27 JAN

コロナ禍を経た生活者の変化、メディア・コンテンツへの態度と今後の展望 〜求めているのは、"有意義な時間化"〜 〜VR FORUM 2022レポート

編集部 2023/1/27 08:00

株式会社ビデオリサーチが主催する国内最大級のテレビメディアフォーラム「VR FORUM 2022」が、2022年11月29日(火)〜12月1日(木)にオンライン開催。過去最大23セッション開催となる今回は、コロナ禍による生活者のメディア接触変化やDXの流れを踏まえ、放送局や出版社、新聞社など各メディアが模索する「新しいビジネス」にフォーカス。当事者みずからによるプレゼンテーションやディスカッションを通じてヒントを探る。

本記事ではこのなかから、11月29日開催の「コロナ禍を経た生活者の変化、メディア・コンテンツへの態度と今後の展望 〜求めているのは、"有意義な時間化"〜」の模様をレポート。

コロナ禍を経て生活者に起きた行動変化を踏まえ、人とテレビメディアの関係性の変化、これからの生活者に向き合うために必要な視点について、株式会社ビデオリサーチ 首都圏ユニットリサーチアナリシス グループマネージャー兼ひと研究所所長 對馬友美子氏がプレゼンした。

株式会社ビデオリサーチ ひと研究所 所長 對馬友美子氏

■行動制限緩和後も日中在宅率はコロナ禍前に戻らず。“再配分“される生活者の生活時間

コロナ感染予防と行動制限緩和が両立し、「ウィズコロナ」の様相を呈した2022年。「Go To Eatキャンペーン」や全国旅行支援も再開され、少しずつ外での活動が回復に向かいつつあるが、「コロナ禍を経て変わった生活者の生活時間の使い方は(コロナ前には)完全には戻っていない」と對馬氏。行動制限からなる生活行動の変化により、「生活者の生活時間が再配分された」と指摘する。

對馬氏はビデオリサーチの生活者行動パネル「MCR/ex」をもとに、コロナ禍前後にあたる2019年〜2022年の行動推移を紹介。「コロナ禍によって上がった生活者の日中在宅率は、行動制限の緩和した2022年時点でもコロナ禍前の水準に戻っていない」と語る。

さらに「朝の起床時間が全体的に遅くなっている」と對馬氏。朝7時の時点での睡眠率はコロナ禍前の2019年から2022年にかけて27.1%から32.6%と上昇しているほか、朝10時ごろまでの睡眠率もコロナ禍前より高い水準を保っており、「習慣性が高いと言われている朝のメディア行動にも影響が出てくる」とコメント。その背景のひとつに在宅勤務の定着を挙げる。

2022年4月の時点では、有職者の4割が在宅勤務を実施していると回答。「ほぼ毎日在宅勤務をしている」という率は下がっているものの、「週に4~5日」が多くなっており「週1回程度は通勤するが、残りの日数は在宅というスタイルに」(對馬氏)。東京以外の地方における在宅勤務率も2割程度で推移しており、「(全国的に)一定の割合で在宅勤務が定着している」という。

一方、外出行動については「朝や日中の人出が戻りつつあるものの、全国的には夜の人出が戻りきっていない」と對馬氏。

「コロナによって在宅勤務や外での飲食機会というものが奪われた」とし、「これまで外出に使われていた時間が『家にいる時間』と『睡眠時間』に振り分けられ、再配分された」と語る。

■「オン/オフ」から「ウチ/ソト」へ。“公私混合”の生活で変化した内外意識

對馬氏は、コロナ禍を経て生じた生活者の変化について「外的接触が減ったことにより、『オン/オフ』に代わる内外の意識が出てきた」と指摘。

「これまでは職場や学校に向かうことでオン、帰ってきたらオフと物理的な境界線が引かれていたが、コロナ禍でその境界線がなくなった」といい、「プライベートであったはずの『家の内』に、『家の外』であったオフィシャルなコミュニティが持ち込まれるようになった」と話す。

「在宅勤務中、子どもの送り迎えをしながら仕事のトラブル対応を行い、その後お気に入りのアイドルのSNSをチェックするなど、同じ空間、時間において公私が入り混じり、間断なくコミュニティを切り替えられる状態になってきた」

