07 APR

注目度高まるWeb3時代のNFTエンタメビジネス~香港フィルマート2022レポート(前編)

編集部 2022/4/7 10:00

香港貿易発展局主催の香港国際映画・テレビ市場マーケット「香港フィルマート」が今年はオンライン上で3月14日から17日の4日間にわたって、開催された。参加者の数は81の国と地域から約8000人に上り、映画・テレビ・配信コンテンツの国際流通取引が進められた。アジア発エンターテインメントビジネスの可能性を追求したビジネスセッションも多数企画され、なかでも今年は話題のNFT関連セッションが集中した。前後編にわたり、香港から発信されたアジアのコンテンツ流通ビジネスのトレンドをレポートする。

■81の国と地域から約8,000人がオンライン参加

ビクトリア湾に面したコンベンション&エキシビションセンターで毎年3月に開催されているアジア最大規模の国際エンタテイメントコンテンツマーケット「香港フィルマート」が今年もコロナ禍の影響を受けて、オンライン上での開催が継続された。映画・テレビ・配信コンテンツの国際流通取引を行うマーケット機能は名称を「FILMART Online(フィルマート・オンライン)」とし、また香港の映画・テレビ市場の最新動向をはじめ、世界の業界関係者向けにテーマ別セミナーを提供したビジネスカンファレンスは「EntertainmentPulse(エンターテインメント・パルス)」の名称で集約し、3月14日から17日までの4日間のバーチャルイベントに81の国と地域から約8,000人の業界関係者が集まった。

FILMART Onlineのホーム画面

主催の香港貿易発展局が発表した数字によると、フィルマート・オンラインに展示された作品数は749社・団体から2,400以上を数え、長編映画やテレビドラマ、アニメーションが多数並んだ。オンライン出展した企業・団体は地元香港をはじめ、台湾、EU、日本、韓国、フィリピン、タイ、米国などから40以上の国・地域に及んだ。なかでも中国本土から出展した数は260社以上と例年通り多くを占めた。地域別で最も多かったのは北京、浙江、広東の3地域。広東省映画庁と広東省ラジオ・テレビ局が主催した広東パビリオンは制作会社40社が参加し、ロケ地誘致の優位性も強調された。

またフィルマート・オンラインにおいてはセラーとバイヤーのビジネスマッチングを通じて業界内取引を促進する試みも実施され、エンターテインメント・パルスでは業界トレンド情報を共有する合計27のオンラインイベントが企画された。

■香港俳優ゴードン・ラムからメタ社のメタバースプレゼンまで

オンラインイベントのハイライトの1つには香港の俳優で映画プロデューサーのゴードン・ラムが登壇したセッションがあり、「香港プロダクションの再発見」と題して香港の映画産業について「香港映画の強みは、より多様なテーマと新しい才能の参加によって発展し続けていることにある。ニーズが複雑化している観客の期待に応えるために、今こそ新旧世代の映画制作者が一体となって、地元の映画産業を活性化できると確信している」と展望を述べた。

香港俳優で映画プロデューサーのゴードン・ラム(写真右)

成長を遂げる中国本土のエンターテインメント産業の現状を知る上でもフィルマートは欠かせないマーケットにある。数多くの映画やテレビドラマが制作されているなかで、国内市場向けのみならず、国際市場に流通されている作品数も伸びている状況にある。Huace GroupのCEOを務めるカレン・フー氏は国際市場における中国コンテンツの価値は「常に新しい題材を探し求め、なかでも日常生活のリアリティに基づいたテーマにある」と述べていた。

Huace GroupのCEOカレン・フー氏(写真左)

今、最も注目されるWeb3時代のエンターテイメントビジネスを学ぶセッションも今年は充実した。The Sandbox社共同設立者兼COOセバスチャン・ボーゲットのセッション氏はメタバースにおける新しいトレンドについて語り、メタ社フェイスブックアプリ担当アッシャー・ラプキン氏は10分間のショートプレゼンテーションの中で「現状のAR/VRの市場規模はまだ小さいが、デジタルクリエイターとのタッグによって、ブランドを再構築できる可能性は広がっていくはず。今後10年でメタバースは新たなCM体験を提供する機会をさらに増やしていくだろう」と見解を述べた。

■アメリカ版『ザ・マスク・ド・シンガー』のNFTビジネス

Web3関連ビジネスにおいてより具体的な事例を示したのは、FOXの最高情報セキュリティ責任者で、昨年ローンチされたブロックチェーン・クリエイティブ・ラボ(以下、BCL)社長のメロディ・ヒルデブラント氏だった。FOXは NFTマーケットプレイスがコンテンツクリエイター、IPホルダー、広告企業にとって、コンテンツの収益化から配信促進、ファンコミュニティの形成を実現する新たなコンテンツビジネスの基盤となっていくことに注目し、BCL内で研究開発および実証実験を進めているところ。既存のハリウッドスタジオの中で現状、FOXがこの革新的な分野を最も積極的に取り組んでいる。

FOXの最高情報セキュリティ責任者兼ブロックチェーン・クリエイティブ・ラボ社長のメロディ・ヒルデブラント氏(写真右)

韓国発の世界ヒットリアリティショー『ザ・マスク・ド・シンガー』のアメリカ版を展開しているFOXはこの番組はNFTを活用する上で、有効的だと考える。NFTマーケットプレイスのCryptoPunksを利用して、番組モチーフの「マスク」などをデジタルグッズとして番組ファンが購入できる計画を明かした。また古代ギリシャを題材にした新作TVアニメシリーズ『クラポポリス』においては専用のNFTマーケットプレイスを開設し、1点もののキャラクターアートや背景画、GIF、バーチャル体験企画など、さまざまなデジタルグッズの販売を予定する。FOXのヒルデブラント氏は「制作総指揮するダン・ハーモンには熱狂的なファンがいる。それがNFTビジネスにおいて有利に働くはずだ」と強調した。

一方、ヒルデブラント氏はNFTビジネス全般について「現段階ではリスクを伴う」と慎重な考えも示しながら、「NFTはまだ始まったばかり。デジタル資産の所有が一般化されると共に、コミュニティが活性化し、将来的には多くの番組ファンが参加するようになる」と見通しを述べた。

後編は、Disney+のアジアコンテンツ戦略について語ったウォルト・ディズニー・カンパニーのアジア太平洋地域コンテンツ開発責任者によるキーノートをはじめ、日本のテレビ局各局がフォーカスされたセッションについてレポートする。

【後編】注目セミナーはDisney+のアジアコンテンツ戦略強化