左から蜷川新治郎氏(TVer)、宮本裕樹氏(LINE)

09 JUN

TVer CIOが語る「DX時代のテレビの強み」 〜LINE BIZ DAY 2021セッションレポート

編集部 2021/6/9 07:00

2021年5月14日、LINE株式会社主催のオンラインイベント「LINE BIZ DAY 2021」のSession1として「LINEの法人ビジネスにおけるデータ戦略と、TVerのCIOに聞くテレビの未来」が開催された。

前半では、LINE株式会社 マーケティングソリューションカンパニー カンパニーエグゼクティブ・宮本裕樹氏、株式会社フィードフォース 代表取締役社長・塚田耕司氏がLINEの法人サービスにおけるデータ戦略と、それに関連するソリューションを紹介。後半は、株式会社TVer(以下、TVer社) 取締役CIO・蜷川新治郎氏が「より良い視聴体験の提供を加速させるテレビのDXとその先の未来の構想」をテーマにプレゼンテーションを行った。

■多様な接点を「1つのIDでつなぐ」LINEのデータ戦略

LINE宮本氏は、同社が提供する法人向けサービスの概要について紹介。

LINE宮本氏

「サードパーティー(サイト配信者以外の外部)Cookieの規制などブラウザにおけるデータ収集環境が変化し、以前のようにデータを扱うことが難しい現状、新たな手法が求められている」と宮本氏。LINEの新たなデータマーケティングの取り組みとして紹介した「Any1」では「マーケティングにおける必要なデータを1つのIDに集約し、ユーザーの行動にあわせた最適なコミュニケーションを提供する」という。

「ユーザーに向けては、興味や現在位置などユーザーの状態に合わせた最適なコミュニケーションを提供し、一方通行ではなく『共感する』かたちを提供する」と宮本氏。「企業に向けては『多様なユーザーのライフスタイルに触れたい』というニーズに寄り添い、意思決定のスピードを上げてブランド価値の向上や収益の向上につなげる」と述べた。

続いて宮本氏は、同社のデータ領域における、コネクティビティ強化に向けた取り組みも紹介。LINE公式アカウントやLINEミニアプリなど、企業が提供するサービスやキャンペーン内でのユーザー行動データを集約した「LINE Ad Data」と、LINEログインを経由したユーザーの購買データ「Client Data」を1つのIDで統合。分断のないデータでクロスターゲティングを可能にするという。

さらに運用型広告「LINE広告」領域では、インタレストなどの領域のセグメントを「100以上に拡張予定」と宮本氏。「LINE公式アカウントを友だち登録しているユーザーに対しては、広告のパフォーマンスが非常に高い」と説明。こうした「友だちの価値の可視化」についても取り組んでいくという。

宮本氏はLINEにおけるデータ活用基盤「Business Manager」を今年の秋以降にスタート予定と発表。同一企業内におけるLINE公式アカウントなどのLINEの法人向けサービスのシームレスな管理統合を提供するほか、将来的にはパートナー企業との連携も視野に入れていると語った。

■続伸するTVerのMAU、ユーザー全体の37.6%がF1・F2層

TVer蜷川氏

後半は、「オンラインが強まる中、テレビの価値は?」というテーマでTVer社の蜷川氏によるプレゼン。

民放公式テレビポータル『TVer』(以下、TVer)で配信するレギュラーコンテンツは350番組を超え、MAU(月間アクティブユーザー)は2021年3月時点で2020年初頭の2倍に続伸。ダウンロード数も3602万回に達したと語る。

「エリアごとのユーザー分布は実際の人口動態に近い」と蜷川氏。属性は人口構成比に比べてF1(20〜34歳女性)・F2(35〜49歳女性)層が多く、合計で37.6%に上るという。

「ドラマをリアルタイムで見られない、録画しきれないといった場合にTVerで番組を見比べていただき、次に何を見るかを、どんな作品や場面が話題となっているかを見ていただくという習慣が(ユーザーに)根付いている」(蜷川氏)

■接触時間は減少傾向の一方、「ながら視聴」の新たなニーズも。「期待半分、心配半分」

ここで話題は、生活者を取り巻くメディア環境の変化に。

「思ったよりも減っていない、と安心してしまっているが、テレビの接触時間はじりじりと減っていっており、デジタルデバイスへの接触が増えている」と蜷川氏。「接触時間でいえばネットデバイスに割かれる時間が多い。テレビコンテンツはこの環境でも見ていただけるようにしなければいけない」と語る。

その一方で「ながら視聴など、複数のメディア間で接触が重複しているかもしれないが、メディアサービスを使ってエンタメを感じていただく機会が増えている」と蜷川氏。こうした状況を「期待半分、心配半分」と語る。

「現状、テレビで放送したものがネットでバズった際、『話題になっている内容はどうだったんだろう』と、すぐにコンテンツを見られる環境にない(のがネック)」と蜷川氏。現状は「テレビの中にコンテンツが閉じ込められてしまっている」といい、「LINEなどで(TVerへ)シームレスに来たり、LINEのタイムラインで(TVerのコンテンツを)シェアしたりしてもらえる仕組みなど、利用シーンに合わせてアップデートをしていきたい」と語った。

