21 FEB

“視聴体験満足度”を上げるコミュニケーションとは? 〜ビデオリサーチ ひと研究所「映像視聴体験満足度が高まる視聴者行動『視聴ジャーニー』を探る」セミナーレポート

編集部 2023/2/21 08:00

株式会社ビデオリサーチ ひと研究所主催のウェビナー「映像視聴体験満足度が高まる視聴者行動『視聴ジャーニー』を探る」が2023年1月23日に開催。テレビ番組など映像コンテンツの視聴前・視聴中・視聴後における視聴者行動「視聴ジャーニー」をテーマに、視聴体験における満足度向上のヒントを示した。

コンテンツの数が爆発的に増加し、“選ばれる”ことの厳しさがますます増していく映像・放送業界。視聴者によってより熱量の高い視聴動機を生み出し、習慣化を促すためにはどのような点に着目し、行動していく必要があるのか。同研究所 主任研究員の渡辺庸人氏と吉池典子氏が解説する。

■コンテンツの外側に体験を作り、付加価値を生む「視聴ジャーニー」という考え方

「コロナ禍を機に、生活者にとってのコンテンツ欲求は『空いた時間を埋める』から『楽しみの空白を埋める』形へと変化している」と渡辺氏。「無限にあるコンテンツの中から選びとってもらうためには、いままで以上の付加価値が必要になる」といい、そのためには「“体験”がキーワードになる」という。

「番組そのものの楽しさに加え、番組の外側にも体験があり、視聴者はそれも含めて一緒に楽しんでいる。『この番組、動画作品のおかげで楽しい体験、良い体験ができた』と視聴者・生活者が感じることで、コンテンツへさらに付加価値がつき、よりよいものになる」(渡辺氏)

渡辺氏はこれを紐解く概念として、カスタマージャーニー(消費者の購買行動における行動変容)になぞらえた「視聴ジャーニー」という言葉を定義。

コンテンツの認知から情報収集、感情の変化、視聴後のSNSなどでの感想のやりとりといった一連行動を経ることによって視聴体験の満足が生まれ、継続視聴や作品へのさらなる期待感につながると語る。

■視聴前・中・後、コンテンツへの満足度をアップさせるコミュニケーションとは?

続いて渡辺氏は、「視聴ジャーニー」に関する生活者への調査結果を紹介。番組内容に加え、視聴前後の体験における満足度を示す「視聴体験満足度」を軸に、視聴前・視聴中・視聴後それぞれにおいて顕著に表れた行動と、それによる番組満足度への寄与度の高さを比較した。

「視聴体験満足度の高い番組では、情報検索や関連番組の視聴のほか、番組を話題にした会話や視聴予約、録画予約などの予約行動、視聴中の喜怒哀楽といった感情の変化や、それを家族や友人と共有するという行動が多く上がった」と渡辺氏。これらの行動の数が増えるほど、番組に対する満足度も上昇したといい、「1つだけでなく、2つ3つと複数の時点で行動が起こることによって、さらにその度合いは高くなった」という。

なかでも満足度を上昇させたのが、「家族や友人と話す、関連グッズを準備する、(歌番組などで)一緒になって歌ったり踊ったりする」という行動。「これらを体験した視聴者の間では、体験前に60%程度だった番組満足度が80%と大きく上昇した」と渡辺氏は語り、「他者が行動に絡むことで満足度が上がる」と強調する。

「視聴ジャーニーの活性化を考える際、重要なのが『コンテンツを見る前からいかに楽しめるか』という視点」渡辺氏。「コンテンツを軸とするコミュニティを醸成し、ファンをメディアとして捉えたうえで、送り手としてコミュニケーションを作ることが肝要」と語る。

「視聴前は幅広いプロモート活動がされるが、単なる集客ではなく、コンテンツを見る前でも楽しめるものであるべき。視聴中はコンテンツの力量だけで決まると思われがちだが、それを追い求め、ストーリー度外視で要素を詰め込んだり、シーンをそぎ落とすことも限界がある。コンテンツの外で隙間を埋める方法を考える」

「視聴前は幅広いプロモート活動がされるが、単なる集客ではなく、コンテンツを見る前でも楽しめるものであるべき。視聴中はコンテンツの力量だけで決まると思われがちだが、それを追い求め、ストーリー度外視で要素を詰め込んだり、シーンをそぎ落とすことも限界がある。コンテンツの外で隙間を埋める方法を考える」

「視聴者は楽しみ方を勝手に生み出してくれる」と吉池氏は語り、さらに視聴後の行動にフォーカス。「視聴後、自分が良かったと思うコンテンツを語ることは視聴者にとって楽しいこと」といい、「他者が語る感想を見聞きすることが、話された側にとっては強力なレコメンドにつながる」と語る。

「視聴後、視聴者が感想を語るうえで『楽しかった』の一言で終わることはなく、具体的なシーンやその解釈に言及するなど、結果として楽しみ方のレクチャーになる」(吉池氏)

