左からVR合田氏、FYCS鈴木氏、ytv三田谷氏、CTV市氏、FBS野田氏、STV古川氏
日テレ系列4局が経営統合「FYCS」が目指すテレビの新たな価値 〜「VR FORUM 2025」セッションレポート(2)
編集部 2025/10/17 14:00
ビデオリサーチ主催「VR FORUM 2025」が、10月8・9日に東京ミッドタウンホールで開催され、会場・オンラインをふくめ、4900名が参加。8日午後のセッション『FYCSの目指すカタチとは?』では、今年4月に設立された「読売中京FSホールディングス(FYCS)」の経営陣・代表メンバーが登壇し、その戦略と展望を語った。
登壇者は、読売中京FSホールディングス株式会社 代表取締役社長・石澤 顕氏、同シナジー戦略局長・鈴木教弘氏、読売テレビ放送株式会社 ビジネス局 東京ビジネスセンター長 兼 東京ビジネス部長・三田谷卓郎氏、中京テレビ放送株式会社 メディア戦略局長・市 健治氏、株式会社福岡放送 執行役員技術局長・野田清茂氏、札幌テレビ放送株式会社 取締役総務局長 古川祥司氏。
モデレーターを、株式会社ビデオリサーチ 執行役員 ネットワークユニットマネージャー 所長・合田美紀氏が務めた。
■4局の経営資源を集約 「スケールメリット」と「シナジー」両輪の経営戦略
セッション冒頭は、FYCS・石澤氏が、同社の経営戦略について語った。
FYCSは日本テレビ系列の基幹局である読売テレビ、中京テレビ、福岡放送、札幌テレビの4局が経営統合して生まれた認定放送持ち株会社だ。サービスエリアの人口は4000万人超と、キー局に匹敵する規模。代表取締役社長の石澤 顕氏は、FYCSの設立を「エリアを越え、組織の壁を越え、前例を越える、テレビにおけるボーダー越えの挑戦」と位置づける。
FYCSの経営戦略の柱は、「スケールメリット」と「シナジー」の両立。「4局の経営資源(ヒト・モノ・カネ)を1つに合わせることで、大規模な経済効果が生まれる」と石澤氏は述べ、資金運用面のバジェット拡大や、従業員1人あたりの健康保険料軽減などのメリットを強調。バックオフィス業務の効率化により、新たな価値創造に向けたリソースの創出や、IT人材確保、サイバーセキュリティ体制の強靭化など、単独では難しい課題を解決するとした。
コンテンツにおけるシナジーとしては、4局がそれぞれ持つ朝・夕方の情報番組で相互に乗り入れ、各局ならではの目線で情報を届け合う取り組みが始まっているという。
「FYCSの誕生は、従来のキー局を頂点とする垂直的な系列連携に『水平の連携の軸』を加えるもの」と石澤氏は述べ、FYCS4局以外の日テレ系列各局の強靭化にも言及。「埋没しがちなローカルコンテンツを、日本テレビの海外販路も活用しつつ、世界市場でしっかり認知して見てもらいたい」と、グローバル展開への意欲ものぞかせる。
FYCSでは、第二位株主の読売新聞社との連携も重視しているという。「ビジネス特性は違えど、伝統メディア同士の信頼が一番大事であるという価値観が一緒」と石澤氏は語り、これらを「信頼のシナジー」と表現。地方公共団体における公募案件への共同提案や、読売新聞社が持つ不動産情報の共有、利活用などといった連携が期待できるとした。
続いてFYCS・鈴木氏が、同社の組織体制について説明。
FYCSの本社は東京・汐留の日本テレビタワー内に設置され、筆頭株主である日本テレビと一体化した運営を志向。中核組織は4局からの出向者7名で構成され、シナジー戦略局、総務人事局、経理財務局の3局体制を取る。シナジー戦略局の下には、4局の社員を横串で繋ぐ形で、編成・技術・営業ほか6つのカテゴリに分かれたプロジェクトを組成。各社の部長・局長クラスの役員をはじめ、取締役や執行役員もメンバーとして参加する。
各プロジェクトの下には、さらに専門的な「分科会」を設置し、営業分科会やサイバーセキュリティ分科会など、より現場に近いメンバーが所属。ミッションの発生、完了に応じて立ち上げ、解散を柔軟に行う、アメーバ型の機動的な運営を目指しているという。
■FYCS共同制作番組で培った「結束力」 新たに導入の「共通CM枠」は即完売
セッション後半では、FYCS鈴木氏と、読売テレビ(ytv)・三田谷氏、中京テレビ(CTV)・市氏、福岡放送(FBS)・野田氏、札幌テレビ(STV)・古川氏が登壇。番組制作やセールスにおける実際の取組みを振り返りながら、組織としての強みを語った。