■デジタルシフトに対するTVerの取り組み

蜷川氏は、こうした現状に対するTVerの取り組みを紹介。「テレビの接触時間が短くなり、ネットの接触時間も細切れになっている」ことを踏まえ、番組動画の倍速再生、縦型再生に対応した。

このほか、スポーツ中継を中心としたライブ配信コンテンツも拡充。2020年10月から年末にかけては「日テレ系ライブ配信」と題し、日本テレビの一部GP(ゴールデン・プライム)帯を中心とした番組を地上波と同時配信する実験も行った。

「TVerにおけるライブ配信はテレビのリアルタイム視聴を阻害するのではないか、という声も一部からは上がったが、スポーツ中継などを中心に(地上波側に)放送枠がないなか、あらゆるところで試合展開を最後まで見たいというニーズがある」と蜷川氏。

「サッカー、ラグビーなど、放送権を持っているものに関しては、ライブ配信を積極的に行っている。『日テレ系ライブ配信』では、GP帯の番組をスマートデバイスで見られるようにする実験を行った。今後は(テレビからスマートデバイスへの)デバイスシフト、タイムシフト視聴に対応できる環境を充実していきたい」(蜷川氏)

■「テレビコンテンツは大画面に適している」TVerとコネクテッドTVの相性の良さ

「テレビとTVerは、メディアとしてお互いに食い合う関係になってしまうのではないか」と尋ねる宮本氏に、「多くの人に見てもらえているテレビを、さらに多くの人に見てもらうのがインターネットサービス」と蜷川氏。「あらゆるデバイスでメディアに触れる機会が増えるなか、テレビは放送の受像機であるという考えに固執してはいけない」と語り、現在TVerが進めるコネクテッド(ネット接続型)TVへの対応をアピール。

「もともとテレビコンテンツは大画面で長時間見るように作られているので、テレビデバイスでも利便性高く見ていただくことができる」と蜷川氏。「現在、TVerはPCよりコネクテッドTVで見る人が増えている。スマートデバイスからのアクセスを減らさず、テレビデバイスで見て貰う人が1:1くらいになれば」と期待を述べた。

「重要なのは、大きな画面で見ている時間にTVコンテンツを選んでもらうこと。コネクテッドTVを楽しみながら、スマホで視聴体験を拡張していく形になっていくと思う」(蜷川氏)

■TVerの強みは「広告への受容性の高さ」

「長尺のコンテンツが多いなか、コネクテッドTVにおける完視聴率(番組を最後まで視聴する率)は6〜7割」と蜷川氏。広告視聴率にいたっては「95%以上」の高水準という。

「(テレビコンテンツは)もともと広告を入れることを意図して作られているため、広告に対する受容性が高い」(蜷川氏)

これまでPCやスマートフォンに比べ、ターゲティングや認知調査の面で弱かったコネクテッドTV上での広告展開だが、これについてもTVerは「本格参入予定」と蜷川氏。インテージ、青山学院大学との共同で、コネクテッドTVにおけるCM効果測定の研究をスタートさせることを発表。「欧米ではデータを使ったプログラマティック広告が盛んなので、日本もそれに沿った展開が行われていくだろう」と、展望を語った。

■「ひとつのコンテンツをみんなで見る」マスコンテンツにしかできない広告の形

セッション終盤は、LINE、TVer双方の今後の展望に関する話題に。

宮本氏は、LINEのトークリスト上部に表示する広告枠「Talk Head View」の利用案件数が前年比384%(2019年1月~2020年12月実施案件/LINE社調べ)と大きく成長していることに触れ、「ブランディングメディアとしてのLINE」を打ち出していくと語る。

「販促コミュニケーションにおいてもトーク画面を活用したり、特定店舗内でLINEを開くユーザーへ商品情報やクーポンなどを直接配信する『LINE POP Media』を用いた『リテール内ユーザー向けのアプローチ』に注力していきたい」(宮本氏)

あわせて宮本氏は、メディアとしてのLINE、TVer双方の特長を整理して説明。

 LINEの特長を「大規模リーチ」「短尺動画との相性の良さ」「購買に近い場所でのアプローチ」とする一方、TVerの特長として「コンテンツと一緒に広告を見てもらえる」「ひとつのコンテンツをみんなで見る、マスコンテンツの良さ」を挙げる。

「同じものを多くの人が見て同じ体験をしているという状況のなかで、どういった広告の効果が生まれるのか、ブランドリフトの観点で考えると、今後の(テレビコンテンツ、TVerの)形が見いだせるのではないか」(宮本氏)

「原則として番組コンテンツは放送後一週間で公開を終了しているが、そのなかで数十万〜数百万回と見られている点は大きい」と蜷川氏。「ひとつのコンテンツを多くの人が体験することで、大きな価値が生まれている」と、宮本氏の意見に同意。「最終的に思うのは、やはりマスコンテンツは必要だということ。それにしかできない広告をしたい。そのためにデータを充実させたい」と述べ、セッションを締めくくった。