「SNSなどでそれを見聞きした人が興味を持つほか、話す側もまた、話すことで番組に対する魅力を言語化でき、よりいっそう『楽しかった記憶』として定着する」と吉池氏。「一連の視聴ジャーニー全体を通じて、ファン同士だけでなく、そこに『送り手側』と『視聴者側』のコミュニケーションを生じさせることで、エンゲージメントを高めていくことができる」と語る。

■KBC『ぼる部屋』YouTubeとTBS『バナナマンのせっかくグルメ!!』Twitterに見る「視聴ジャーニー」形成の例

これらの話を踏まえ、渡辺氏と吉池氏は、実際のテレビ番組における「視聴ジャーニー」の醸成事例を紹介。KBC九州朝日放送『ぼる部屋』と、TBSテレビ『バナナマンのせっかくグルメ!!』の2番組を取り上げた。

『ぼる部屋』では毎週金曜深夜の放送時間にあわせ、番組YouTubeチャンネル上で「副映像」としてMCのぼる塾(田辺智加、きりやはるか、あんり)がオンエアを見ながらトークを繰り広げるライブ配信を実施。視聴者はリアルタイムに出演者とコミュニケーションもしながら一緒に番組を見る感覚を味わえる。

「『副映像』としてライブ配信を同時進行することによって視聴者のセカンドスクリーンを埋めることができる」と渡辺氏。「番組放送中、テレビのほかにスマートフォンやPCなど、スクリーンすべてが番組コンテンツで埋められることによって、視聴者は番組にどっぷり浸かった状態となり、他のコンテンツに目移りする暇がなくなる」と、その効果を語る。

「たとえば本編がドラマなど、キャストが“演じる”形式の作品で『こぼれ話』を取り上げれば、より素に近いキャストの一面を見られるコンテンツとして機能する」と吉池氏。「時差があるものではなく同時に配信されることでコンテンツに生じる間延び感がなくなり、情報や刺激によってさらに本編の魅力がプラスオンされる」と語る。

『バナナマンのせっかくグルメ!!』では、オンエア中の本編内でMCの日村勇紀(バナナマン)の発言に対し、番組公式Twitterが視聴者からのリアクションを投票で受付。さらにその結果に対して、Twitterの“中の人”が「アラサー女子」と自らの個人的な属性を明らかにしつつ、私見をコメント。渡辺氏はTwitterを見ながら番組を楽しんでいる人が同時に盛り上がり、リプライでコミュニケーションが促進される」とした。

■視聴ジャーニーを活性化させるコミュニーケションレシピ:番組Twitterの場合

事例を踏まえ、渡辺氏と吉池氏は番組Twitterを軸に、視聴ジャーニーを活性化させる具体的なアクションのアイデアを提言。視聴前、視聴中、視聴後それぞれに分けて解説した。

●視聴前

「視聴前は、番組をまだ見る前のフェーズでも視聴者を楽しませることがポイント。ネタバレを恐れず、事前に楽しむファン目線でメイキングや収録後のキャストの感想などをコンテンツとして上げることで、本編へのワクワク感が煽られる。『私(スタッフ)もファンの1人です』という立ち位置がファンの共感を生みやすい」(吉池氏)

●視聴中

「視聴者はスマホを片手に番組を見ていることが多い。それを逆手に取り、視聴中の時間帯は視聴者や出演者のつぶやきをRTしてもよい。独立したコンテンツとしての面白さを追求するよりかは、番組にプラスオンする、視聴者と共感を呼ぶような内容がよい」(渡辺氏)

●視聴後

「番組に関連する場所や人や店、モノや場所を巻き込み、視聴者との間にコミュニケーションのうねりを作る。例えば、これらにまつわるSNSアカウントとのやりとりやリツイートなど。瞬発的なムーブメントを作り出せば、トレンド化してひろく可視化させることが可能。他にも作り手側の人間味を出す工夫として、見逃し配信のURLをツイートする際、中の人の感想や見所を添えてもよい」(渡辺氏)

■「視聴者ペルソナ」を作り出し、プロモートのヒントに。視聴ジャーニーの先にある展望

「コンテンツの価値が高ければ間違いないが、体験という付加価値を付けることで、見てよかったという気持ちにさせることができる」と、吉池氏はセッションを振り返ってコメント。将来に向けた展望として「今後は番組ごとに視聴ジャーニーを捉えることで、新たなプロモート方法のヒントが見出せる」と語る。

「番組のターゲットを分析して視聴者のペルソナを作り、実際にどのような視聴ジャーニーをたどっているかを踏まえることで、プロモートの打ち手を探れるのではないか」と吉池氏。「ひと研究所では今後も映像コンテンツの価値向上につながる研究を引き続き実施していく」とし、「みなさまと一緒に、ぜひとも業界を盛り上げていきたい」と締めくくった。