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テレビ局だからこそできるWEB施策に期待 読売テレビ『帰ってきた!どっちの料理ショー.web』インタビュー(後編)

編集部 2020/11/27 08:00

1997年から2006年にかけて放映された読売テレビの人気料理バラエティ『どっちの料理ショー』が、キリンビールの人気酎ハイ「麒麟特製レモンサワー」とのタイアップ企画『帰ってきた!どっちの料理ショー.web』として、同社キャッチアップサービス「ytv MyDo!」と「TVer」「GYAO!」で11月19日より配信がスタート。

本稿では引き続き、讀賣テレビ放送株式会社 営業局 営業企画部 専門部長 兼 東京営業センター 東京営業推進部の中村元信氏、同東京営業センター 東京営業部の佐藤航氏にインタビュー。

左から)中村元信氏、佐藤航氏

後編となる今回は、レギュラー放送時のスタッフが再集結して行われた制作の舞台裏、そしてキャッチアップという媒体の特性をフルに活かした番組設計の方法論について深く掘り下げる。

■「どっちにしよう」と“迷う楽しみ”を突き詰め、商品訴求につなげる

──あらためて、今回の『帰ってきた!どっちの料理ショー.web』の内容について教えて下さい。

佐藤氏今回は「『麒麟特製レモンサワー』に合うのはどっち?」というテーマのもと、キリンビールさんとも日頃からお付き合いがある飲食店さんの中から、番組が「ここぞ!」と思った名店2店舗にご出演頂き、それぞれのご自慢メニュー「餃子」と「メンチカツ」が直接対決するという内容です。登場する商品はどちらもお取り寄せが出来るグルメになっていて、番組内でお取り寄せ方法もご案内することで、視聴者の方が『麒麟特製レモンサワー』とお料理を一緒に楽しんでいただけるよう、商品の訴求につなげる仕掛けも設けています。

──今回の企画では、どんな層をターゲットとしていますか?

佐藤氏やはりまずはクライアントに貢献する意味で従来のレモンサワーファンの方や、レモンサワー未体験者の方にも見てもらって購買に貢献したいという気持ちが第一ですが、『どっちの料理ショー』を楽しまれていた方に「あぁ! あったなー、こういう番組」と懐かしんでいただけることも楽しみにしています。更には「どっちの料理ショー」という番組をリアルタイムで見たことのない若い方たちからも感想の声が挙がってくれたら嬉しく思います。

──『どっちの料理ショー』のテイストを踏襲しつつ、番組としては新たな軸を志向するということですが、具体的な企画設計はどのようにして行われたのでしょうか。

中村氏『どっちの料理ショー』は、「2つの料理を登場させ、どっちをより食べたいか」を競うというテーマ自体がまず画期的であったと思っています。カットバックで2つの料理を交互に映したり、収録時、タレントさんにあえてお弁当を出さず腹ペコな状態にして、食べられなかったらリアルに悔しんでもらうといった演出をレギュラー放送時には盛り込んでいましたが、やはりもっとも力を入れていたのは「美味しそうな映像を見せる」という部分でした。今回も、ここに特化させる形で企画設計を行っていきました。

──今回の『帰ってきた!どっちの料理ショー.web』では、出演者は登場せず、食べ物そのものを前面に押し出した構成となっていますね。

中村氏今回はあえて「タレントさんを出さない」という方向性を打ち出しました。いま人気の方をキャスティングするという考えもあったんですが、『どっちの料理ショー.Web』においては、そこをあえて無くそうと。視聴者の方自身が出演者の気持ちとなって『どっち!?』をリアルに悩んで楽しんでいただく番組を目指すことにしました。

今回、制作に着手するにあたって、最初に「『どっちの料理ショー』と聞いたとき、視聴者のみなさんはどんな光景を思い浮かべるだろうか」という問いかけを自分たちに対して投げかけました。出演者のみなさんのワイワイとした雰囲気も浮かびましたが、やはり最終的に強く印象に残っていたのが、「たまらなく美味しそうな料理」という光景だったのです。

今回はキリンビールさんの商品、そして飲食店さんという座組をしっかりと際立たせ、そのうえで『どっちの料理ショー』の世界観が活きているという構図を強く意識しました。

超人気店の「餃子」と有名老舗料理店の「メンチカツ」が登場!

──番組の持っていたシズル感、「どっちにしようか迷う」という要素を最大限に活かしたのですね。

中村氏似たようなジャンルで2つの選択肢があるから、人間は迷うんです。それをとことん突き詰めたのが『どっちの料理ショー』だったんです。変にあれこれ要素を詰め込みすぎて軸がブレてしまうよりは、「どっちの料理にしよう?」と迷わせる面白さを見せることに絞り込もうと、企画の方向性がいっきに固まった瞬間でした。

ですので今回は名物ナレーターの木村匡也さんや関口伸さんの声質を生かし、「カットバック」と呼ばれる、途中から割り込んで入ってくるような演出を駆使することで、『どっちの料理ショー』らしさを突き詰めました。

キリンビール「麒麟特製レモンサワー」にピッタリな“お取り寄せ品”はどっち?

