09 MAR

アジアの脚本家とプロデューサーのための国際会議を日本が初主管した理由~「第15回アジアテレビドラマカンファレンスin 能登」レポート~【前編】

編集部 2023/3/9 08:00

アジアの脚本家とプロデューサーが一堂に会する国際会議「アジアテレビドラマテレビカンファレンス」が4年ぶりに開催され、石川県七尾市で2月7日から9日までの3日間、関係者約200人が参加した。

15回目の開催となった今回、日本が初めて同会議を主管し、実現した経緯がある。「地球時代のドラマ・IPコンテンツ制作」をテーマに持続可能に生き残るアジアのコンテンツIP(知的財産)の価値を議論しながら、世界で成功する韓国ドラマ作りにも焦点が当てられた。現地参加した第15回アジアドラマカンファレンスを前後編にわたりレポートする。

■初の日本主管で実現したアジアドラマ業界唯一の国際会議

「アジアテレビドラマテレビカンファレンス」は2006年から続くアジアドラマ業界のための唯一無二の国際会議だ。その成り立ちからも独自性がみえてくる。脚本家の市川森一氏と韓国プロデューサーのシン・ヒョンテク氏が意気投合したことをきっかけに、アジアのテレビドラマの脚本家とプロデューサーが直に交流を図ることで、ハリウッドを越える文化コンテンツ産業のメッカとしてアジアを発展させることに寄与しようという想いで発足された。

その流れから、市川氏が長年、理事長を務めていた日本放送作家協会と、ヒョンテク氏が会長を務めていた韓国文化産業交流財団(KOFICE)が中心となって声がけし、参加メンバー国が持ち回りで開催してきた。韓国・釜山で開催された第1回会議を皮切りに、これまで日本では長崎、福岡、北九州で行われている。

参加国は東アジアから東南アジアにも広がっていき、開催期間中、会議の他に参加者が交流する恒例行事として歓送ディナーやロケ地マッチングなども盛り込まれ、アジア間の結束を強めてきた。

これまでの全会議は韓国側の主管によって、継続されてきた背景もある。そんななか、今回の15回開催においては初めて日本側が主管することを試みた。連続テレビ小説『ちむどんどん』『マッサン』などを代表作に持つ脚本家の羽原大介氏が代表を、テレパック取締役プロデューサーの沼田通嗣氏が議長を務める一般社団法人ATDCを発足し、このATDCが取りまとめたことによって実現した経緯がある。

脚本家の羽原大介氏
テレパック取締役プロデューサー 沼田通嗣氏

日本政府観光局が推進するビジネスイベント「MICE」の誘致に積極的に対応する石川県七尾市和倉温泉「加賀屋」姉妹館「あえの風」を開催場所とし、七尾市が主催するかたちで内閣府の「企業版ふるさと納税」を活用し、会に賛同した企業に東武トップツアーズ、ロート製薬、ホリプロ、テレビマンユニオンが並ぶ。またU-NEXTをはじめとする計18社が協賛し、ドルビージャパン、ショートショートフィルムフェスティバルなど計8社・団体がブース出展し、開催を支えた。

■東・東南アジアの脚本家とプロデューサー約200人が参加

こうして実現した「第15回アジアテレビドラマカンファレンスin 能登」開催初日の2月7日、日本の各地域、アジア各国から計9か国の脚本家やプロデューサーなど、ドラマ業界関係者約200人がメイン会場・和倉温泉「あえの風」に続々と到着した。会場周りを企画プロデュースしたテレビマンユニオンによって「LOVOT」など日本発ロボットが出迎える演出も施され、4年ぶりの開催を盛り上げていった。

オープニングセレモニー

参加者の内訳は、日本放送作家協会所属作家が約30人、ATP(全日本テレビ番組製作社連盟)加盟社製作者が約30人、また韓国勢も韓国放送作家協会所属作家が約30人、韓国ドラマ制作社協会加盟社製作者が約30人と日韓の関係者が大半を占めたが、中国からも3人が現地入りし、ほかシンガポール、タイ、インドネシア、台湾、マレーシアから約30人が参加し、Netflixや各国主要のテレビ局のドラマ作品を手掛ける錚々たる顔ぶれが集まった。参加者全員が参加したオープニングセレモニーとウェルカムパーティーでは互いに交流する場も作られた。

初日のメインプログラムでは、各国の新作や話題作のティザー上映会やU-NEXTによるBtoB分科会(ビジネスマッチング)と並行して、台湾作家の何昕明(ホ・シンミン)氏による講演と女優の羽田美智子氏をファシリテーターに「地球温暖化」をテーマにしたセミナーが企画され、「地球時代のドラマ・IPコンテンツ制作」という今回のテーマを確認する内容も盛り込まれた。

女優の羽田美智子氏

なかでも、台湾作家でGreener Grass Culture社のコンテンツ・クリエイティブ・ディレクターとして活躍する何昕明氏が「タピオカミルクティー」を例えに、アジアIPコンテンツのグローバル化を成功させるポイントを語った説明は理解しやすいものだった。

BtoBラウンジ

「グローバルで配信されるコンテンツ作りは、ミルクティーにタピオカを入れることと同じ考え方なのかもしれません。つまり、グローバルと繋がるローカルの観点がカギになる。グローバルとローカルの違いを探すのではなく、共鳴する部分を探すことによって、グローバルとローカルの視聴者が繋がりやすくなると思います」。

持続可能なアジアIPコンテンツ制作を議論する場のオープニング講演としても相応しく、アジアをはじめグローバル展開を意識したコンテンツ作りを考える上で参加者にヒントを与える話になった。

今回のサブテーマには「日本のドラマ・IPコンテンツ産業が持続可能に生き残るために」という日本の課題も掲げられていた。「ガラパゴス化しているドラマをはじめとした日本のIPコンテンツ制作業界の現状を謙虚に直視し、その上で、日本のIPコンテンツ制作業界を世界的競争力のある産業にするための課題・問題点を議論し、日本のIP産業が一体となり、古い構造から脱却するための解決策を見出し、行動を始めるきっかけとなる場を設ける」ことも開催目的にあった。

言うなればこうした危機感がこの会の日本初主管に繋がったとも言える。テーマおよびサブテーマを意識した内容を目指し、終日にわたり講演プログラムが組まれた2日目は『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』などグローバルヒット作も含めて、日韓中を代表するプロデューサーと脚本家、そして日本の若手クリエイターらが登壇していった。後編に続く。