左からビデオリサーチ奥氏、テレ東・吉次社長、日テレ・福田社長

16 OCT

日テレ・テレ東トップが語る、テレビの「不変的な価値」と「Next STANDARD」 〜「VR FORUM 2025」セッションレポート(1)

編集部 2025/10/16 14:50

ビデオリサーチ主催「VR FORUM 2025」が、10月8・9日に東京ミッドタウンホールで開催され、会場・オンラインをふくめ、4900名が参加。8日午前のセッション『放送メディアの変化と不変的な価値とは?』では、株式会社テレビ東京ホールディングス/株式会社テレビ東京 代表取締役社長・吉次弘志氏、日本テレビホールディングス株式会社/日本テレビ放送網株式会社 代表取締役社長 執行役員・福田博之氏が登壇した。

インターネット広告費がテレビを抜き、コネクテッドTVの利用が若年層で2割を超えるなど、視聴環境が激変する中、両社のトップが取る経営戦略とは。「VR FORUM 2025」の総合テーマである「Next STANDARD」に絡め、次なるステージにおける放送局の在り方が示された。

インターネットに押されるテレビ広告シェア、一方で配信の広告費は右肩上がり

株式会社ビデオリサーチ メディアデザイン研究所 所長・奥律哉氏

最初に、モデレーターを務める株式会社ビデオリサーチ メディアデザイン研究所 所長・奥律哉氏が、データの面からメディア環境の現在を解説。電通が発表した「2024 日本の広告費」において、インターネット広告のシェアが47.6%と半数に迫る一方、テレビのシェアが21.9%に留まっているとした。

その一方で奥氏は、TVerなどに代表される配信の広告費が前年比140%で成長している点を取り上げ、「今後の『伸びしろ』である」と指摘。ビデオリサーチの提供する視聴データ「STREAMO(ストリーモ)」によれば、若年層でコネクテッドTVでの視聴が2割を超えているとし、視聴環境が大きく変化していると示唆した。

「日常と祝祭」を軸とする日テレ 「地上波の価値はセレンディピティにある」

日本テレビホールディングス株式会社/日本テレビ放送網株式会社 代表取締役社長 執行役員・福田博之氏

この状況を受け、日テレ・福田社長が、同社の経営戦略の根幹を説明。2004年から続く基本方針として、個人視聴率のボリュームを確保しつつ、13歳から49歳を「コアターゲット」と定めて両方を獲得していく目標を掲げていると語る。かつてF1層の視聴率とスポット売上が同じ曲線を描いていた経験から、クライアントニーズに応える形でこの戦略が生まれたという。

そのうえで福田社長は、近年の編成を「日常と祝祭」と表現。「日常」のレギュラー番組に対し、「いつもの時間にいつものものではない、たくさんの人と一緒にあの感動を共有できるもの」として『24時間テレビ』や『箱根駅伝』などの大型特番を例に挙げ、その「祝祭性」にこだわっていきたいとの考えを示した。

「地上波の価値は『セレンディピティ(思いがけない出会い)』」と福田社長は語り、ターゲットを絞りつつ、その外側にいる人々にも届けることでデジタルメディアとは異なる広告価値を生み出していくと強調。

伝統芸能である歌舞伎を扱い、若者層にヒットした映画『国宝』、競技内容や選手たちの横顔が大きな話題を呼んだTBSの『東京2025 世界陸上』中継を「ものすごく勇気をもらえた事例」と評し、「テレビ離れが指摘される中でも、良質なコンテンツは世代を超えて届く」と、自身の信念につなげた。

「裏道の店」誇るテレビ東京 コアファン抱えるコンテンツと多面展開に商機

株式会社テレビ東京ホールディングス/株式会社テレビ東京 代表取締役社長・吉次弘志氏

テレ東・吉次社長は、日テレを「日本橋のど真ん中にいい店を構えられて、千客万来の経営をしていらっしゃる」と評した上で、「一歩裏道にそれたところに小さく店を構えているが、行ってみると『意外といいじゃないか』と思える存在」と、自社の立ち位置を表現。視聴率だけに依らず、熱心なファンに支えられる番組作りを目指す姿勢を明確にした。

吉次社長は自社の強みについて、「経済報道を軸としつつ、独特なバラエティ、渋めのドラマ、アニメが特性」と説明し、「熱心なファンがつくことで多様な展開が可能な番組を財産にしたい」とコメント。代表例として『孤独のグルメ』『YOUは何しに日本へ?』をはじめ、若手社員の熱意から実現した乳幼児向け番組『シナぷしゅ』が、当初の視聴率懸念を乗り越え、様々な展開につながったとする成功事例を紹介した。

テレ東では、「まだ見ぬ『おもしろい』を世界に発信する」をコンテンツ戦略の長期ビジョンに掲げ、コンテンツを核に多角的に展開する「CaaS(Contents as a Service)」という概念を社内で提唱しているという。2023年度には、放送以外の営業利益が放送を上回るまでに成長。中でもアニメ売上高は200億円を超え、グローバルに展開していると述べた。

