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Withコロナでエンタメ業界はポジティブに変わっていく?〜SURVIVE 2030イベントレポート(後編)

編集部 2020/6/5 09:15

2020年5月18日(月)、テレビ東京の公式YouTubeチャンネル『テレ東NEWS』にてオンライントークイベント「『SURVIVE 2030『Withコロナのエンタメ業界どうなる?テレビ、YouTube、アニメ業界のキーマンが語る」が開催された。

パネリストはフジテレビ チーフビジョナリストの清水俊宏氏、テレビ東京制作局 プロデューサーの高橋弘樹氏、BitStar 代表取締役社長 CEOの渡邉 拓氏、ゲームデザイナー・原作・脚本家のイシイジロウ氏。ファシリテーターをテレビ東京報道局の豊島晋作氏が務めた。

後編となる今回は、来たる「アフターコロナ」時代を見据えた新たなコンテンツのかたちにフォーカスを当てる。

■コロナ後も“残していきたい” 新たなエンタメのかたち

政府や自治体が提唱する「新しい生活様式」では緊急事態宣言解除後もテレワークの継続や密閉・密接・密集の「3密」を避けた行動などを呼びかけており、コロナ前とまったく同じ生活様式に戻ることは難しいという見方だ。

そのいっぽうで、出演者やスタッフが直接対面せず、制作から上演までをすべてビデオ会議システム「Zoom」を介して行う『劇団ノーミーツ』など、この状況下においてさまざまなアイデアを駆使した試みも生まれている。

『劇団ノーミーツ』WEBサイト

コロナ時代を経て、コンテンツの作り方はどう変わっていくのだろうか。

高橋氏:今回のコロナにおける大きなポイントは、撮影機材の革命が強制的に起こったところ。リモートで取材し、また取材されるインフラを使いこなす一の数が、日本全体、世界全体というレベルで一気に多くなった。また、タレントの中には、自撮り用の撮影機材を購入、使いこなす人もでてきた。小型の民生用高画質カメラが市場に出回った際、カメラマンを必要とするENGベースのロケにかわって、ディレクターが撮影するドキュメントバラエティが増えていったように、人々のマインドは(コロナ後)すぐ戻るだろうが、機材やインフラ変化の影響はこのまま続くと思う。

清水氏:コンテンツの届け方は、個々人の嗜好に特化した「パーソナライズ」から「コミュニタイズ」、いわばコンテンツを軸にしたコミュニティが形成されるかたちへと変化していくのではないか。たとえば、「一緒にYouTubeで知らない世界を見ている人たちのコミュニティ」が形成されていく。

『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京)についても市井の人がどういう暮らしをしているのか、「情報を伝える」のではなく「一緒に見る」ことに意味が生まれているのではないか。

オンライン上で同じ画面を一緒に見ながら会話を楽しめる「ピカブル」というアプリがある。動画を一緒に共有しながら見る世界というのは、テクノロジーに注目されたコンテンツの作り方として注目されている。

動画やWebサイトを一緒に見ながら会話できるアプリ『ピカブル』

コロナを経た、新たなストーリーの形にも話が及んだ。

イシイ氏:いまほど素敵な純愛を描ける(時代)設定はないと思う。思えば映画『シン・ゴジラ』(庵野秀明総監督)も東日本大震災(の時代感)を昇華させた。今回(のコロナ禍)は「会えない」ことが決定づけられている。例えば、ちょっと離れた町で付き合った次の日にコロナ(にともなう緊急事態)宣言がでたとしたら──。こういうときの「会えない恋心」は戦争映画並みのドラマを生むだろう。

イシイ氏は、コロナ禍に生まれた新たなエンターテインメントの形で、コロナ後においても「残しておきたい」ものがあるという。同氏は参加者が空間を歩き回りながら謎を解いていくイベント「リアル脱出ゲーム」(SCRAP)を例に挙げた。

イシイ氏:「リアル脱出ゲーム」はこれまで(参加者が)リアルに集まってやっていたが、いまは(3密問題で)できない。そこでZoomでの開催に切り替えたところ、たとえば妊娠などで(外出が制限されて)イベントに足を運べなかった人が再び参加できるようになった。

