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“オンライン常態化”で変化するメディア生活〜メディア環境研究所フォーラム 2022夏 MORE MEDIA 2040キーノートレポート(前編)

編集部 2022/8/12 08:30

東京・大手町三井ホールにて『博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所フォーラム 2022夏 MORE MEDIA 2040 〜メディアは、体験し、過ごす空間へ〜』が、2022年7月7日に開催された。

2019年秋以来、約3年ぶりにリアルイベントでの開催となった今回のメインテーマは、「2040年のメディア環境」。コロナ禍がいまだ収束せず、ロシア・ウクライナ情勢も予断を許さない状況のなか、不確実性を増す時代に必要なものは「未来を見通す『視座』」であるとし、約20年後にあたる2040年のメディア環境を予測する。

本記事では全3回に分け、この模様をレポート。今回は、キーノート「MORE MEDIA 2040 〜2040年のメディア環境を描く〜」の前編として、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員・新美妙子氏によるプレゼンの模様を伝える。

コロナ禍を経て、生活者のメディア態度はどう変容し、これからどのような方向へと向かっていくのか。メディア定点調査を通じて浮かび上がった、生活者の「これまで」と「いま」そして未来の「兆し」をひもとく。

メディア環境研究所 上席研究員・新美妙子氏

■メディア総接触時間は「携帯/スマホ」が「テレビ」を抜き首位に

同研究所では、東京に在住する15歳から69歳の男女を対象に、2006年よりメディア定点調査を実施してきたが、17回目となる2022年、メディア総接触時間において「携帯/スマホ」がテレビを抜いて首位となった。

メディア総接触時間は、昨年2021年の450.9分に対して445.5分とわずかに減少するも、コロナ禍に入ってからはほぼ同水準をキープ。メディア総接触時間の構成比では「パソコン」「タブレット」「携帯/スマホ」の合計割合が57.2%と過去最高を更新した。

メディア総接触時間の時系列推移
メディア総接触時間の構成比 時系列推移

「昨年から引き続き“オンライン常態化”が続いている」と新美氏。「携帯/スマホ」が更に伸び、「パソコン」が70分台、「タブレット」が30分台で推移してデジタルすべてが牽引するメディア環境ということを意味する。性年代別にメディア総接触時間を見ると、若年層では「携帯/スマホ」の時間が長く、シニア層では50・60代女性に顕著に見られるように「テレビ」の接触時間が長い。メディア接触の年代差の大きさが浮き彫りとなった形だ。

性年代別メディア総接触時間

20代のメディア総接触時間におけるデジタルの割合は74.4%と、2006年の調査開始から41ポイント増と急速に伸長。デジタルシフトは若年層が強く牽引している状況が明らかとなった。

性年代別メディア総接触時間の構成比
20代のメディア総接触時間の構成比 時系列推移

■「オンライン常態化」で、メディア環境における「ハードとソフトの分離」が進行

『マス主力』から『オンライン常態化』へ

「『マスメディア主力』の時代から『デジタルシフト』『モバイルシフト』を経て、『オンライン常態化』へと、メディア環境は急速に変化している」と新美氏。見逃し配信や定額制動画配信サービスの浸透により、スマートフォンなどを介したテレビコンテンツの視聴など、メディアコンテンツへの接触は多様化してきた。

これを踏まえ、同研究所では2020年より、マスメディアの接触時間を聞いた後で、その時間に何が含まれているかを調査。テレビを例にとって3年間の変化を確認していく。

テレビ接触の内容変化

テレビの接触時間の中にリアルタイムのテレビ番組を入れた人は3年間一貫して80%台で推移。その一方、見逃し視聴サービスによるテレビ番組は11.3%(2020年)から17.7%(2022年)と上昇した。

さらに動画にいたっては有料・無料共、3年間で大きく上昇。テレビの接触時間に動画を含める人が増加し、動画は確実に存在感を増しつつある。

この背景にあるのが、情報機器・インフラの変化だ。2022年には、「テレビのインターネット接続」の割合は51.4%と、初めて過半数を突破し、「動画をテレビで見られるデバイス所有」の割合は24.4%と、調査を開始した2016年の8.9% から、約3倍の規模に成長。

「これらのことから、テレビは『インターネットに接続されたスクリーン』になったと感じられる」(新美氏)

情報機器・インフラ利用の変化

続いて新美氏は、メディアサービスの利用推移を紹介。定額制動画配信サービスの利用率がもっとも高いものの、定額制音楽配信サービスとともに、その伸び率はやや鈍化。対して、TVerの利用率はコロナ禍で上昇し、2022年には初めて3割を超えた。

メディアサービス利用推移

2022年におけるスマートフォン所有率は96.5%と10年余りで急速に伸長。パソコンも82.3%に達し、タブレット端末の所有率も46.2%と半数に迫り、生活者にスクリーンが急速に普及。「インターネットに接続されたテレビが加わって、スクリーンは更に増加している」(新美氏)

