博報堂DYメディアパートナーズ 小山田圭佑氏

24 APR

『silent』の広報施策は視聴者にどう影響した? 〜生活者とのコミュニケーション戦略【vol.5】

編集部 2023/4/24 08:00

「TVerアワード2022年ドラマ大賞」を受賞し、TVerでの歴代再生数No.1記録を更新した、フジテレビの人気ドラマ『silent』。川口春奈が主演を務め目黒蓮が共演した本作は、内容はさることながら、vol.1でもご紹介した通り、放送と並行して行われたSNSをはじめとする数々の豊かなコミュニケーション施策も注目された。

【vol.1】『silent』TVer再生数歴代No.1を生んだ番組PR

前回、vol.4では『silent』広報チームが行った視聴者コミュニケーションの裏側を取り上げたが、実際にこれらの施策は視聴者にどのような影響を及ぼしたのか。博報堂DYメディアパートナーズ「TV AaaS Lab / AaaS Tech Lab」による放送期間中のSNSデータを踏まえながら、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ AaaS Tech Lab データサイエンティストの小山田圭佑氏にインタビュー。

■「未公開シーン」効果で放送休止週にフォロワー増加。屋外広告はファンの深い興味を醸成

まず小山田氏は、『silent』番組公式SNSアカウントのフォロワー数推移のデータを紹介。2022年8月23日に情報解禁が行われたが、ここからわずか32時間でフォロワー数は10万人を突破。10月のドラマ放送開始前に20万人を突破。「この伸び率は、他のドラマと比較してもかなり異例の事態」という。

小山田氏:本編スタートに先立つ同年9月21日のティザー・本編予告映像、番組公式Instagram・TikTokの公開のタイミングでフォロワー数が増加したほか、11月24日、サッカーW杯中継による放送休止時の未公開シーン公開のタイミングでもフォロワー数が大幅に増加しました。放送がない週でも最終回に向けた盛り上がりを逆に作り出せたという点は非常に大きかったと思います。

渋谷マークシティへの巨大ポスター掲示など、屋外広告掲出のタイミングではフォロワー数に大きな変化が見られなかった一方、いいねの数は最大3万以上を記録。「Twitterのデータを見ると、ファンを広げるよりもファンの興味を深めるという点で屋外広告が機能したように見える」と小山田氏は語る。

続いて小山田氏は、『silent』公式TwitterにおけるRT(リツイート)数の推移を紹介。フォロワー数が急増した放送開始前の情報解禁時点で2万RTと高い水準を叩きだした。

なお、放送期間を通じてもっとも多いRTを記録したのは、2話の予告において佐倉 想役の目黒 蓮(Snow Man)と深澤辰哉(Snow Man)とのツーショット写真つきツイート。一連の動きについて「2人のファンを中心に、出演者のファンによって放送前から大きく情報が拡散されていた様子が見える」と小山田氏は語りつつ、次のように指摘した。

小山田氏:ここまでは出演者に由来するRTの伸びが目立っていましたが、ドラマの“前日譚”にあたる「エピソード0」がTVerにて公開された10月31日にもRTが突出していました。「テレビだけで見られない『silent』が見られる」という点が話題となって急速に広まり、新たなファン層の獲得に成功していたことがわかります。TVerオリジナルコンテンツの存在が、情報を広める・深めるという両面で大きな役割を果たしていたことがわかります。

■ツイート分析から見えた「前評判超え」の動き

放送前から相当に高い期待を受けていたことがデータのうえででも明らかになった『silent』。放送開始後、その熱はどこまで波及していったのか。小山田氏は番組に対する感想を示すなかでもっとも顕著であったキーワード「泣いた」「引き込まれる」をそれぞれ含むツイート数の推移を紹介した。

小山田氏:放送前の段階ですでに20万フォロワーを獲得するなど、事前の期待が非常に高かった『silent』でしたが、放送が始まってもその勢いは衰えず、1話〜2話の時点で「泣いた」「引き込まれる」を含むツイートが多く見られました。とくに前評判と実評価が重なる1話でこれらのキーワードが非常に多く出ているところからも、いざ始まったドラマが視聴者にとって期待をさらに大きく超えるインパクトを与えたことがわかります。

大きく膨らんだ前評判を損なうことなく常に期待以上のインパクトを与え続けた本編と、そこに生まれた盛り上がりの熱に対してひとつずつ応え続けた広報戦略。ストーリーの中と外の両面において人の心の機微に寄り添い続け、ファンの欲求に応え続けてきた『silent』の秀逸な視聴者コミュニケーションの成果がデータの面でも明らかとなった。

次回、第6回目では番組スポンサーを務めた日産自動車のマーケティング担当者と、フジテレビのセールス担当者、博報堂DYメディアパートナーズ「TV AaaS Lab」リーダーの3人が対談。大きな反響を呼んだ『silent×日産サクラ オリジナルタイアップCM』を軸に、TVerと地上波によるオンオフ統合出稿の効果、番組の世界観と一体となった広告出稿におけるブランドリフト面の効果について掘り下げる。