「放送ファースト」から「配信ファースト」へ 海外展開や最新技術活用で競争力強化

左からビデオリサーチ奥氏、テレ東・吉次社長、日テレ・福田社長

「放送業界は、70年の歴史を持つ『放送ファースト』の体制から、コンテンツIP中心のビジネスへ移行している」と奥氏。その上での課題や取り組みについて、両社長に質問を投げかけた。

テレ東・吉次社長は、「放送収入のウエートは依然として高いものの、それだけでは食っていけないという危機感が社員にも浸透している」とコメント。実写作品において配信プラットフォームへ先に公開する「配信ファースト」の事例が増えている点に触れ、「この10年で社員の意識も大きく変わり、自律的にビジネスを展開する文化が根付き始めている」と認識を示した。

一方、日テレ・福田社長は、中期経営計画で「日テレ、開国!」をスローガンに掲げたことを紹介。社内では「鎖国していたわけではない」との声もあったが、強い思いを内外に示すためにあえてこの言葉を選んだという。

その象徴的な事例として、福田社長は、25年前にヒットした番組『マネーの虎』のフォーマットが、世界54の国と地域で展開されている実績を紹介。スタジオジブリ作品の海外での成功にも触れ、日本のコンテンツが世界に確実に広がっている手応えを語った。

さらに福田社長は、グローバル展開を支えるクリエイター育成の重要性を強調。日テレでは海外向けバラエティの制作に特化した社内スタジオ「GYOKURO STUDIO(ギョクロ・スタジオ)」を設立し、映像に限らず、世界に響くコンテンツを研究・開発する拠点として挑戦を始めているという。

さらなる競争力の強化に向け、両社は最新技術の活用にも積極的だ。日テレ・福田社長はAIを権利処理などの業務効率化に活用し、年間10万時間の工数削減を目指していると説明。「クリエイターの想像力と、AIによる再現性の向上能力を掛け合わせることで、見たことのないヒットコンテンツが生まれるのではないか」と期待を語った。

一方、テレ東・吉次社長は、報道スタジオを中心にバーチャルプロダクションを全面的に導入している事例を紹介。スタジオセットの建て込みが不要になるなど、制作の効率化と表現の向上に繋がっていると述べた。

「まだ見ぬ『面白い』を作る」「テレビが持つ力で熱狂生み出す」両社長が語る展望

フェイクニュースなどが問題となる中、メディアの信頼性についてもセッションでは議論された。

日テレ・福田社長は、SNSで拡散された不確かな情報に対し、報道番組を通じて事実を検証・発信する自社キャンペーン『それって本当?』を紹介。テレビの強みである信頼性を守り、高めていく取り組みを続けると述べた。
一方、テレ東・吉次社長は、「日経グループの一員として、リテラシーの高い層から裾野の広い層まで、信頼性の高い経済情報を届ける役割を担っている」とコメント。経済・マーケット情報に特化した有料配信メディア『テレ東Biz』の展開など、「『テレビになりにくい(が、確実なニーズを持つ)もの』をずっと長くやっているのが自社の売りの一つ」と力をこめて語った。

既存のテレビメディアが得意としてきたスポーツコンテンツにも、配信メディアの攻勢が強まっている。今年8月には、Netflixが「ワールド・ベースボール・クラシック」の独占放映権を獲得したと発表。地上波での放映が事実上困難になるという前代未聞の事態に、大きな驚きと物議が起こったのは記憶に新しい。

こうした流れに日テレ・福田社長は「複雑な思いを抱いた」と吐露しつつ、「しかし、その上でテレビは圧倒的なリーチメディアであり、大きなムーブメントを起こす力を持っていると再確認した」と強調。TBSの『東京2025 世界陸上』中継が8000万人近くにリーチしたと推定する、ビデオリサーチのデータを挙げた。

さらに福田社長は、JFA(日本サッカー協会)『サッカー日本代表が目指す未来2025』にて、「25年後の未来に向けてテレビを通じて夢を育てる」「いつでもどこでも誰もが(試合を)見られる環境を」の2点が掲げられていると説明。「我々に向けて『テレビ、頼むよ』というメッセージだと思う」と述べ、「しっかり受け止め、責任を持って行動していきたい」と決意を語った。

「Next STANDARD」への展望について、テレ東・吉次社長は「まだ見ぬ『おもしろい』を共に創る。」をキーワードに、ニッチな分野や独自性を徹底的に追求していくと宣言した。

日テレ・福田社長は「コンテンツの力で世界を変える」とビジョンを掲げ、テレビが持つ力で熱狂を生み出していきたいと強調。TBSテレビと進めるアドフォーム「Ad Reach MAX」についても順調な進捗であると述べ、全国の放送局との連携を呼びかけた。