D23会場となった米カリフォルニア州アナハイムのアナハイム・コンベンション・センター。(筆者撮影)

14 SEP

ディズニーのスポーツ戦略、次の一手は「ESPN×Disney+」【D23レポート前編】

編集部 2026/9/14 10:00

2026年8月14日から16日まで、米カリフォルニア州アナハイムで、ディズニー公式の大型ファンイベント「D23: The Ultimate Disney Fan Event」が開催された。ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズなどの新作発表に加え、50を超えるパネルやショーが行われる3日間のイベントだ。初日の8月14日には、ダイレクト・トゥ・コンシューマー(DTC)事業をテーマにした幹部パネルがプレス向けに行われ、「スポーツ&ストリーミング」セッションでは、ESPNとDisney+をまたいだスポーツ事業の現在地と今後が語られた。前編では、米国で始まったESPNのDTCサービス、Disney+を介したグローバル展開、AIによるパーソナライズなど、このセッションで示されたディズニーのスポーツ戦略をレポートする。

(ジャーナリスト 長谷川朋子)

■スポーツファンの多様性を意識したDTCサービス

ダイレクト・トゥ・コンシューマー(DTC)事業をテーマにした幹部パネルの「スポーツ&ストリーミング」セッションに登壇したのは、ディズニー・エンターテイメントDTC共同プレジデントのジョー・アーリー氏、ディズニー・エンターテイメント&ESPNでプロダクト・マネジメントを担当するエリン・ティーグ氏、ESPNグローバル・スポーツ&タレントオフィス責任者のフレディ・ロロン氏、ESPNでマーケティングを担当するジョー・フォックス氏の4氏。それぞれの立場から、ESPNのDTC展開、Disney+との連携、グローバル戦略、次世代のスポーツ視聴体験について語った。

D23初日に行われた「スポーツ&ストリーミング」セッション。ESPNとDisney+の連携を軸に、ディズニーのスポーツ戦略が語られた。(Disney)

ESPNはディズニー傘下のスポーツブランドで、現在、世界に43のリニアネットワークを持ち、100以上の国と地域で、テレビネットワークやデジタルサービス、ライブスポーツ中継などを展開している。ただし、提供するサービスや放映権、Disney+との連携の形は国や地域によって異なる。今回のセッションでは、そうした地域ごとの違いを前提にしながら、ESPNをストリーミング時代にどう展開し、Disney+とどうつないでいくのかが大きなテーマとなった。

まず米国での取り組みについて説明したのが、ESPNのフォックス氏だ。米国では、ESPNが持つネットワークや番組、ライブスポーツを、従来のケーブルテレビ経由だけではなく、直接ファンに提供するDTCサービスを構築した。フォックス氏は「視聴者がどのサービスや方法でESPNを利用するかにかかわらず、それぞれに合った選択肢を用意できた」と語る。

なかでもフォックス氏が強調したのは、スポーツファンの多様性だ。例えば、統計やスコアを細かく追いたい熱心なスポーツファンにはESPNアプリの機能を提供する。一方、NBAファイナルなど大きな大会を中心に楽しむカジュアルなファンや、スポーツ以外のエンターテインメントにも関心を持つ層には、Disney+やHuluとのバンドルを含めた選択肢を用意する。スポーツを一律に届けるのではなく、ファンごとの関心や熱量に応じて異なる入口を設ける考え方がある。

■AIで「SportsCenter」をパーソナライズ

こうしたファン層の広がりについて、ディズニー・エンターテイメント&ESPNのティーグ氏はプロダクトの観点から説明した。「ESPNというブランドは事実上、スポーツの代名詞」であり、熱心なスポーツファンが事業の基盤であることは変わらないとしたうえで、「Z世代やアルファ世代など、インターネットネイティブの若い世代ではスポーツ体験への期待が変化している」と指摘した。

そこで重要になるのが、社内で「ゲーム・アラウンド・ザ・ゲーム(試合を取り巻くゲーム)」と呼んでいる領域だという。特定の選手やチームをめぐるストーリー、試合前後の議論、コミュニティで交わされる会話など、「試合を取り巻くストーリーも、試合そのものと同じくらい面白い」とティーグ氏は話す。

