左)博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員の野田絵美氏 右)株式会社テレビ東京 総合マーケティング局総合マーケティング部副部長 兼ファンコミュニティ事務局事務局長の曺 絹袖氏

08 MAR

Z世代に次ぐ“α世代”の実態と「テレ東ファン支局」の取り組み 〜「MORE MEDIA 2040」セッションレポート

編集部 2023/3/8 08:00

博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所(メ環研)によるフォーラム「MORE MEDIA 2040 ~未来への3つのチャンス~」が、2022年12月8日、大手町三井ホールで開催された。

今回はセッション「α世代のメディアリアリティ」の模様をレポート。前半は博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員の野田絵美氏がZ世代に次ぐ新たな若者層「α世代」のメディア行動をひもとく。後半は株式会社テレビ東京 総合マーケティング局総合マーケティング部副部長 兼ファンコミュニティ事務局事務局長の曺 絹袖氏が登壇。同局運営のファンコミュニティ「テレ東ファン支局」の取り組みを紹介する。

■ゲームは“第二の公園”、遊びたいし“作りたい” ――能動的な情報態度メタバースネイティブな「α世代」

「α世代」とは、2010〜2024年頃に生まれる世代。2023年現在において幼児〜まだ最年長は小学校6年生だ。購買行動にはまだ関与しないものの、生まれた頃からスマートフォンに親しみ、小学校では2020年から必須化されたプログラミングを学ぶ彼ら。本カンファレンスで照準に定める2040年代には社会の中核を担い、未来のメディア環境を牽引していく存在と目されている。

同研究所では2022年3月、全国の5歳〜11歳の小学生14名へのインタビューと、全国の小学校1〜6年生を対象とした定量調査を実施。さらに比較対象として「Z世代」にあたる高校生以上の若者442名への調査も行い、「α世代」のメディアリアリティ(メディア行動)を示すキーワードとして、以下の4つを挙げた。

●「真の」デジタルネイティブ

スマートフォン・テレビ・PCの3スクリーンを駆使するZ世代に対し、α世代はテレビ・スマートフォン・ゲーム機・タブレットの4スクリーンを駆使。特にテレビスクリーンはテレビ放送のリアルタイム・タイムシフト(録画)視聴のほか、無料動画(AVOD)、定額制有料動画(SVOD)、さらにゲームと多様なメディア体験の場として機能しているという。

中高生で初めてスマートフォンやタブレットに触れた現在のZ世代に対し、α世代は「その多くが赤ちゃんのころからスマートフォンに親しんでいる」と野田氏。「子どもは2歳ごろから動画を見始めた」「何も教えていないのにスマートフォンの画面ロックを解除し、『YouTube』ボタンを操作していた」という母親のコメントを紹介し、「文字が読めない年齢から直感的にスマートフォンを使いこなしている」と、その実態を語る。

●遊びながら直感で身につける デジタルクリエイティビティ

調査によると、α世代におけるスマートフォンの使い方トップ5は「無料動画を見る」「動画を撮る」「ゲームする」「インターネット検索する」の順。さらに3人に1人が「画像編集」、4人に1人が「動画編集」、5人に1人が「プログラミング」の経験を持つという。

「SNSのタイムライン上で受動的な態度を示す大人世代とは対照的にα世代はスマホを積極的に、まるで遊び道具のように活用して、情報や作品を作り出すところまで能動的に行っている」と野田氏。実際の事例として、9歳の少年が直感的なアイコンから機能を把握し、10分たらずで動画を作り上げる様子がVTRで紹介された。

●メタバースネイティブ!? オンラインがもう一つの遊び場

調査によると、α世代におけるオンラインゲームの実施率は、小学校低学年では40%、さらに小学校高学年では47.4%と実に半数近くに迫り、Z世代の45.5%とほぼ同レベルになる。

さらに特徴的なのが、そのプレイスタイルだ。「α世代は友達とオンラインゲームで遊びながら、音声通話やビデオ通話もして、あたかもこのゲーム空間に一緒にいるかのようにリアル感を同期している」と野田氏。「友達とオンラインゲームの中に集合して遊ぶ」と回答した割合はZ世代の47.1%に対し、小学生平均が65.1%。「友達とオンラインでおしゃべりしながらゲームする」と回答した割合も、Z世代の49%に対して55.4%と突出しているという。

「α世代の子どもたちは、ゲームというメタバース空間を『第二の公園』のようにして集合している」と野田氏。「調査によると『オンラインゲーム』に感じる魅力」として「ゲームを友達の共通の話題にして盛り上がれる」「ゲームをしながらおしゃべりができる」といった点が挙げられていることを示し、「α世代はゲームにコミュニケーションツールとしての魅力を見いだしている」と語る。

続いて野田氏は、「ゲームを遊ぶことを容認するようになった」と語る母親のインタビューを紹介。「子どもたちに限らずα世代の親たちもまた、コロナ禍で減ってしまった子ども同士のコミュニケーションの場としてのオンラインゲームに価値を感じている」と語り、以前ならば眉をひそめられていた「ゲームへの没頭」に対する見方が、ある側面でポジティブな方向へと転じつつあるとした。

