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高校生に聞いた「テレビ視聴」のリアル~Screens × ビデオリサーチ × マイナビ 共同調査・研究レポート【インタビュー後編】

編集部 2021/6/22 08:00

今やテレビコンテンツの視聴スタイルは「テレビ受像機で放送を視聴する」だけにとどまらず、多種多様になっている。Screens編集部では、株式会社ビデオリサーチの「ひと研究所」、株式会社マイナビが運営するティーン層を対象にしたメディア「マイナビティーンズ」と共同で「ティーン層 × テレビコンテンツ エンゲージメントを高めるためのポイントを探る」をテーマに調査を実施。その模様を前中後編にわたって紹介した。

“若年層のテレビ離れ”その実態を探る~Screens × ビデオリサーチ × マイナビ 共同調査・研究レポート【前編】

TVerアワードW受賞のドラマ『恋つづ』と女性ティーン層の視聴実態の関連性~Screens × ビデオリサーチ × マイナビ 共同調査・研究レポート【中編】

ドラマ『恋つづ』を支持した女性ティーン層への4つのアプローチ方法~Screens × ビデオリサーチ × マイナビ 共同調査・研究レポート【後編】

共同調査による考察・仮説に“リアル”をかけ合わせるべく、マイナビティーンズ協力のもと、同社のアンケートに「『恋つづ』を視聴していた」と回答した高校生(当時)3名にリモートインタビューを実施。ビデオリサーチのスタッフがインタビュアーを務め、3名の「テレビ視聴」の実態について聞いた。

インタビュー前編では、デバイスや動画配信サービスの選択肢は多様化しているものの、ティーン層がテレビコンテンツから離れているわけではなく、特定の状況下ではリアルタイム視聴の機会も存在する等、共同調査・研究の結果を裏付ける展開となった。後編では、昨年ティーン層の間で人気を博したドラマ『恋はつづくよどこまでも』(TBS、以下『恋つづ』)を題材に、彼女たちは実際にどのように『恋つづ』を楽しみ、体験したのか、その実態を語ってもらい、今回の共同調査のテーマである「ティーン層 × テレビコンテンツ エンゲージメントを高めるためのポイントを探る」について考察していく。

高校生に聞いた「テレビ視聴」のリアル~Screens × ビデオリサーチ × マイナビ 共同調査・研究レポート【インタビュー前編】

<グループインタビュー参加者プロフィール(いずれも仮名)>

【シホさん】高校3年生。父、母、妹(高1)の4人家族。韓国ドラマ、『愛の不時着』(Netflix)が好き

【コムギさん】高校3年生。父、母、妹(中3)の4人家族。映画全般、90年代のドラマ、『愛していると言ってくれ』(TBS)が好き。横浜流星・古川雄輝推し。

【ハルさん】高校3年生。父、母、姉(大学3年生)の4人家族。藤原大祐(チーム・ハンサム!)推し。

――カギは「予想外の展開の多さ」飽き性でも『恋つづ』は最終話まで視聴したシホさんの場合

最初に尋ねたのは、普段TVerやYouTubeで動画コンテンツを楽しんでいるというシホさん。飽き性なので途中でドラマを見るのを止めてしまうことが多いが、「『恋つづ』は最終話まで見ることができた」という。

 

 

 

シホさん:実は最初は見ていなかったのですが、流行に敏感な高1の妹からオススメされて見始めて、再放送やTVerでの配信をチェックして、途中で追いつきました。いつもはドラマのストーリーの終わりが見えてしまって、途中で見るのをやめてしまうことが多いのですが、『恋つづ』は予想外の展開が多くて見入ってしまいました。

佐藤健演じる“天堂先生”こと天堂浬が、上白石萌音演じる主人公の“勇者ちゃん”こと佐倉七瀬に対して繰り出す「ツンデレ」に「きゅんきゅんしちゃって、ずっとハマって見ていた」とシホさん。当時は受験期ということもあり、友達との話題に上がることはなかったが、その分、妹と番組の感想を語りあったり、天堂先生の台詞を真似したりして盛り上がったという。

――原作ファン×推しの出演!リアルタイム&繰り返し視聴で「胸きゅんシーンをピンポイントでチェック」コムギさんの場合

90年代の日本ドラマが好きで、ドラマやバラエティは「リアルタイムで見る派」の高校3年生、コムギさん。原作漫画を読んでいたことをきっかけに『恋つづ』を視聴し、SVOD(定額制動画サービス)の「Paravi」にも加入し、限定配信されていた「ディレクターズカット版」や、スピンオフドラマ『まだまだ恋は続くよどこまでも』も含めて「何回も繰り返して見た」という。一方、リアルタイム視聴では「胸きゅんシーンをピンポイントで見る」ことに専念していたと語る。

コムギさんドラマ化されると聞いて、しかも健くん(佐藤健)が出るとあって、これは見るしかないな、と思って(笑)公式TwitterやInstagram、番宣番組も見て、もちろんリアルタイムで見ました。天堂先生の『俺の彼女だから』という決め台詞は、中3の妹と一緒に「キャー!」って叫びました。

