07 DEC

ローカル局が取り組む国際共同制作の可能性~「TIFFCOM2020」レポート後編

編集部 2020/12/7 08:00

日本で唯一の国際映画製作者連盟公認の国際映画祭である「東京国際映画祭(TIFF)」併催の国際コンテンツマーケット「TIFFCOM」が、今年は完全オンライン形式で11月4日~6日の3日間にわたって開催された。そのなかで柱の1つにあったのがセミナー企画だった。日本政府が支援する共同制作プロジェクトを紹介する機会も設けられ、民放ローカル局による4つの成功事例が共有された。海外パートナーとどのように実績を積み重ね、成功に至ったのか。プロジェクトの概要をまとめた前編に続き、後編では山形放送、TSKさんいん中央テレビ、関西テレビ、RKB毎日放送の登壇内容をお伝えする。

■マレーシアで人気のアニメキャラクターがMC、山形放送の東北観光番組

BEAJシニア・アドバイザーのマチュー・ベジョー氏

総務省支援の共同制作プロジェクトを事業として取りまとめるBEAJ(放送コンテンツ海外展開促進機構)シニア・アドバイザーのマチュー・ベジョー氏が、1つ目の成功事例に紹介したのは「番組MCはマレーシアで人気の3DCGアニメキャラクターが務める。撮影のためにマレーシアから番組MCが日本に来る必要なく、コロナ対策されているプロジェクトになる」というものだった。この山形放送とマレーシアが共同制作する旅番組『Fly with Yaya TOHOKU』は6話完結の5分番組で、東北6県の魅力を紹介する内容となる。番組MCはアニメシリーズ『BOBOIBOY』に登場する「Yaya」という名前のムスリム教徒の女の子キャラクターが使われている。

セミナーに登壇したプロデューサーの山形放送(クリエイティブマインズ合同会社代表)小木曽育子氏は「Yayaの視点で視聴ターゲットのマレーシアのイスラム教徒に寄り添いながら、ムスリムフレンドリーな旅を取り扱っている。また家族で楽しめる内容を目指し、東北三大祭りの秋田で開催される秋田竿燈まつりの紹介ではYayaが竿燈を操る体験を伝えた」と番組の魅力を伝えた。

マレーシアで人気の3DCGアニメキャラクターを起用した山形放送の国際共同制作番組『Fly with Yaya TOHOKU』は国際アワードでも評価を受ける/山形放送提供

東北エリアの魅力を熟知する東北の制作会社が集合体である一般社団法人東北インバウンド協会が、現地スタッフと十分なコミュニケーションでロケ地での撮影を、マレーシア側はアニメ制作を担当するなか、「マレーシア側からロケ地候補のアイデアをもらいながら、双方で話し合いながら決めていった。マレーシアのアニメーション監督は撮影現場にも参加し、どのように撮影し、どこにYayaを入れたらいいかのか、確認する作業も行った。蔵王山上空を飛ぶYaya視点でドローン撮影できたことは非常に良かったと思う」と制作過程についても説明した。

マレーシアのアニメーションスタジオAnimonsta Studio Sdn.Bhd.から寄せられたコメント映像では「SNSでの反応が高く、多くのマレーシア人が日本の東北文化を学ぶことができ、訪問することに興味を示していた」と伝えられた。マレーシアの放送局Astro Primaでは好調な視聴率結果を残し、公式YouTubeチャンネルでは1200万再生を突破したという。世界最大手ライセンシング団体ライセンシングインターナショナル主催のエクセレンスアワーズ最終選考へのノミネートや、イギリスのメディアTBI主催イノベーション&インテグリティ賞でノミネートを果たすなど評価も受けている。

■通訳がカギになったTSK、インバウンドマーケティングに活かすカンテレ

2つ目のケーススタディもマレーシアとの共同制作となる。2014年からプロジェクトに参加するTSKさんいん中央テレビがマレーシア最大手のメディアMedia Primaと共同制作した情報番組『Wa!Journey -Discover JAPAN PRIDE-』が紹介された。シンガポールとマレーシアのリポーターらを日本に呼び寄せ、日本製品や観光地をPRする内容のもので、日本で制作し、マレーシアで放送されている。

TSKさんいん中央テレビがマレーシア最大手のメディアMedia Primaと共同制作した情報番組『Wa!Journey -Discover JAPAN PRIDE-』のメインMCアニータ・カプールら/TSKさんいん中央テレビ提供

登壇したさんいん中央テレビ海外事業担当スタッフのナタリア・ボルホドーエワ氏が「優秀なレポーターと制作スタッフに加えて、大事な役割を通訳の女性が果たしてくれた。互いに言葉が通じなくても良い番組を作るためにはコミュニケーションを円滑にする優れた通訳が必要になる。私の故郷のロシアを含めて、あらゆる国で共同制作の可能性を見出したい」と成功の秘訣を語ると、続けてベジョー氏が解説した。