FYCS設立後、初の4局共同制作番組は、2025年6月29日にFYCS4局ネットで放送された特別番組『未来人に残したい!ふるさとタイムレスカプセル』。人気グループ・timeleszをMCに迎え、各局がそれぞれのエリアから「未来に残したい」と願う人、食、文化などを紹介する内容で、FYCSのシナジー創出に向けた試金石ともいえるプロジェクトとなった。
番組制作においては、単に価値あるコンテンツを作る以上の重要な目的があったという。制作を担当した中京テレビ・市氏は次のように語る。
「各局のバラエティ番組の制作班は横の繋がりがほぼない状態であり、お互いの強みや制作体制を知らなかった。今回の番組では、共同制作を通じて相互理解を深め、今後の本格的な連携の土台を築く機会とすることを大きな狙いとした」
目的を達成するため、番組では各局が自エリアの企画、リサーチ、ロケ、編集まで全工程を責任持って担当するという制作手法を採用。当初は摩擦が少なくなかったというが、その過程を乗り越えたことでチームに結束力が生まれ、新たな共同制作に向けた動きが早くも生まれているという。
セールス面でも、新たな挑戦が行われた。番組のCM枠において、4局同時にCMを流す「共通枠」を8枠設定したところ、スポンサーから高い関心を集め、すぐに完売したという。セールスを担当した読売テレビの三田谷卓郎氏は、「準備期間の短さから一部の要望に応えきれなかったり、放送エリアをまたぐ際の広告主の業態考査など、共同セールス特有の課題も明らかになった」と振り返りつつも、一定の手応えを見せた。
番組の制作著作はFYCS4局が共同で保有し、今回は読売テレビが番組送出、中京テレビが制作費の精算を担当するなど、柔軟な役割分担を実施。制作・営業・権利処理といった、番組制作の工程全般において、今後のFYCSにおける共同事業のモデルケースとなった形だ。
■「電話1本で繋がる組織に」技術・機材・人材の共有が生む新たな連携のかたち
続いて福岡放送・野田氏が、技術面での連携について説明。各社が保有する機材リストを共有し、遊休機材を相互に貸し借りすることで、外部からのレンタル費用を削減し、機材の有効活用を進めているという。また、FYCSにサイバーセキュリティ分科会を設け、各社の対応レベルを評価する共通リストを作成。全体のセキュリティレベル向上と人材育成を目指すという。
番組制作においては、FYCS4局が技術力を持ち寄る取り組みも行われた。4月29日に各局の夕方ワイド内で同時放送された視聴者参加型企画『ニッポン見知らんガイド』だ。この企画は、福岡放送が自社で展開していた企画が3局の強い関心を受けたことから共同制作に発展。「地元ではよく知られているが、他の地域では知られていない(=見知らん)」スポットを各局が紹介し、視聴者が関心を持った局に、WEB上でスタンプ投票を行った。
当企画では、企画提供を福岡放送、投票システムのサーバー構築・クラウド技術・ログ収集を中京テレビ、放送上で稼働させるシステム実装を読売テレビ、そして投票サイトのドメイン管理をFYCS本体で分担。1局での実施時に比べ、爆発的なアクセス集中が予測されたが、技術やノウハウを惜しみなく提供し合うことで、短期間での企画実現を成し遂げたという。
FYCSの設立は、人材交流の活性化にも繋がっているという。読売テレビ・三田谷氏は、「FYCSをきっかけに、電話1本で『ちょっといいですか』」と気軽に相談できる関係が局の垣根を越えて生まれている」と手応えをのぞかせた。
人事面を担当する札幌テレビ・古川氏は、4社合同での新人研修や会社説明会の実施事例を紹介。「各局の新入社員は系列の同期という大きな財産を得ることができ、採用活動でも、自社単独で出会えなかったであろう学生にアプローチできた」という。
「4社がそれぞれ会社の枠を超えて繋がり、その大きな輪の中で柔軟な人材交流や流動性のあるものをさらに広げ、今度はFYCSの枠を超えて各社がリーダーを務めているブロックとも繋がって密接に仕事をしていきたい」と古川氏。「そういうところから、FYCSで働くことの新しい価値を創造していきたい」と力を込めた。
最後にFYCS・鈴木氏は、「自立していた4社が突然兄弟会社になるということに戸惑う向きもあったと思うが、具体的な連携事例を重ねることで、関わったメンバーが新たな手応えを感じ始めている」とコメント。「『そんなことができるわけない』が、『やってみたらできるもんだね』へと変わっていっている」と、希望を示した。