WOWOWの国内プロダクション事業第1弾となった古川琴音主演『ミッドナイトタクシー』(NHK)
企画力を武器に、WOWOWプロダクション事業の挑戦【インタビュー前編】
編集部 2026/7/21 12:00
WOWOWの国内プロダクション事業が、2024年の事業発足以来、着実に実績を積み重ねている。現在、NHKの夜ドラ枠で放送中の古川琴音主演『ミッドナイトタクシー』も、その一つだ。なぜWOWOWは、自社の放送ではなく、他局やプラットフォーム向けに企画を持ち込み、制作を担う事業へ乗り出したのか。少数精鋭の体制ながら、企画の提案先からキャスティング、映像づくりまで一貫して向き合うWOWOWコンテンツプロデュース局プロダクション事業部チーフプロデューサーの加茂義隆氏に、新事業の狙いと、作品をどのように形にしてきたのかを聞いた。
(ジャーナリスト 長谷川朋子)
なぜNHKの夜ドラ枠だったのか?
WOWOWがプロダクション事業部を立ち上げたのは2024年4月である。それまで自社映画レーベルの「WOWOW FILMS」などを通じて、放送コンテンツ以外の企画・制作も手がけてきた同社は、新たにドラマ制作を企画・受注するビジネスへと踏み出した。放送局や各配信プラットフォームと関係を築きながら企画を持ち込み、制作まで担う。WOWOWが長年培ってきた企画力を、自社の枠を超えて生かすことが、この事業の狙いだ。
NHKの夜ドラ枠で6月1日から放送スタートした『ミッドナイトタクシー』は新事業の第3弾の作品になる。制作統括を務めるWOWOWプロダクション事業部チーフプロデューサーの加茂義隆氏はNHKで成立した経緯を語る。
「本作の企画者である弊社ドラマ制作部の松本太一プロデューサーと協議をして、この企画はNHKの夜ドラ枠だからこそ持ち味を最大限に生かせると考えました。WOWOWで放送するという選択肢もあったかと思います。ただ、作品を最も良い形で届けられるのは夜ドラ枠だと思ったんです」
『マイダイアリー』(ABCテレビ/テレビ朝日系)で向田邦子賞を史上最年少で受賞した脚本家の兵藤るり氏と松本氏が数年前から温めていた企画の骨子は、タクシーという限られた空間を舞台に、会話を積み重ねていく物語だったという。その作品性こそが、夜ドラ枠を選んだ理由にもなる。加茂氏が説明する。
「WOWOWには現状、15分ドラマの放送枠はありません。自社でドラマを放送する場合は最短でも30分枠です。車中の会話劇という企画を考えると、30分ではもしかしたら間延びしてしまう可能性があると思いました。実際、制作してみると『これは15分だからこそ心地よく成立するドラマだ』と再認識しました。もし15分以上が条件だったら、物語に別の仕掛けが必要だったと思います」
作品に最適なフォーマットを見極めることは、届け先を選ぶことにもつながる。
「企画をどこに提案するのが最適なのかをロジカルに決めているわけではありません。企画のクリエイティブをどう生かせるのかを突き詰めていくと、おのずと届け先が見えてくるのかもしれません」と加茂氏が続けた。
「深夜のタクシー車中」も物語の世界観を追求
キャスティングもまた、企画に合わせて組み立てられていった。深夜専門のタクシードライバー・蘭象子役には、地上波連続ドラマ初主演となる古川琴音を起用。伯母役に和久井映見、行きつけの喫茶店「つかれしらず」のマスター役に竹中直人が出演する。さらにリリー・フランキーがナレーションを務めるほか、各話を彩るゲスト陣の幅広い顔ぶれも見どころの一つになっている。
「キャスティングも夜ドラ枠を意識しています。NHK側の考えも丁寧にヒアリングをしながら、一つひとつの役について実力や人気などさまざまな角度から候補を挙げ、検討を重ねました」と加茂氏は説明する。
また制作費の配分をどう考えるかという中でも、重要な判断があった。その具体例に挙げたのが、車中から見える“後ろに抜けていく夜景”の表現だ。どの映像技術を使って演出するかが検討され、VFXによる合成や、LEDディスプレイを使うバーチャルプロダクション、そしてプロジェクターで背景を投影するスクリーンプロセスの3つが候補に上がった。
「VFXを使えばクオリティは担保できますが、コストはかかります。予算を踏まえると選択肢は2つ。どちらがいいのか実際に試しながら比較し、最終的に古くから使われている手法のスクリーンプロセスを選びました。コストバランスが良いのは確かですが、単に予算の問題だけで選んだわけではありません。少し不思議で優しい物語の世界観を表現するには、バーチャルプロダクションのような高精細な映像よりも、スクリーンプロセスの柔らかいルックの方が合っていると思ったからです」
試行錯誤の過程そのものも、スタッフチームが楽しみながら意見を出し合い、クオリティを追求していく時間になっていたという。
少数精鋭もオールラウンダーが強みに
こうした現場での判断の背景には、プロダクション事業としての方向性がある。加茂氏はこう説明する。
「先輩たちが積み上げてきたWOWOWのものづくりの姿勢は外部にも伝わっていると思っています。単純に企画が良いというだけでなく、高いクオリティのものを作るだろうという期待があるからこそNHKに企画を採択していただいている。その期待に応えるためにも、期待以上のものを作らなければいけない。結果を残す必要があると思っています。現場は大変ではありますが、“お値段以上”のものを届ける意識でやっています」
プロダクション事業部は10人強の少数精鋭で構成されており、そのうち実写のプロデューサーとして独り立ちしているのは3人程度だ。月に1回の企画会議を軸に、チーム員が企画を出し合いながら映画とプロダクション受注の企画の議論を重ねている。
「現状はプロダクション事業チームの人数は限られているので、本数を急激に増やすことに難しさがある一方で、我々プロダクション事業部のメンバーは、若手も含めて、企画から実際の制作、さらには配給宣伝やコンテンツセールス、法務・経理的な折衝などコンテンツ制作のすべてに関わり、それぞれオールラウンダーであることが強みだと思っています」
企画のクオリティを保ちながら、意思決定のスピードを確保することにもつながっている。こうした体制のもとで生まれた作品には、第63回ギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞した『八月の声を運ぶ男』(NHK)やAmazonのPrime Originalとして配信中の『クロエマ』もある。成果は外部からの評価としても表れている。今後、WOWOWのプロダクション事業はどのように拡張していくのか。後編に続く。