身体的な理由などで家から出られなかった人も、オンライン開催によって平等に繋がれるようになり、いろんな事情で「(家を)出られない人」とエンタメの入り口が平等になった。これはもとに戻すのではなく、(コロナ後も)残していってほしい。

渡邉氏もこれに同意。

渡邉氏:エンタメ業界ではイベントが大きな打撃を受けているが、一方でオンラインにすることで地方の人も参加できるようになった。イベントをオンラインで開催しつつ、物販などはEC化するという、新たなイベントの形が生まれた。いわば「リアルビジネス2.0」。コロナをきっかけにみなさんと繋がれることで生まれた新しい価値は残していきたい。

■テレビ局のYouTube進出は「負け」?

後半は「質疑応答」として、参加者からの意見や質問にパネリストが答えた。

寄せられたものには「オールドメディアが提供するコンテンツは(いま)視聴者が求めるものと合致していない」「テレビ局がYouTubeに進出してる時点で『負け』」など辛辣なものも。

イシイ氏:みんなは「自分たちにとってのヒーロー」を応援する。例えば、昔のテレビは既存の仕組みを破壊するような番組が多く、自分たちのヒーローのような存在だった。それがいまはYouTubeなのかもしれない。

映画や舞台が登場した際も同じように見られていただろうし、いまで言えば「2.5次元(アニメや漫画をモチーフに上演される)演劇」などもそうだろう。(業界の)内部から下剋上というか、中から腹を食い破って新しい価値観のコンテンツが生まれてくることを期待している。

渡邉氏:また、YouTubeでは「マス(メディア)で語られない裏事情」のような話題や切り口は関心を集めやすい。テレビでは「完璧に作り込まれたもの」が基本でYouTubeのように、すっぴんを見せながら出来上がりを表現していくようなものは見られない(という意識があるのかもしれない)。「そこでしか見ることができないコンテンツ」であれば、メディアが変わっても人気を得られる。

清水氏:「テレビがYouTubeに進出している時点で負け」というのが、それは(テレビ局がYouTubeの)軍門に下った、ということなのか。私たち(テレビ局)も映画を作ったりしているが、映画に進出したらテレビの負けということになるのか。

フジテレビに入社したとき、上司から「テレビはどんなに頑張っても売り物(の放送枠)が(1日)24時間しかないのだから、(放送外でも)売れるものを考えろ」と言われた。それがイベントだったり映画だったり、グッズだったり。コンテンツに接してくれる場所があるなら、そこに進出していくのが自然ではないか。人々がYouTubeをたくさん見ているなら、そこに向けてテレビ局がコンテンツを流すのはおかしいことなのか。

清水氏が続ける。

清水氏:『フジテレビュー!!』の動画コンテンツとして、映画『ジェミニマン』公開にあわせて(主演の)ウィル・スミス来日を記念した3時間特番を制作した。

いくらウィル・スミスが優秀(なパフォーマー)でも、地上波で3時間枠を割くのは難しい。来日のタイミングでインタビューが撮れるし、吉本芸人も参加してくれるということで、(ウィル・スミスが親しい)ジャッキー・チェンの物まねをする芸人・ジャッキーちゃんと対面させてみた。こういう番組は、地上波ではできない。

それ(テレビ放映前提)じゃないコンテンツの作り方がある。たくさんの人が面白いと思ってもらえる場所があるなら、そこに向けて展開していく。

■Netflixは脅威か?

