note・徳力氏、Hulu・香川氏、FOD・野村氏、TELASA・渡辺氏
Hulu・FOD・TELASAが語るテレビ局SVODの活路 Inter BEE 2025レポート
編集部 2026/2/9 12:00
一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)は、「Inter BEE 2025」を2025年11月19日から21日までの3日間、幕張メッセで開催。今年の来場者数は昨年を上回る33,853名を記録した。
本記事では、11月21日に行われたINTER BEE MEDIABiz 企画セッション「テレビ局のSVOD活用の行く先」の模様をレポートする。
海外プラットフォームの存在感が強まる中、日本のテレビ局は配信ビジネスにどう向き合うのか。今回はHulu・FOD・TELASAのキーマンが集まり、テレビ局発のSVOD(定額制動画配信)サービスの現在地と未来が語られた。
本セッションではHJホールディングス株式会社(Hulu) 事業開発室 室長の香川翔兵氏、株式会社フジテレビジョン(FOD) コンテンツ戦略本部 コンテンツ事業局 プラットフォーム事業センター室長の野村和生氏、TELASA株式会社 編成局次長の渡辺章太郎氏がパネリストとして登壇。モデレーターはnote株式会社 noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏が務めた。
■三者三様のSVOD、その成り立ちと戦略
セッションはまず、各社が展開するSVODサービスの特徴紹介からスタート。会場の参加者の多くがテレビ局およびその関連会社の関係者であることがアンケートで示される中、各サービスの担当者がそれぞれの戦略を語った。
トップバッターとして登壇した香川氏は、Huluの成り立ちについて、2011年に米国発のサービスとして日本で展開を開始し、2014年に日本テレビのグループ会社となった経緯を説明。現在は米国Huluとの資本関係を維持しつつ、日本では独自の展開を行うプラットフォームとなった。
配信コンテンツについて香川氏は、「日テレ系のドラマやバラエティがサービスの基軸」としつつも、「ジャンルで言うと、今Huluではアニメがドラマに並ぶ程多く視聴されている」とコメント。
TVOD(都度課金型有料動画配信)でのオンラインライブや、ディズニープラスとのセットプラン、電子コミックサービスも行っているとして、SVODに留まらないデジタルエンターテイメントの複合的な提供を目指す姿勢を強調した。
続いてFOD・野村氏は、FODがAVOD(広告付き無料動画配信)、SVOD、電子書籍、TVOD、ライブ配信といった複数のサービスを展開する複合プラットフォームであることを説明。特にSVODコンテンツでは、国内ドラマ部門において3年連続満足度1位を獲得するなど、独自の強みを持っているという。
FODではグローバル展開を踏まえ、近年急成長するショートドラマ市場に別アプリ「FODショート」で参入。海外展開を容易にするにあたり、楽曲を全て著作権登録しない劇伴として制作することで、海外の音楽著作権管理会社との契約コストを省いているという。
TELASA・渡辺氏は、自社サービスを「かなりSVOD一本槍」と紹介。2020年にKDDIの「ビデオパス」にテレビ朝日が加わる形でリブランディングした成り立ちを説明した。
「最大の特徴はテレビ朝日と通信キャリアであるKDDIの協業にある。全国に展開する『auショップ』や、KDDIグループのJ:COMによるSTB(セットトップボックス)を通じた配信など、通信インフラを活かしたタッチポイントの多さが他社との違い」
「ABEMAなどグループ内の他サービスとは明確に棲み分けができており、TELASAはSVODに特化している」と渡辺氏。HuluやFODが電子書籍などを自前で展開するのに対し、TELASAの場合は「グループ内に既に様々なサービスが存在するため、あえて複合化する必要がない」と背景を述べた。
■「ストック」か「フロー」か。SVODで輝くコンテンツの本質
「地上波で見られるものと、SVODでの人気番組に違いはあるのか」という徳力氏の問いから、議論は「SVODで価値を持つコンテンツとは何か」という本質へ移った。
