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地デジ中継局“ブロードバンド代替”の合理性は? Interop Tokyo 2022基調講演「IP化時代における放送の将来像」レポート(中編)

編集部 2022/7/27 09:02

 2022年6月15日から17日に千葉・幕張メッセにて開催されたインターネットテクノロジーのイベント『Interop Tokyo 2022』で、江口靖二事務所・企(くわだて)・TVer・NHK放送文化研究所の4社による基調講演「IP化時代における放送の将来像」が開催。この模様を前編・中編・後編にわたりレポートする。

パネリストは、株式会社江口靖二事務所代表 江口靖二氏、株式会社企 代表取締役 クロサカ タツヤ氏、株式会社TVer 取締役 須賀久彌氏。モデレーターは、NHK放送文化研究所メディア研究部 チーフ・リード 村上圭子氏が務めた。

前編では、全国のミニサテ局・小規模地上波デジタル中継局による伝送をブロードバンド回線に代替するという総務省の構想について取り上げたほか、視聴者・制作者にとって複雑化を極めた放送システムを“単純化”する方策として「放送のIP化」が語られた。

続く中編では、「テレビのIP化サービス」について、TVerの現状と合わせて須賀氏がプレゼン。さらに前編でも話題に上がった総務省「デジタル時代における放送制度のあり方に関する検討会」の現状について、メンバーに名を連ねるクロサカ氏の解説を紹介する。

■視聴デバイスとして存在感を増すコネクテッドTV

株式会社TVer 取締役 須賀久彌氏

まず須賀氏は、TVerが2022年3月時点で月間動画再生数が2億5000万回を突破したことを報告。「2015年のサービス開始当初は1ヶ月でも400万再生も行かなかったが、この6年で1週間あたり6000万再生にまで成長した」と、その成長ぶりを語る。

TVerでは、既存の見逃し配信、2022年4月よりスタートしたリアルタイム配信をふくめて「もっと、今をつなぐテレビへ。」という思いをこめて、「NOW ON TVer」とブランド化。加えて、過去番組の配信やローカル局制作番組をピックアップした特集企画などにも積極的に取り組んでいる。

現在のレギュラーの配信コンテンツは500番組に達し、「単純平均で、5系列それぞれが毎日14番組公開している規模」という。

さらに須賀氏は、コネクテッドTVへの対応についても言及。2019年4月より進めてきたテレビデバイスへの対応が進み、「現在はほとんどのメーカー製のテレビでTVerが見られるようになった」という。

「現在はTVerへの再生数の25%がコネクテッドTV経由」と須賀氏。

「テレビというサービスを、放送だけではなく、放送と配信をミックスした新しいものに進化させていきたい」と語った。

■山間部を中心とした小規模中継局の18.6%、さらに小規模なミニサテライト局の27.8%は「ブロードバンド代替が合理的」

株式会社企 代表取締役 クロサカタツヤ氏

続いてクロサカ氏が、自身の所属する総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会 小規模中継局等のブロードバンド等による代替に関する作業チーム」の取り組みについて解説する。

【総務省】デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会
小規模中継局等のブロードバンド等による代替に関する作業チーム(第1回)配付資料資料1-5より

「実際に実行するための法整備やニーズはこれから検証しなければいけない」とクロサカ氏。現在は地上波デジタル中継局をブロードバンド伝送へと代替させるあくまでの判断材料として、人口動向や地理的状況などをもとに全国から選定した12箇所のモデル地域で試算を行った。

モデル地域としての具体的な選定基準は、「ブロードバンド代替のコスト」「地域において光ファイバー化されている世帯数」など。実現可能性の試算においては設備の設置コストを指標としているが、放送アプリケーション、各種サーバーやCDNなどの送出設備そのものの設置コストについては明確な価格基準が存在せず、マーケットプライスがバラバラであるため、計算には入れていないという。

「モデル地域の対象となるのは、小規模中継局、ミニサテライト局、共聴設備が設置されている地域。このうち、小規模中継局で受信世帯数が多いところは現状で経済合理性が一定程度あると判断し、いまのところ直ちにプロードバンド代替の対象にはなりにくいだろう、ということで外している」(クロサカ氏)

ブロードバンド代替による“経済合理性”が発揮されると判断されるのは、当該地域において既存の送信所設備のメンテナンスコストに対して、地域内の世帯数、すなわち視聴者数が少ないとされる場合だ。クロサカ氏いわく、国政調査の人口推計調査メッシュによれば、「今回検討の俎上に上がったすべての地域について、2040年時点でいまよりも人口が減少、ところによっては『人口ゼロ』という算出になったところもある」という。

こうした前提を踏まえた上で、チームでは、2015年の受信世帯数分布を元に、NHKの地上波デジタル中継局データをベースとした、ブロードバンド代替の妥当性を計算。試算の対象とした地域のうち、小規模中継局によるカバー地域の18.6%、ミニサテライト局のカバー地域の27.8%が、人口に対して中継局の維持コストが割高になると判断され、「伝送路をブロードバンド回線に代替するほうが経済的に合理的であると判断された」という。

さらに、2040年の時点では、人口減少が進むため、全ミニサテライト局の約半数に対して、ブロードバンド代替の経済合理性が期待できるのではないかということが整理できたという。

「実際、2030〜2050年になれば、6Gの時代になっていく。総務省は今後、携帯電話1契約あたり10円程度のコストをすべてのユーザに負担してもらい、光ファイバーを含めたブロードバンドの敷設をユニバーサルサービスとして提供することを目指しており、仕組みのうえでは放送のブロードバンド代替も、あながち無理な話ではなくなってきた」と話す。アプリなど、実際の視聴手段そのものの整備や、放送サービスそのものの前提条件をどう設定するかなど、さまざまな課題がある」とし、今後、さらに検討を深める必要があるとした。

後編では、江口氏、須賀氏、クロサカ氏、村上氏によるパネルディスカッションの模様をレポート。「放送のIP化」においてどのような課題を解決すべきか、その具体的な内容に迫る。