●双方向が当たり前 ゲームは遊ぶだけでなく、作りたい

オンラインゲームを楽しむユーザーにおいて、「自身もゲームを制作したい」と思いを抱く層は、Z世代の6割に対してα世代は7割と非常に多いという。

野田氏は、小学校のプログラミング教育でも用いられるビジュアルプログラミング言語・Scratch(スクラッチ)を用いてブロック崩しのゲームを自作する11歳の小学生へのインタビューVTRを紹介。「ゲーム作りを通じて自分自身が達成感を得るとともに、家族など周りの人々を楽しませることに喜びを感じている」といい、「α世代は『作ると、自分だけではなく周りも楽しませることができる』ということを経験から体得している」と語る。

野田氏はZ世代を「思春期、中高生のときにスマホユーザーになり、SNSに触れ、個性を磨き表現することに長けた世代」とする一方、α世代について「SNSよりも先にオンラインゲームやプログラミングに触れ、みんなと“共創”する喜びを覚えている」とコメント。「今後は企業が作ったものを一方的に消費するだけでは満足できない世代が台頭する」といい、「オーディエンスではなく“コ・クリエイター”として生活者を捉える流れが加速する」とした。

■“テレ東そのもののファン”がスタッフと一緒に局を盛り上げる「テレ東ファン支局」

2021年10月にスタートした「テレ東ファン支局」は、ファンが集まり、一緒にテレビ東京を盛り上げていくコミュニティ。「テレビ東京の一員になってほしい」という思いからファンたちを「支局員」と位置づけ、スタッフやアナウンサーによる連載やコメントを介したコミュニケーションを通じて「テレ東そのもののファンを作る」ことをコンセプトとしている。

株式会社テレビ東京 総合マーケティング局総合マーケティング部副部長 兼ファンコミュニティ事務局事務局長 曺 絹袖氏

「『テレ東ファン支局』では、放送予定の番組を自主的にオススメしてくれるファンがいたり、書き込まれた感想に対してファン同士がコメントをしたりするなど活発なコミュニケーションが行われている」と曺氏。番組制作に携わるスタッフへ直接質問できるコーナーも設けられており、ファンと一緒になってコミュニティ内のコンテンツを作っていく仕組みになっているという。

「昨今、テレビ離れが聞かれるが、視聴者に対する調査では総視聴量に占めるファンの割合が民放キー局のなかでテレビ東京が最も高かった」と曺氏。「“テレ東ファン”の特性として、個々の番組名よりも『テレビ東京』そのものが好きと答えた方の割合が上回った」といい、「こうしたファンの方に視聴を継続していただく仕掛け作りがとても大事」と強調する。

「本当に好きな方にコミュニティに入ってもらい、熱量の高い口コミをSNSで拡散してもらうことで、まだテレ東の番組を見たことない方にも触れていただくことができる。さらにはグッズやイベントなど、より付加価値の高いコンテンツへの送客も図ることができる」(曺氏)

■「ファンを信じるムード」を社内に醸成し、ファンに“関与できる領域”を差し出していく

「テレ東ファン支局」では共創の取り組みとして、ファンとのグッズ・コンテンツ開発にも力を入れているという。2022年4月にはTVerのリアルタイム配信スタートを機に、同局のマスコットキャラクターである「ナナナ」に47都道府県バージョン「ご当地ナナナ」を制作。それぞれの地域のイメージをファンから募集した。

同年10月、「テレ東ファン支局」の設立1周年を記念したオンラインイベントでは、ファンが企画運営から広報チラシの制作まで参加。ファンがスタッフ用のハッピを着用し、オンラインイベントの現場で“カンペ”を出す様子が紹介された。

さらに「ファンと一緒に作る、番組グッズ開発会議」と題して、ファン投票で選出された上位5つの番組グッズを開発。ファンから寄せられたアイデアを元に同じくファン投票を行い、2023年3月以降に商品化、発売予定という。

これらファンとの“共創”企画にあたっては「実際には社員のみで進めたほうが早いことも多く、さまざまな社内調整も求められる」と曺氏。しかし同時に「『テレ東ファン支局』を通じ、熱量の高いファンが集まる」効果は大きいといい、「ファン度の高い人が『テレ東ファン支局』に登録する流れが生まれ、視聴頻度やグッズの購入、SNSでの言及につながるという好循環が生まれている」と語る。

「『テレ東ファン支局』のコンテンツには、経理部門など番組制作に直接関わらないスタッフも多く参加している。全社一体で取り組むことで、ファンとの交流体験を社員間に蓄積していき、“ファンを信じる空気”を社内に醸成させていく」(曺氏)

曺氏は2024年にテレビ東京が開局60周年を迎えることに触れ、「ファンと一緒に番組を作ったり、『テレ東ファン支局』のコンテンツを作りを実現していきたい」とコメント。「放送、配信、イベント、グッズ、メタバースそれぞれにおいてファンが関与できる領域をどこまで差し出せるかがカギになる」といい、「関与を通してテレ東をもっと好きになっていただき、『視聴者が一番好きなテレビ局』でありたい」と力を込めた。

野田氏は「α世代はまさにこれから世の中に出ていく層」と、積極的な関与と交流を追い求めるα世代の情報行動を改めて振り返り、「このクリエイティビティと熱量をいかに自分たちのファンとして味方につけていけるかが重要になる」とコメント。「そのためにも、企業は生活者に対して“上から目線”でなく、対等な目線を持つことが大切」と締めくくった。

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