「現在はオン/オフという考え方ではなく、代わりに『ウチ/ソト』でとらえる機会が多くなってきた」と對馬氏。

「場所として『宅内で過ごす』『宅外で過ごす』という概念のほかに、『コミュニティの内側にいるか、外側にいるか』という線引きが生まれてきた」といい、「生活者はそれぞれのコミュニティにおいてちょっとずつ違う顔を持ち、それぞれに対して求めるニーズも得るベネフィットも違う」と語る。

「趣味のコミュニティに入っているときに欲する情報と、家族と一緒にいるときに欲する情報というのはおそらく違う。同じ空間、時間において公私が混ざり合い、間断なく切り替えている状況になっているからこそ、『いまどこにいるのか』『いまどの(コミュニティに向けた)顔をしているのか』をより強く意識するようになってきている」

■社会情勢の混乱を経て高まる「情報の正確性」と「配慮」への要請

「コロナ禍を含む社会情勢がめまぐるしく変化するなか、その生活への影響から“情報の正確性”がこれまで以上に求められる社会になってきた」と對馬氏。コロナ禍初期に起きた混乱から徐々に情報が整理され、議論が収斂していくなかで「いかに偏見や先入観を無くすか、“配慮”の必要性も意識されるようになった」と語る。

「かつて風邪薬のCMでは『熱が出ても仕事を休めないあなたに』といった表現をよく見かけたが、コロナ禍以降は見られなくなってきた。オンラインミーティングが普通になってきたこともあるが、『無理して出社したら感染を広げてしまう』という社会風潮になってきたあらわれではないか」

對馬氏はこのほか、昨今発生している爆弾低気圧などの自然災害や、ロシア・ウクライナ問題、円安による物価上昇やエネルギー問題などを挙げ、「人や社会の多様性への理解を問う局面がさまざまな場所で起きている」とコメント。「これらに対して配慮し、さまざまな文脈における『正しいこと』の追求が社会的に必要な“要請”だという考えが生まれている」とした。

■テレビのリアルタイム視聴は減少傾向も「放送にこだわらず、配信で見られている可能性」

続いて對馬氏は、ビデオリサーチによる関東地区の個人全体視聴率データを紹介。コロナ禍における生活者とテレビ、メディアとの関係の変化について語る。

2022年のテレビ視聴率の推移について、「2月の北京オリンピックで盛り上がり、4-6月は(好天や制限解除後の大型連休の影響で)やや下がったが、7月-9月クールで揺り戻しがあった」としつつ、2018年には全体で170分あったリアルタイム視聴時間は2022年には135分へと減少したことを指摘。「テレビのリアルタイム視聴は低下傾向にある」と厳しい見方を示す。

その一方で、「動画視聴、インターネット閲覧、SNSの利用時間は増えており、メディアの利用時間も再配分されている」と對馬氏。

「テレビをリアルタイムで見ていた時間が他に配分されたのは事実」としつつ、「だからといってテレビコンテンツが見られなくなっているとは言い切れない」という。

「オリンピックなど大型のスポーツイベントや緊急性の高いニュースではテレビのリアルタイム視聴が多い。さらに最近はSNSでの盛り上がりが起因となって見逃し配信からリアルタイム放送に回帰する例も見られ、『見る目的があるものは見てもらえる』とも言える」

「動画配信サービスの利用率は軒並み伸長し、コネクテッドTVの登場によって視聴デバイスも増えている」と對馬氏。「生活者にとって、『いま何を見るか』というコンテンツの選択肢、『何で見るか』というデバイスの選択肢がともに増えている」といい、「好きなときに好きな場所で、使いやすいデバイスで見たいコンテンツを選べるようになっている」と、コンテンツの視聴スタイルそのものが大きく変化していることを示唆する。

「テレビをよく見る層とされてきたM3(男性50〜64歳)、F3(女性50〜64歳)でも在宅時にスマホの利用が浸透しているほか、若者層の間ではテレビ視聴と動画視聴にかける時間量がほぼ同じとなっている」

