15 FEB

TVerとTikTokはティーン層をどう考えている? 〜「メディア環境研究所 プレミアム フォーラム 2023 冬」パネルディスカッションレポート

編集部 2024/2/15 08:00

2023年12月4日、東京・大手町三井ホールにて「博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 プレミアム フォーラム 2023 冬」が開催された。

本記事ではこの中から、パネルディスカッションの模様をレポート。高いメディアリテラシーと情報発信によって自己強化をはかる「イノベーターティーン」に触れたキーノートの内容を踏まえながら、TVerとTikTokの担当者がティーン層に対する取り組みを語る。

登壇者は株式会社 TVer 取締役 サービス事業本部長・薄井大郎氏、TikTok for Business Group Head, Marketi ng Solutions Global Business Solutions, Japan・駒﨑誠一郎氏。モデレーターを博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員 山本泰士氏が務めた。

■「“欲しいもの”が欲しい」のバブル期、「“知りたいもの”を知りたい」の現代

ティーン層の盛り上がりが注目されるTVerと、ティーン層のコミュニケーション手段として、強い支持を得るTikTok。それぞれの立場から、彼らのどんな行動スタイルが見えるのか。冒頭では3者がそれぞれの雑感を述べる。

博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 山本泰士氏

「調査によると、『テレビ番組が好き』という傾向は若者ほど強く、その背景にTVerが大きく寄与している」と山本氏。10代の35.2%が「TVerを見るのが習慣になっている」に「あてはまる」回答し「ややあてはまる」を含めると6割以上に達しているという。

「『なんとなくTVerを開いて見たい番組を探す』という行動が定着しているほか、SNSで話題のドラマをTVerで追いかけ、最終的にリアルタイムに参加するなど、テレビのリアルタイム配信を有意義な時間と捉えている」(山本氏)

TVer 薄井大郎氏

これに対して薄井氏は、「全体の利用者層における人数比は、日本の人口構成比と同じ10%弱ではあるものの、利用意向は全世代でもっともティーンが高い」とコメント。TVerのサービス認知率が全世代で7割なのに対し、TF(ティーン女性)層では9割と際立っているという。

「TF 層は情報感度が一番高く、動きが速いイメージ。TVerにおけるドラマ1〜3話配信についても認知が高く、『話題になってからTVerでチェックする』というスタイルができあがっている」(薄井氏)

TikTok for Business 駒﨑氏

続いて駒﨑氏が、TikTokから見たティーン層のイメージについてコメントする。同サービスは強力なレコメンドエンジンによってタイムラインに流れる「おすすめフィード」が大きな特長だ。

「これまでは知りたいものをユーザーが検索していたが、いまはレコメンドによって『情報が人を探しに来る』ようになった」(駒﨑氏)

「ティーン層は特にタイパ意識が高い」と駒﨑氏は語り、10代の60%以上が「動画をよく倍速で見たり、飛ばしたりしながら見たりしている」とする調査結果に言及。「限られた自分の時間を大切に、QOLを高めるため『自分が知りたいこと』だけを知りたいという思いが強い」と指摘する。

「バブル期の1988年、糸井重里氏による西武百貨店のキャッチコピー『ほしいものが、ほしいわ』は、モノが飽和する中、琴線に触れるものを提案してほしいという当時の消費マインドを的確に表現したが、いまのティーン層にも近いベクトルを感じる。いまは興味の対象がモノから情報へとシフトしたが、琴線に触れるものを提案してほしいというマインドは変わらない。あえて言うならば『“知りたいもの”が知りたい』のではないか」(駒﨑氏)

「シリコンバレーのティーンとは違って日本のティーンはセンシティブ」と駒﨑氏はいい、日本のティーンは「ささやかな自己表現や自己肯定のためにソーシャルプラットフォームを活用している」と指摘。ランニングしながら、その日行ったささやかなチャレンジを自己啓発風に“報告”するハッシュタグ「#お前今日何したんだよ」がTikTokで合計1億再生に達したことに触れ、「うまくいかない日常を鼓舞する動画がティーンを起点に幅広い世代へ広がっている」と語る。

