関西テレビ メディアビジネス局長 竹内伸幸氏

21 APR

「見られてなんぼ」新指標で成功したドラマ『罠の戦争』トータルセールス戦略【関西テレビ メディアビジネス局長インタビュー後編】

編集部 2023/4/21 08:00

関西テレビが注目するのは、コンテンツ単位のビジネスモデルにある。地上波とキャッチアップ、OTTを合わせた総視聴者数=トータルリーチを新たな指標とし、約10年前からビジネスパートナーと共通認識を深めながら、セールス展開を進めている。2023年1月期ドラマ『罠の戦争』はその成功事例という。関西テレビはコンテンツの価値を上げて、どのようにしてトータルセールスに繋げることができたのか。竹内伸幸メディアビジネス局長が明かしたその全貌を前編に続き、お伝えする。

■強いコンテンツを作り、頑張って売る時代

――トータルリーチ戦略の根底として、地上波テレビのコンテンツの価値が正当に評価されていないのでは?という危機感があることが大きいですか?

竹内氏:これからのテレビ局は頑張って売らないといけない。そう思っています。たとえば、個人視聴率は相対的に言えば、精度の高い数値であることは間違いなく、個人視聴率が一桁でも十分にターゲットにリーチして広告効果を発揮しているドラマも多いのですが、一方で、一桁で見せる視聴率が心理的に弱いコンテンツのような印象を与えてしまうことも少なくありません。昭和・平成の時代に世帯視聴率で 30%超えといった華々しい数字が世間にも共有されていた頃と比べると、テレビが過小評価されてしまう要因の1つにあるのは確かです。無視できないものだと思っています。だからこそ、強いコンテンツを作ることがテレビ局の使命であることを再認識し、自信を持って売り、広告主にも媒体価値が高いことを理解してもらう努力が必要だと思うのです。

――10年ほどかけて、コンテンツ単位のビジネスを進めてきたことで新たに得られた効果はありますか?

竹内氏:Netflix、U-NEXT、Huluとコンテンツ供給するお得意先を沢山作ってきたことで、コンテンツの流通量は圧倒的に増えました。Netflixにはこれまで常時20以上のコンテンツを供給しています。10年これを続けてきたことでカンテレブランドのドラマが配信事業者の間で定着してきたとも思っています。カンテレドラマは、トータルリーチの観点で圧倒的に多いことから、局としてのブランディング力の向上にも繋がっています。そういう意味でもドラマ『罠の戦争』はコンテンツ単位のビジネスとして力を発揮し、ブランディングからトータルセールスまで成功したと自信を持って言えます。

■勝利の美酒を祝うプロダクトプレイスメント

――トータルリーチ戦略の中で試みたドラマ『罠の戦争』のプロダクトプレイスメントについても教えてください。

竹内氏:サントリー様に60秒のご提供を頂き、5話のエンドロール付近で、出演者に「ザ・プレミアム・モルツ」を手にして飲んでもらうシーンがそれに当たります。台本に書かれたシーンからプレイスメントの可能性を検討、制作陣の理解を得て、勝利の美酒を祝うというストーリーと演出上に必然性があり、ことさら強調しないことで「エモーショナルプレイスメント」として効果的に実施できたと思っています。

――ステルスマーケティングと誤認されない工夫など、今後の課題をどのように考えていますか?

竹内氏:プロダクトプレイスメントは映画の世界では当たり前のように使われています。テレビもキャッチアップとOTTが成長してきたことでドラマの中で効果的に取り組むことができるものだと思います。地上波の提供CMは同報性と広域へのリーチを活かしたキャンペーンとしてこれまで通り活用し、OTTは長期間の視聴を視野に入れたプロダクトプレイスメントを活用することが重要となります。何年経っても色あせないような看板商品が好ましいと思います。またはキャッチアップはコンテンツ内に CM を 1 週間発信できることから、同時性と長期性の両方の効果を期待できるメディアと言えます。

テレビ局は今後、スポンサーのニーズに合わせてプロダクトプレイスメントに取り組むことも重要になってくるはずです。プロダクトプレイスメントは、提供社へのサービスの1つとし、プロダクトプレイスメントの価値を認めて頂けた場合、より高い価値で提供を認めて頂ける可能性が高いでしょう。また、ステルスマーケティングと誤認されない明確な仕組み作りが必要です。プロダクトプレイスメントに関しては露出される時間よりも、どのようなシチュエーションで効果的かつ必然的に使うかが重要で、同時に視聴者に不快感を与えず好意的に見てもらえることも求められます。『罠の戦争』の場合にも社内の関係者で何度も議論を重ねて今回はこのような形で決着しましたが、案件ごとに議論を重ねる必要があります。プロダクトプレイスメントの表現についてはこれらを踏まえて研究しています。

■テレビ局は復活の“のろし”を上げていくべき

――ドラマというコンテンツの価値そのものを見直すことで可能性は広げることがトータルリーチ戦略の基本にありますか?

竹内氏:ドラマは広告価値とコンテンツ価値の両方に優れています。そのドラマの価値を高めることで、海外でも配信されるチャンスを得て、プロダクトプレイスメントされた日本製品や日本のサービスが世界に知られることにも繋がることを願っています。凋落気味のテレビも何かしら復活の“のろし”を上げていくべきです。ドラマはそのキーデバイスとして有効です。情報量がすべての時代に、たくさん見られるようにトータルリーチを広げていく。コンテンツは“見られてなんぼ”です。トータルリーチはトータルセールスに繋がっていきます。

――トータルリーチ戦略は生き残り策とも言えるものです。改めてお聞きします。重要視している理由とは何でしょうか。

竹内氏:コネクテッドTV環境が進むなかで、テレビの相対的なメディアパワーは漸減する可能性があります。一方でコンテンツ単位の戦いではテレビ局が作る良質なコンテンツはますますビジネスチャンスを生み出し、存在感を高められる可能性があると信じています。トータルリーチ戦略を進める理由はここにあります。視聴率や PUT の低下などが注目を集めてしまう今だからこそ、テレビ局が制作するコンテンツの価値を正当に評価してもらうためにもやるべきであり、OTT で高く評価されるコンテンツをいち早く視聴できるのが地上波であることを再認識するものでもあります。また放送される CM の価値は多くの映像コンテンツが溢れる現代においては以前よりも「強く」視聴者に伝わるものであることを伝えることができます。

日本国内だけでなく、海外も加わってコンテンツの価値が増大していることをテレビ局自身がもっと認識し、自信を持つべきだと思います。強気で行こう。お話させてもらったことが全てのテレビ局のドラマセールスに役立ってもらえたら本望です。

カンテレが推し進めるトータルリーチ戦略は、地上波の広告価値とコンテンツの価値を上げることが最大の目的にある。ドラマ『罠の戦争』の成功は始まりに過ぎない。そんなことも感じさせる具体例にある。

【前編】ドラマ『罠の戦争』で証明するカンテレ「トータルリーチ」のセールス成功事例