30 JAN

広告会社からみたテレビメディアの価値とこれからについて 〜VR FORUM 2022レポート~

編集部 2023/1/30 08:00

株式会社ビデオリサーチが主催する国内最大級のテレビメディアフォーラム「VR FORUM 2022」が、2022年11月29日(火)〜12月1日(木)にオンライン開催。過去最大23セッション開催となる今回は、コロナ禍による生活者のメディア接触変化やDXの流れを踏まえ、放送局や出版社、新聞社など各メディアが模索する「新しいビジネス」にフォーカス。当事者みずからによるプレゼンテーションやディスカッションを通じてヒントを探った。

本記事では、12月1日開催のプログラム「広告会社からみたテレビメディアの価値とこれからについて」の模様をレポートする。

今回は株式会社電通 ラジオテレビ局長 石渡 弥氏、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ テレビタイムビジネス&ラジオ局 局長 川上純平氏、株式会社ビデオリサーチ テレビ・動画事業ユニットマネージャー 板東大介氏が登壇。放送と配信の垣根がなくなりつつある現状を踏まえつつ、良質なコンテンツと広告を生活者に届けるメディアとしてのテレビの「価値」と「これから」を広告会社目線でディスカッションした。

■「“認知はあるが無関心”層を動かす」マス広告としてのテレビの強さ

株式会社電通 石渡 弥氏

前半のテーマは、広告会社からみたテレビメディアの価値について。石渡氏はテレビの価値を表す言葉として、「Scale-UP:多くの人を巻き込む力」「Speed-UP:早く届ける力」「Interest-UP:興味を呼び起こす力」の「3UP効果」を掲げる。

「テレビはトップファネル(認知)にしか寄与しないと思われがちだったが、実際には興味関心や検討までを後押しをする役割も担っている」と石渡氏。「ミドルファネル(認知興味関心)だけでなく、アウトサイドファネル(商品を認知しているが関心が低い層)の購買行動を後押ししている」といい、電通による自主調査結果を紹介する。

「7つの日用消費財において、商品購入時に『考える手間を省略(比較検討の段階を飛ばして認知から購買に直結)』する割合は平均40%、さらに購入前に周囲と会話する率が通常の3.4倍高いことがわかった」(石渡氏)

「自販機で迷わず飲み物を買うように、商品を購入する際、比較検討の段階を飛ばして認知から購買に直結する層がいる」と石渡氏はいい、「こうした層において購買への影響を及ぼせる点が“マス広告”としてのテレビ広告の役割」とコメント。「テレビ広告は認知に関わる『シグナル作用』だけでなく、購入判断を後押しする『ノイズ作用』にも効果を発揮するポテンシャルがある」と語る。

「こうした効果自体は広告に限らず、コンテンツにも言える」という板東氏の言葉を受け、石渡氏は2022年FIFAワールドカップでの民放中継に言及。有料配信プラットフォームから独占配信の引き合いが多数あったとしつつ「本当にサッカー好きのリアルファネルだけに届ければいいということではない」といい、「“にわか”も含め、いろんな方々がサッカーへ簡単に触れられる環境をつくることがテレビの重要な役割だ」と強調する。

■生活者に“未知との出会い”を与え、「世の中ごと化」のうねりを作り出す

株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 川上純平氏

一方、テレビメディアの価値として「圧倒的なリーチ力による『未知との出会い』」を挙げた川上氏は、「『何これ? 初めて見た』『とりあえず検索してみよう』というセレンディピティな出会いを届け、その感情がシェアされることで“話題ごと”が生まれる」とコメント。「(自分の価値観に沿わない情報に触れず固執が進む)フィルターバブルのような社会問題も発生するなか、視野を広げてくれる」と、その役割を語る。

「日本は世界でも珍しく、メディア接触におけるテレビの占有率が高い国。数千万人同時にコンテンツや広告を届けられる環境ということも非常に強い。面で届けることで、ターゲティングでは接触しない生活者に未知との出会いや感情を共有し、『共通の話題』『世の中ごと』として新たなうねりを作り出せるのがテレビメディアの強み」(川上氏)

株式会社ビデオリサーチ 板東大介氏

これを裏付けるデータとして、板東氏はビデオリサーチの生活者のシングルソースデータ「ACR/ex」のデータを紹介。「地上波テレビでは、トップファネルに関わらず、ミドルファネル、購買、拡散まですべてのプロセスにおいて非常に大きな効果が確認されている」と語る。

「『テレビを通じて新商品やサービスの発売を知る』という率は全体の73.1%に及び、『広告の内容についてブログやSNSに書き込みをする』という率も他メディアをおさえてテレビがもっとも高い。もともとメディアとして持つ大きなリーチがさらに拡散され、『世の中ごと』化する一連の流れがデータの面からも見て取れる」(板東氏)

これに対し、「広告が挿入されることを前提としたフォーマットであることもテレビの重要な価値」と川上氏。「広告ビジネスが主体のネット配信ではコンテンツの制作、配信、広告が分離」とする一方、「テレビの場合はCMを設定することを前提に番組の制作を行っている」と語る。

「テレビではCM内容も自社で考察し、タイミングまでを含めて設定している。安心安全な広告クリエイティブを視聴者が慣れ親しんだ広告フォーマットに届けることで、ストレスなく広告との出会いが認識され、ポジティブな認知効果に繋がっている」(川上氏)

■これからのテレビに求められるのは「番組の文脈に関連付いたブランドメッセージ発信」

「番組とCMのフォーマットをいちど更地にし、テレビメディアの価値を最大化するため放送局、広告主と三位一体のチャレンジをしたい」と川上氏。コンテンツ、ブランド、視聴者との間に出会いと共感のコミュニケーションを生み出す仕組みとして「ブランドインテグレーション」の概念を紹介する。