「生活者にとって都合の良い時間やタイミングにコンテンツを選択できる環境が整ってきたことで、放送にこだわらなくてもコンテンツが見られるようになり、リアルタイムの視聴時間が他のメディアに再配分、分散された可能性がある」と對馬氏。「テレビが見られなくなった分、すべて配信のオリジナルコンテンツに流れているとは一概に言い切れず、ネット配信でテレビコンテンツが見られている可能性もある」と強調した。

■高齢層にも広がる“タイパ”意識。ますます高まるメディア接触の「有意義な時間化」欲求

「コンテンツの『倍速再生』は若者層に多いイメージだったが、いまや若者に限ったことではなくなった」と對馬氏。ビデオリサーチが2022年9月に実施した「テレビ動画総合視聴調査」では、録画したテレビ番組を「倍速視聴することが多い」と答えた割合は、平均の25.1%に対し、F4(65歳以上女性)が26.7%と、若者層に並んで高い結果になったという。

「限られた可処分時間のなかで“満足度の最大化”を求める傾向が生活者に見られる」と對馬氏。「コロナ禍によってさらにメディア時間が再配分され、その風潮がより顕著になってきた」といい、次のように語る。

「『有意義な時間にしてくれる』『タイムパフォーマンスが良い』と思えるコンテンツであれば、それがテレビであっても動画であっても、リアルタイムであってもオンデマンドであっても見てもらえる可能性が高い」

「いまの生活者は複数のメディアから情報を取り、自分にとって何が正解かを見極める目が養われている」と對馬氏。

「インターネットで膨大な情報にアクセスできるようになったことで興味関心領域に関する専門的な知識や情報が簡単に得られ、『何かに詳しい』ことに肯定的な社会風潮が出てきた」と語る。

■可処分時間を「有意義な時間化」するために必要な“3つの視点”

「コロナ禍で生活時間とともにメディア時間が再配分され、生活者が時間に目的性を持つようになった」と對馬氏。デジタルシフトによってあらゆるものが“情報源化”し、「伝えられた情報を受けるだけではなく、自分で必要なものをピックアップする」ことで、生活者のなかには「『中途半端な情報はいらない』『自分の心に深く刺さるものが欲しい』という欲求が生まれている」と語る。

「一言でまとめると、テレビやメディアに触れる時間を『有意義な時間』化したいという生活者の意向が、コロナ禍を経てより一層高まった」と對馬氏。最後に「生活者の可処分時間を有意義な時間化するために必要な視点」として、以下の3つを挙げた。

(1)目的性で集め、継続してもらうための習慣性をつける視点

「遠回りや失敗、無駄を省きたい生活者は、『これによって目的が果たせる』と思ったものにアクセスする。サービスやコンテンツが生活者に『何をもたらすか』明確に伝えたうえで、ログインボーナスのようにアクセスの“習慣化”にメリットや達成感を醸成し、有意義な時間が得られることを期待させる」

(2)“ウチ側”=コミュニティの文脈に深く入る

「生活者は中途半端な情報ではなく、「詳しい情報」を求めている。何を有意義と思ってもらえるか、コミュニティの“ウチ側“に“ズームイン“して理解を深め、その文脈に沿ったメッセージや施策で共感、応援を得る」

(3)“ソト側”=俯瞰的視点から見渡して配慮する

「コミュニティの内側ではポジティブに受け入れられるが、「“そうでない”外側の人は心地よくないと感じる可能性がある」という視点を見落とすと、思わぬ指摘や批判のリスクを生む。コミュニティの“ウチ側”に“ズームイン”して深く入ると同時に、コミュニティの“ソト側”まで“ズームアウト”して全体を眺め、不快な思いやネガティブな感情を持たれる可能性がないか俯瞰する視点が必要」

「多面的な顔を持ち、多様なメディアやコンテンツに触れている生活者と向き合うためには、どれも必要な視点」と對馬氏。

「これらのポイントを押さえ、生活者に寄り添うためのマーケティングやコンテンツ作りに向け、ビデオリサーチはこれからもみなさんのお手伝いをしていきたいと思います」と締めくくった。