日本テレビ放送網株式会社 石澤 顕社長

26 DEC

日テレ社長が語る「テレビを超える挑戦」 〜VR FORUM 2022レポート

編集部 2022/12/26 09:00

株式会社ビデオリサーチが主催する国内最大級のテレビメディアフォーラム「VR FORUM 2022」が、2022年11月29日(火)〜12月1日(木)にオンライン開催。過去最大23セッション開催となる今回は、コロナ禍による生活者のメディア接触変化やDXの流れを踏まえ、放送局や出版社、新聞社など各メディアが模索する「新しいビジネス」にフォーカス。当事者みずからによるプレゼンテーションやディスカッションを通じてヒントを探る。

本記事ではこのなかから、11月29日開催のKeynote「テレビを超える挑戦」の模様をレポート。コロナ禍にともなうメディア環境や生活者動向の変化などテレビ局を取り巻く環境が不透明さを増すなか、「テレビを超えろ」をスローガンに日本テレビが取り組むコンテンツ戦略、営業戦略、データ戦略について、同社代表取締役社長執行役員 石澤 顕氏がプレゼンテーションした。

■「編成局」を「コンテンツ戦略本部」に改組。伝送路と収益モデルの多角化が前提に

日本テレビ放送網株式会社 石澤 顕社長

冒頭、石澤氏は日テレにおける「挑戦の設計図」として、今年5月に同社が公表した2022〜2024年度中期経営計画を紹介。「“地上波一本足打法”のビジネスモデルを超える」という前期からのテーマに加え、事業領域や組織の壁を越えた日テレグループ全体の意識改革を盛り込んだ。

これにあわせ今年6月に実施された機構改革では、従来の「編成局」を廃止し、新たに「コンテンツ戦略本部」を設置。傘下に「コンテンツ戦略局」「グローバルビジネス局」「ICTビジネス局」をおき、「伝送路と収益モデルの多角化」を主軸に据えた多面的な展開を明確に打ち出した。

「これまで地上波番組を展開していくことが主軸だったマルチプラットフォーム戦略を見直し、コンテンツを“時間消費型の商品”として再定義する」と石澤氏。放送番組に加え、展開領域ネットコンテンツやリアルイベントまで総合的に広げるほか、多様なプラットフォーム・デバイスに対する最適なコンテンツの制作・展開を推進。配信や映画、イベントなどの各部門単位での収益化からトータルレベルでの収益最大化を目指すという。

「ドラマにおいては、テレビ放送と1週間見逃しの広告モデルであるTVer、“イッキ見”のSVOD(定額制有料配信)・定額見放題のHuluだけでなく、過去の作品がネットで再評価されるサイクルを作り出す」(石澤氏)

今年4月期制作のドラマ『金田一少年の事件簿』では国内向けにHuluとDisney+の2社独占配信のほか、Disney+を通じて世界配信を実施し、東南アジア地域でトップ10の再生数を記録。40作品を超す過去シリーズについても、TVerとHuluによる国内独占配信とDisney+への配信権セールスを通じた海外展開でコンテンツ価値の最大化を狙う。

「今後は放送コンテンツの2次利用だけでなく、海外をターゲットとしたオリジナルコンテンツ制作にも挑戦する」と石澤氏。地上波での放送を前提としない配信向けオリジナルのバラエティ・アニメ、系列局の出資により制作する映画コンテンツのセールスにも力を入れるという。

■「地上波の重要性は変わらない」放送で得たリーチをネット・リアル展開へ接続

領域を横断したコンテンツ展開を進める一方、地上波の持つリーチ力も堅持。引き続き、既存のテレビ放送との連携を活かした展開にも注力する。

石澤氏は「地上波の帯番組のコーナー企画がネット展開と一体化し、新たな商流が生まれたケース」として、爆発的な人気を得た「NiziU」に続くボーイズユニット「BE:FIRST」の事例を紹介。

平日朝の帯番組『スッキリ』にてメンバーオーディションの模様を随時取り上げたのち、その“完全版”をHuluで公開。会員数増を確認後、ライブコンサートをリアルイベントとして開催し、その模様を「Huluストア」で都度課金コンテンツとして独占販売。地上波・配信・リアルイベントを絡めた綿密なマルチ展開でコンテンツ収益の最大化につなげた。

「コンテンツとリアル、プラットフォームの送客関係を通じた生活者とのエンゲージメントやIP(知的財産)育成の装置作りもコンテンツ戦略本部の役割」と石澤氏。「(NiziU、BE:FIRST)いずれのケースにおいてもテレビのリーチ力があっての施策」といい、「地上波の重要性は全く変わらない」と強調する。

