明けに『箱根駅伝』が非常によく視聴された。テレビでの視聴率も非常に良かった」と続け、「コロナ禍で家族視聴が増え、他の家族にテレビ(のチャンネル権)を“占拠”されているなかで、セカンドスクリーン視聴されていたのでは」と指摘。「テレビデバイスにおいても、開いているのはアプリだが、見ているのはテレビコンテンツという場合も増えている」といい、テレビの視聴データのなかにも「分離しづらいデータが増えてきたのでは」と語った。

■若年層は「友達と盛り上がれる、友達が注目している番組」を見る

続いて境氏は、電通メディアイノベーションラボによる『頼りにするメディアに関する調査(2018年・2020年)』の結果を紹介。各メディアに対する信頼度の傾向に応じて「古き良きマス社会型」「民放テレビで気晴らし型」といった特徴的なキャラクターを定義し、世代や性別における特徴を見せた。

(出所)電通メディアイノベーションラボ 頼りにするメディアに関する調査(2018年・2020年)

「年配層に多いのは(旧来のマスメディアに信頼を高く寄せる)『古き良きマス社会型』。(お笑い・ドラマなど、ストレス発散や楽しさを求めてテレビを見る)『民放テレビで気晴らし型』は30代女性に多いが、若年層にも一定割合存在する」

(出所)電通メディアイノベーションラボ 頼りにするメディアに関する調査(2018年・2020年)

「特に若年層に多い」と境氏が指摘するのが、趣味嗜好を共有するコミュニティを持つ「オルタナコミュニティ型」と、SNSで情報を追う「ソーシャルツイン型」。共通するのが「見る番組を非常に吟味する」「友達と盛り上がれる、友達が注目している番組を見る」点ではないかという。

その一方で「人によってメディア接触の方法が違う」と境氏。

「いわゆる『お笑い第7世代』で盛り上がっているのは『気晴らし型』であり、コミュニティ型やソーシャルツイン型は必ずしもお笑いに興味がない。テレビ局は『古き良きマス社会型』『民放テレビで気晴らし型』ばかり見ているのではないか。もっと若年層(の意識)に注目するべきだ」。

■「沢山の人が盛り上がっている」よりも「10人だが共感率90%」のコンテンツが重要

森永真弓氏

ここで森永氏が、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所のインタビュー調査結果を紹介。これによると、「コロナによって『三密回避』が求められ、『集まって楽しむ』ことができなくなったなか、『密を回避しながらも楽しみを見出している』人々が現れている」という。

これらの人々は「オンラインでのコミュニティ内コミュニケーションを楽しんでいるのではないか」と森永氏。

「このなかでは『コンテンツの同時性やお互いの態度の相互共有』に重きが置かれており、コンテンツを楽しむ仲は『つねに繋がっている仲間内』という特徴がある」という。「しかも、オンラインコミュニティを形成しているのは『ネットが得意な人』ではなく、一般的な人たち」

新たなコンテンツ消費の形として、親しい仲間同志がオンラインコミュニティ上で同時にコンテンツを楽しむ「オンライン同期」がトレンドとなりつつあるという。

「もともと共感性が高く、ゆるくつながっている仲間同士のコミュニティが先にあり、そのなかでより同時性、相互性を高めるための材料としてコンテンツを『引っ張ってくる』」

「コンテンツの選ばれ方は『共感性重視』。たんに沢山の人が盛り上がっているものではなく、『コミュニティの規模は10人程度だが、そのなかで90%の共感率を呼ぶもの』が重要視されている」

「ドラマの実況ごとにSNSのアカウントを分ける人もいる」と森永氏。「コンテンツを通じたコミュニケーションは『共感軸』ごとに分かれている。(評価の文脈は)『いいね』ではなく、『それな』『わかる』というように『お互いわかり合うためのもの』としてコンテンツが選ばれている」といい、そのなかで地上波テレビの強みを再認識したという。

「(同期のために)みんなで同時に再生ボタンを押す必要がなく、一斉に楽しめるという点で地上波テレビは強い。これまでオンデマンド視聴にくらべて不都合とされてきたリニア(時系列・編成型)視聴の再評価にもつながりそうだ」

■コンテンツを取り巻く「無数の小部屋」に人々が集まる

「現在のコンテンツ消費においては『共感性の高い同士でもりあがる』ことが重要」と森永氏。「これまで若い人向けとされてきたようなコンテンツを取り巻くコミュニティにも年配層の人々を見かけることも珍しくなくなってきた。共感ポイントが同じなら、性年齢は重要でない」といい、「いままで私たちメディアビジネスサイドが想定していたのとは違うコンテンツの楽しみ方が出てきている」と語る。

「これまでのマスマーケティングは、複数の特徴の中から一番強いメッセージになるコア価値を1つを抽出し、それを情報化するアプローチだった。かたやソーシャルメディアを通じたコンテンツ消費は『ブランドにおけるあらゆる価値を情報化し、沢山の種類の情報を発信する』形となっている」と森永氏。

「いまや、コンテンツの要素がどんな人々にひっかかるか(一元的には)わからなくなっている。これまでは『ノイズを作らない(=メッセージの純粋性を高める)』ことこそ効率が良いとされてきたが、これからは『ノイズを増やす=(共感の取っ掛かりを増やす)』ことが効率に繋がっていくのではないか」