■TVer、TikTok それぞれが描くティーン像とアプローチ

そんな中、TVer、TikTokがティーン層に対して行うアプローチとは。薄井氏はTVer側の施策として、ドラマのダイジェスト特集を挙げる。

「ティーン層はタイパ重視。予告をまとめて見られることへのニーズが高いことから、1話のダイジェスト配信などに注力している。特に興味のきっかけを用意することが大事と考えており、出演俳優軸での特集や年代別特集など、人によるキュレーションでセレンディピティを作り出す」(薄井氏)

一方、TikTokは「好奇心を開放するために遊び道具を提供し続ける」と駒﨑氏。「ルールを決めて乗せるより、創造性を発揮する道具を渡して一緒に遊ぶことが大事」とし、ARエフェクトを介したコミュニケーションツール「エフェクトハウス」の事例を紹介。同事例では集英社の漫画作品とタイアップするなど、コンテンツとしての展開にも積極的だという。

【参考】好奇心の解放

さらに駒﨑氏は、過剰な情報環境から若者たちを守る「デジタルウェルビーイング」の取り組みについても紹介。「10代ユーザー(※18歳未満<13歳以上>のユーザーが所有するすべてのアカウント)においてはアプリの視聴時間を1日60分に制限するなど、ボストン小児病院のデジタルウェルネスラボの専門家と議論を重ね、より良い視聴環境を探っているという。

駒﨑氏は日本でのTikTokについて「若者のサードプレイスでありたい」とコメント。「誹謗中傷などに心を痛めることなく、気軽に動画を投稿してコミュケーションできること」を前提に、「創造性を発揮しつつ、ティーンが落ち込んでいるときにもすっと入ってくることのできる環境作りに取り組んでいる」と語る。

■急に近づいても引かれる。ティーンに使ってもらうには“日常の接点づくり”が必須

キーノートでは「イノベーターティーンに使われるためメディアのありかた」が論じられたが、TVerとTikTokは今後に向けてどのような展望を描いているのか。山本氏はテーマ全体を俯瞰しながら「若者はトゲトゲした争いの多いインターネットに飽き飽きしている人もいる」と語り、「ティーンにもっと面白がってもらえるメディアの形は?」と質問を投げかける。

TVer 薄井大郎氏

薄井氏はTVerのFAST対応に言及し、「ドラマやスポーツだけが流れる『ダラダラ流れているだけのストリーム』を展開してみたい」とコメント。「いまTVerに欲しいのはコミュニケーションのきっかけとなる機能や、つけた瞬間に『おもしろいかも』と思ってもらえるコンテンツ接触の場」といい、ユーザーごとの「お気に入り」公開機能のほか、「アクセス時に何かしらのコンテンツが動いているものを設けたい」と語る。

一方、駒﨑氏は「ティーンの日常に寄り添う、ということに対して覚悟を持って取り組むことが大事」とコメント。「TikTokは日常を楽しむためのプラットフォーム」と強調する。

「プロモーションのときだけZ世代を使い、10代に光を当て、終わると引くような展開では裏側の魂胆がすぐばれる。普段会話もしないのに、急に近づいたら引かれてしまう。企業としてはワンショットのキャンペーンではなく、日常的にコミュニケーションできる接点を持たなければいけないと思う」(駒﨑氏)

TikTok for Business 駒﨑氏

さらに駒﨑氏は、ティーンが感じる企業キャンペーンへの抵抗感を「企業臭」と表現。「その正体は企業側の『商売』における自己都合な観点」と指摘する。

「発信するメッセージについても、よそ行きの綺麗事ばかり言うのではなく、個人としての内面をさらけ出して共有し、ティーンの日常とつながっていくことではじめて信頼を得られるのではないか」(駒﨑氏)

写真左からTVer 薄井氏、TikTok for Business 駒﨑氏

「ちょっとずつでも誹謗中傷されないで自己実現できる仕掛けや仕組みを提供し、ティーンが自信をつけるサポートをする。このことが企業に対する信頼につながる」と駒﨑氏。「ストックのTVerとフローのTikTok、それぞれの強みを持ち寄ってお互い協力し合いたい」と薄井氏に熱く呼びかけ、パネルディスカッションを締めくくった。