Hulu・香川氏はまず、「両者の評価指標が全然違う」と指摘。地上波が視聴率を重視するのに対し、SVODではサービス内の視聴数に加え、「それきっかけでどれぐらい加入してもらったか」という加入寄与度を指標化していると説明した。
「広告モデルの地上波とユーザー課金のSVODではビジネスモデルが異なる。SVODはユーザーに求めることにシビアに答えないと、そもそも観られないし加入もされないという厳しさがある」
Huluでは『月曜から夜ふかし』や『しゃべくり007』といった人気バラエティが強いほか、ミステリーやサスペンスなど「次が気になって話題にしたくなるもの」が特に伸びやすい傾向にあるという。
FOD・野村氏は、コンテンツを、時間が経っても価値が落ちない「ストックコンテンツ」と、その場で消費される「フローコンテンツ」に分類して議論を展開した。
「ドラマやドキュメンタリー、『ドリフ』のような普遍的な内容のコント、F1などのシーズンスポーツはストック性が高く、SVODと相性が良い。対照的にニュースや情報番組、時事ネタに寄りすぎたコント、クイズ番組などはフロー的で、SVODでの需要は低い」
「アイドルグループの活動を追う『timelesz』や、過去の人気番組『めちゃイケ』の「オファーシリーズ」などは、今でも継続的に視聴されている」と野村氏。
FODの会員データを用いた「ミルフィーユ図」を示し、「人気ドラマで獲得した会員が解約せずに残り続けることで『積み上がり効果』が出て、会員数が増えていく」と、ストックコンテンツによる顧客維持の重要性をデータで証明した。
TELASA・渡辺氏は、野村氏の分析に「本当におっしゃる通り」と全面的に同調。「テレビ朝日の地上波では『Qさま!!』や『ミラクル9』といったゴールデン帯のクイズ番組が高視聴率だが、SVODでは相性が悪い」と語った。
「借用素材をSVODで再利用する際に発生する追加の利用料など、権利処理コストの観点からも配信が難しい実情がある」
その一方で、「『ロンドンハーツ』や『テレビ千鳥』など深夜のお笑いバラエティはストック性があり人気が高い」と渡辺氏。
テレビ朝日の強みである『相棒』や『科捜研の女』といった長期シリーズドラマが、「新シリーズが始まる直前になると、前のシリーズたち(の視聴)が動き出す」と述べ、膨大な話数が強力なストックコンテンツとして機能している実態を明かした。
■データ、IP、そしてリモコン。自前プラットフォームを持つ価値
セッション中盤は、「テレビ局がSVODをやる価値は?」という徳力氏の問いをきっかけに、自前でプラットフォームを持つことの戦略的意義が語られた。
口火を切ったのは、FOD・野村氏。「テレビ局がSVODを行う最大の価値は、視聴データが取れるというところ」と断言した。
「外部プラットフォームにコンテンツを提供した場合は視聴データがほぼ開示されないが、自社サービスであれば、視聴者の属性データはもちろん、どのシーンで離脱したかといった詳細なデータまで取得・分析でき、番組の脚本やキャスティングといった大元の制作側にフィードバックできる」
さらに野村氏は、「AIを使ってデータ分析をすることで、脚本の改善案や、バラエティなどでの『数字を持つゲスト』の発見など、データドリブンな制作の可能性もある」とコメント。「フジテレビ局内でも意識が変化しており、視聴率発表の隣に配信視聴数発表がほぼ同じ重要度で張り出されている」と、配信への重視が文化として根付きつつあることを明かした。
テレビのリモコンに搭載される、自社サービスへのアクセスボタンの存在も大きいという。野村氏は「ボタン搭載によってCTVへの入口が2倍になる」といい、「フジテレビのコンテンツへの入口を増やす重要な施策」と語った。
これを受け、香川氏もリモコンボタンの価値について言及。当初は費用対効果を懸念したものの、実際に導入してみるとボタン経由のユーザーはLTV(顧客生涯価値)が高い傾向にあったといい、「中長期的に見て、しっかりユーザー数をストックしていくことに貢献しているという実感がある」とその効果を認めた。
■配信から地上波へ、ファンと創るヒットの法則。各社の具体施策
続いて議論は各社の具体的な取り組み紹介へ。SVODならではの施策がファンを巻き込み、新たなヒットの形を生み出している事例が報告された。
TELASA・渡辺氏は、同サービスで450話以上が配信されているドラマ『相棒』のファン投票企画を紹介。「泣ける部門」「ハラハラドキドキ部門」といったテーマで「推しのエピソード」を募集し、その上位作品を地上波の再放送枠でオンエアしたという。