「いわば理想は『街頭テレビがいっぱいできているような状況』」と森永氏。「コンテンツに対して『(一元的な価値観に基づくコミュニケーションの)大部屋』を作るのではなく、『(細かな共感軸に対応した)小部屋』を無数に作ると、結果として人々が集まるという考え方をするのがよいのではないか」と語る。

■『どういうコミュニティに届いているか』はデモグラでは測れない

セッション後半は遠藤氏、境氏、森永氏の3人によるディスカッションへ。まずはコンテンツの「届け先」に焦点が当たった。

「ネットがもたらした時間消費の自由さで新しい家族の風景が生まれ、コンテンツごとにバラバラに動いている状況」(遠藤氏)

「お茶の間で一家団らんしているようで、家族それぞれオンラインで別々のコミュニティで盛り上がっている可能性もある」(森永氏)

「いままでの視聴者の捉え方をリセットし、(テレビの前に)どういう人達がいるのかを考えて番組を届けることが重要なのではないか。いまやYouTubeにも年配層のユーザーが増えている。たんに年齢層で区切らず『どういうコミュニティに届いているか』を考えるべきではないか」(境氏)

「昔のコミュニティは『所属』するものだったが、いまは『接続』するもの。ひとりの人の中にも『脚本家好き』『俳優好き』など、いくつもの『接続先』がある。コンテンツを届けるターゲットがデモグラ的なものではなくなってきているのに、いまだ広告枠がF1・M1層のようなデモグラ的なメニューしか無いのはどうなのか」(森永氏)

■ネット配信時代に「テレビが発揮しうる価値」とは

続いて議題は、ネット配信時代においてもテレビが引き続き持ち得る価値の話に。

「時間がドライブしているテレビの特長が引き続き価値を持つのではないか」(遠藤氏)

「ネット配信での配信時にあまり話題とならなかったドラマが、テレビ放映されたことをきっかけにバズを生んだ事例もある。テレビにはイベント性がある」(森永氏)

「これからは『タイミング』と『モーメント(行動軸)』の考えになってくる」と境氏。

「好きになったドラマをリアルタイムでは見られないけど、追いつきたい」というニーズに完全に対応していく必要がある。同時配信のタイミングもあるが、あとからいつでもオンデマンドで接触できるようにして、コミュニティが後から追いつけるようにしなければいけない」(境氏)

「もともとテレビというメディアが強かった理由は、チャンネルと時間の流れの2軸からなる番組表があったから。それは、『不動産』みたいなもので広告を出すほうもお金を出しやすい。番組表という強烈なわかりやすさに匹敵するものをテレビ局は提供すべき」(遠藤氏)

「番組表は『いまこれを見るといい』というサジェスチョンの役割も果たしている」(境氏)

「これからのテレビ局は、ネット配信でも地上波でも稼げる『IP(知的財産)の会社』になっていくのではないか」(森永氏)

「時間に沿って編成されているからこそ、放送以外にもイベントの場としてテレビは機能しうる。IPもあって放送波もあり、イベント事業者でもあり、さらに課金コンテンツも展開していくというように、『新しい総合コンテンツ事業者』のような概念が生まれるのではないか」(森永氏)

「テレビ東京の赤ちゃん向け番組『シナぷしゅ』の例が面白い。毎朝の放送が大きな意味合いを持っていて、ターゲットも絞られているのでスポンサーもついている。その一方で、地上波で放送した内容を『なかなか寝ない時用』というように『用途別』に切り出してYouTubeでも配信しており、そこにもスポンサーが付いている」(境氏)

森永氏からは、テレビ以外のケースながらも示唆に富んだ話が。これをきっかけに、蓄積を持つコンテンツ企業としてのテレビ局ならではのアプローチの話が広がった。

「長い歴史を持つ主婦向け雑誌に、これまで掲載してきた豆腐に関するレシピをもとに『豆腐のレシピ本』というように切り出してコンテンツ化するのはどうか、と提案して盛り上がったことがある」(森永氏)

「古い番組を出せるのは大きい。それを見る動機づけのしくみをもっと工夫すべきでそれによってテレビはポータルになる」(遠藤氏)

「テレビ局はTVerでの同時配信をセットでやったほうがいいし、アーカイブも残したほうがいい」(境氏)

■「すべてオンライン化」の時代にテレビ局が大事にすべきこと

最後にセッションを振り返り、境氏と森永氏が、今回のテーマにも掲げられた「オンライン」というキーワードを元に、これからもテレビ局、テレビコンテンツのあり方を述べた。

「極端な話、テレビ局が番組を届ける手段が電波じゃなくてもいい状態にはなるだろう。あらゆるコミュニティに届けられれば、電波じゃなくてネット配信で届けていく方法もある」(境氏)

「視聴者にとっては『コンテンツを見ること』が重要。電波経由かネット経由かは気にされないが、『どこが作っているか』は気にされるのではないか」(森永氏)

「大切なのは、それぞれのコミュニティの人たちにじっくり堪能してもらうこと。どういうコミュニティになげるか、どういう社会課題の解決になっているか。コンテンツ発信においては社会課題の解決を並行して考えることが大事なのではないか」(境氏)

白熱したセッションは、予定の1時間をやや超える形で終了した。