左から石橋知博氏、藤田雄一郎氏

23 DEC

運用型テレビ広告への挑戦~アプリDL率127%UP 進化するウェザーニューズ社の取組~電通主催セミナー(#4)

編集部 2021/12/23 09:00

株式会社電通は、「RADIO AND TELEVISION IMPROVEMENT 2021」と題したセミナーを11月10~12日に実施。4編にわたって開催されたセミナーのうち、本稿では11月12日に行われた#4『運用型テレビ広告への挑戦 ~アプリDL率127%UP 進化するウェザーニューズ社の取組~』の模様をレポートする。

本セッションでは、気象情報企業であるウェザーニューズ社が展開する天気アプリのダウンロード数増加のプロモーション施策として、同社の天気データと電通が開発したCM運用システム「RICH FLOW」を組み合わせ、運用型広告をテレビCMにおいて実施した事例が紹介された。

左から小柳嶺氏、水口奈津季氏

登壇者は、株式会社ウェザーニューズ 取締役・常務執行役員の石橋知博氏と、株式会社 電通 アカウントプロデュースセンター ビジネス推進2部長の藤田雄一郎氏、同ラジオテレビビジネスプロデュース局 スポット業務推進部 プロデューサーの小柳 嶺氏、水口 奈津季氏の4名。藤田氏はモデレーターも併せて務めた。

■天気データ×CM運用システムで効率的な出稿を実現

ウェザーニューズ社の天気アプリについて、「雨天時に大量にダウンロードされる傾向があった」と石橋氏。「テレビCM実施3年目を機に、可能な限り雨のタイミングにプロモーションを最適化したかった」といい、電通から「RICH FLOW」の提案を受けたことをきっかけに、自社の気象データを用いた運用型広告に踏み切ったと語る。

「RICH FLOW」では、天気データを元に発注済みのスポットCM枠を解析・最適化。広告主同士で出稿枠の組み換えや、特定の気象条件に応じてCM素材の直前差し替え機能を組み合わせ、高効率な出稿を実現。ダッシュボード機能「Response Connector Dashboard」と組み合わせることにより、その後の効果検証やプランニングを直感的に行うことができるという。

■82パターンのクリエイティブから見えた「CPI改善幅の大きい天気」

CM制作にあたっては、雨のシーンや晴れのシーンなど放映時の「天候一致の表現」と、雨雲レーダー機能の紹介など、天候にあわせた「訴求軸」、さらに放映地域の地名を入れて呼びかける「エリアアテンション」の3軸をもとに、82パターンに及ぶ素材を作成。

アプリの利用動機に直接つながる天気に沿った「運用型」の出稿を行うことで、ダウンロード数は従来比127%に伸長したという。

「すでに雨が降っているような状況で雨雲レーダーや予報精度を訴求すると、ダウンロード数に如実に反映された一方、晴天時に『晴れ』のイメージや熱中症対策を訴求しても、CPIには与しないという結果になった。晴れの日ほど、視聴者は『突然の雨が気になる』という仮説がデータのうえでも立証された」(石橋氏)

「梅雨入りして視聴者が『雨慣れ』してきた時期では、雨雲レーダーを訴求しても思うような効果につながらなかったため、後半では予報精度を訴求するクリエイティブを出す施策を実施した」と石橋氏。その一方、「ゲリラ豪雨が目立つ時期においては突発的な雨を心配する傾向が強いため、ストレートに雨雲レーダーの機能を訴求したほうが効果は高かった」という。

また、「気象データをもとに解像度の高い効果分析が行えたことで、雨の降り方や『前日に雨が降ったかどうか』といった条件によって“効く”クリエイティブが変わることが、途中からわかってきた」と振り返る。

さらに特色が見られたのは「台風接近時におけるケース」だという。「台風の進路上にあるエリアに対し、『台風が近づいている』というアテンションで訴求したものがCPI改善幅が大きかった」一方で、「台風が遠方にある、もしくは放映地域が台風の進路上に入っていなかった場合は『台風への備え』を訴求しても効果が出なかった」といい、「天気による効果の差を目の当たりにし、非常に驚いた」と語る。

