(左から)日テレ佐藤氏・朝倉氏、CCI加藤氏、TBS岡野氏・川越氏

22 JAN

放送局におけるキャッチアップコンテンツの価値とビデオマーケティングの重要性〜「CCI BROADCASTING FORUM」レポート

編集部 2021/1/22 09:00

CCI(サイバー・コミュニケーションズ)主催のカンファレンスイベント「CCI BROADCASTING FORUM 2020 テレビ放送とオンラインビデオの未来へ向けて ビデオマーケティングを成功に導くプレミアムビデオコンテンツとは」が、2020年11月27日にオンラインで開催された。

本稿では、セッション「放送局におけるキャッチアップコンテンツの価値とビデオマーケティングの重要性」の模様をレポート。コロナ禍の影響によって自宅で過ごす人々が増え、映像配信サービスが非常に大きく需要を伸ばすなか、放送局各社やTVerをはじめとするプラットホームを通じたキャッチアップ(見逃し配信)コンテンツの価値や広告商品の現状を振りかえる。

パネリストは、株式会社TBSテレビ DXビジネス局 DXコンテンツ部長 岡野恒氏、同DX営業部長 川越洋平氏、日本テレビ放送網株式会社 営業局総合 営業センター部長 佐藤貴博氏、同ICT戦略本部 配信事業ディビジョン 担当副部長 朝倉玲子氏。モデレーターを、株式会社サイバー・コミュニケーションズ ブロードキャスティング・ディビジョン チームマネージャー 加藤州孝氏が務めた。

■日テレの事例:バラエティ配信でUB数が127%成長。地上波同時ライブ配信も

最初に日テレ朝倉氏が、同局のキャッチアップ配信の現状を紹介。

バラエティ番組を強みとする同局では、今年4月期に『有吉の壁』『しゃべくり007』『人生が変わる1分間の深イイ話』など人気番組の配信を開始。10月期には『イッテQ!』『嵐にしやがれ』『鉄腕DASH!!』などの番組も対応した。

この結果、同局キャッチアップの月間ユニークブラウザ数は、2019年10月から2020年10月にかけて480万から612万に大幅増加。前年比で127%の成長を遂げたという。「いろんな番組がここに来れば見られる、という状況を作っていくことは非常に大事」と朝倉氏。

同局では「日テレ系ライブ配信」の名称で、今年10月から12月までの3ヶ月間限定で、ゴールデン・プライム帯の番組をはじめ、ニュース番組「news zero」、さらに深夜バラエティ枠「プラチナイト」まで、TVerを通じて地上波の同時ライブ配信も実施。「ふだんあまりテレビに触れていない方々にもコンテンツに触れていただくチャンスを作り、より幅広い層にテレビコンテンツを広げていけたらというチャレンジをしている最中」と朝倉氏は語る。

こうした取り組みに加え、同局が放映権を持つ「全国高校サッカー選手権大会」については、試合のライブ配信をレギュラーで実施。地方大会を中心に、ほぼすべての試合のライブ配信をTVer上で行っている。

「一番多いときでは1日10試合を中継。同時に9試合を中継することもあり、TVer上でこれらのライブ配信が一気に見られるという取り組みをさせていただいた」と朝倉氏。「高校生にとって一番親和性のあるスマートフォンで視聴できる仕組みを実現したい、という思いがあった」と述べながら、「ライブ配信やバラエティーなど、いろんな分野で新たにキャッチアップを広げる取り組みを行っている」とまとめた。

■TBSの事例:コロナ禍のドラマ再放送で視聴者大幅増。7〜9月期はimp数前年比155%

続いてTBS岡野氏が、同局のキャッチアップ事例を紹介。ドラマで多数のヒット作を抱える同局では、キャッチアップ配信においてもドラマが中心となって人気を集めているという。

「コロナ禍の4〜5月は(スタジオ収録の休止などで)なかなか新しい番組が供給できない厳しい状況だったが、6〜7月にかけて行ったドラマの再放送では、非常に多くの方にキャッチアップをご覧いただいた」と岡野氏。再生数、ユニークブラウザ数ともに大きな伸びを見せたという。「特に『逃げるは恥だが役に立つ』では、ラストのダンスシーンに新しいバージョンも加えて配信をしたことにより、去年の倍ほどにのぼる再生数を叩き出した」と岡野氏は語る。

新作が放映された7〜9月期のドラマに関しても、「『半沢直樹』の効果もあって」(岡野氏)、視聴数は好調に推移。インプレッション数は前年比155%、ユニークブラウザ数も前年比130%と成長。「やはりキャッチアップ市場も、弊社はドラマを主体として伸ばせている」と岡野氏は自信を見せる。

「10月より放映されているドラマ3作品も非常に良い数字になっており、特に『恋する母たち』に関しては非常に右肩上がりで再生数を伸ばしている」と岡野氏。「この(ドラマコンテンツ)市場をどんどん活性化させ、成長させていきたい」とまとめた。

