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注目セミナーはDisney+のアジアコンテンツ戦略強化〜香港フィルマート2022レポート(後編)

編集部 2022/4/7 10:01

香港貿易発展局主催の香港国際映画・テレビ市場マーケット「香港フィルマート」が今年はオンライン上で3月14日から17日の4日間にわたって、開催された。同時企画された業界ビジネスセミナー「EntertainmentPulse(エンターテインメント・パルス)」においては、ウォルト・ディズニー・カンパニーのアジア太平洋地域コンテンツ開発責任者がDisney+のアジアコンテンツ戦略を語るキーノートが展開されたほか、日本からは日本テレビ、TBS、フジテレビらの国際流通番組の最新の取り組みが紹介された。前編に続き、香港から発信されたアジアのコンテンツ流通ビジネスのトレンドをレポートする。

FILMART Online ホーム画面

■Disney+の新コンテンツ戦略を明かすキーノート

アジア最大規模の国際エンタテイメントコンテンツマーケット「香港フィルマート」では毎年、アジアの業界トレンドが発信されている。今年、企画された業界ビジネスセミナー「EntertainmentPulse(エンターテインメント・パルス)」では、テーマの1つに「世界に届けるアジアのストーリー」があった。動画配信全盛の時代を背景に、アジアコンテンツの流通が活発化し、またアジアの制作プロダクションスキルの向上や国際化の高まりによって、これまで以上にこのテーマに関心が寄せられている。

香港フィルマートには地元香港から老舗の映画会社Edko Filmsから最大手メディアのTVBI、通信大手のPCCWなどが出展参加し、中国本土からは2大巨大メディアのiQIYIとテンセントをはじめ、Youkuや Bilibiliなど240以上の制作会社が参加、ほかアジアからは日本や台湾、韓国、フィリピン、タイのパビリオン出展もあり、アジア発メディアや制作プロダクションがオンライン上に集結するなか、アジアとの関係性を強化するDisney+の戦略が語られたキーノートは今回の目玉でもあった。

Disney+キーノート

登壇したのはウォルト・ディズニー・カンパニーでアジア太平洋地域におけるDisney+のコンテンツおよび開発責任者を務めるジェシカ・カム氏。業界で抱負なキャリアを積んできた彼女は以前、HBO アジアでオリジナル番組制作を指揮し、ドラマホラーシリーズ『フォークロア』などを手掛けたほか、中国・北京で立ち上げた制作会社Les Petites Lumières Beijingでは映画作品をプロデュースした経験を持つ。さらに、MTVアジアネットワーク・コミュニケーション担当副社長として、アジア太平洋地域におけるMTV、Nickelodeon、VH1の地域PR戦略を強化した。そして、米大手業界誌Varietyの「Women's Impact Report 2017」では50人の1人に選ばれた人物である。そんな自身のキャリアにも触れながら、「Opening New Doors for APAC Storytellers」と題したキーノートでDisney+がなぜ今、アジアのコンテンツクリエイターやプロダクションとの協力強化を進めているのか、その理由を説明した。

■2023年までに50以上のオリジナル作品開発を進める

Disney+アジア太平洋コンテンツおよび開発責任者のジェシカ・カム氏

カム氏の説明によれば、Disney+は現在、64の国と地域で展開し、全世界の有料メンバー数は1億2900万人に上る。21か国の言語で映画やドラマ、アニメなど様々なコンテンツを提供している。アジア発オリジナルコンテンツに対する反応も良好で、この半年で韓国から『グリッド』『キミと僕の警察学校』『ブラックピンク ザ・ムービー』、中華圏から『アニタ:ディレクターズカット』、インドネシアから『Susah Sinyal The Series』『Virgin The Series』などを続々と発表し、なかでもキム・ジス&チョン・へイン主演の韓国ドラマ『スノードロップ』はDisney+のアジア太平洋地域市場で最も視聴されたタイトルのトップ5にランクインするほど人気を得ているという。

さらにアジア発オリジナルコンテンツの強化を図り、2023年までに50以上のオリジナル作品開発を進めていくことを言及した。今年だけでも、少なくとも12本の韓国オリジナル作品を含め、20本以上の韓国作品をDisney+で配信する。また日本のテレビ局との戦略的提携についても触れ、協業を結んだ日本テレビと2022年4月期ドラマ『金田一少年の事件簿』を世界配信することについても触れた。

カム氏曰く、アジアコンテンツ戦略において重視するのは「コンテンツの量ではなく、質の高いストーリーテリング」という。「約100年にわたるストーリーテリングの経験を持つディズニーは、今後もアジア太平洋地域の優れたコンテンツクリエイターや次世代のクリエイターの長期的なクリエイティブパートナーであり続けたい」と続け、協力強化は今後も継続していく方針を示した。

■BEAJ、ドラフェス企画プログラミングから日本コンテンツ発信

業界ビジネスセミナー「EntertainmentPulse(エンターテインメント・パルス)」では総務省支援により放送コンテンツ海外展開促進機構(以下、BEAJ)が国際マーケットの恒例企画「Fresh Content from Japan」がプログラムに組み込まれ、TBSドラマ『最愛』(2021年10月期)とBSTBSドラマ『シェアするラ!インスタントラーメンアレンジ部はじめました。』(2022年4月期)、フジテレビドラマ『ミステリと言う勿れ』(2022年1月期)、テレビ岩手ドキュメンタリー『たゆたえども沈まず』の4本が紹介された。なお、TBSドラマ『最愛』は中国、韓国、台湾、香港・マカオに、またフジテレビドラマ『ミステリと言う勿れ』は韓国、台湾、香港にセールス実績があることが報告された。

FILMART Online 作品展示画面

また日本の放送コンテンツの海外PR を推進する国際ドラマフェスティバルin TOKYO実行委員会主催による「東京ドラマアウォード2021」受賞作品を紹介するプレゼンテーション映像も用意された。ジョン・カビラらの司会でグランプリ作品『俺の家の話』(TBSテレビ)をはじめ各受賞作品の紹介映像を流し、シンガポールの大手業界誌Television Asia PlusのエディターMonina Eugenio氏が作品の見どころを語る内容でまとめられていた。

リメイクドラマをフォーカスしたトークセッションでは、ドラマ『Mother』『Woman』の成功事例について日本テレビグローバルビジネス局ディレクターの明比雪氏が解説し、ドラマ『おっさんずラブ』香港版のエグゼクティブプロデューサー兼スクリプトスーパーバイザーのトミー・ロー氏らと共に登壇し、アジア発ドラマの国際展開の可能性について1時間にわたって語られる場面もあった。このほか、日本からは台湾CNEX創設者ルビー・チェンの司会で進めたドキュメンタリートレンドセッションにNHKエンタープライズエグゼクティブプロデューサーでTokyo Docsアドバイザーの今村研一氏が登壇した。

いずれもオンライン上での開催となり、取引から情報収集までリモート環境で最大限の努力を図っている状況にあるが、アジアコンテンツ市場が活気ある今、香港現地の復活を望む声は多い。アジア間ならびにアジア発世界に流通されるコンテンツ数はこの1年でさらに増加していくことも予想され、それを実感できる場が来年こそビクトリア湾沿いの会場であって欲しいものだ。なお、香港フィルマート2022オンライン版は5月17日までアクセス可能となっている。

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