13 JUL

アフターコロナのメディア取材はどうなる? 〜Tokyo Venture Conference 2020 レポート

編集部 2020/7/13 08:00

2020年6月24日(水曜日)、起業家コミュニティ『U30 CXO COMMUNITY』を主宰するSTARS株式会社とスタートアップ支援事業を展開する株式会社Isによるオンラインイベント『Tokyo Venture Conference 2020』が開催された。

さまざまなテーマによるトークセッションが行われたうち、今回は「テレワーク」をテーマに行われたセッションの模様をレポート。コロナ下においてテレビ局の取材現場ではテレワークをどのように活用したのか、キー局の担当者らのリアルな声を聞きつつ、アフターコロナにおける新たな取材のかたちを探る。

本セッションにはパネリストとして、フジテレビジョン コンテンツ事業室 チーフビジョナリストの清水俊宏氏、読売テレビ 編成局チーフプロデューサー・一般社団法人 未来のテレビを考える会 理事代表幹事の西田二郎氏、テレビ東京 元『ワールドビジネスサテライト』トレたま統括デスク・現『カンブリア宮殿』プロデューサーの浅岡基靖氏が参加。

モデレーターを株式会社PR TIMES取締役 経営管理本部長 三島映拓氏が務めた。

■報道・バラエティ・経済… 各番組へのコロナの影響は

まず冒頭、報道・バラエティ・経済さまざまな分野の番組制作における取材の情報収集の現状をパネリストらが語った。

報道番組においては「元(通り)にではないが少しずつ通常に戻ってきており、取材現場に直接足を運ぶケースも増えてきている」と、清水氏。

フジテレビジョン コンテンツ事業室 チーフビジョナリスト 清水俊宏氏

清水氏:(緊急事態宣言中は、街頭での)取材がしづらく、マイクを向けるのもどこまで許されるか、どこまで街頭インタビューして意味があるのかまで気を使わなければいけなかった。いまは街なかでも情報を聞きやすくなったり、記者会見も間隔を空けつつではあるがやりやすくなってきた。

経済番組においては「(緊急事態宣言解除にともない)都道府県をまたいだ移動も可能になったので、柔軟に(取材が)できるようになってくると思う」としながらも「局としては(外への移動や3密への)規制をかけているので日々工夫という感じ」と浅岡氏。

テレビ東京『カンブリア宮殿』プロデューサー 浅岡基靖氏

浅岡氏:取材班をA・Bと分け、今日はA班が(外で取材を)担当し、残るB班は(スタッフが)家でひたすらリサーチ(業務を行う)、というように(対応している)。外で取材した人間は局に戻らず、(収録した)素材だけをカメラマンが(局内に)持ち込む。(取材場所への)集合も現地集合とし、原稿も取材した人が(局には戻らず)家で書く。(番組スタッフの)人数が少ないため、(緊急事態宣言解除後の)今も大変な状況は続いている。

経済番組においてはその性質上、企業への取材も多くなるが、緊急事態宣言中においてはオフィスへの立ち入りも難しい。そのような場合において最新の情報をどのように取得していたのか。浅岡氏は続ける。

浅岡氏:企業からはプレスリリースで情報をもらい、それに対して問い合わせを行っていた。これまで行ってきた取材の蓄積をふまえながら広報担当者や社長にリモートや電話で近況を聞きつつ、チャンスがあったら取材(の可能性)を探る、というフローを毎日行っていた。

もともと大人数での収録、大声での会話が多かったバラエティ番組の収録現場は──。西田氏は「少しずつ(規制が)解かれているとは言え、いままでのような条件には戻っていない」と語る。

読売テレビ 編成局チーフプロデューサー 西田二郎氏

西田氏:(スタジオ収録の)観覧者が大声で笑ってくれている様子も番組(のテイスト)だったりする。そういった意味では、コロナ期間はテレビの中に「みんなで笑う瞬間」がなくなってしまった。

「(観客の)笑い声を入れると(密な印象を与えて)違和感があるんじゃないかと。これはテレビの歴史を見ても大きい」と西田氏。「バラエティは言葉の“あや”や時間を提供しているので、距離が離れることで作る側も演じる側も苦労があったのではないか」と語った。

■「リモート画質」が許容されるようになった

一方、テレ(リモート)ワークの浸透によって受けた恩恵は。

清水氏:このセミナーに集合する15分前まで全然違う仕事をしていた。リモートだと(あらかじめ取材先から)素材を提供してもらうなど、無駄のない取材の形が生まれてきた。

西田氏:リモートは、(相手に)つなげばすぐ取材できる。どこでもドアみたいなものとも言える。リモートという画面に対する見方を視聴者も心得てきているのではないか。マイナスの状況からイノベーティブなものが生まれることもある。

出演者がスタジオに向かわず、自宅などからテレワーク形式で参加する番組も増えてきた。番組制作を前提としないテレビ会議システムを使用する場合など、これまでの画質のクオリティを維持することが難しいケースもあるが、こうした状況についてパネリスト陣はポジティブな見方を示した。

浅岡氏:画質が悪くても「こんなときだから(仕方がない)ね」と許容される。見てくださる視聴者さんはそこまで画質は気にせず、きちんとした情報を得たいのだなと感じた。作る側も見る側も「こういうものなんだ」と順応したように思う。