こうしたカジュアルなスポーツファンは、Disney+のファン層とも共通する部分が多いという。その考えを具体的なプロダクトにしたのが、「SportsCenter for You」だ。ティーグ氏はこれを、「今日のスポーツ界でAIを最も活用した野心的な製品体験の一つ」と紹介した。

ESPNの代表的なスポーツニュース番組「SportsCenter」は、従来、ひとつの番組を大勢の視聴者に届けるものだったが、「SportsCenter for You」では、ユーザーの現在地や、応援するチーム、選手、リーグなどに応じて内容をパーソナライズする。これによって、「個々のユーザーに合わせて特別にカスタマイズされた数十万もの『SportsCenter』を作成することが可能になった」とティーグ氏は説明した。加えて、ひとつの画面で複数の試合を同時視聴できる「MultiView」や、統計データのオーバーレイ、リプレイなど、視聴者自身が体験をコントロールできる機能の拡充も進めている。

■Disney+を使ってスポーツファンの裾野を広げる

続いて、ESPNのグローバル戦略を説明したのがロロン氏だ。ESPNでは近年、グローバル展開の一環としてDisney+を活用し、ラテンアメリカを皮切りに、オーストラリア、EMEA、アジアの一部市場でも「ESPN on Disney+」を展開している。

ロロン氏は、「Disney+を通じて、より多くのカジュアルファンや女性ファンにリーチできる一方で、ESPNはDisney+にスポーツに関する信頼性と本物らしさをもたらす」と話す。また、ライブスポーツだけでなく、その前後の報道やSNS、ウェブサイトなどを組み合わせることで、ファンが継続的にサービスへ戻ってくる理由を作ろうとしている。

また、グローバル展開では「できるだけ広域で活用できるスポーツ権利を獲得しながら、各地域のファンが関心を持つストーリーをESPNらしい形で伝えることが重要になる」とロロン氏は説明した。例として挙げられたのが、UEFA女子チャンピオンズリーグやラ・リーガ、FIFAワールドカップだ。

ワールドカップでは、スペイン語圏のラテンアメリカで放映権を獲得し、ブラジルではCazéTVと組んでDisney+で試合を配信。一方、権利を持たないメキシコでもスタジオ番組などを展開したという。ラ・リーガについても、バルセロナ対レアル・マドリードという世界的なカードを軸にしつつ、フランスではキリアン・エムバペをはじめとするフランス人選手のストーリーに注目するなど、地域ごとの接点を作っていく考えだ。

■スポーツとエンターテインメントはさらに交差する

D23会場内のDisney+/Huluブース。ストリーミング事業の存在感も会場内で大きく打ち出されていた。(筆者撮影)

最後に、3年後のスポーツ体験がどう変化していくのかについても、登壇者それぞれから展望が語られた。

フォックス氏は、「Z世代やアルファ世代では、スポーツが人と人をつなぐ感覚やコミュニティとしての役割を持ち、ゲームなどを含め、従来とは異なるコンテンツとの関わり方が広がっていく」と予測した。

ロロン氏も「エンターテインメントとスポーツの融合」が重要になると指摘。ESPNではすでに『ザ・シンプソンズ』やディズニーのIPをスポーツに取り入れてきたが、「今後はインフルエンサーや俳優なども含め、スポーツに詳しくない人々をその世界へ引き込む手法が重要になる」と語る。

一方、ティーグ氏は、マルチビューやインタラクティブなオーバーレイ、リプレイなどを挙げ、「視聴者がより主体性を持ち、試合をより深く理解できる体験が広がっていく」と技術面から今後を見通した。

またアーリー氏からは、Disney+、Hulu、ESPNを組み合わせた米国の「トリオ・バンドル」の加入者について、サービスへの満足度が高く、より多くのコンテンツを視聴し、解約もしにくいという成果も紹介された。

ESPNのライブスポーツをDisney+につなげ、Disney+の幅広いファン層をスポーツへつなげる。その接点をパーソナライズ技術や、スポーツを取り巻くストーリー、ディズニーIPが埋めていく。D23で行われた約30分の議論からは、スポーツとストリーミングを別々の事業としてではなく、一つのファン体験として組み立てようとする方向性が見えてきた。後編では、その具体例として、ESPNとディズニーが進めるスポーツ中継とアニメーションを融合した取り組みを紹介する。