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コロナ禍が生活行動に与えた影響、スマホの普及がさらに進む〜TVISION INSIGHTS主催ウェビナー(後編)

編集部 2021/11/29 12:00

TVISION INSIGHTS株式会社は10月21日、ウェビナー講演「メディア世代論から見えてくる テレビ視聴の中長期トレンドとコロナ禍のトピックス」を開催した。講師は(株)電通の電通メディアイノベーションラボ統括責任者、電通総研フェローの奥律哉氏。モデレーターはTVISION INSIGHTSの荒氏が務めた。

同講演の模様を前後編にわたってレポートするが、後編ではコロナ禍となった2020年から2021年で生活者のメディア接触がどう変化したのかをさまざまなデータを用いて解説。また前編のトピックとなった「メディア世代論」で今後を読み解いていく。

【前編】メディア接触を世代ごとに分析する「メディア世代論」、ネットはスマホの時代に

■テレビよりも普及が進んだスマホなどの携帯端末

本講演の後半は、2020年からのコロナ禍を受けてメディア利用行動がどう変化したのかという視点でさまざまなデータが示され、奥氏が考察を発表した。

まず内閣府の消費動向調査の最新版(2021年3月)を用いて、動画視聴デバイスの世帯普及状況の説明が行われた。テレビの世帯普及率は93.4%、世帯あたり台数は1.8台だったが、29歳以下の層では普及率が84.4%と若者層のテレビデバイス離れという流れは変わっていないことが示された。

一方でパソコンの普及率は総世帯で見ると69.9%と、「コロナ禍で在宅勤務が増えて買い増しされた感覚はありますが、まだ一家に一台しかなくて足りていません」と奥氏は指摘。両親が会社からパソコンを借りてきたとしても、「子どもが二人いたら二台目がなくて同時に使えない」状態なのだという。

一方でスマホの普及率は84.4、ガラケーが25.5%と、かなりの数字となり、世帯全体では1.99台と飽和状態にあり、「実はテレビよりも普及が進んだ端末になっている」と奥氏は語った。

■年配者やミドルシニアはさらにテレビ視聴を上げ、若年層は下げていく

続けて講演は、前編で紹介した「メディア世代論」を踏まえたうえでのNHK放送文化研究所の国民生活時間調査からテレビ行為者率の年齢持ち上がり効果についての解説となった。同調査は、20代男性と10代女性の約半数がテレビをほぼ見ないという結果が出て話題になったものだ。

1995年から5年おきで年齢層別テレビ行為者率の推移を見た場合、同じ年次で生まれた人たちのデータは、横に移動させてみるコーホート分析の方がより効果的だという。

「このデータで予見されることは、年配者やミドルシニアは歳を重ねることでテレビ行為者率をさらに上げていくと読み取れるが、若い人はそうではなくて少し下げている方向性がある。ここに時代感が表れているのではないか」と奥氏は分析結果を説明した。

また奥氏は、この流れの根底には前編で説明した「メディア世代論」の「通奏低音」があるとし、「時系列データは宝の山ですので、いろんなことが見えてくる」と語った。

■夕方のアニメ番組がなくなったことで若年層を引っ張り込めなくなった

若年層がテレビを見なくなったもうひとつの要因として奥氏は、「受け皿がなくなっている」ということを指摘する。

1970年の関東地区ラテ面を見ると、小学生や中学生が帰宅する時間帯にはアニメものが並んでおり、それがそのままゴールデンタイムに続いている。しかし現在のラテ面には夕方に子どもたちが見るアニメがないのだ。

「番組の編成を工夫していった結果なのですが、大きなダイナミズムで考えた時にはこのテレビへの入り口の時間帯にアニメがないのは、そのままゴールデン・プライムタイムに引っ張って行く力を失っているのではないか」と奥氏は言う。

ここで奥氏はTVISION INSIGHTSによるYoutubeの視聴履歴調査を紹介。普通ならアカウントごとの分析となるため、家庭の中で誰が何をYoutubeで見ているのかは判別できないことが多いが、同調査によると個人が何を見ているのかがデータとして読み取れるのだという。

【関連記事】TVISION INSIGHTS「YouTubeはテレビでどう見られているのか」視聴実態を分析

この調査によると、夕方の時間帯に若年層はゲーム実況を見ていると示されている。その一方で、かつて夕方にアニメを見ていた母親層が、昔のままにアニメを見ているということが分かる。「ここで子どもたちがゲーム実況を見ているというのは、テレビの編成で子どもたち向けのものが提供されていない証でもあるのではないでしょうか」と奥氏は語った。

■大きく環境を変える因子は「いったいその時に何歳だったのか」が重要

講演の終盤は、生活者から見たメディアはどこにあるのか、という点から分析が続けられた。年代別メディアの利用(接触)頻度のシェアをグラフに落とし込んでみると、若年層ではネット、SNS、動画がメディア利用の中心であり、60代ではテレビ、ラジオのシェアが最も高いという状況がはっきりと表れた。

以上のような分析のまとめとして、年齢層によるメディア接触の分析を行う時、「各世代は15年経つと15年の歳を取る」ということを念頭に置いておかなければならないと奥氏は強調した。年齢層を縦軸に、年代を横軸に取った場合は「横に分析を進めるのではなく斜めに見ていかなければならない」ということだ。

それに加え、「2011年の東日本大震災、そして2020年のコロナ禍という、全世代に同時期に影響を与えて環境を変える劇的な因子は、その時にいったい何歳だったのか、ということが、自身のメディアリテラシーや行動の基準を変える影響があるということです」と講演を締めくくった。

■(質疑応答)“画面の奪い合い”にテレビはどうすればいいのか

講演後には質疑応答が行われ多くの質問が寄せられたが、その中から抜粋して一つを紹介する。

「スマホやテレビスクリーンに各サービスを表示させるために、いわゆる“画面の奪い合い”競争が加速してくると思いますが、数多あるサービスの中で、テレビ由来のコンテンツを選んでもらうためにはどんなことが必要なのか?」という問いに対して、奥氏は次のように答えた。

「スマホでは短尺のものをたくさん観ていくという行動パターンがあるので、15分20分にしても難しいものがあると思います。しかし例えばYouTubeをテレビのスクリーンで観ると滞在時間は長くなるのです。

テレビスクリーンの魔力が持つポテンシャルは大きいと言えます。ただテレビのコンテンツをそのまま出せば観てもらえるということはないので、若者に向けては、短尺で分かりやすいものをたくさん観るという若者のリテラシーに合ったものを出していくといったことが大事だと思います。

そしてネット空間を作って関心を呼び、そこからテレビに誘っていく、また情報を還流させてループを作るということを放送とネットの環境を使って実現することが、いまやるべきことだと感じています」

【前編】メディア接触を世代ごとに分析する「メディア世代論」、ネットはスマホの時代に