「テレビの視聴者に関して言えば、『台風がどう来るか、それなりにわかっている』という状態の中でピンポイントにCM投下すると、非常に効果があった。同時に、『自分のところはあまり台風の影響を受けないだろう』というムードで台風対策を訴求しても響かなかった。もっとも訴求効果の高い天気にあわせてCMをしっかり投下することで、CPIにもはっきり出てくるのだと、改めて痛感した」という。

■明確な効果を見せた「雨天寄せ」 一般論にとらわれない“CPIベース”の枠選定

これを踏まえ、小柳氏が、気象データにもとづいて雨天時にCMを集中投下する「雨天寄せ」の具体的な手法について説明した。

前述のCM運用システム「RICH FLOW」を使ったスポットCM枠のプランニングについて、「降水確率が高い日にバランスを寄せるべく改案を行う一方、他クライアントについてもターゲットの効率が上がる形でスポット枠組換えを行った」と小柳氏。これに加え、ウェザーニューズ側からの枠バランス配分や放送局側での枠卸しといった、人的な調整もあわせて行うことによって実現できたという。

 

「雨天時と晴天時ではCPIが2倍違うという知見をもとに『RICH FLOW』を使って『雨天寄せ』を行った。この結果、CM投下全体の15%を雨天の日へとシフトすることができた」と小柳氏。

さらに「RICH FLOW」では、曜日と時間帯ごとのCPIを最適化し、もっとも効率のよい出稿枠を選定。人気番組や「一般的に需要の高い枠」といった一般論的な指標ではなく、「獲得効率のよいゾーンを対象に、全体の10.3%にのぼる枠寄せを行った」と語った。

さらに、「スポーツ番組において、天気が非常に関係する釣りやゴルフはCPIは改善した一方で、インドアスポーツであるバスケットボール中継ではCPIは悪化した」と藤田氏。「ドラマでも、専念視聴の傾向が高いプライム帯のドラマにくらべ、スマホを片手に“ながら見”される傾向が高い昼ドラのほうがCPIは27%改善した」という。

■相関データでマーケットを先読み 運用型テレビCMの未来系

セッションの最後、「天気を利用したこれからのマーケティング」として、石橋氏が「WxTech(ウェザーテック)」を紹介。ウェザーニューズによる、天気データを活用した課題解決ソリューション「WxTech for Marketing」を紹介した。

同ソリューションでは気象データと、CPIなどのビジネスデータやクリエイティブを組み合わせ、それぞれの相関を算出するという。

「CPIが改善する天気パターンや、天気ごとに最適な効果を得られるクリエイティブの選択など、広告効果がもっとも高くなるパターンを導き出すことができる」と石橋氏。「自社で提供する天気予報を『未来のデータ』として活用し、ビジネスデータの精度向上に還元することができる」と語る。

石橋氏は、「アプリ内の動画コンテンツや、YouTubeのプリロール広告で天気にあわせた動画を流すということもテクノロジー的には可能。テレビCMの出稿と並行し、デジタルメディア上でも天気連動型の訴求を行うこともできる」と紹介。

また、手持ちのデータと天気との相関関係を確認できる「WxTech」サイトに関しては、検索ワードの上昇を時系列で可視化する「Googleトレンド」の統計データを利用し、特定商材の検索回数と天気の相関関係をデモンストレーションし、「マーケットと天気の関係が簡単にわかる」と説明した。

「気合いと根性だけはなく、これからはデータを使って売り上げを増やし、クライアントの事業成長に繋がるスポットの売り方をしていきたい」と小柳氏。藤田氏も「『RICH FLOW』をアップグレードし、将来的には2時間後のCM枠の素材を変えられるようなところまで行けたら」と抱負を語り、セッションを締めくくった。

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