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コネクテッドTV広告への新たな視座 〜TVer×インテージ×青山学院大学 共同研究プロジェクト 担当者インタビュー(後編)

編集部 2022/7/13 08:00

株式会社TVer(以下、TVer社)、株式会社インテージ(以下、インテージ )、青山学院大学(以下、青学)による共同研究プロジェクトが2021年4月に始動。これまでに様々な調査や学生によるグループワーキングなどが行われてきた。今回は、これらの結果を持ち寄り、TVer社とインテージ による発表会が行われ、その内容を前後編でお届けする。

【前編】大学生の声から見えた「コネクテッドTVに親しい属性」と「視聴動機」

前編では、コンテンツ視聴に関する調査結果と中心にお届けしたが、後編となる今回は、「コネクテッドTVにおける広告効果の可視化」をテーマに、青山学院大学 社会情報学部 飯島泰裕研究、TVer社、インテージ と同大相模原キャンパスにて共同で行われた調査について紹介。実施内容としては、キャンパスの学生へのメディア接触におけるアンケート・ヒアリング調査に加え、講義の一環としてTVerを用いたプロモーション企画を考えるグループワークが行われた。

前編に引き続き、共同研究メンバーは、株式会社TVer プロダクトオーナー室・谷内健太氏、株式会社インテージカスタマー・ビジネス・ドライブ本部・若狭僚介氏、同事業開発本部 次世代消費者パネル事業本部アナリスト・山津貴之氏(4月26日取材時点)。後編となる今回は、前編で紹介したアンケート・ヒアリング調査の結果を踏まえながら、学生に課題として与えたグループワークの内容にフォーカスし、彼らの意見を参考しながら効果的なコネクテッドTV広告の方向性を探った。

■学生に共通した広告コミュニケーションにおける共通視点

今回のグループワークは、既存のサービスの枠組みを拡張して「TVerというサービスを用いたフードデリバリーサービスのプロモーション方法」をテーマに、8グループが参加。学生からは具体的なアウトプットを想定した企画案がプレゼンテーションされた。

グループワークにあたり、ほとんどのチームは「動画広告そのものが、ネガティブなイメージを持たれてしまっている」ことへの解決策を期待したという。若狭氏は次のように語る。

インテージ 若狭僚介氏

若狭氏:見たいコンテンツと、その時々に流れる広告の最適化をこれまで以上に行うことができれば、広告に対するネガティブなイメージも減り、広告型の動画配信サービスであるTVerがよりみなさんに好かれるプラットフォームになるのではないかという意図がありました。

その結果出されたのが、「TVerの中で流れる動画広告を使ったアイデアではなく、TVerというプラットフォームやテレビコンテンツを広く使った新しい提案」というリクエスト。谷内氏いわく、学生からは示唆に富んだアイデアが寄せられたという。

TVer 谷内健太氏

谷内氏:学生のみなさんからは、単純に動画広告を展開する施策ではなく、「どのようにすればTVerというプラットフォームでフードテックサービスを気持ちよく使ってもらえるか」「いかに嫌悪感を感じさせることなく、TVer上でユーザーに対する訴求をするか」という点に焦点をあてた本質的な提案を多くいただきました。学生から発表された内容の詳細に関してはここでは割愛させていただきますが、広告をいかに不快でなく、快適に届けるかという視点は、視聴者のみなさまにより長くTVerを使ってもらうためにも大切なポイントであると考えています。今回のグループワークを通じ、やはりそれを実現することが、実際に広告主へのメリットとしても非常に重要なのだと再認識させられました。

■産学連携調査から得た、コネクテッドTV広告への新たな視座

前編で紹介したメディア接触の状況、とりわけコネクテッドTVに利用実態に加え、学生の広告コミュニケーションにおいて見られた共有の視点を俯瞰して見た際、若狭氏が「コネクテッドTV広告の価値」という側面から今後の展望を語った。

