09 MAR

日中韓ドラマ脚本家が語るアジアの可能性とは何か~「第15回アジアテレビドラマカンファレンスin 能登」レポート~【後編】

編集部 2023/3/9 08:01

アジアの脚本家とプロデューサーが一堂に会する国際会議「アジアテレビドラマテレビカンファレンス」が4年ぶりに開催され、石川県七尾市で2月7日から9日までの3日間、関係者約200人が参加した。15回目の開催となった今回、日本が初めて同会議を主管し、実現した経緯がある。「地球時代のドラマ・IPコンテンツ制作」をテーマに持続可能に生き残るアジアのコンテンツIP(知的財産)の価値を議論しながら、世界で成功する韓国ドラマ作りにも焦点が当てられた。現地参加した第15回アジアドラマカンファレンスを前編に続き、レポートする。

■第2の『ウヨンウ』や『イカゲーム』を目指す韓国

「第15回アジアテレビドラマカンファレンスin 能登」開催2日目は終日にわたり講演プログラムが組まれ、最重要セッションの1つに北京映画テレビ芸術協会理事長の張連生(チャン・リェンシュン)氏と「正体」(WOWOW)などを代表作に持つテレパック所属プロデューサーの黒沢淳氏、韓国ASTORY社長のハン・セミン氏の発表があった。

3氏を交えて、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科博士研究員の黄仙惠がファシリテータを務めたディスカッションも行われ、韓国ASTORYが生んだグローバルヒットドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」(Netflix)がIP展開の観点からも成功していることから、アジアが生み出すスーパーIPの意義についても議論が及んだ。

黄氏が「ポスト・ウヨンウに向けた準備」についてハン・セミン氏に問い、ハン・セミン氏が答えたその内容はアジア共通の課題として捉えるべきものでもあった。

「多くの韓国の制作会社は今、第2の『ウヨンウ』や『イカゲーム』を作り出すために尽力していると思います。グローバルで韓国コンテンツがヒットしていますが、スーパーIP展開を拘り過ぎるのは極端過ぎるのかもしれません。それよりも、韓国らしさや日本らしさ、中国らしさ、またアジアらしさのある内容で、独創的に制作することが大事です。アジアコンテンツを存分に楽しもうという流れは作られていますから、ドラマの題材やIP展開をアジア間でも模索して、見出していくことが今やるべきことだと思います」。

コンテンツIPビジネス戦略について協賛企業のU-NEXTが語る場面も作られた。協賛スペシャルピッチングとして、U-NEXT代表取締役社長の堤天心氏が登壇し、日本全体の動画配信の現状やU-NEXTのビジネスモデルなどを説明するなか、今後注力していく分野の1つに「オリジナルのウェブトゥーンIP」を挙げた。

U-NEXT代表取締役社長 堤天心氏

「電子書籍市場は現在、5000億円以上の規模。数年後には8000億円に成長する見込みです。日本の優良なIPは書籍から生まれているのがひとつのトレンドとしてあり、U-NEXTが取り組むIPビジネスとして、小説やウェブトゥーンのオリジナル開発に投資を拡大していきます」と堤氏は述べ、オリジナルウェブトゥーンを今年の春から配信開始する計画も明かした。

■日中韓を代表する監督や作家たちが登壇

日本の若手クリエイターにフォーカスしたセッションも企画された。昨年、大きな話題を呼んだドラマ『silent』(フジテレビ)の演出を担当したAoi Pro所属の風間大樹監督と、映画『マイスモールランド』で商業長編監督デビューを果たした分福所属の川和田恵真監督が登壇し、筆者がファシリテータを務めながら、国内外から注目される作品を生み出し、活躍するに至った経緯や制作背景を語ってもらった。

若手クリエイターセッションに風間大樹監督らが登壇

講演プログラムの最後は、作家セッションが飾り、日中韓の作家を代表して『宝物保護連合』や『遠い距離』が代表作の中国作家・曾丹(ズン・タン)氏と、『64―ロクヨン』『きんぴか』が代表作の脚本家・久松真一氏、『ヴィンチェンツォ』『グッド・ドクター』が代表作の脚本家・パク・ジェボム氏の3人がそれぞれ発表を行い、ディスカッションパートは再び筆者がファシリテータを務めた。

脚本家セッション

コンテンツIP制作の重要な鍵を握る「ストーリーIP」についての考え方も示されていき、曾丹氏は「国境をこえた要素や文化的な共有を図るために、多様な制作方法は必須です。中国においても質の高いドラマを作ることへの意識が高まっていますから、そのためにも国際共同制作の協力を進めていきたいと思っています」と述べ、アジア間のストーリーIP開発を前向きに捉えていることがわかった。

久松真一氏は倉本聰氏の「富良野塾」で学んだことを中心に、「物語や登場人物に求められるものは常に進化し、今は感動から快感に移り変わっていると感じています。場合によっては作家も変節する必要がありますが、過去から学ぶべきものは必ずあると信じています」と訴えかけた。

またパク・ジェボム氏は「感情は時代を支配する普遍的なもの」と述べ、「不合理や大衆の怒りは、大きく共感を集める感情です。韓国ドラマはこの大衆の怒りをサバイバルものからヒューマンドラマまで幅広いジャンルで取り入れています。上手く表現できなければ、興行的に上手くいきませんが、世界の視聴者も共感できる怒りを表現できれば、世界で通用する作品に発展していきます」と続けた。

Netflixで世界的にヒットした『ヴィンチェンツォ』や世界でリメイク化されている『グッド・ドクター』の脚本を執筆し、実績を作っているパク・ジェボム氏だからこそ、説得力のある言葉でもある。またアジアのストーリーIPの可能性についてもより具体的に語る。

「アジアほど素晴らしい素材をもっている大陸はありません。アジアは大陸の数が多く、日本には漫画、中国やアジア各国には神話が数多く存在しています。それをどのように発掘するかが問題にあり、また面白さに拘り過ぎると、ストーリーの本質が損なわれる危険性があります。制作会社やクリエイターがそれぞれの考え方の調和を取ることが大事です。アジア間の協業も希望に満ちていると思っています。アジア人はライバルを師匠として考えるからこそ互いに高め合うことができるのはないでしょうか」。

このほか期間中、今年2月末をもって解散された市川森一脚本賞財団の特別表彰や、参加者による「1minピッチング」やビジネスマッチングなども行われた。また3日目の最終日は能登半島ロケ地視察ツアーが実施され、会議参加者のみならず会議等で通訳を務めた40人近くに上る大学生ボランティアも参加し、交流の場が作られた。

こうして会議で語られる言葉に耳を傾け、各国の脚本家とプロデューサーが互いに語り合うなかで、参加者が共有できたことの1つにグローバルを意識したドラマIP作りがあったのではないか。韓国が世界的にリードする存在へと急成長したことで、アジア各国のドラマ制作意欲はこれまで以上に高まっている。