「シリーズマニア」で日本にフォーカスした特別セッション「Coming Next from Japan」が総務省事業として初めて開催された。(筆者撮影)

01 MAY

日本発ドラマの国際共同制作はどこまで進んだか——「Coming Next from Japan」が示した現在地【「シリーズマニア2026」中編】

編集部 2026/5/1 12:00

欧州最大級のドラマ祭「シリーズマニア」(2026年3月20-27日/フランス・リール)で日本にフォーカスした特別セッション「Coming Next from Japan」が総務省事業として初めて開催された。NHK、日本テレビ、WOWOW、日テレアックスオンらが登壇し、4つの国際共同制作ドラマが紹介された。シリーズマニア2026特集・中編では、事例が増えつつある日本の国際共同制作の取り組みをレポートする。(ジャーナリスト 長谷川朋子)

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■日本はコンテンツ大国としてアピール

シリーズマニアで総務省事業のセッションが行われたのは今回が初である。プロ向けイベント「シリーズマニア・フォーラム」開催初日の3月24日(現地時間)に、一般社団法人放送コンテンツ海外展開促進機構(BEAJ)とアジア発の国際共同制作などを手掛けるEmpire of Arkadia (EOA)が実施した。

冒頭、シリーズマニア・フォーラムのディレクター、フランチェスコ・カプーロ氏が登壇し、「日本とヨーロッパの共同制作は、今後さらに広がる余地がある。今回のセッションはその第一歩だ」と挨拶した。

シリーズマニア・フォーラムのディレクター、フランチェスコ・カプーロ氏(筆者撮影)

続いて、進行を務めたメディア業界誌『ContentAsia』編集ディレクターのジャニーン・スタイン氏が、日本市場の規模と成長性を説明した。日本の配信市場は約72億ドル規模(約1兆1000億円、年15%成長見込み)に達し、放送市場も258億ドル(約3兆9000億円)と依然として安定した基盤がある。さらにテレビ番組の輸出額は2022年に756億円と過去最高を記録し、日本は「コンテンツ大国」として位置付けられていることが強調された。

目玉となったのは、紹介された4つの国際共同制作プロジェクトである。

一つ目は、日仏米共同制作『Drops of God/神の雫』。日本の漫画原作をベースに、ヨーロッパと日本という異なる文化の交差を物語の核に据えた作品だ。国際ドラマにも積極的に出演する山下智久とフランス俳優のフルール・ジェフリエがダブル主演し、Apple TV+で世界配信、Hulu Japanで国内配信された。すでにシーズン2へと展開している。

二つ目は、日本とフィンランドの共同制作『BLOOD & SWEAT』。北欧ノワールと日本の犯罪ドラマの要素を掛け合わせ、両国で同時に起きる連続殺人事件を軸に展開する。今年の4月からWOWOWで放送・配信が開始された最新作で、杏とヤスペル・ペーコネンというそれぞれの国で人気の高い俳優が主演を務める。

三つ目は、日本とシンガポールの共同制作『Lost & Found』。NHKとテレビマンユニオン、EOAがプロジェクトに参画し、若者の孤独やコミュニティをテーマに、アジア発のグローバルに届く物語を描く。NHKとシンガポールのMediacorpで放送・配信された。

そして、四つ目は日本テレビとイギリスの制作会社Anyway Contentによる共同制作『How to Be a Sensei』。日本人と英国人の若い女性が漫画家を目指すコメディドラマで、開発段階にある。

日英共同制作『How to Be a Sensei』を開発する高島陽子氏(日本テレビ・写真中央)とキャシー・スミス氏(Anyway Content・同右)(筆者撮影)

■海外を意識することでアップデートできる

日本とフィンランドの共同制作『BLOOD & SWEAT』を手がけた高嶋ともみ氏(WOWOW ・写真右)とダニエル・トイヴォネン氏(日テレアックスオン・同中央)(筆者撮影)

いずれも単なるロケ協力やライセンス供給ではなく、企画段階から複数国が関わる共同制作ドラマが揃った。ディスカッションパートでは、各担当者が登壇し、その実務の難しさが率直に語られた。

『BLOOD & SWEAT』のプロデューサー/監督であるダニエル・トイヴォネン氏(日テレアックスオン)は、ジャンル作品であっても文化の違いは無視できないことを指摘した。

「日本の視聴者は、犯人のトリックや捜査のプロセスを細かく見せることを好む。一方で北欧では、雪原を走る車のショットと音楽だけで成立することもある。どこまで説明し、どこから雰囲気に委ねるかを、各話ごとに議論する必要があった」

さらに、共同制作における意思決定の難しさにも言及し、「重要なのは、誰が何を決めるのかを事前に明確にすることだ。制作現場における役割分担そのものが国によって大きく異なる。これを整理せずに制作に入ると、必ずスケジュールや予算に影響が出る」と具体的に語った。

また、国際共同制作を前提にすることで、日本の視聴者にとっても新鮮な作品が生まれる可能性にも触れ、「海外を意識することが、結果的に日本の作品をアップデートする」と付け加えた。こうした視点は登壇者の間でも共有され、日本テレビの高島陽子氏は国際共同制作が従来とは異なる制作環境を前提とする取り組みであることに言及し、NHKの松田朋子氏も、国際展開を前提とした制作プロセスの再設計の必要性に触れた。

■ローカルにもグローバルにも通用するテーマ

日本とシンガポールの共同制作『Lost & Found』を手がけた松田朋子氏(NHK・写真右)とフォティニ・パラスカキス氏(EOA・同中央)(筆者撮影)

一方、『Lost & Found』を手がけたEOAプロデューサー兼配給・販売を担うフォティニ・パラスカキス氏は、国際共同制作を成功させるうえでの企画面に焦点を当てた。

「共同制作で重要なのは、ローカルにもグローバルにも通用するテーマを見つけること。『Lost & Found』は若者の孤独や不安、コミュニティといったテーマを扱ったが、それをどう各国に伝わる形で表現するかが最大の課題だった」

日本市場向けに作りながら、同時にグローバル展開を見据える二重構造も難易度を上げるが、日本コンテンツの価値の捉え方が鍵となる。「日本は寺や寿司だけではない。現代の日本を外から見る視点に対して、国際市場は強い関心を持っている」とパラスカキス氏は指摘する。

資金面でも課題は多い。日本の制作費は欧米に比べて低く、出資構造の組み立ては容易ではない。パラスカキス氏は政府支援の重要性を強調し、「初期資金がなければプロジェクトは始まらない。公的支援があることで、他のパートナーを呼び込むことができる」と述べた。

国際市場を見据えたドラマの国際共同制作が、日本でも発展し始めている。しかしそれは、単に国をまたぐだけでは成立しない。言語や文化、制作プロセス、資金というあらゆる要素を調整し直す必要がある。その前提に立ったとき、日本の強みが明確になる。豊富なIPや制作力をどう組み合わせるかが、次のフェーズに入った日本ドラマの行方を左右する。