クラスメイトも多く視聴しており、学校ではドラマを題材にした「遊び」で盛り上がっていたというコムギさん。ロケ地へ「聖地巡礼」に出かけることもあったという。

コムギさん:学校の先生も見ていたから、天堂先生の台詞を言ってもらったりしたのですが、言わせておきながら「やっぱり佐藤健が一番だよね」って(笑)。あとは、鹿児島が舞台という設定だったのですが、実際には東京近郊で撮影されているシーンがあることに気づいて、ロケ地へ実際に行ってみたりもしましたね。

「もう一度見るとしたら、天堂先生が七瀬に“落ちた”ときから見たい」というコムギさん。理由として「その後から“ツン”より“デレ”が多くなるんですよ」と、コムギさんにとっての “きゅん要素”を強調していた。

――リアルタイム&配信で深く楽しむ!LINE片手に友達と「今のシーン見た?」と盛り上がる、ハルさんの場合

若手俳優ユニット「チーム・ハンサム!」を推す高校3年生、ハルさん。視聴のきっかけはメンバーである渡邊圭祐と、同じ事務所に所属する佐藤健の出演だったという。

 

 

 

ハルさん:渡邊圭祐くんと佐藤健くんが出るし、そもそも恋愛モノが好きなんです。それに大学3年生のお姉ちゃんとも、このドラマのことが話題になっていたので、見始めました。放送前からInstagramやLINEニュースに情報が流れていたので、友達の間でも話題になっていましたね。

リアルタイム、再放送、Amazonプライム・ビデオと「リピートで3周しました」というハルさん。繰り返し視聴の度に、それぞれ視点を変えながら見ていたと語る。

ハルさん:1周目は「“きゅん”を感じるシーン」を楽しんでいました。3周目になると、面白いシーンや、萌音ちゃんと健くん以外(の登場人物)を見て共感していました。姉は医療ドラマが好きなので、「この治療シーンは『ドクターX 〜外科医・大門未知子〜』(テレビ朝日)でも登場した」といった情報を教えてもらうこともありました。

コムギさん同様、ほとんどのクラスメイトが見ていたというハルさん。ドラマを見ながら、友達とSNSで興奮を共有することも多かったという。

■求められる「きゅん」「ショート動画」

共同調査・研究レポート【後編】(https://www.screens-lab.jp/article/26667)にて、マイナビティーンズは、「推し」「SNS」以外に、ティーンが求めるものとして、「きゅん要素」の多発、「SNSでエッセンスがまとまったショート動画」が見られること、などについての重要性を挙げた。今回のインタビューでも、確かに「きゅん」というキーワードがナチュラルに語られていた。これに関しては、マイナビティーンズによる詳細な分析をご覧いただきたい。

【マイナビティーンズよる解説記事】『10代女子がテレビコンテンツを見る上で必要な要素は「推し」と「きゅん」 ~人気ドラマをもとにポイントを解析~』

ハルさん普段の生活の中で“きゅん”が足りてないんですよね(笑)。放送翌日の水曜日は、毎週『恋つづ』を語り合っていました。リアルタイムでも、グループLINEで友達と「今のシーン見た?」「やばいよね」ってやりとりをしたり。

■ドラマ視聴を盛り上げる「ファン向けコンテンツ」 ~出演者による配信、メイキング、ファンによる「コラージュ動画」の存在

ドラマの楽しみ方にSNSが深く関わっていたというコムギさんとハルさん。ドラマの放送時間前後には、視聴体験をさらに盛り上げる一種の「ファン向けコンテンツ」を楽しんでいたという。

コムギさんドラマの放送前後に健くんがSUGAR(有名人がリスナーをピックアップし、一対一の通話が楽しめるアプリ)で配信していたんです。それを見てからドラマをテレビ画面でリアルタイム視聴して、終わってからまたSUGARをチェックしていました。Twitterでは「推しアカ」(推し専用のサブアカウント)を持っていて、CM中に仲の良いフォロワーさんと共感のメッセージをやりとりしながら見ていましたね。

ハルさんInstagramでは番組公式アカウントをフォローして、撮影のメイキングを見ていました。ドラマ中の天堂先生の台詞や「きゅん」シーンを面白くコラージュしたファン動画にもハマって、何回も見ていました。

■プロコンテンツとユーザー発信コンテンツ(UGC)に「差を感じない」。芸能人の“プライベート発信”には違和感も

テレビ番組をめぐる議論の中で、テレビ局やプロダクションが制作したいわゆる「プロコンテンツ」と、YouTubeなどにあるUGC(User Generated Contentの略で「一般ユーザーによって作れられたコンテンツ」のこと)との違いが取り沙汰されることも多い。

シホさん:テレビ(番組由来のコンテンツ)とYouTubeのコンテンツの面白さは同じぐらい。YouTubeでは、芸能人のプライベートを知ることができるようなコンテンツもあるので親近感を持てる。私の中ではテレビ(番組由来のコンテンツ)は表面的な伝え方をしているというイメージがあって、そういった意味でYouTubeのコンテンツの方に価値を感じているところがあります。