■テレビという「職人チーム」だからこそ伝えられる魅力

──地上波でミニ番組を展開したり、インフォマーシャルとして展開したりする選択肢もあったかと思います。今回キャッチアップでの配信を選んだのはなぜですか?

中村氏新たなプラットフォームで『どっちの料理ショー』を復活させることで、どんな化学変化が生まれるのか、ということに期待してみたいという思いがありました。

キャッチアップの視聴手段もさまざまに増えていますが、基本的にはPCやスマートフォンで視聴される方が大多数です。私たちテレビ屋としても、こうしたデバイスに向けて親和性の高い番組作りに取り組むことで「テレビ屋が本気を出したらどんなコンテンツになるのか」それを見た人たちにどう受け取られるのか機会を作りたいと思ったのです。

佐藤氏企画の実施が決まり、新たに動画制作を検討する当初から「テレビ局としてWEB上で差別化するためには?」という思いが念頭にありました。昨今、YouTuberのようにひとりで撮影から発信まで行うというスタイルも一般化しつつあるなか、プロデューサー、ディレクター、カメラマンや照明さんといった“職人チームの集まり”だからこそ伝えられる魅力があるのではないか、と。

一つひとつの工程や技術の丁寧さ、見る人・出る人を可能な限り傷つけず、「みんな」を笑顔にしようと作る姿勢── こうした「テレビの底力」が詰まった動画を、15分サイズにギュッと濃縮して、見ていただく。そうすることで、視聴者のみなさんが目にするさまざまな動画コンテンツのなかでも、「飛び抜けて美味そう!」という気持ちをかきたてることができるのではないかと考えました。

──今回の番組に、レギュラー放送当時の制作陣は関わっていますか?

中村元信氏

中村氏カメラマン、照明、ナレーターをはじめ、プロデューサーやディレクター、さらに音効さんにいたるまで、すべてレギュラー放送当時と同じスタッフが参加しています。番組の開始から終了まで、一丸となって「いかに料理を美味しく撮るか」に心血を注ぎあった仲間たちです。

──『どっちの料理ショー』の味を作り上げた人々が、再集結したのですね。

中村氏レギュラー放送時、私自身も演出としてスタッフの一員でしたので、懐かしい面々がふたたびこうして集まってくれたことに感無量の思いでした。

「美味しそうに見える最高の1カット」のため何時間も粘る、気骨とこだわりにあふれたプロフェッショナルの仕事が今回の番組にはたっぷりと込められていますので、キリンビールさんにもきっと満足していただけるのではないかと自負しています。

■「企画の独り歩き」をさせない

──番組に登場したメニューを実際にお取り寄せできる、という仕組みは画期的です。ひとつの完成された仕組みとしてコマースなどにも応用できそうですが、いまの時点でどのような展開を考えていますか?

佐藤航氏

佐藤氏今回はキリンビールさん協賛のもと、つながりのある飲食店さんにご登場いただきましたが、現状、お店に人が密集することを避けなければいけない背景があったので、お取り寄せを日頃から実施されているお店に絞らせていただいたという経緯があります。

「番組を見て、そのままメニューを取り寄せできる」という流れは視聴者のみなさんにとっても便利さを感じていただけるものと思っていますが、『どっちの料理ショー』というブランドを活かしていくとき、最終的に強みとして残っていくのは「どっちの料理を食べるか、ギリギリまで悩む」というコンセプトの部分ではないかと思うのです。

「2つの対決軸」というフォーマットのうえで何を対決させるのか、というのは、これからいろんなクライアントのみなさんと協議のうえで決めていく部分だと思っています。場合によっては今回のような「お取り寄せフォーム」とは違ったアプローチのほうが有効なケースも出てくるでしょうし、そのあたりはその都度柔軟に考えていけたらと。

もっとも、スマートフォンでコンテンツを見たあとにそのまま購買行動につなげられる、という点は大きなメリットですので、そういったWEBで注文できる仕組みづくりというのは、なるべく取り組むべきポイントかなとは思っています。

──番組の味として守っていくべき部分はしっかりと守っていく、ということですね。

佐藤氏『どっちの料理ショー』では料理の魅力を伝えるにあたり、疑問や謎を提示して視聴者の興味を引っ張る“種明かし”のようなスタイルではなく、最初から全力投球な映像で“美味そう!”を明快に伝えきったうえで、「実はさらに! 旨さにはこういう秘密があって……」と、どんどん“深堀り”していくことで最後まで見せきるというのが大きな特徴かと思います。

