左から宮田拓弥氏、Jay Adya氏、増澤 晃氏

16 FEB

球団もテレビ局も投資家に、ドジャースとテレ朝に学ぶ潮流 〜Inter BEE 2025 レポート

編集部 2026/2/16 12:00

一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「Inter BEE 2025」を2025年11月19~21日にかけて幕張メッセで開催。今年は昨年を上回る33,853名が来場した。

本記事では、11月19日に行われたINTER BEE IGNITION × DCEXPO 基調講演「ドジャースはなぜ投資するのか?球団もテレビ局も“投資家”になる時代」の模様をレポートする。

登壇者は、MLBロサンゼルス・ドジャースの投資部門・Elysian Park VenturesのManaging Partner、Jay Adya氏と、株式会社テレビ朝日 経営戦略局 投資戦略部 オープンイノベーション担当部長 増澤 晃氏。モデレーターはスクラムベンチャーズ 創業者兼ジェネラル・パートナーの宮田拓弥氏が務めた。

スポーツ界と放送業界、それぞれの立場からなぜ今“投資”に乗り出すのか。日米を代表する両者が語った投資戦略と、AIやグローバル化がもたらす未来像に迫る。

■野球以外のリーグも投資対象 「文化とスポーツの交差」に価値を見出すドジャース

Elysian Park Venturesは、ドジャースの現オーナーグループが球団を買収した直後の2014年ごろ、「スポーツの未来に投資する」ことを目的に設立した投資事業体。

投資対象はスポーツ分野に特化しているが、その手法はインキュベーションやアクセラレーター運営、初期から後期までのベンチャーキャピタル、さらには企業の完全所有までと極めて柔軟だ。

Elysian Park Ventures / Managing Partner・Jay Adya氏

「私たちは一本の電話、または一本のZoomコールで、投資を検討する企業がドジャースにとって利益になるかどうか直接相談できる」とAdya氏。ドジャース球団との強固な連携が、投資先の評価と成長支援において大きな優位性を持つことを示した。

Adya氏は、最も成功した投資事例として、米国のスポーツベッティング大手「DraftKings」を挙げ、「ベッティングがファンのエンゲージメントを高めるというデータが投資の決め手になった」と説明。「人々がより多く賭ければより多く試合やイベントを観戦する傾向がある」という、説得力のある統計に着目したと述べた。

米国のベッティング法合法化の波に乗り、投資は大きな成功を収めたが、「その一方で整合性の担保が不可欠だった」とAdya氏。

投資を実行するにあたり、ベッティングの不正な活動を監視する独立した第三者機関の存在を確認したといい、「それが整備されていなければ、どのリーグもベッティングを許可しなかっただろう」と、慎重なデューデリジェンスの過程を述べた。

ドジャースの投資は野球に留まらず、女子バレーボールリーグ「League One Volleyball(LOVB)」にも投資。その理由は、野球と同様のピラミッド型の参加者構造にあったという。

「バレーボールリーグの頂点にプロリーグがあり、その下に大学、高校、5歳から12歳の少女たちがプレーするクラブが存在します。この育成からプロまで一気通貫の構造が、野球で機能しているモデルと極めて似ていると考えました」

さらに直近では、「国際ダンスリーグ(IDL)」にも投資。「ダンスがオリンピック種目に採用され、競技として確立されている点や、TikTok検索の35%が何らかの形でダンスに関連しているという文化的な影響力の大きさに着目した」とAdya氏は述べ、ドジャースが「スポーツと文化が交差する機会」に投資価値を見出していることを示した。

AIがスポーツに与える影響についても議論が及んだ。

Adya氏は、「かつて紙ベースだったスカウティングレポートが、今や100年分のビッグデータとAIによって解析され、投球の確率まで予測可能になった」と指摘。「コンピュータビジョンは投手のリリースポイントの変化をミリ単位で捉え、選手のパフォーマンス向上に貢献している」と述べた。

「AIは『怪我の予防』という、アスリートの健康に関わる重要分野でも活用が進んでいる」とAdya氏。過去の膨大な選手データから怪我に至る状況を分析し、故障リスクを未然に防ぐトレーニング計画の立案が可能になったと述べ、AIが選手のキャリアを守る上で果たす役割の大きさを語った。