■コンテンツリーチと広告リーチを両輪で最大化。TVerを活用し系列局のバックアップも

続いて石澤氏は日テレの営業戦略として、営業部門とデータ部門が共同で進める「アド・リーチMAX戦略」を紹介。ネット広告で用いられる配信・効果測定技術(アドテクノロジー)を放送の広告枠にも適用することで、コンテンツの多面展開から生まれる広告在庫の運用を最適化するという。

そのメリットについて「リードタイムの短縮や運用型CMの実現、同一コンテンツで放送とネットを組み合わせた新しい商材の開発が期待できる」と石澤氏。多面的な展開でコンテンツの価値を最大化するコンテンツ戦略本部の取り組みを「コンテンツ・リーチMAX戦略」と呼び、「アド・リーチMAX戦略」と一対の動きであることを強調した。

さらに石澤氏は「系列局のコンテンツポータルとして重要性が高まっている」と、TVerの特集コンテンツを活かした施策にも言及。キー局のみならず全国のローカル局制作のサウナ番組も網羅した『サウナ特集』(今年9〜10月実施)を例に挙げると「工夫により、今後いろんなバージョンや展開が期待できる」とコメントし、「日テレとしてもデータ連携やローカル施策など、しっかり支援し、協力体制をとっていきたい」と述べた。

■全数データ収集に「TVer ID」を活用。分散データの一元管理で“経済圏“を見いだす

「テレビ局としては、商品であるコンテンツに関するデータをファーストパーティーデータとして自ら収集管理し、それを有効に活用することが大変重要」と石澤氏は述べつつ、「デジタルデバイスでの全数把握にいかに近づくかが課題」とし、「大量のデータ収集と管理はいち放送局、個社の取り組みでは限界」と語る。

そのうえで、TVerが今年4月1日より開始したTVer上のユーザーID「TVer ID」に触れ、「(局をまたいで視聴者を紐付ける)統一IDとし、在京キー局を中心として協調・協力のうえで一緒に取得、管理する方向で足並みを揃えている」とコメント。外部データとの連携による高精度ターゲティングへ期待を示した。

さらに石澤氏は最新の取り組みとして、社内で活用する「コンテンツダッシュボード」を紹介。

このダッシュボードでは番組ごとの個人全体視聴率のほか、日テレでKPIとするコア視聴率、TVerなどのAVOD(広告型無料動画配信)、HuluなどのSVOD(定額制有料動画配信)、TwitterやInstagramなどSNSのフォロワー数、YouTubeの視聴回数を一画面に統合して表示。「コンテンツ価値を多角的に分析評価することとで、放送とネットの広告在庫を一元的に管理、セールスする商流も見えてくる」とそのメリットを語る。

さらに石澤氏は、フィットネスクラブ「ティップネス」、オンラインフィットネス「torcia(トルチャ)」など、日テレグループが展開するウェルネス事業を挙げ、コンテンツ事業にとどまらないグループ全体でのデータ活用の可能性についても言及。

ユーザーによって蓄積される健康データが各サービスに散逸する状況を踏まえつつ、「顧客情報システムを構築し、他事業者ふくめ分断したデータを適切に連携させることで『ウェルネス経済圏』という構想が見えてくる」とし、「高齢化社会の中で健康寿命の伸長や未病対策など、QOLの追求に貢献できる」と期待を述べた。

■メタバースからアパレルまで幅広く投資「あらゆる出面に展開する努力を続ける」

キーノートの最後、石澤氏は現在進行中の投資案件について紹介。VTuber事業「V-Clan(ブイ・クラン)」、XR(現実・仮想融合)事業「mixta(ミクスタ)」などメタバース分野への投資のほか、テレビ局として培った映像制作力を教育に活かす新規事業「日テレHR」、アナウンサーの声をもとにしたアパレルブランド「Audire(アウディーレ)」など、社会貢献も含めた幅広い分野への意欲をアピールした。

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「テレビはメディア価値の維持向上のため、安心で安全、良質なコンテンツを作り、あらゆる出面に展開する努力をひたすら続ける必要がある」と、石澤氏。「TVer ID」を介した在京キー局間での連携に再度触れつつ、「協調できるところは協力し合い、コンテンツやビジネスの競争領域では切磋琢磨していくことが肝要」と語り、「それぞれの課題を解決していくことが生き残りの最も重要な課題だ」と締めくくった。

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