スペインドラマイベント:イベルセリエス(正式名称:Iberseries & Platino Industria)」の会場

14 OCT

スペイン最大級の国際ドラマイベントが象徴する市場ニーズ~イベルセリエス現地取材レポート①

編集部 2022/10/14 08:00

スペイン政府肝煎りのドラマイベント「イベルセリエス2022」が9月27日から30日までマドリード市内の会場マタデロ・マドリードで開催され、35か国から2000人以上の業界関係者が参加した。日本テレビをはじめとした日本のメディア企業も数社参加し、交流および商談を進め、筆者も現地取材した。主にスペイン語圏のドラマ作品を対象に国際的な流通促進を目的としたイベントだが、ラテン市場のみならずグローバル市場の入口として、展開拡大を狙える国際コンテンツマーケットとしての可能性はあるのか。

■2回目開催で35か国から2000人が参加

マドリード市内で9月27日から30日まで4日間にわたり開催された「スペインドラマイベント:イベルセリエス(正式名称:Iberseries & Platino Industria)」は今年で2回目を数えた新しい業界イベントである。各国でリアルイベントが復活するなか、このイベルセリエスもコロナ禍を経て、本格的なリアル開催は今回が初となった。

マドリード市内のアルガンスエラ地区にある、かつての食肉処理場を現代の文化芸術施設として改築した会場「マタデロ・マドリード」まで実際に足を運ぶと、シアターや展示会場など目的ごとに洗練された充実した場が用意され、屋外にも商談スペースを設けられるなど開放的な雰囲気も印象づけた。晴天に恵まれた期間中、会場内はスペイン語圏市場を中心に活動する映像業界関係者で連日にわたり賑わい、ヨーロッパの主要制作拠点の1つとして確立されているマドリードで新しいマーケットイベントが立ち上がった勢いまで感じた。

イベルセリエスはスペインのオーディオビジュアル団体組織EGEDAと映像制作/配給を手掛けるスペイン最大手Secuoyaグループ傘下のセクオヤ財団が企画・主催し、スペイン貿易投資庁(ICEX)をはじめマドリード州、マドリード市やフィルムコミッションなどが後援する。

官民連携の映像業界イベントは決して珍しくないが、市場ニーズを捉えたかたちだった。コロナ禍を経て息を吹き返しつつある映像産業に目を向け、中でも市場で急成長するドラマジャンルに焦点を当て、流通から共同開発、資金調達、ネットワーキングまで、それぞれの機会を促進するための実用的な場をいち早く作り出していた。実際に「オープンなミーティング・スポットとして機能している」という声が聞かれた。

イベント共同ディレクターのファン・アリア氏、サミュエル・カストロ氏ら

その結果、主催者の発表によると、4日間で参加した人数は35か国から2000人以上に上った。イベント共同ディレクターのファン・アリア氏、サミュエル・カストロ氏らは「成功と呼べるもの」と総括の言葉を述べ、「スペイン語とポルトガル語圏の映像制作業界関係者にとって欠かせない空間を作り出していることを証明しました。新しいビジネスシナジーを生み出し、世界展開を後押していることを実感しています。映像コンテンツ産業は今、国境を越えるだけでなく、グローバル化へと繋がる輝かしい瞬間を迎えています。この分野を構造的かつ持続可能な成長を続けるために支援していく意味は大きい」と強調した。

■Amazonや楽天TVキーノート、Netflix、HBO MAX作品プレミア上映会も

参加者は地元のスペインからはもとより、欧州とラテンアメリカ地域から集中したが、在駐日スペイン大使館経済商務部の協力により、アジアで唯一、日本から日本テレビ、東北新社、TBSスパークル、Huluジャパンの4社が参加の機会を得た。会場ではセッション中に日本の参加が伝えられ、Prensarioをはじめスペイン語圏の業界メディアも日本の参加を報じた。

日本テレビ制作ドラマ『Mother』(坂元裕二脚本)をリメイクしたスペイン版が今年はスペイン最大手民放局のATRESMEDIAで配信開始されるなど、日本とスペインの映像コンテンツ流通事例はこれまでもある。また動画配信プラットフォームやゲーム分野においてスペインは韓国とも流通の機会を広げるなどアジア市場も視野に入れている。

そんななか、今回、日本の参加者はスペイン語圏市場のコンテンツ購入、マーケティング、共同制作などを目的に、300を超えるプログラム企画が用意されたイベルセリエスを有効活用していた。

37の出展ブースが並んだ会場内

プログラム企画には、AmazonのPrime Video スペインやバルセロナに欧州の拠点を置く楽天TVのキーノートをはじめ、さまざまな業界トピックを扱う180人以上のスピーカーが登壇した60を超えるセッションも含まれた。また164を数える新規プロジェクトが参加したピッチセッションや共同制作フォーラムが展開され、ネットワーキングエリアには37の出展ブースが並んだ。

スペインのオリジナルドラマシリーズを中心に36作品が揃った上映会はNetflixやHBO Max、Paramaunt+などグローバル動画配信プラットフォームで展開される作品のプレミア上映をはじめ、スペイン国営放送RTVE制作の『Fuerza de Paz』やテレフォニカ傘下のラテン市場最大手の動画配信プラットフォームMovistar+の『Apagón』、ATRESMEDIA制作・配給の『Dos años y un día』などグローバル展開が見込める意欲作も揃った。多角的な視点や大胆な恋愛ストーリーを盛り込むのはスペインらしく、市場トレンドを捉えた確かな制作力も垣間見えた。

Movistar+の『Apagón』上映会場

■年々増加するスペイン発の撮影プロジェクト数

スペインの制作力が向上している背景には、近年、欧州の主要なコンテンツ制作拠点として発展していることが大きい。NetflixやHBO Max、AmazonのPrime Video、Apple TV+などのグローバル動画配信プラットフォームがマドリード市内にオフィスや制作施設を構え、スペイン発プロジェクト数は年々増加傾向にある。

2021年は68のドラマシリーズ、44の映画、350以上の広告用の撮影がマドリード市内で行われ、2022年の上半期は既に37のドラマシリーズと27の映画作品の撮影が進められ、前年の数を超す勢いという。需要が伸びている理由として、「スペイン市場だけでなく、グローバルな市場を視野に入れることができるからだ」と、Secuoyaスタジオ社長のジェームス・コストス氏が話す。

「世界中で4億を超える人々がスペイン語を話し、スペインから素晴らしい物語も生まれています。雪山からビーチ、近代都市から古代都市まで何でもある多様な風景もスペインの魅力にあります。また安価に制作できることもスペインが選ばれる理由の1つにあるでしょう。コンテンツ制作、流通のグローバル化が進むなかでこれらは大きな利点にあるのです」と続けて、説明した。

Netflixスペインの制作拠点にあるSecuoyaスタジオ

なお、Secuoyaスタジオはイベルセリエスを企画・主催するSeuoyaグループの制作機能を有する組織で、Netflixが欧州初進出の際に制作拠点として連携したスタジオでもある。2023年末の完成に向けて、トレスカントス地区にNetflixの制作スタジオや人材育成のための大学施設を含む複合開発都市「マドリード・コンテンツ・シティ」の建設も進めている。

イベルセリエスはスペインのコンテンツ産業の成長投資を象徴するものであり、さらなる市場拡大に向けて、マーケットを立ち上げた経緯があるのだ。その前提として、機能し始めたスペインのコンテンツビジネス振興施策とは、どのようなものなのか。後編に続く。

攻めるスペインの映像コンテンツビジネス振興政策~イベルセリエス現地取材レポート②