■「専念視聴・積極視聴」傾向の高いTVerユーザー。広告完視聴率は93.6%の超高水準

引き続き岡野氏が、キャッチアップ配信プラットフォームとしてのTVerの特徴と、コンテンツの価値について説明。

キャッチアップ配信におけるCMは地上波の番組フォーマットに沿った形で挿入されており、本編冒頭の「プリロール」、本編中の「ミッドロール」、本編後の「ポストロール」の3形態を実施。ミッドロールの挿入タイミングに関しては「ほぼほぼ地上波のCMチャンスと同じ」と岡野氏。「従来のテレビCMのような感覚で、視聴者に広告を視聴していただくというような形態をとっている」と語った。

さらに岡野氏は、キャッチアップにおける視聴目的、視聴態度、広告における完全視聴率の実態について、CCIとビデオリサーチ社との共同調査結果をもとに紹介。

キャッチアップの視聴目的については「テレビ放送を見逃したときに見る」という回答が76%と大半を占めるいっぽう、「テレビの録画をし忘れたときに見る」という回答も多く、「現状、キャッチアップ視聴者は(もともとの)テレビ番組のファンが多い」という。

視聴態度については、「見たい番組を検索し、TVerで視聴するというように、能動的に番組を選んで視聴するユーザーが多くを占めている」と岡野氏。「ながら見というよりは『積極視聴』というような形で、コンテンツに対して高い専念視聴をするユーザーが多数を占めている」という。

この結果をふまえ、岡野氏は広告の完全視聴率に関する調査結果を説明。

TVerでは広告をスキップせず、地上波と同様本編中に織り込む形式だが、広告の平均完全再生率は93.6%と非常に高水準。「広告を最後まで視聴していただくというユーザー数が多く、音声も含めて広告を視聴していただくユーザーが多いのもTVerの特徴」と岡野氏。「専念視聴の習慣を持ち、広告の完全視聴率が高く、さらに広告を音声も含めて視聴する習慣がついているユーザーを多く抱えている」と強調する。

「100%ブランドセーフティーな、安心安全・高品質・プレミアムなコンテンツを提供し、それに広告をつけて配信しているのがTVerの特徴」と岡野氏。「エンターテイメント性が担保されている地上波放送でオンエアされた質の高いコンテンツに広告を配信するため、ブランドの毀損がなく、広告主の皆さんにもご安心して提供していただけるプラットフォームになっている」といい、クオリティの高いコンテンツによって広告の高い視聴率が担保されていると述べた。

■「全方位カバー」の日テレ、専念視聴の強いドラマでブランドリフトを訴求するTBS

続いてキャッチアップ配信媒体における放送局の広告商品の現況について、まず日テレ佐藤氏が紹介。

キャッチアップセールスにおいては「やはりターゲティングが人気」と佐藤氏。「ジャンル別に配信先の番組をまとめて選択する『ドラマパッケージ』『バラエティーパッケージ』も人気」というが、「やはりターゲティングを望まれるお客様が多い」と語る。

「狙い方は様々だが、いろんなターゲティングにお答えはしていきたい」と佐藤氏。「今は属性別のターゲティングが主となっているが、趣味趣向も含めた、インターネットならではのターゲティングも今後補充していきたい」という。

2020年10〜12月の期間限定で実施中の「日テレ系ライブ配信」については、広告を付けておらず、「技術的・視聴データ的な部分のトライアル」として位置づけていると佐藤氏。得られた知見については「提供社の皆さんはもちろん、権利者の方や、放送局のみなさんにも開示できる部分は開示したい」といい、キャッチアップ・ライブ配信全体の底上げに寄与する構えという。

いっぽう、「箱根駅伝」など大型スポーツのライブ配信については、2018年より広告商品を展開。2019年のラグビーワールドカップのライブ配信においても好調なセールスを記録したという。また、朝倉氏が言及した「全国高校サッカー選手権大会」については、ライブ配信に加え、アーカイブも含めてセールスを展開しているという。

日テレの番組は「若年層だけではなく幅広い視聴者の方に楽しんでいただいている番組が多く、配信においても非常にバランスのとれた属性でご提供できている」と佐藤氏。「ターゲティングも可能ではあるが、幅広いターゲットに届けることができるところを特徴としている」とアピールした。

続いてTBS川越氏が、同局のキャッチアップ配信媒体における広告商品の現況を紹介。

「圧倒的にドラマの視聴数が高く、視聴比率に関しても女性が6割以上という特色を持っている」と川越氏。現在の売れ筋は「ドラマパッケージ」といい、「ドラマの視聴態度は、他ジャンルに比べてより専念視聴が強い傾向にあり、自然とブランドリフトへの訴求や期待が高まっている」とした。

■地上波+キャッチアップのブランドリフト効果は「非常に強い」

続いて加藤氏が、ブランドリフトの効果を測ったCCIの調査結果を説明。「非接触者と比べ、キャッチアップ接触者や、テレビ+キャッチアップ接触者は非常にブランドリフトの傾向が強い」とした。