若狭氏:今回の調査を振り返り、やはりコネクテッドTV広告は視聴者の熱量の高い状態で視聴されている傾向が高いと感じました。これまでの「このドラマはこの枠で放送されているから、その時間帯に見ている層をターゲットとする」という発想からの転換が求められてきているのではないでしょうか。

これから大事になってくるのは、「能動的な視聴者に、いかにネガティブなイメージなく広告に接してもらえるか」。番組の視聴理由や広告に対する印象の評価をしっかり汲み取り、「このコンテンツのどんな点が刺さっているのか」というエモーショナルな部分を深掘りすることで、番組と広告クリエイティブの最適な組み合わせを提案できるのではないかと思います。

一方、山津氏は、コネクテッドTV視聴環境としての「世帯」に注目する。

インテージ 山津貴之氏

山津氏:家族と同居か、単身かという世帯構成の違いひとつとっても、コネクテッドTVの視聴傾向に大きな違いが出る、という点は非常に興味深いところです。特に、同居家庭については、コネクテッドTVを保有していても「家族が誰でも見られる」ことを優先し、あえて地上波を見るという傾向も見られました。

「テレビ画面で見るコンテンツ」としてコネクテッドTVを考えたとき、「家族の中での視聴」という側面について、もっと考える必要があると思います。自分の好みに合ったコンテンツを選べることにメリットを感じやすい単身者層だけを向くのではなく、「家族で見ている空間で、いかにコネクテッドTVコンテンツを利用してもらうか」という観点で考えることも大切ではないかと感じました。

 

これまで個人単位を基本としてきた、IDによるプロフィールの紐付けやレコメンドについても考え方を広げ、「世帯単位」の軸を視野にいれる必要が出てくるのではないでしょうか。

これらの意見を踏まえ、谷内氏は「コネクテッドTVプラットフォームとしてのTVerが、いかに視聴者と広告主を結びつけるプラットフォームになれるかが重要であるという点を再認識できた。また、テレビコンテンツへ触れてもらうために、さらにさまざまなことを考えていかなければいけないと感じました」と振り返った。

■まとめ(飯島泰裕教授)

今回、TVer様、インテージ様との共同研究プロジェクトで、いくつかの新たな知見が得られた。従来TVは「ながら視聴」なので、家事をしながらの視聴だったり、スマホを見ながらの視聴だったりしている。だから、CMもさほど気にならず、新しい情報が得られれば、好反応であった。一方、コネクテッドTVは見たいものを見ているため、番組に集中した視聴であり、直接関係ないCMに嫌悪感を感じている。これは、YouTubeなどにおけるCMの評価でも顕著にこの傾向がある。

確かに、Web検索したり、Twitterを見ているときに、プロモーション記事が多いと不快に感じる。見ている側のフェーズによって、CMの受け取られかたは変化するようで、これを間違えると嫌われ者になってしまう。つまり、コネクテッドTVのCMは、番組の内容に合わせたCMすることが望まれており、そうしたCMを作ることは新しい試みであり、いわばCM技術の新領域を作っていかなければならないだろう。

現在、家庭を情報化するツールとして、スマートスピーカー(AmazonアレクサやGoogleホームなど)も徐々に普及しているが、スマートスピーカーにディスプレイの付いているものも増えている。音声で指示するのは便利だが、音声の情報提供だけでは不足なのだろう。コネクテッドTVもコントローラに、音声で指示できる機能がついているものも現れている。パソコンでも仮想エージェントで音声インタフェースを持たせるものもある(富士通の家庭用パソコンでは「ふくまろ」という人工知能エージェントがパソコンの使い方をサポートしてくれる)。さてさて、家庭の情報化の主導権はどれが握るのだろうか? 嫌われないCMは家庭生活に豊かさをもたらしてくれるだろう。これから、ますます楽しみになってきている。(青山学院大学 飯島泰裕)

【前編】大学生の声から見えた「コネクテッドTVに親しい属性」と「視聴動機」