D23会場内に設けられたESPNの展示ブース。スポーツブランドとしての存在感を大きく打ち出していた。(筆者撮影)

17 SEP

ディズニーIPがスポーツ中継を変える ESPNが挑む「リアルタイム・アニメーション」の舞台裏【D23レポート後編】

編集部 2026/9/17 10:00

2026年8月14日から16日まで、米カリフォルニア州アナハイムで開催されたディズニー公式の大型ファンイベント「D23: The Ultimate Disney Fan Event」では、前編のパネルで語られた「スポーツとエンターテインメントの融合」が、実際の中継にどう落とし込まれているのかも取り上げられた。その一つが、「Animating the Action: Disney Magic Live on ESPN」と題したセッションだ。ディズニーIPをスポーツ番組で活用した取り組みを後編でレポートする。

(ジャーナリスト 長谷川朋子)

■実際の試合をアニメーション化する

D23で行われた「Animating the Action: Disney Magic Live on ESPN」。スポーツ中継とディズニーIPを融合した取り組みが紹介された。(Disney/Maya Dehlin)

D23期間中、ファン向けパネルとして企画された「Animating the Action: Disney Magic Live on ESPN」では、ディズニー傘下のスポーツブランドESPNが進める、ライブスポーツをディズニーのアニメーションで再構成する取り組みの舞台裏が紹介された。リアルタイムで進行する実際の試合を、『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』『インサイド・ヘッド』『ザ・シンプソンズ』、ミッキー&フレンズなどの世界を舞台に、アニメーションとして表現するものだ。

進行を務めたESPN副社長で、アニメーションシリーズのショーランナーを務めるマイケル・シコウニー氏はこの取り組みを「素晴らしいテクノロジーとディズニーの優れたIPを融合させ、スポーツの中に魔法のようなストーリーテリングの瞬間を生み出す仕組み」と説明する。アニメーションを使うことで、これまでスポーツ中継に触れてこなかった新たな視聴者を呼び込む狙いもあるという。

その基盤にあるのが、実際の選手の動きをリアルタイムで追跡する技術だ。Beyond Sportsの技術を使って試合中の選手の動きをトラッキングし、そのデータをアニメーションキャラクターに反映する。つまり、あらかじめ用意されたアニメーションを試合映像に重ねるのではなく、フィールドやコート上で実際に起きているプレーが、そのままキャラクターの動きとして表現されていく。

そこにモーションキャプチャーや音声、顔認識などの技術も組み合わせる。シコウニー氏は、こうした既存の技術を組み合わせたうえで、「真の魔法が起きたのは、ディズニーのIPを取り入れた時だった」と振り返る。技術によって試合をアニメーション化するだけでなく、それぞれの作品世界に合わせたストーリーや演出を加えることで、独自の中継体験へと発展させている。

■『トイ・ストーリー』を題材にしたNFL中継

「Animating the Action: Disney Magic Live on ESPN」に登壇したジェイ・ワード氏(左)、ESPN副社長のマイケル・シコウニー氏(中央)、ESPN実況アナウンサーのドリュー・カーター氏(右)。(Disney/Maya Dehlin)

ただし、選手の動きをキャラクターに置き換えれば成立するわけではない。この点を強調したのが、ゲスト登壇したピクサー・アニメーション・スタジオでフランチャイズ・クリエイティブディレクターを務めるジェイ・ワード氏だ。

『トイ・ストーリー』を題材にしたNFLのアニメーション中継「Toy Story Funday Football」では、実際の試合を、おもちゃの持ち主アンディの部屋を舞台に再構成した。選手たちはおもちゃのサイズになり、部屋にあるブロックをゴールポストにしたり、クレーンゲームからボールを落としたりするなど、作品世界ならではの要素を中継に盛り込んだ。

ワード氏は、この企画で何より重要なのは、「原作のストーリーテリングを損なわないことだ」と話す。例えば『トイ・ストーリー』では、「おもちゃは人間の前では動かない」というルールがある。また作品世界を描くのであれば、キャラクターはあくまでおもちゃのスケールで存在しなければならない。リアルタイムで進むスポーツの動きを取り込みながらも、こうしたキャラクターや作品設計を守ることを重視しているというわけだ。

この課題は『モンスターズ・インク』でも同じだった。実際の選手の動きをキャラクターにそのまま反映すると、場合によってはそのキャラクターらしくない動きをしてしまう可能性がある。ワード氏は、選手の動きに合わせてキャラクターが動く以上、「キャラクターにふさわしい振る舞いをどう守るかが課題だった」と振り返った。

ミッキー&フレンズを使ったNBAのアニメーション中継でも、同様の考え方が徹底された。ディズニーでブランドマーケティング ディレクターを務めるティム・ペノイヤー氏は、「何よりもまずキャラクターの表現を正しくすることが最優先」と説明する。ミッキーやドナルド、グーフィー、デイジーが、それぞれの性格にそぐわない行動をしないことを重視したという。

一方で、作品世界を守るだけでは、スポーツとの融合は生まれない。NBAの文化や実際の試合展開をキャラクターの物語に取り込み、ドナルドが活躍したことでSNS上で盛り上がりが生まれるなど、スポーツファン側の文脈も組み込んでいる。

■『ザ・シンプソンズ』のブラックジョークも演出に

『ザ・シンプソンズ』とNFLを組み合わせた「Simpsons Monday Night Football」では、作品側の表現ルールとNFL側のブランド管理をすり合わせる必要があり、調整はさらに複雑になった。

『ザ・シンプソンズ』脚本家兼共同エグゼクティブ・プロデューサーのジョエル・コーエン氏は、「NFL、Disney、『ザ・シンプソンズ』という3つの巨大で象徴的なブランドが関わるなかで、それぞれがキャラクターやブランド表現に強いこだわりを持っていた」と振り返る。

例えば、『ザ・シンプソンズ』らしいブラックジョークを多数用意したものの、選手やコーチを題材にした際どいネタなど、NFL側との調整で採用されなかったものもあったという。その一方で、当初は難しいと思われた表現が認められるケースもあり、コーエン氏は「何が通用し、何が通用しないかという境界を探っていく過程も面白かった」と語る。

ライブならではの制作方法も興味深い。アニメーション中継は、実際の試合より約1分遅れて進行する。その間に制作チームが実際に起きたプレーを確認し、アニメーション側のキャラクターや演出に反映していくという。

例えば試合終盤にタッチダウンが決まった際には、その展開を受けて、バートをクォーターバック、リサをレシーバーとして登場させた。現実のプレーに合わせてアニメーション側の物語も即座に組み立てることで、スポーツのライブ感と『ザ・シンプソンズ』らしいユーモアが掛け合わさり、新たなストーリーが生まれる面白さがある。

ESPNの取り組みは、スポーツを単にアニメーション化するのではない。リアルタイムのトラッキング技術で実際の試合展開を取り込みながら、ディズニーIPのキャラクターや作品世界を重ねることで、その場で新たなストーリーを生み出していく。スポーツとエンターテインメントの融合は、すでにこれまでにない中継体験へと広がっている。