西田氏:画質が悪いことはチャンネルを変える要因にはならないのだと気づいた。(視聴者側が)「仕方ない」と許容してくれたことは大きい。

清水氏:(リモート収録の浸透をきっかけに)プロ(クオリティの)コンテンツが作れるというテレビの強みが再認識されるかもしれない。

■コロナによって縮まった「距離感」

「コロナをきっかけに、作り手と企業広報の距離感がぐっと近くなった」と浅岡氏。

浅岡氏:これまで(メディアと企業広報は)お互い利害を抱えていたが、コロナという共通の敵が出来たことで、一緒になって(取材方法を)考える機会が増えた。企業側で撮影してもらった素材を(放送で)使わせてもらったケースもある。

清水氏:これまでは「現場で取材しないと信用できない」というメディア側の論理もあったが、(コロナ下の現在は、現場に)行くこと自体が迷惑になる。きれいに(素材を)撮りたいので、向こう(企業側)で(カメラを)回してもらうということも増えた。

リモート取材が主流となることで出演者や取材対象者がリラックスした表情となり、これまで得られなかったような自然体のコメントを得られるようになった、という。

清水氏:テレビカメラを向けると、(緊張から出演者が)普段使わないような(堅苦しい)言葉を使ってしまったりする。その点、リモート取材の場合(は出演者がカメラの存在を意識せず)独り言のように(自然で)自由なコメントを得られたりした。

西田氏:(演出を手掛けていた)『ダウンタウンDX』ではタレントの日常を大切にしたいという思いがあった。(タレントの日常を撮影する企画の際)スタッフが(自宅に)行くと(カメラを)意識してしまうので、デジカメをタレントに渡し、自撮りで撮影してもらうという試みをだいぶ前からやっていた。(現場に)足を運ばないことが失礼ではなくなっている。

清水氏:海外企業のインタビューなど、現地に支局がなくてできなかった地域の取材がZOOMを通じて気軽にできるようになったのは大きい。最近ではZOOMの音質でも十分オンエアに耐えられるという意識が増えてきたので、テレビのコンテンツがさらに豊かになっていく可能性を感じた。

西田氏:ZOOMで収録している、ということがちゃんと取材している証拠になる。(リモート取材という形式を取ることで)「取材対象がちゃんとその時間にいた」ということが担保されるという、新たなリアリティの形が生まれた。

■メディアが企業広報に求めるアプローチとは

今回のセッションはスタートアップ企業関係者が対象ということもあり、新たなメディア向け広報の形をパネリストに向けて問う場面も。終盤は、アフターコロナ時代の新たな取材手法を前提とした「企業広報」の形が論じられた。

三島氏:メディアが直接取材できない状況であれば、企業広報としては素材を提供したいと考えている。その点についてはどうか?

西田氏:ソースを得るために足で稼ぐことが(感染防止の観点から)出来なくなっているいま、(広報担当者など、これまで取材対象者であった)現場から寄せられる情報がメディアにとっても不可欠になるのではないか。

三島氏:メディア側は、寄せられた情報をどんな基準で選んでいるのか?

浅岡氏:我々はこれまで(世の中における)変化を見つけてニュースとして伝えてきた。

以前、とあるコンビニの担当者が「売れ筋商品が変わった」という話を教えてくれた。これまではいわゆる「孤食」と呼ばれる一人用の商品展開が多かったが、コロナをきっかけに6枚入りの食パンなど家族向け商品がまとめ買いされるようになった。調べると、混雑を避けるため、これまでスーパーで購入していた層がコンビニに流れてきたことがわかった。

営業担当者からの話など、『社内取材』を通じて感じた『変化』の話を広報の方からもらえると、メディア側からもアプローチしやすい。

清水氏:(コロナによって)情報(そのものの総量)が減っているので、プレスリリースの内容の変化を細かく見るようになった。テレビは視覚と聴覚が基本なので、(直接)取材に行けないとなると、(背景の)ストーリーやその変化、時代感を強く打ち出していく形となる。最近は企業広報側でもこの点を意識している人が多く、メディアとの連携が出来てきたように思う。

三島氏:企業の窓口として、広報担当者は「うかつなことを言えない」と身構えてしまっているところがあるかもしれない。

浅岡氏:ポジティブな面ばかりでなく、失敗(のエピソード)も隠さずに教えてくれることで(全体の)イメージがわく。「こんな失敗したことがある、それを解決するためにこういうものを作った」というストーリーが描ければ、より深堀りした情報を伝えられる。取材に関する連絡がメディアからあった際には、ぜひ「リリースに書いてない情報」を伝えてほしい。

広報担当者の参加を想定したこともあり、メディア側からの声としてはかなり「本音」の部分が感じられた今回のセッション。コロナにおけるテレワークの浸透はこれまでのメディア取材が抱えていた物理的・心理的な「壁」を大きく壊し、取材者との心理的距離を大幅に縮めたように思える。「素材提供」という点で見ても、これからは企業広報側も独自にメディア機能を持つようになり、一種のニュースソースとしてメディアに対する存在感を増すところが出てくるかもしれない。コロナによってメディアに起きた「変化」のもうひとつの側面が、今回のセッションによって浮かび上がった。