「言葉の壁を乗り越えた取り組みが番組から伝わってくる。外国人が日本を訪問する時、言語が通じるのか、意思疎通を図ることができるのかと思うことは少なくはないが、言葉の問題を心配する必要はないと思わせてもくれる。国際共同制作は互いの信頼関係が鍵を握る。それを構築するのには時間も必要になり、長年にわたって政府のサポートを受けることができたことも大きい」。

総務省の共同制作プロジェクトで支援を受けた場合、その助成金は放送枠の購入に充てられることが多いが、3つ目のケーススタディは先を見据えた助成金の活用が行われている成功例である。カンヌをはじめ各地の国際番組流通マーケットに積極的に出展し、自社制作ドラマの海外セールス展開を進めている関西テレビがエンターテインメント旅番組『走れ!ガリバーくん(Run! Gulliver!)』をベトナム国営放送局VOVと共同制作したもので、これまでベトナム版は20エピソード分が制作、放送されている。

関西テレビとベトナム国営放送局VOV共同制作番組『走れ!ガリバーくん(Run! Gulliver!)』の「鳥取砂丘」エピソードの場面写真/関西テレビ提供

登壇した関西テレビのコンテンツビジネス局東京コンテンツ事業部次長(海外)の佐藤一弘氏は助成金の活用について「制作費と広告費に充てたことによって、番組の質を向上させ、日本のイメージアップとインバウンドマーケティングを目的としたプロジェクトを進めることができた」と説明した。この取組みをきっかけにVOVでは2018年にホテル、航空、レストランなど旅のコンテンツを揃える観光プラットフォーム「ベトナムジャーニー」を立ち上げることになったという。日本政府の番組プロジェクトにはこのような波及効果も及ぼしている。VOV国際協力局長グエン・トゥイ・ホア氏のコメント映像では「今回の共同制作はベトナムと日本の文化・経済の相互理解を深め、新たなビジネスチャンスをもたらすものになった」と伝えられた。

■自走化の成功事例を生み出したRKB毎日放送の3社共同制作番組

最後の4つ目のケーススタディはRKB毎日放送の成功事例が紹介された。過去に政府の共同制作プロジェクトに参加した経験を活かし、自走化を実現した例になる。番組タイトルは『DAN AND PADDY’S BUCKET LIST KYUSHU JAPAN』というもので、RKB毎日放送とイギリスのプロダクションKillion Films、インドの旅行チャンネル「Travelxp」の3社による共同制作である。九州を紹介する30分の観光番組(10エピソード)がイギリスをはじめ28か国以上で放送実績を作っている。制作体制はKillion Filmsが企画・プロデュース、Travelxpが撮影・編集し、RKBは撮影の手配やスケジュール調整などを担うかたちで、総制作費は3社で分割された。

RKB毎日放送の成功例番組『DAN AND PADDY’S BUCKET LIST KYUSHU JAPAN』に出演するPaddy Doherty(写真左)とDaniel Coll/©Travel xp / Killion Films / KTPO / RKB

登壇したRKB毎日放送メディアイノベーションセンター海外戦略担当部長の木下由里子氏は共同制作に至った経緯について「Killion Filmsのプロデューサー、ダニエル・コールさんとは2年前のカンヌMIPCOMで出会った。自社制作ドラマや料理番組などを海外セールスするために参加したが、ヨーロッパのバイヤーになかなか興味を持ってもらえなかった。もともと日本人向けに作られたコンテンツということもあり、上手くいかないことを実感し、現地で思い切ってプランを変えることにした。共同制作のパートナーを探し始めると、ダニエルさんに出会った」と説明した。

Killion Filmsのダニエル・コール氏もコメント映像で「Travelxpがイギリスに新拠点を作るタイミングでもあり、トントン拍子に話が進み、共同制作の契約を結ぶことになった」と応じ、撮影中や放送後の反響も満足できるものであった様子だ。「九州での撮影は木下さんが効率的に撮影準備してくれたおかげで、予定通りのスケジュールで進み、素晴らしい番組を制作することができた。Travelxpをはじめ各国での反響も非常によく、多くのメディアで報じられた。日本の文化は非常に興味深いもので、イギリスでは日本での撮影希望の声も多い」。

RKB毎日放送はこの経験をさらに活かし、今年はコロナ禍のなかで九州オンラインツアーの企画を実行すると、海外からも参加申込が入っているという。政府のこの共同制作プロジェクトが立ち上げられた当初から目的のひとつにローカル局の海外展開の自走化が掲げられており、こうした成功事例が実際に生まれていることをPR効果の高いマーケットの場で発信される機会にもなった。ベジョー氏が「日本は内向きと見られていたが、変わりつつあることを4つの事例で示すことができたのではないか」と語る言葉も印象に残るもの。政府支援による国際共同制作プロジェクトが日本の放送局の可能性を広げるひとつの手段として、今後も継続的に活用されていくべきである。

【関連記事】政府支援の国際共同制作プロジェクトPRの狙い~「TIFFCOM2020」レポート前編