テレビのスクリーンではどのようなことが行われているのかを、メディア定点調査ではコロナ禍前の2020年と今年を比較すると、録画やDVD・ブルーレイの利用率が減少し、動画配信サービス(有料動画・無料動画)や見逃し視聴サービスの利用率が増加。

テレビのスクリーン利用内容

スマートフォンのスクリーンにおいてコロナ禍前の2020年から増加したトップ3は無料動画・有料動画・テレビ番組。スマホでテレビ番組を見るという、テレビのハード(受像機)とソフト(コンテンツ)が分離している状況が伺える。

スマホのスクリーン利用内容
スマホのスクリーン利用内容(増減)
ハードとソフトが分離

新美氏は「テレビのスクリーンが増加してメディア環境はますます多接点になり、メディアのハードとソフトが分離傾向にある」とした。

■情報の「出口」から「入口」へ変化したSNS。

情報を取り巻く環境にも変化が起こっている。メディアイメージ「情報が早くて新しい」の首位は、2015年を境に「携帯電話/スマートフォン」が「テレビ」を抜き、生活者はそれまでになかった情報のスピードと鮮度を手に入れた。

情報が早くて新しい

「知りたい情報が詳しくわかる」というメディアイメージは膨大な情報があることであると解釈しているが、2019年に、それまで首位の「パソコン」を、「携帯/スマホ」が抜いて首位に浮上。

知りたい情報が詳しくわかる

「2019年を境目に、膨大な情報量が常に手元にあり、すぐに接触できるメディア環境になった」と新美氏。「SNSは自分の暮らしに必要だ」という意識は、2022年50.3%と過半数。「SNSから得た情報がキッカケでテレビを見ることがある」も上昇しており、SNSがキッカケでメディア行動につながることが近年増加している。

SNSに関する意識・態度

「これまでは得た情報を共有し、共感して拡散していく“情報の出口”としてSNSが使われることが多かったが、近年は“情報の入口”としての使われ方へとシフトしている」と新美氏。

生活者の情報行動

インターネットやSNSの普及に伴い「インターネットの情報はうのみにはできない」、「気になるニュースは複数の情報源で調べる」という行動が年々増加しており、情報過多の中、自分なりに情報の“たしからしさ”を確保する生活者の情報戦略は益々高まっている。

コロナ禍で生まれたメディア行動

全部で64項目ある生活者のメディア意識を前年との差分でランキングすると、ここ数年、「好きなコンテンツは好きな時に好きなだけ見たい」という生活者の欲求の高まりが見えてくる。生活者のメディア接触は意識的、主体的なものへと変化した」と新美氏。コロナ禍で「つなぎっぱなしでのオンラインコミュニケーション」や「オンラインでのコンテンツ同時視聴」など新たなメディア行動が生まれた」と語る。

コロナ禍で生まれたメディア行動

長時間オンライン上にいる生活が当たり前になる中で、「オンラインの生活とオフラインの生活の境目がない」と感じている生活者が2割いることが注目される。中でも20代では3割近くと高い傾向にある。

オンライン生活とオフライン生活の項目

「情報が爆発的に増加し、メディアの主力がデジタルやモバイルへとシフトしていくなかで、メディア環境研究所は環境の変化と共に生活者の変化をとらえてきた」と新美氏。「フェイクニュースの氾濫を経て『情報』の質に対する意識が高まり、その後、『情報』のみならず『時間』に対する意識の高まりへと変化していく。コロナ禍でさらにその意識が強くなった」と語る。

環境変化

オンラインで同期した「コンテンツの同時視聴」などのメディア行動が生まれ、より良い時間を過ごすために自分が好きなメディアコンテンツだけを選り好みする生活者が登場して、メディア行動と生活行動との境界が溶けつつある」(新美氏)

メディア行動と生活行動の境界は溶けていく

最後に新美氏は、20代女性の生活者へのインタビューの模様を動画で紹介。女性は、「(コロナ禍における行動制限を通じて)つなぎっぱなしのオンラインコミュニケーションやオンラインでのコンテンツ同時視聴を体験したが、それは何かの代替ではなく、新たな選択肢である」という。SNSの発信が日常化することによって、「メディア上の自分がいなくなるということは、現実の自分がいなくなることにほぼ等しい状況になってきた」とコメントした。

「デジタルシフトが加速した結果、メディア空間に自分の居場所があると考える若年層は自然に見られるようになってきている」と新美氏。「メディア環境の変化の激しさを感じる」と締めくくった。

【中編】2040年、メディア環境はどんな姿か? 〜メディア環境研究所フォーラム 2022夏 MORE MEDIA 2040キーノートレポート