コムギさん:いまのYouTubeには芸能人が出ているコンテンツもありますし、正直テレビ(番組由来のコンテンツ)とそんなに変わらないという印象です。素人のYouTuberが作るコンテンツも面白いし。作るのが素人だとかプロだとかで判断することはなくて、見たいものを見るという感じです。

ハルさん:でも、インスタライブに酔っ払った素の状態の俳優が出ていると幻滅しちゃう。俳優はプライベートがわからないぐらいがちょうどいいのかも。

■「テレビ離れの実感」はありつつ、コンテンツやジャンルによって視聴する動機はある

様々な場面で取り沙汰されている「テレビ離れ」というキーワードに関して、彼女たちはどのように思っているのか。

シホさん:私のまわりは、スマホでNetflixなどを見ている人も多いです。朝のニュースはLINEニュース、天気はYahoo!で、というように。テレビ離れというか、(コンテンツの接触先が)スマホに依存しているのかも。テレビ番組は、『恋つづ』とか、気になるものがあれば見るという感じです。

コムギさん:ニュースやバラエティをいつも見ている、ということがないので、テレビ放送から離れているといえばそうかも。ただ、ドラマは『恋つづ』以外にも、『大恋愛』『初めて恋をした日に読む話』(TBS)、『ラブリラン』(読売テレビ/日本テレビ系)などにハマってテレビ放送や配信で見ていました。『大恋愛』では、番組の感想を推しアカウントでツイートしたら、5000も「いいね」が付いたりして驚きました。『ラブリラン』は(推しの)古川雄輝が出ていたから、逐一ツイートしていましたね。

ハルさん:「テレビから離れている」とは感じていません。ニュースはテレビ放送で見ていますし、ドラマもリアルタイムで見られるものは見る。その作品が後でTVerに上がるとしても、話題に遅れたくないからリアルタイムで見ます。

■まとめ

「ティーン層 × テレビコンテンツ エンゲージメントを高めるためのポイントを探る」というテーマに対する、『恋つづ』視聴にまつわるケーススタディとなった今回のインタビュー。まずは、出演者の中に“推し”がいるということは、視聴するコンテンツを選ぶ明確な理由になる。ただしそれは、前世紀からしごく一般的な理由であったはずだ。現在は、“推し”自身、あるいはコンテンツの公式アカウントによるSNSなどの発信が、視聴のきっかけとなったり、視聴を継続するモチベーションを高めるための一助となったりしているようだ。特にポイントとなるのは、友人や家族、あるいは共通の興味を持つ他者と体験を共有する手段を、いかに提供できるか。かつて、学校などで昨日視聴したドラマの話題で盛り上がる……といった現象が、SNS上のコミュニティという形に置き換えられた、とも言える。また、こと「共有」において、リアルタイム視聴は有効な手段であり、オンデマンド全盛の現代においても、むしろ放送波や同時配信だからこそのアドバンテージはある。

また、これだけ多種多様な動画配信サービス乱立する中にあって、ジャンル「ドラマ」については、テレビコンテンツの存在感は依然として大きい印象だ。そこでドラマにフォーカスしてみると、特徴的なのは、約3か月の間、新しいエピソードが追加され続けるため、話題になった場合に熱量が連続性を持つということ。そのとき、実家で生活しているティーン層が、オンデマンドを活用しながらも、コミュニティにおける「共有」の最たる体験であるリアルタイム視聴を楽しむという流れは、ごく自然なことなのかもしれない。SVODサービスでも配信オリジナルコンテンツが随時追加されていくが、仮に配信直後にSNSを賑わせていたとしても、それを目にした全員が会員であるわけではない。テレビコンテンツのリアルタイム視聴は、見たいと思えば(時間が合えば)すぐに見られる気軽さがある。そこに『恋つづ』のようなパワーのあるコンテンツがやってくることで、ティーン層はリアルタイムの視聴に惹かれ、テレビの前に戻ってくることも期待できる。

インタビューをもとに「ティーン層 × テレビコンテンツ」を考え、エンゲージメントを高めるためのポイントについて考察してきた。結果、今回のテーマに対する回答として、下記を押さえる必要がありそうだ。

・「推し」の出演、「きゅん要素」などの理由で「選ばれるコンテンツである」ことが前提

・「推し」自身、コンテンツ公式からの発信を含む、SNSにおける話題化とコミュニティの形成が重要

・「ドラマのリアルタイム視聴」という他にあまり例がない共有体験をいかに盛り上げるかを考える

今回は、テレビコンテンツの中でもドラマに寄せた考察となった。生活環境の変化、「コネクテッドTV」の拡がりなどによって、ティーン層の視聴動向がどのように変容していくか、今後も注視していきたい。

高校生に聞いた「テレビ視聴」のリアル~Screens × ビデオリサーチ × マイナビ 共同調査・研究レポート【インタビュー前編】