そんな「深堀りできる要素のあるもの同士しか戦わせない」という方針を今後も制作陣は変えないと思いますし、クライアントさんもそれに賛同いただけることが大事だと考えるようになりました。「なんでも二項対立させれば行けますよ」というように安易な手軽さで成り立つものではないなと。

──「パッケージ化」という考えとは真逆を行くことに意義があると。

佐藤氏営業としてはどうしても箱物的といいますか、企画が独り歩きして売れていくようなものを求めてしまいがちにはなるのですが、それだとどうしても、結果的に世の中に対して「伝わるもの」は出来上がりにくいように思うのです。

第1号として企画のベースがあったとしても、案件のたびにカスタマイズや再構築を経ながらどんどん進化していくことで、第2号が生まれていくものと考えています。「こういう仕組みなので、こういうことができますよ」というような形で、企画を独り歩きさせるのはちょっと違うなと。クライアントさんやさまざまな方々のニーズを丁寧に汲みながら、一つひとつ一緒に作り上げていく、ということに尽きるのではないかと考えています。

中村氏番組にしても広告にしても、テレビ局というものは視聴者からの信頼なしには成り立たない存在です。私たちが美味しくないと思うお店を「美味しいよ」と紹介してしまっては、信頼関係を損なうこととなってしまい、ひいてはそれがスポンサーさんへの信頼感にもつながっていってしまいます。なのでそこのところはきっちりと、視聴者のみなさんの信頼感を裏切らないような番組作りに取り組んで、その結果としてスポンサーさんにも満足していただける、という流れを本当に大事にしていかなければいけないと思います。

■テレビ局だからこそできるWEB施策に期待「在阪局は、キー局以上にチャレンジングでいなければ」

──今後、番組に関連して行う予定の告知施策はありますか?

佐藤氏弊社の「ytv MyDo!」や「TVer」上で、20歳以上の方々に向けた番宣CMを配信するほか、地上波でも「『どっちの料理ショー』復活!」と銘打った番宣を関西ローカルのスポット枠とローカルセールス枠で展開予定です。

また今回、『どっちの料理ショー』が復活する、ということに対して社内から応援や懐かしみの声も多く上がっていて、部署をまたいで多くの人が協力してくれることになりました。宣伝部が配信しているメルマガや、弊社主催のイベント会場でのチラシ配布、またデータ放送画面での告知なども予定されています。

──最後に、今回の企画を振り返っての感想をお願いします。

中村氏今回、企画として推進していくポイントを明確にするにあたって、「何かを捨てて何かを選ばなければいけない」という決断の場に直面することとなりました。その結果、レギュラー放送で登場していたタレントさんをあえて起用しない、という判断にいたったわけですが、もしかすると視聴者さんのなかには「自分のイメージしていたものと違う」と感じられる方もいらっしゃるかもしれません。

ただ、それこそ「テレビ局のひとりよがり」ではなく、みんなを幸せにしたいという思いのもと、視聴者のみなさん、クライアントさん、登場いただいた飲食店さんの三方に喜んでいただける、有益な情報になっているという自信があります。『どっちの料理ショー』の世界観が、いまの時代に受け入れられるような形になってくれたらと願っています。

佐藤氏テレビ放送当時、番組に関わっていたスタッフが現在では局の上層部に就いていたりするように、今回の企画は、会社全体として、誰かしら何らかのかたちで『どっちの料理ショー』に携わってきたのだ、という歴史に触れる機会にもなりました。

こうしたことも背景にあったので、営業だから営業売上だけを見ていれば良い、という考えではいけないなとも強く感じました。部署横断を常に意識して行動するぐらいの気概でなければ、キー局のメディアパワーにはとても勝てず、在阪局は危ない立ち位置になってしまうなと。

地理的な制約のないWEBメディアは、コンテンツが同時に見比べられる意味でフラットな勝負の場であるとも言えると思うのです。そんな勝負の場おいて、500人規模の在阪局として今後も社内一丸となってアイデアを出し合い、いろんな過去のコンテンツ資産も活用しながら戦っていくことで、ようやく日本テレビさんをはじめキー局と肩を並べられる道も見えてくるのだと思います。

会社としてはキー局以上にチャレンジングでいなければならないという状況のなかで、今回の企画をきっかけに、WEBが“会社にとってのトライアルの場”としても注目され、コンテンツメーカーとして、いろいろな企業を元気にしていきながら自分たちも元気になれるように、「テレビ局だからこそできるWEB施策」をこれからも積極的に開拓する機運が生まれたらと期待しています。

【関連記事】読売テレビ×キリンビール「帰ってきた!どっちの料理ショー.web」担当者インタビュー(前編)

『帰ってきた!どっちの料理ショー.web』公式HP

『帰ってきた!どっちの料理ショー.web』「ytv MyDo!」

『帰ってきた!どっちの料理ショー.web』「TVer」

『帰ってきた!どっちの料理ショー.web』「GYAO!」