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コネクテッドTVの利用実態とPDCAの現在地 〜『RADIO AND TELEVISION IMPROVEMENT 2022』レポート

編集部 2022/11/16 17:00

株式会社電通 ラジオテレビビジネスプロデュース局によるウェビナー『RADIO AND TELEVISION IMPROVEMENT 2022』が、2022年10月7日に開催。同社が放送業界向けに開発、提供する広告出稿効率化、最適運用ソリューションの数々が紹介された。本記事ではこの中から、セッション『コネクテッドTVの利用実態とPDCAの現在地』の模様をレポートする。

本セッションでは、行動や心理へポジティブな効果が期待されるコネクテッドTVの実態を伝えつつ、調査会社である株式会社インテージ、株式会社ビデオリサーチの担当者とともにクロスメディアでPDCAを回す上で重要な“効果計測”の現状と課題点、解決に向けた取り組みについて紹介。

スピーカーとして、株式会社電通 ラジオテレビビジネスプロデュース局 データ推進部 部長の朴 泰輝氏、株式会社インテージ 事業開発本部 デジタル・ビジネス・ディベロップメント部 メディアアナリストの山津貴之氏、株式会社ビデオリサーチ テレビ・動画事業ユニット テレビ事業グループ グループマネージャーの片山孝治氏が登壇した。

■過半数超えしたコネクテッドTV結線率、広告認知度はテレビCMを大幅に上回る

最初に朴氏が国内におけるコネクテッドTVの利用実態を紹介。テレビのネット結線率は2022年で57.7%となり、直近5年の間で約2倍に増加。地区ごとに結線率の差はほぼなく、2021年の時点でおおむね40%を超えているという。

「自宅内でのメディア接触時間の推移を見てもコネクテッドTVの利用が徐々に増えてきている」と朴氏。テレビデバイスの利用内訳においても同様にコネクテッドTVのシェアが非常に伸びてきているという。

「専念視聴され、1人単位の視聴ターゲティングができるPC・スマートフォンと、大画面でながら視聴・共視聴され、スピード性・巻き込み効果・興味喚起の『3UP効果』を持つテレビ放送の“いいとこ取り“をしたのがコネクテッドTV」と朴氏。

生活者からテレビ同等のポジティブ評価を得ており、かつネガティブ評価が他のデバイスに比べて少なめである点に触れ、「非常に高い広告受容性を持っている」と強調した。

続いて片山氏が2021年、TBS・電通・ビデオリサーチで実施したコネクテッドTVの広告効果調査について紹介。TBSの番組コンテンツに関連した広告のうち、民放公式テレビ配信サービス「TVer(ティーバー)」(以下、TVer)のコネクテッドTV、PC・スマートフォンへの動画広告とテレビCMとの効果を比較したところ、デバイス別の広告認知率では、TVerのコネクテッドTVでの動画広告がテレビCMを大きく上回り、接触回数別の認知率においても「少ない回数で高いスコアが得られた」という。

「テレビCMの広告効果が『ながら視聴』を含んだものであるのに対し、コネクテッドTVの広告は専念視聴されやすく、より記憶に残りやすい」と片山氏。「コネクテッドTVに関しては専念視聴に加え、テレビCMと同じインパクトが加わることで、少ない接触でも認知されているものと推察される」と語る。

さらに片山氏は「広告を家族と話題にした」という項目で、コネクテッドTVのスコアが相対的に高くなっていると指摘。コネクテッドTVでのコンテンツの視聴はPC・スマートフォンに比べて複数人で視聴されることが多いといい、「(コネクテッドTVで配信されるCMは)テレビCMと同じ特徴となるため、誰かと一緒に見ることでその場の話題になりやすい」とした。

「広告について会話をすることでより記憶に刷り込まれ、認知や興味喚起に繋がりやすいのがコネクテッドTVにおける広告効果の特長」と片山氏。「デジタルでのコンテンツの視聴とは能動的視聴であり、そこにテレビの特徴が加味されることで効果が増幅される」と述べた。

■テレビCM・YouTubeへの同時出稿で「民放を見ていない層も補える」

続いてインテージ・山津氏が、テレビCMとYouTubeの横断的効果計測について紹介。同社のテレビ視聴ログデータ計測サービス「Media Gauge」のスマートテレビ視聴データをもとに、2019年から2022年にかけてコネクテッドTV1台・1日あたりの平均YouTube視聴時間が一貫して増加傾向にあり、直近の2022年4〜6月期では1日平均70分にも及んでいるという。

「このような傾向になってくると重要になるのが、テレビCMとYouTubeを併用すること」と山津氏。地上波の在京民放キー局5局とYouTube、それぞれについて1日に平均30分以上視聴があった端末の割合が、YouTubeの約40%に対し地上波の合計は約80%とダブルスコアで上回っている点に言及し、「民放の番組をあまり見てない層に対するリーチをYouTubeへの広告出稿で補うことができる」と語る。

