WOWOWの国内プロダクション事業第1弾となった本木雅弘主演ドラマ『八月の声を運ぶ男』(NHK)
“対外試合”で見えてきたWOWOWプロダクション事業の手応え【インタビュー後編】
編集部 2026/7/27 12:00
WOWOWの国内プロダクション事業第1弾となるドラマ『八月の声を運ぶ男』(NHK)は、第63回ギャラクシー賞テレビ部門大賞を受賞するなど、高い評価を得た。その成果を受け、社内ではどのような変化が生まれているのか。新たに見えてきた課題も含め、事業は次の段階へ進もうとしている。後編では今後の展開に込めた狙いについて、WOWOWコンテンツプロデュース局プロダクション事業部チーフプロデューサーの加茂義隆氏に聞いた。
(ジャーナリスト 長谷川朋子)
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初の国内プロダクション事業作品が高評価
2025年8月、NHK総合で戦後80年ドラマとして初回放送された本木雅弘主演『八月の声を運ぶ男』は、WOWOWプロダクション事業部チーフプロデューサーの加茂義隆氏が制作統括として参加し、ドラマ制作部プロデューサーの松本太一氏の企画のもと、池端俊策氏の脚本、柴田岳志氏の演出という座組で始動した。NHKへの企画公募を経て成立した企画だ。
プロダクション事業として初めて手がけた作品でありながら、数々の受賞実績を上げている。第63回ギャラクシー賞テレビ部門大賞の受賞をはじめ、橋田賞、放送文化基金ドラマ部門奨励賞、芸術選奨放送部門文部科学大臣賞と、高い評価が並ぶ。加茂氏は、受賞についてこう受け止める。
「プロダクション事業初の取り組みながら、初めて組ませていただいたクリエイターの方々と、本木雅弘さん、阿部サダヲさんをはじめとするキャスト陣、そして東映京都撮影所のスタッフの方々と作り上げた作品が結果として、素晴らしい賞をたくさんいただけたことは本当に嬉しく、光栄なことだと思っております。NHKの終戦ドラマとして成立した影響も、大きかっただろうと思います」
こうした受賞実績も背景に、プロダクション事業の取り組みは広がりを見せている。未公開シーンを追加し、音響も5.1chに再構築した劇場版『八月の声を運ぶ男』が、自社映画レーベル「WOWOW FILMS」の配給で今年8月21日より公開される。
またNHKでは夜ドラ枠の『ミッドナイトタクシー』へとつながり、世界配信プラットフォームの領域でも展開している。海野つなみ原作漫画をドラマ化し、今泉力哉の演出で杉咲花と多部未華子が主演するAmazonのPrime Originalドラマシリーズ『クロエマ』がその一つだ。
自然発生的に企画相談の会話が生まれる
この事業をきっかけに、社内にも変化が生まれていると加茂氏は話す。
「プロダクション事業部以外の部署からも新しい企画の相談が増えています。自然発生的に会話が生まれている感覚があります。僕ら自身が垣根を越えて常にオープンでいたいと思っているので、外部のプロデューサーからの提案も含めて、さまざまな企画の話が進んでいます。
目指すクリエイティブのゴールに対して、最適なクリエイターやキャストを揃えて世に出すことが僕らの使命だと思っています。あらゆる放送局、どのプラットフォームでも企画を成立させていくような気概でいます」
さらに海外にも広げていくことも視野にある。WOWOWには、海外作品の日本国内での制作プロダクション業務を受託するWOWOW BRIDGEという子会社もある。「連携を密にとっているので、国内だけでなく、海外とも手を取り合うことができればと思っています」と、加茂氏は続けた。
一方で、加茂氏はプロダクション事業が抱える課題についても言及する。
「ドラマ『ミッドナイトタクシー』のネット上の反響をみると、『どうしてWOWOWが制作しているんだろう』といった声もあります。NHKとWOWOWが並んだクレジットに、違和感を持たれているのだと思います。だからもっと、このプロダクション事業の存在自体を、視聴者の方にも浸透させていく必要があると感じています」
さらに、その先にある可能性にも目を向ける。
「これまで築き上げてきたWOWOWのドラマや映画のクオリティが、企画のきっかけになり、採択に繋がっています。ある種の“安心印”になっていると思うんです。これからは、我々が制作するプロダクション作品も見ていただき、魅力を感じていただけたら、それがWOWOWサービスの加入につながっていく。そんな相乗効果を生み出せたらいいなと思っています」
部署の垣根を越えて、対外試合をしまくる
加茂氏自身は、映画会社でのキャリアを経て2016年にWOWOWへ中途入社し、映画事業一筋で携わってきた。新たにドラマプロダクション事業も担う中で、意識の変化も感じているという。
「正直なところ、これまで映画中心にしか考えてこなかったので、視野が広がったのは確かです。作品が届けられる場所が広がったことで、市場の見方も変わったように思います。ただ、個人的には数字だけ追っても面白い作品は作れないとも感じています。『八月の声を運ぶ男』のように一点突破できる力のある企画で、いい意味で周りを気にせず“これで行くんだ”と言い切れる、想いの強い作品もしっかり作っていきたいと思っています」
こうした考えの根底には、市況が厳しさを増し、コンテンツに求められる基準も高まっているという現実がある。そんななか加茂氏は、制作のあり方をこう見据えている。
「本当に僕らも試行錯誤です。映画もドラマも、何が観客に刺さるのかは答えが見えにくい中で、“きっとこうであろう”と信じるしかない部分があります。だからこそ、おこがましいかもしれないですが、“あ、さすがWOWOWだね”と思ってもらえる作品を作ることこそが大事なんじゃないかと思うのです。
さまざまあるプロダクション会社の中からWOWOWの企画を選んでいただいた以上は、やっぱり期待に応えたい。似たような物語があふれる時代だからこそ、キャスティングや監督、脚本など、企画の根幹で差別化していきたいと思っています。クオリティの高い対外試合をしまくって我々自身もパワーアップしていきたいです」
まだスタートしたばかりのプロダクション事業だが、企画の立て方から座組の組み方まで新たな視点を加えることで、これまで一人ひとりが築いてきた独自性の追求と丁寧に作品を手がける姿勢が、WOWOWのこれからの強みに繋がっていくのではないか。
『八月の声を運ぶ男』公式サイト:https://www.wowow.co.jp/film/august/