MIPCOMカンヌ会場

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11 NOV

スタジオが主役の国際共同プロデュース活況~加速化するグローバル流通市場【MIPCOMカンヌ2022】レポート①

編集部 2022/11/11 08:00

今年のMIPCOMカンヌは3年ぶりに完全復活の開催となった。世界100か国から約1万1000人以上が参加し、その内200人強が現地入りした日本勢も以前のように各種セールスプロモーションを活発化させた。一方で、世界のコンテンツ流通市場トレンドは変化も見せる。国際共同展開が活況を呈し、オープニング・キーノートを務めたイギリスBBCスタジオの事業戦略やプロデューサー対象の新企画イベントが注目を集めた。キーワードは「加速化する変革の波」だ。10月に南仏カンヌで現地取材した「MIPCOMカンヌ2022」を3回にわけてレポートする。

■予想を上回る108か国、11000人が参加

エンターテインメント・コンテンツ国際流通マーケットとして世界最大級のMIPCOMカンヌウィークが10月15日~20日の約1週間にわたりフランス・カンヌ現地で開催された。太陽が燦々と降り注ぐ夏日が続くほど連日天気に恵まれ、コート・ダジュールと呼ばれる紺碧の海岸沿いにある会場「パレ・デ・フェスティバル」を中心に、昼夜を問わずMIPCOM参加者で溢れかえっていた。

その顔ぶれは10年もしくは20年以上通い続ける常連組だけでなく、新たなビジネスチャンスを狙う新顔が増えた印象もあった。マーケットが文字通り戻って来たことを3年ぶりに実感した。

主催するRXフランスも終了間際に開催した記者会見で声高らかに盛況ぶりを伝えた。「3年という長い歳月を経て、盛大に開催する目標を達成することができました。『The Mother of All Entertainment Content Markets=すべてのエンターテインメント・コンテンツ・マーケットの母体』というキャッチフレーズ通り、エンターテインメント・コンテンツ業界最大の国際マーケットとして提供することができ、本当に良かったと思います」と、MIPTV/MIPCOM統括ディレクターのルーシー・スミス氏が第一声を発した。

MIPTV/MIPCOMを主催するRXフランスエンターテイメント部門ディレクターのルーシー・スミス氏 Copyright© S. CHAMPEAUX / IMAGE&CO

続いて、発表されたのは予想を上回る参加国および人数だった。その数は108か国から1万1000人以上に上り、放送局や配信プラットフォーマーを中心に構成されたバイヤー人数は3100人に達した。会場は小規模サイズから100平方メートル規模まで屋内外やビーチサイドにも企業ブースが展開され、ハリウッド勢から欧州の大手スタジオが揃いに揃った。また新装されたJWマリオット・カンヌで週末に開催されたキッズ専門イベント「MIP Junior」には過去最高水準の1300名が参加したこともわかった。

国別参加人数ランキングによると、最も参加人数が多かったのはイギリス勢だった。次いでアメリカ、フランス、ドイツ、カナダ、スペイン、イタリア、トルコ、韓国と続き、日本は国別トップ10ランキングの10位に位置づけ、200人以上が参加した。

日本の放送局各社のブース出展方針は3年前と多少なりとも変化したが、今年4月に放送局の中で唯一ブース出展した日本テレビは継続出展し、またTBS、フジテレビ、テレビ朝日は定位置の目立つ場所にブースを戻し、吉本興業が初出展を果たすなど、各社それぞれ商談スペースを展開した。さらに、常連組の東映アニメーションは全ての参加者に配布されるMIPCOM公式バックを提供し、プリントされたアニメ「ONE PEACE」のイラストを至るところで目にした。

■BBC会長「NetflixやDisney+を打ち負かすつもりはない」

MIPCOMマーケット全体のトレンドは、プレミアムコンテンツを量産するスタジオを主役に、制作から流通まで国際共同展開の時代を迎えていることが強調された。会場では「We are open for business=開かれたビジネス」というフレーズが多用され、コンテンツ流通市場の成長を加速化させていくことに積極的かつ柔軟な姿勢がみられた。

前夜祭の目玉プレミアスクリーニングを飾ったエミリー・ブラント主演の西部劇ラブロマンスシリーズ『The English』に至ってもそれを具現化していた。上映会の全2300席がほぼ満席になるほど注目を集めたその背景にはプリセールスの成功がある。イギリスのBBCの委託を受け、イギリスの独立大手配給会社All3Mediaインターナショナルが主導した『The English』は欧州でDisney+、Amazonプライム・ビデオ、HBO Maxらと既に複数契約が成立し、アジア、ラテンアメリカ地域でもストリーミングメディアを中心に展開されることが決定している。

西部劇ラブロマンスシリーズ『The English』主演エミリー・ブラント Copyright© Y. COATSALIOU / 360 MEDIAS

MIPCOMカンヌではスタジオ栄誉賞を意味する「Studio of Distinction Award」が新設され、公共放送100周年と国際放送90周年の節目にあるイギリスBBCのBBCスタジオが第1回スタジオ栄誉賞を受賞した。国際的なプロデュース展開を促進するBBCの商業部門として成長し続けるBBCスタジオはMIPCOMカンヌの顔となるオープニング・キーノートも務め、国際流通市場における放送局の未来像を示すものでもあった。登壇したBBCスタジオのCEOトム・ファッセル氏の話によれば、全体収益の75%はBBC以外のビジネスパートナーから得られているという。

さらにBBC会長のティム・デイビー氏による特別トークセッションも企画され、デイビー氏は「BBCは伝統的な組織だと思われていますが、その実態は驚くほど革新的。競争は産業を促進させます。NetflixやDisney+を打ち負かすつもりはありません。広い視点で市場を見る必要があると思っています」と語っていた。

BBC会長のティム・デイビー氏 Copyright© H. THOUROUDE / IMAGE&CO

■日本テレビとスペインが提供した「ハブ」が盛況

期間中、新企画の国際共同制作イベント「シービュー・プロデューサーズ・ハブ」には続々と参加者が集まっていた。開かれたビジネス・エコシステムとしての国際共同展開の需要が高まっていることを表していた。Amazonプライム・ビデオの欧州コンテンツ戦略セッションをはじめ、国際プロデュース展開をテーマにした各種セッションに立ち見ができ、商談スペースは常に人で溢れた。日本の参加者も利用している姿があり、国際企画開発の一歩を始めるミーティング・スポットとして機能していたのではないか。

なお、この「シービュー・プロデューサーズ・ハブ」は日本テレビとスペイン貿易投資庁(ICEX)が主導する国際プロモーション・ブランド「AUDIOVISUAL FROM SPAIN」がスポンサードした。

新企画の国際共同制作イベント「シービュー・プロデューサーズ・ハブ」 Copyright© Tomoko Hasegawa

加速化する変革の波は配信プラットフォーム事業にも広がっている。広告付きストリーミング配信モデル「FAST」にイギリス大手配給制作会社のフリーマントルが参入を計画し、Netflixら既存のSVODプラットフォームが広告付きプランを始めるなど話題は尽きない。FASTや広告付きプランに対して「テレビ時代に逆行しているようにも見える」と、MIPCOMマガジン編集長のジュリアン・ニュービ―氏がラップアップセッションで皮肉な発言をするなど、懐疑的に見られる向きはあるが、注目の動きであることには変わりない。

MIPCOMカンヌでは多様性を重視した「ダイバーシティTVアワード」や「ウーマン・パワー・ランチ」などのイベントも継続的に実施された。恒例の日本のイベントや日本各社のプロモーション企画も行われ、関心を集めた。レポート②に続く。

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