続いて山津氏は、テレビCMとYouTubeの横断的な態度変容調査を行う方法として、9月29日に正式リリースされたという同社がGoogleの協力を得て開発した効果計測サービスを紹介。

同サービスでは、Googleが提供するPC・スマートフォンでのYouTube接触計測サービス「Ads Data Hub」によってテレビデバイス・PC・スマートフォンからのYouTube接触を計測できるほか、インテージの「Media Gauge」、ドコモ・インサイトマーケティングのDMP「di-PiNK」を組み合わせ、人ベースのテレビCM接触を推定。

デバイス横断、ログベース、シングルソースでテレビCMとYouTubeの効果を計測でき、テレビCMの接触データとYouTubeの接触データを組み合わせて態度変容調査が行えるという。

「このサービスを利用することにより、生活者における無料広告動画(AVOD)の視聴時間の92%をカバーできる」と山津氏。「Cookieを使用していないため、これからのCookieレスの時代にも長期的に活用できる」「広告の純粋な因果効果を計測するため、統計的因果推論の手法を導入している」と、技術的な強みをアピールした。

■コネクテッドTV時代、多様化するサービスを「人単位」で捕捉する指標作りが急務

後半は「コネクテッドTVの今後」について、パネラー陣がそれぞれの立場からコメント。電通・朴氏は、2034年に電波を返上し配信へ全面移行の方針と報道されているイギリスBBCの例を挙げ、「長い時間をかけて放送から配信への移行が進行するだろう。日本でも10年、20年単位で(放送から配信への移行が)進行していき、その中で様々なサービスが混在、多様化していくことが見込まれる」。

その一方で、「世界的なプライバシー保護の流れを受け、視聴データもより細分化していくだろう。データクリーンルームや、個人情報をもとにした共通ID化も進行していく」とし、「部分最適化や統合手法の多様化が進むことによってキャンペーンや事業の全体像の把握が非常に難しくなってくる」と懸念を述べる。

「こうしたデータの細分化、サイロ化は、ターゲットレンジや需要規模を拡大するにつれ、マーケティングの障壁として顕在化していく」と朴氏。「デジタルのインプレッションやユニークブラウザ、テレビのGRP(延べ視聴率)やTRP(ターゲットの延べ視聴率)といった数々の指標を統合していくには、やはり人に注目していくことが必要だ」と述べた。

「現状、配信の部分においては全数測定やプラットフォーム単位での計測が主流になっているが、それを人単位、プラットフォーム横断、さらにテレビの視聴と合わせて示せるようにしていきたい」と片山氏。

「現状、視聴率調査では放送部分を捕捉しており、自宅内のテレビによるコンテンツ視聴が対象となっているが、今後コネクテッドTVでの配信部分の視聴をどう捕捉していくかに焦点を置いて取り組みを進めている。自宅内におけるコンテンツというところで、どのプラットフォームでどのようなコンテンツを見ているのかを補足できるよう対応を進めていきたい」(片山氏)

「既に当社の視聴率調査では全国で放送コンテンツの視聴者を把握できる仕様になっているが、そこに配信が加わることで日本全国におけるコンテンツの到達人数を示せるようにしていきたい」と片山氏。

「放送と配信、コネクテッドTVとの掛け合わせという部分を統合指標という形で示し、それを視聴率調査の中で表現することに意味がある」といい、「人単位でコンテンツへの到達を把握するということは、その価値を正しく示すことに繋がる」とコメント。「業界内で活用できる指標を提供できるよう、今後も様々な取り組みを進めていきたい」とした。

■2025年、放送視聴と配信視聴が“半々”の予測も。サービスの多様化が普及の鍵に

セッション終盤はパネリストが、コネクテッドTVの普及、市場の成長についてコメント。

山津氏いわく、インテージの調査結果によると2025年にはコネクテッドTVにおける放送のライブショーと動画配信の視聴が「大体半々ぐらいになる」といい、「今後はサービスの多様化が市場拡大の鍵になるのではないか」と語る。

「現在はオンデマンド型の動画配信サービスが中心だが、今後はABEMAのようなリニア型の配信サービスや、クラウドゲーミングなど動画以外での活用がどれくらい進んでいくのかが、普及の鍵になってくるのではないかと思う」(山津氏)

一方、「スマートフォンやスマートデバイスに加え、自宅内でのコネクテッドTVを介した視聴もサービスの多様化と相まって増えていくのではないか」と片山氏。朴氏も「コネクテッドTVはあくまで『自宅内のメディア』である」といい、「効果測定を行う際、生活者が『自宅にいるかどうか』は生活者行動トレンドとしてチェックする必要があるだろう」と述べた。

「今後は、爆発的な成長とまでは行かないが、テレビの買い換えによってコネクテッドTVが徐々に浸透し、時間をかけてどんどん右肩上がりになっていく。これから成長する市場だと思うので注目していただけたら」と、最後に朴氏はコメント。「コネクテッドTVに限らずとも、統合された大きなPDCAや事業のROI(投資利益率)を考える際、改めて人に注目してみるのも良いかもしれない」と締めくくった。