25 FEB

なぜ、ドキュメンタリーの学びの場が必要なのか——「DDDD Film School」立ち上げ背景(前編)

編集部 2026/2/25 12:00

ドキュメンタリーに特化した学びの場として、「DDDD Film School」がまもなく開講2年目を迎える。立ち上げたのは、これまでメディアや映像制作の現場に関わってきた、Yahoo!ニュース ドキュメンタリー チーフ・プロデューサーの金川雄策だ。同スクールを運営する一般社団法人DDDD Institute代表を務める。企業や放送局の枠組みではなく、あえて独立したプロジェクトとして設計されたこのスクールは、どのような問題意識から生まれ、何を目指しているのか。金川氏に、設立の背景とその狙いを聞いた。
(ジャーナリスト・長谷川朋子)

■NHK、ABEMAの作り手が集まる場所

ドキュメンタリーを取り巻く環境は、静かに変化している。配信プラットフォームの存在感が増すなか、国際マーケットとの向き合い方が改めて問われている。一方、日本の制作現場では作り手が体系的に「学び直す場所」が不足してきたという声も根強い。こうした状況を背景に、ドキュメンタリーに特化した学びの場として始まったのが、「DDDD Film School」である。

一般社団法人DDDD Institute代表の金川雄策氏は、立ち上げの理由について「個人のプロジェクトとして取り組みたかった」と語る。企業の看板から距離を取った背景には、参加者の裾野を広げたいという意図があった。放送局や制作会社に所属する人材から個人クリエイターまで、立場を問わず学べる場が必要だと思ったからだ。

一般社団法人DDDD Institute代表 金川雄策氏

「普段メディアで働いている人たちは、メディアとしての倫理観を常に意識しています。それは当然重要です。ただ一方で、“普段はできない”と思っていることもある。学びの場では、そうした前提を一度取っ払って、作ってみようと考えました。思いがある人なら、どなたでも来ていただける場所にしたかった」

学びの場ではまず、つくり手自身が「何をつくりたいのか」を試行できる余白が必要になる。金川氏が目指したのは、まさにそのための環境だった。実際、2025年4月開講の第1期生には、NHKやABEMA、制作会社など、さまざまな立場の作り手が集まった。

■一つのメディアで頑張る時代は終わる

金川氏自身の原体験も、スクール設立へと一歩踏み出すきっかけになった。朝日新聞社勤務時代に一年間休職し、ドキュメンタリーフィルムメイキングを学ぶため、自費でニューヨークのフィルムスクールに留学した経験がある。そこで触れたのが「とにかく作って覚える」という方法論だった。

「週5の授業を一年間通う学校でした。学費は十数年前の当時、日本円で330万円ほど。円安や物価高の影響もあり、現在はその3倍近くになっています。海外で学ぼうとしても今はなかなか厳しい状況だと思います」

この経験は、資本や組織の制約に縛られない、自由度の高い運営方針にも影響を与えている。

「一つのメディアという単位で頑張る時代は、もはや終わりつつあると感じています。だからこそ、垣根を越えた形でのコラボレーションがしやすい形を取れることが重要だと思いました」

では、どのようにカリキュラムとして組み上げられているのか。DDDD Film Schoolは1年間、週1回の授業を基本とする。毎週木曜に3時間、年間52週のうち47回を実施する構成だ。

課題は複数用意されている。最初に取り組むのが「12枚の写真で人物のストーリーを伝える」課題だ。光や構図、レンズの使い方など、映像表現の土台となる「一枚の強度」を鍛える狙いがある。

また8ミリフィルムを使った1分間の映像制作実践もある。3分半という限られた尺の中で、事前にカット割りを考えたうえで撮影に臨む。準備とその場の判断を身体で覚えるための課題だ。

さらに、音だけで状況を伝える1分課題や、1分で「いま起きていること」を捉える課題などを積み上げ、前半の総仕上げとして3分半の作品を完成させる。そのうえで最終的に、15分の卒業制作へとつなげていく。

■縮小傾向の市場で必要なアクション

スクールが「グローバルスタンダード」を掲げるのは、単なるスローガンではない。金川氏は、「日本と海外とでは、テレビドキュメンタリーの作られ方に大きな違いがある」と指摘する。

「海外にもナレーションドキュメンタリーはありますが、日本ではそれがほぼ9割9分を占めています。一方で、ノーナレーションで物語を立ち上げる技法、いわゆる“ビジュアル・ストーリーテリング”を体系的に学べる場は多くはありません」

日本では、大学で映像を専攻せず、一般学部からテレビ局や制作会社に入り、OJTで手法を身につけていくルートが一般的だ。こうした環境では、「これまで通りのやり方」から一歩踏み出すきっかけを得にくい側面がある。

「国内のみならず、海外にも発信できる力を身につけることは、日本の映像産業が縮小傾向にあるなかで、必要なアクションだと思っています」と金川氏は語る。そのために、一年で集中的に“手法”を鍛える設計にしたという。

週1回の学びであっても、分解と積層で基礎体力は作れる。DDDD Film Schoolのカリキュラムは、その仮説を実践に試す試みでもある。次回後編では、講師陣をどのように組み、体制をどう整えてきたのか。1年目の手応えを振り返る。

画像:DDDD Film School