メディア総合イベントInterBEE 2025(11月・幕張メッセ)の企画セッション「世界に通じる最強IPプロデュース力」(編集部撮影)
「たべっ子どうぶつ」「ガチャピン・ムック」「フルAI制作CM」〜 世界に届くIPプロデュースの条件〜【Inter BEE 2025レポート】
編集部 2025/12/26 12:00
IPをどう育て、どう世界へ届けていくのか。その方法論は、もはや一つではない。メディア総合イベントInterBEE 2025(11月・幕張メッセ)の企画セッション「世界に通じる最強IPプロデュース力」では、ゼロからIPを再定義する試み、長寿IPを現代にアップデートし続ける実践、そして生成AI活用という異なる視点から、IPビジネスの現場に立つ3人に注目した。登壇したのはTBSテレビ・アニメ映画ビジネス局アニメ事業部の須藤孝太郎氏と、フジテレビジョンIPアニメ事業局IP事業部統括プロデューサーの臼田玄明氏、WIT COLLECTIVE合同会社代表CEO /エグゼクティブプロデューサーの大嶌諭氏の3者だ。議論を通じて浮かび上がったのは、テクノロジーが進化しても揺るがないIPの本質と、それを加速させるための“プロデュース力”の重要性だった。
(ジャーナリスト・長谷川朋子)
■異なる手法でたどり着いた、IPの共通項
本セッションは、筆者が企画・モデレーターを務め、IPビジネスの現場で異なるフェーズに立つ3人の話を並べて聞くことで、IPの本質を浮かび上がらせることを狙いとした。方法や立場は違っても、IPに向き合う現場では何が変わり、何が変わらないのか。その共通項を探ることが、本セッションの出発点だった。
TBSテレビの須藤孝太郎氏が語ったのは、菓子ブランド「たべっ子どうぶつ」をアニメ映画化したプロセスだ。キャラクター設定も物語も存在しないIPを、いかに映像コンテンツとして成立させるか。きっかけは偶然目にした営業車だったというが、そこから3年をかけ、世界観と物語をゼロから構築した。さらに高品質な3DCGによる「もふもふ感」を追求したビジュアルに仕上げつつ、「お菓子に夢を」「知育」という企業理念を物語の核として落とし込んだ。ヒットの理由について須藤氏は、「話題性に頼らず、販促映画にしない覚悟を貫いたことが大きかった」と分析する。
フジテレビジョンで「ガチャピン・ムック」のIP展開を手がける臼田玄明氏は、50年以上続く理由について、「“挑戦と友情”というコアコンセプトを時代に合わせて打ち出している」と説明する。かつては地上波レギュラーを主戦場としていたが、現在はSNS展開にも注力し、「UQモバイル」をはじめとする企業キャンペーンへの参加など、柔軟な露出で世代を超えた認知を維持している。独自調査では、50代女性の認知度は96%に達するという。さらに、「生で話せる」「アドリブが利く」というライブ性も、他のキャラクターにはない強みだ。
WIT COLLECTIVEの大嶌諭氏は、生成AIをコンテンツ制作の「加速装置」と位置づける。名刺代わりとして制作したフルAIによる自社紹介映像や、企業のパーパスをAIを使って映像化する事例を紹介しながら、その実践を示した。AIの最大の価値について大嶌氏は、「企画段階の“妄想”を瞬時に可視化し、試行錯誤のサイクルを高速化できる点にある」と語る。アイデアを迅速に具現化し、多様なキャラクターやコンテンツを量産できる点が、制作現場における大きな強みだという。
■IPを長く生かすためのプロデュース力
3人の視点を交差したクロストークも行い、IPの本質がより立体的に浮かび上がった。話題の1つに挙げたのは、IPの寿命をどう延ばすかという問いだ。須藤氏は、「IPの寿命を延ばすためには、形にこだわらず“出し続ける”ことが不可欠だ」と強調する。作品やキャラクターを一度世に出して終わりにするのではなく、媒体や形を変えながら露出を重ねていく。その継続こそが、IPを育てる力になるという考えだ。
この点について臼田氏も強くうなずいた。ただし、出し続けることは容易ではないと前置きし、「マンネリと変化のバランスが最も難しい」と語る。SNS時代になった現在でも、キャラクターの根幹は崩さず、新しい接点をつくり続ける。その積み重ねが、ファンの愛情を更新し続けているという。
ここに大嶌氏は、生成AIという技術的視点を重ねる。「AIを活用すれば、出すべきコンテンツの“量”とスピードは担保できる。ただし最も重要なのは、時代に合わせて変化しながらも、根幹を大事にするプロデュース力だ」と述べた。
AIは派生や拡散を加速させる力を持つ一方で、最初の発想や判断、そこに込める熱量は人間が担うべきだという認識は、須藤氏、臼田氏ともに共有されていた。AIは脅威ではなく、従来できなかった展開の選択肢を広げるツールだ、という見方だ。
■「出し続ける』ことで、IPは育つ
議論はさらに、「日本発IPが世界で勝つための条件」へと広がった。須藤氏は、「日本のキャラクターは、丸みや柔らかさといった“カワイイ”造形が強い」と語る。アニメ化の影響力は依然として大きく、主題歌とセットで発信することで、海外にも届きやすくなることも実感しているという。
臼田氏も、日本のアニメが持つ国際競争力を評価し、「IPをアニメと一緒に育てていくことで、世界に発信する可能性はさらに広がる」と語る。コラボレーションを重ねることで、まだ世界で戦える作品は多いという感触を示した。
大嶌氏は、そこに文化的視点を重ねる。「日本人が持つ、細分化された“好き”へのこだわり、いわゆる“オタク熱”こそが、世界にまだないユニークな表現を生み出す源泉になる可能性がある」と指摘した。
この点について臼田氏も呼応し、「単なる知名度ではなく、このキャラクターでなければダメだと思わせるほどの愛情の熱量を持たせることが、IPにとって何より重要だ」と強調した。
出し続けること。変わり続けること。そして、根幹を守ること。そのバランスを取り続けるのが、IPプロデュースの仕事だ。テクノロジーが進化しても、IPの中心にあるのは人間の熱量と愛情であることは変わらない。3人の議論は、「世界に通じるIP」とは何かを、具体的な言葉で示していた。