続いて参加者からは「Netflixについてはどう思っているか?」と質問が。

清水氏:Netflixでの人気動画には、フジテレビ制作のコンテンツも多数ある。どこの軍門にも下らずに(テレビ局は番組を)作っている。面白い番組もテレビでの放送が終了してしまうと新たなシリーズを制作する機会は少ないが、(Netflixでの配信によって)復活できたこともある。

Netflixは脅威であることは間違いないが、では敵でしかないかというと、そうではない。テレビとしてやれることを考えれば、いろんな手段があると思う。

なお、最近ではFODで配信を始めたリメイク版の『東京ラブストーリー』が人気で、一種のリバイバルブーム的に『東京ラブストーリー』(フジテレビでは1991年放映)もよく見られている。古い作品も評価されるようになっていて、大きなチャンスがある。

高橋氏:Netflixはお金(制作費)をかけて、よりケレン味のある演出を楽しむ場というイメージがある。テレビはBGMがわりに(部屋に)流したり、ながら見、受け身的な楽しみ方がある。

テレビのいいところは、興味のない人も受動的にコンテンツにふれられるところ。メディアの特性が違う。

むかしロケに行ったとき、お年寄りの方に「すごくテレビが好きだ」と言われた。90歳の人と10歳の人が同じく楽しめるのがテレビ。営業上の勝ち負けはあるだろうが、コンテンツとしての勝ち負けではなく、適材適所だと思っている。

イシイ氏:現在Netflixの人気コンテンツはオールドコンテンツが主体。そのうち(Netfilixは)やってしまうかも知れないが、今の時点ではあまり脅威には感じていない。 昔のテレビが映画を壊そうとしたときのような「見たことない作品」が出てこないといけないと思う。そういった意味ではYouTubeのほうが脅威に感じる。

■「それによって救われる」人がいる限り、作り続けたい

まとめのテーマは「不要不急のエンタメ されどエンタメ」。パネリスト全員がこれからのコンテンツづくりの方針について意見を述べた。

渡邉氏:プラットフォームの議論などいろいろあるが、大事なのはコンテンツ。オンライン、オフライン問わず継続的に提供していきたい。

高橋氏:『家、ついて行ってイイですか?』はスタッフだけで150人位いる。コンテンツを生産しない=収入がない、ということに直結する人もいる。とくにフリーランスの人はすぐに収入がゼロになる。こうした人々の生活も守らないといけない。

エンタメの人は、制約のなかでどうふざけるかが本分。「(コロナ感染防止のために)外出しない」という条件のなかでどう生産していくか。制約のなかで生産し続けるのが大事。

清水氏:「不要不急」という議論は(コロナ)感染を広げないためにも必要だが、生活に潤いを与える存在も大事。私自身は「新しい時代の伝え方」を作ることを考えたい。

テレビで完結するものもあれば、(異なるコンテンツや)番組同士で組んだりと、ストーリーテリングにも変化が起きている。(発信するコンテンツが)毎日の潤いになるよう、やっていけたらと思う。

イシイ氏:(自身がシナリオ・世界観監修を手掛けるテレビアニメ)『文豪アルケミスト』(テレビ東京)は、文学の存亡をかけ、文豪たちが悪と戦う話だ。先日(放送回)は「もしも文学がなくなったら、どうなるか」というテーマを扱った。

文学がなくなっても、世界自体はかわらない。本屋に行っても文学(の棚)がない、というだけだ。しかし文学がなくなったら、これまで文学に救われてきた人たちの行き場がなくなってしまう。作中でも(世界から文学がなくなったことで)文学に救われてきた人が心のよりどころをなくし、出会ったふたりが別れていくというストーリーを描いた。

エンターテインメントがなくなっても、ぱっと見世界は変わらない。でも、ゆるやかに人間が死んでいくだろうと思う。短期的にはエンターテインメントは不要不急かも知れないが、「それで救われた」という人の気持ちをフォローしながら作品を作っていきたい。

「質疑応答」をきっかけに議論は白熱。当初の予定終了時刻を大幅に超えてさまざまな意見が飛び交い、盛況のイベントとなった。

締めくくりに司会の豊島氏が「(表現の)規制は簡単だが、それが積み重なっていくと、ゆるやかに社会が死んでいくと思う。今回は、そういうものを考えるきっかけになったのではないか」とまとめ、およそ2時間にわたるイベントが終了した。

【前編】「何もできないとき」に何をするか?フジテレビの取り組み〜SURVIVE 2030イベントレポート

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