この結果について、「積極視聴が多いプラットフォームなので、ブランドリフト効果は非常に高い」と佐藤氏。日テレではブランドリフト調査をセットにした広告商品も販売しているが、「ドラマで地上波の提供社がキャッチアップ広告もあわせて展開した場合など、ブランドリフトの傾向がもっとも高く出た」という。

「やはり地上波+キャッチアップのときのブランドリフトが一番高く出る」と佐藤氏。「みんなが積極的に視聴し、さらにCMをスキップせずに視聴するという効果は非常に高い」とし、「みなさんが楽しみにコンテンツを見にきている中で流されるCMはやっぱり効果がある、とお客様にも感じていただいている」と自信を見せた。

■「テレビ以外の層」にも波及。キャッチアップが獲得する新たなリーチへの期待

ここで加藤氏が、キャッチアップと他メディアとの重複リーチに関する調査結果を紹介。キャッチアップとテレビの重複リーチ率が0.3%という結果に対し、キャッチアップと(YouTubeなど)CGM系動画媒体との重複リーチ率は6.7%という結果が出たという。

これに対し、「今後、キャッチアップがさらに新たなリーチを獲得できる可能性があることをこれが証明している」と川越氏。「キャッチアップの利用者数は、これからまだまだ成長段階」と期待を寄せる。

続いて加藤氏は、コロナ前後におけるテレビのネット接続率の推移と、動画配信サービスの視聴場所の変化に関する調査結果を紹介。

テレビのネット接続率に関してはコロナ前後で約10%増加。動画配信サービスの視聴場所に関しては、コロナ禍をきっかけに「外出先」「移動中」などの比率が下がり、「自宅で見る」傾向が高くなったという。

これに対し朝倉氏は、「今ちょうどライブ同時配信をトライアルでしていることもあり、その結果を見てからの判断をしたい」と慎重な見方を示しつつ、「『箱根駅伝』や『全国高校サッカー選手権』など、大型スポーツのライブ配信はすでにたくさんの方に楽しんでいただいてる」とし、「こうしたところは間違いなく、これからもどんどん拡充していかなければいけない」と意気込んだ。

岡野氏も「スポーツイベントにおいて観客席での応援がなかなか厳しいなか、自宅でコンテンツを視聴するという環境が増えているように感じる」と述べ、「いまの世の中の環境を踏まえ、スマートフォンを中心に、配信でもコンテンツを届ける必要がこれまで以上にあると感じる」と同意した。

■ポストCookie時代における、広告媒体としてのキャッチアップの「強み」

終盤、加藤氏は、CCIが広告主を対象に実施したアンケートの調査結果を紹介。インストリーム広告においては7割のクライアントが「データを使ったターゲティングを実施している」と回答したという。

しかし昨今、サードパーティー(サイト外部ドメイン)Cookieの無効化や、iOSにおけるIDFA(Identifier for Advertisers:広告識別子)のオプトイン義務化など、ターゲティングの根幹をなしていた技術が大幅な制限を受けることとなり、今後の対個人マーケティングのありかたが大きな転機を迎えつつある。こうした状況のなかで、広告媒体としてのキャッチアップはどのような道を志向していくのか。

「インターネット広告は『枠から人へ』という形で変化してきたが、今回のポストCookie問題で、ふたたび『人から枠へ』という回帰が生まれる」と川越氏。「具体的には、コンテンツ文脈的なターゲティングが重要になってくるだろう」と語る。

「TBSではキャッチアップの視聴者ペルソナを作成し、番組ごとの視聴者属性の調査も行ってきた」と川越氏。「コンテンツに紐づく視聴者をまとめた作案パッケージを軸に、枠に視聴者属性を付与したかたちのパッケージ提供を強化していきたい」と述べた。

「日本の放送局はコンテンツメーカー。アメリカでは放送会社とコンテンツの制作会社が別々となっているが、日本の放送局の強みは、コンテンツを制作でき、かつ安心安全なコンテンツを作れること」と佐藤氏。「ターゲティングという部分での技術的な精度もいろいろ研究し、上げていく」としつつ、「われわれとしてはいいコンテンツを作る(ことが本分)」と語る。

「いいコンテンツを作れば、それを見にきてくださるみなさんの視聴態度はいい形になるはず」と佐藤氏。「ポストCookie問題をはじめ、いろんな規制の中で対応もしてくが、まずは良いコンテンツを作ることが大事。良いコンテンツを作り、見たいと思っていただき、視聴者の方を集めるということが放送局の最大の武器」と強調した。

広告媒体としてのキャッチアップについて、「ブランドセーフで安心安全、高品質なプレミアムコンテンツにのみ広告が配信される。コンテンツ自体もしっかりと権利処理がなされており、なおかつ放送局のプロの制作の方が作った地上波のコンテンツを配信しているといった点が最大の強み」と加藤氏。「ブランドセーフティを守り、広告メッセージ、ブランドメッセージをユーザーに届けられるキャッチアップコンテンツは、広告主様が求めている、ビデオマーケティングを解決するプラットフォームである」と述べ、セッションを締めくくった。

CCI BROADCASTING FORUM特設ページ(見逃し配信)