「この施策により、ファンがテレビとアプリを行ったり来たりする相乗効果が生まれ、『相棒』のファンの方がテレビとアプリを行ったり来たりする形が生まれた」と渡辺氏。TELASAでは羽生結弦のアイスショーのマルチアングル配信や、FRUITS ZIPPER、湘南乃風のライブ中継、年末の『M-1グランプリ』大反省会のライブ配信など、熱量の高いファンに向けた配信コンテンツにも力を入れていると述べた。
「オファーシリーズの配信にあたり、過去放送分で使用した借用映像の権利処理に膨大な手間とコストがかかったが、権利上の都合で配信できないという『フタ画』を使用せず、丁寧に一つずつ権利処理をしたことで、結果として、放送当時と内容が色あせないクオリティを維持できた」
野村氏は映画ファン向けの施策として、FOD会員が金曜日にTOHOシネマズでチケット割引を受けられる「FODフライデイ」を紹介。公開初日となることが多い金曜日での施策は当初抵抗があったというが、「『F』のつく日にやることに意義がある」と説得し、実現させたという裏話を披露した。
Hulu・香川氏は、Huluオリジナルドラマ『十角館の殺人』の成功事例を提示。映像化不可能と言われた作品を制作・独占配信し、加入者の獲得に成功したという。
「年末年始に地上波放送とTVerでの配信を行ったところ、配信開始直後に次ぐ”二つ目の山”ができた」と香川氏。配信と放送を組み合わせることでヒットを最大化させるメディアミックス戦略を解説した。
オリジナル作品の制作費については3社ともに「ピンキリ」としながらも、香川氏は「地上波ドラマと同等か、それ以上の予算を投じるケースも出てきている」と言及。市場全体の制作費高騰を背景に、SVODがコンテンツ制作の新たな主戦場となりつつあることを示した。
■韓国での“危機”から学ぶ、未来への警鐘と展望
セッションの最後は、各社の未来への展望で締めくくられた。
Hulu・香川氏は、日本発のコンテンツが海外で評価されている現状を踏まえ、「ジャパンプラットフォームの矜持を持って、しっかりコンテンツをヒットに導ければ」と抱負を語った。
TELASA・渡辺氏は、KDDIグループの一員である強みを活かし、通信や電力・ガスといった生活インフラと結びついた「生活に根ざした1個のサービス」を目指したいとの考えを示した。
一方、FOD・野村氏は、韓国のエンタメ業界で起きている“危機的状況”を紹介。痛烈な警鐘を鳴らした。
「韓国では、制作費の異常な高騰により放送局がコンテンツの権利を手放した結果、Netflixへの一極集中と国内プラットフォームの形骸化を招いた」と野村氏。世界的なヒットとなった『イカゲーム』主演俳優の出演料が1話100万ドルを超えるなど制作コストが高騰した結果、「地上波のドラマ枠が半分に減少し、放送されない作品が100本以上も積み上がっている」という。
「国内OTTである『Wavve(地上波放送局系)』と『TVING(ケーブルテレビ専門局系)』の2社は、互いにコンテンツを供給しない一方、最大の競合であるはずのNetflixには共にライセンスするというねじれ構造になっている」
「これを受けて、『韓国はエンタメ産業が終わるのではないか』という危機論が、韓国内でも高まっている」と野村氏。「日本が同じ轍を踏まないためには、IP(知的財産)の源流である原作作りから関与し、自社のプラットフォーム機能を手放さない一気通貫の垂直統合モデルを構築することが重要だ」と強調した。
最後の挨拶で各氏は、「リソース不足が課題」としつつも、「リアルイベントの開催」(渡辺氏)や「海外展開」(野村氏)、「他社との提携」(香川氏)に意欲を見せ、日本のコンテンツ産業の未来に向けた挑戦を続けていく姿勢を表明した。
モデレーターの徳力氏はセッションを総括し、「日本の音楽も映像コンテンツも、かつては世界には通用しないと業界の人たちが言っていたが、ここ数年で藤井風さんの音楽が海外でヒットしたり、『SHOGUN 将軍』のような日本語主体のドラマが世界で大ヒットしたりと状況は変わってきている」と指摘。
「日本のコンテンツはデジタル化の遅れから海外に認知されなかっただけで、そのポテンシャルは高い」と述べ、「このような各社の取り組みが、日本のコンテンツを世界に広げるきっかけになれば」と期待を語った。