Elysian Park Ventures / Managing Partner・Jay Adya氏

Adya氏は日本市場について「非常に期待しており、強気である」とコメント。「日本のプロ野球が持つ長い歴史と熱狂的なファンベースは、野球関連のポートフォリオ企業にとって、米国に次ぐ第2の市場となりうる」と、強い期待感を示した。

「AIやコンピュータビジョンの分野において、日本のスタートアップが持つ高い技術力にも注目しています。国内だけでなく、米国など国外、さらにその他の分野にも市場拡大のポテンシャルを秘めています」

Adya氏は、現在の投資先について、米国が中心であるとしつつ、「次の10年間では、おそらく逆転するでしょう」と予測。グローバルな投資を加速させる上で、日本が極めて重要な拠点になるという考えを明らかにした。

■「リトルリーグの選手を支援するように」長期目線でエンタメの種を育てるテレ朝

続いて登壇したテレビ朝日の増澤晃氏は、2024年7月に設立した50億円規模のCVC(Corporate Venture Capital:事業会社によるベンチャーキャピタル)「EX Innovation Fund」について紹介した。

「EX Innovation Fund」の投資対象は、エンターテイメント分野のスタートアップ。金融パートナーとしてシンプレックス・アセット・マメジメント社と連携し、「二人組合CVC」として、事業面、金融面の両方で支援が展開されるという。

「スタートアップ投資を野球に例えると、甲子園で結果を残している選手をスカウトするのではなく、リトルリーグで優勝した選手たちを支援するようなもの。目先のシナジーだけを追うのではなく、まだ小さくとも将来大きく飛躍する可能性を秘めた“原石”を、長期的な視点で支援していくというスタンスであると考えるとわかりやすいかと思います」

「投資対象は自社の事業領域に隣接するものに限らず、EX Innovation Fundでは(直接的な関連分野ではない)“飛び地”的なものも含めた『エンターテイメント』として広く捉えられていると感じる」と増澤氏。

現在投資を行っているショートフィルムプラットフォーム「SAMANSA」や、eスポーツのファンビジネスに取り組む企業「CELLORB」などを例に挙げ、「クリエイターや起業家の持つストーリーへの共感が投資判断の重要な基準となっているように思う」と、個人としての見解を述べた。

株式会社テレビ朝日 経営戦略局 投資戦略部 オープンイノベーション担当部長 増澤 晃 氏

また、増澤氏はAIがさまざまなコンテンツ制作に与える影響について、「学習データについてはオプトインの姿勢が重要であるのはもちろんとして、その一方で制作工程の効率化を目的としたAI活用は今後ますます進むのではないか」と語った。

増澤氏は音楽や漫画における著作権の複雑さにも触れ、AI生成物が既存作品の影響を受けてしまう可能性など、クリエイティブ領域特有の課題も指摘。一方で、「AIは多言語展開など、『コンテンツをどう広げていくか』というグローバル化の側面で大きなチャンスをもたらすのではないか」とし、「海外展開が課題である放送局にとって、AIが強力な武器になり得るのではないかと個人的には思う」と述べた。

増澤氏は、テレビ朝日が有明南地区に開業する複合型エンタテインメント施設「TOKYO DREAM PARK」についても紹介した。

同社の発表したプレスリリースによると、同施設は「すべての価値の源泉はコンテンツにある」という理念のもと、テレビ朝日が全社的に推進してきたメディアシティ戦略の中核プロジェクトとして開業するもの。12,900平方メートルの広大な敷地のもと、自社IPを活用したリアルイベントを展開できる新たなプラットフォームとして、多目的ホール、劇場、イベントスペース、屋上広場、レストランなどを備え、エンタテインメントとテクノロジーが融合する発信拠点を目指すという。

スクラムベンチャーズ 創業者兼ジェネラル・パートナー 宮田拓弥氏

最後にモデレーターの宮田氏が、セッションを総括。70社への投資実績を持つドジャースと、新たにCVCを立ち上げたテレビ朝日の話を受け、AIの進化が社会に浸透し、人々の労働時間が減少していく未来に言及した。

「AIの浸透によって生まれる余暇時間はスポーツやエンターテイメントの消費に向けられ、これらの市場がますます大きくなる」と宮田氏は述べ、市場の成長に対する強い確信を表明。「独立系ベンチャーキャピタルとしても、この成長市場への投資をさらに加速させていきたい」と意欲を語り、セッションを締めくくった。