これまでも本編中にブランドを登場させる「プロダクトプレイスメント」の手法は存在したが、川上氏は「好きなコンテンツであればあるほど、視聴者はコンテンツの世界観にそぐわないプレイスメントを嫌がる」と指摘。その点「ブランドインテグレーション」は「ブランドとコンテンツの世界観を融合して作られたメッセージを面で伝えることでポジティブな出会いと共感を作り、SNSの『いいね』やシェアで話題が沸き起こりやすい」という。

「生活者に共感してもらえるようなブランドインテグレーションの実現と、番組・ブランド間での世界観の共有、強化の取り組みがいまテレビに求められている」(川上氏)

川上氏は「ブランドインテグレーション」の事例として、2022年6月放送のドラマ『理想ノカレシ』(TBS)と家電メーカー・I-ne(アイエヌイー)社の取り組みをVTRで放映。ドラマのストーリーの一部として登場人物が同社のドライヤーを使用する様子が紹介された。

これを受け「制作と営業の垣根がなくなり、放送コンテンツとCMがシームレスになったことで、視聴者、生活者のみなさまに受け入れられやすい広告を届けられる環境ができてきた」と石渡氏。リーチやフリークエンシーに次ぐ「モーメントアプローチ」の概念を提唱する。

「視聴者の関与が高まる瞬間にCMを当てたり、ドラマを見ているときにドラマのテイストで商品のCMやサービスを届けるのが『モーメントアプローチ』。関連性の高い番組コンテンツに関連性のあるCMを当てていくことができれば、新しい広告の価値になっていく」(石渡氏)

さらに石渡氏は、番組の文脈に沿った訴求で商品に対する寛容度を高める「コンテンツアプローチ」の事例として、フジテレビのスポーツ番組『S-PARK』と森永製菓とのインフォマーシャルを紹介。本編放送後、番組の文脈にのっとって「選手へのドキュメンタリー取材」のトンマナで同社の商品をPRする模様が放映された。

両氏のプレゼンを振り返り、「コンテンツとブランドとの世界観を一致させ、視聴者にとって受け入れやすい環境を作るアプローチが共通している」と板東氏。「テレビメディアが長年培ってきた安心感と信頼の高さ、広告へのストレスの低さがデータの面でも確認された」と改めて述べたうえで、「(テレビにおける)多面的な展開によって話題が喚起され、拡散へと繋がっていく」と、その効果を語った。

■リアルタイム配信で進むノンテレ・ライト層の獲得。価値指標は「トータルリーチ」へ

後半は、テレビメディアの「これから」についてディスカッション。板東氏はコロナ禍における視聴デバイスやプラットフォームの多様化を示すデータを紹介する。

コネクテッドTVの世帯普及率は2022年9月末の時点で65.4%に到達。テレビモニターにおける「リアルタイム以外の視聴分数」において録画再生の視聴はコロナ前後で横ばいの一方、動画視聴はコロナ前と比較して大きく視聴分数を上げているという。

板東氏は「視聴環境の変化を加速させる大きな動き」として、2022年4月にスタートしたTVerの民放キー局リアルタイム配信に言及。石渡氏は「放送と配信における全てのピースが揃った」と大きく評価。「放送コンテンツがボーダーレスな時代に突入した」とし、「これからは“どれだけの人に届いたのか”というトータルリーチでテレビの価値を表していくことが大事」と語る。

「世間ではリアルタイムの世帯視聴率ばかりが注目されるが、トータルリーチという観点で考えれば、タイムシフト(録画)やキャッチアップ(見逃し配信)での視聴も含めて本来の価値であるはず。トータルリーチでメディアの価値を表していくことが世の中のスタンダードになればと思う」(石渡氏)

「『とりあえずつけておこう』というヘビー層に加え、視聴形態の多様化によって若年層を中心としたライト層への接点が増え、『わざわざ見に来てくれる』新しい視聴者も増えてきているのではないか」と川上氏。

博報堂DYメディア環境研究所の調査によれば、地上波テレビの視聴量が相対的に少ないとされる10〜20代のあいだで『リアルタイム配信を視聴したことがある』とする割合が極めて高いという。

「コロナ禍を中心としたデジタルシフトによって、自分時間というものを最大限楽しみたい若者が増えている。テレビとSNSを併用し、『リアルタイムを楽しむ』というイベント性や、『(番組を)選んで見に行く』という新しい価値がテレビメディアに生まれているのではないか」(川上氏)

ここで板東氏が、在京キー局5社で構成される同時配信サービスワーキンググループの2022年6月分のレポートを紹介。M1(男性20〜34歳)・F1(女性20〜34歳)といった若年層の新たな獲得が進んでいるとし、「リアルタイム配信によって、ノンテレ(テレビを所持しない)層・ライト層の新たな獲得が確認される」と語る。

続けて板東氏は、2022年7〜9月に放送されたテレビドラマ『六本木クラス』(テレビ朝日)における放送・配信の到達人数を推計したビデオリサーチのデータを紹介。最終話では「タイムシフト視聴・キャッチアップ視聴含め、2300万人近い人々に到達したと」とし、リアルタイム配信がトータルリーチの拡大に大きく寄与していることを示した。

■「テレビvsデジタル」はもう古い。“ボーダーレス時代”にテレビが目指すべき道は?

「これまでテレビはオフラインメディアと言われ続けてきたが、現在はかなり脱却できている」と石渡氏。「とくに効果を可視化できる環境はどんどん整備が進んでいる」としたうえで、「地上波、配信と別々に語られていた価値を、これからは統一して広告主のみなさんに提供していくことが大事なのではないか」と投げかける。

「デジタル広告を中心に効果の可視化や効率改善のための最適化が当たり前になっているが、テレビに関しても同様、効果に関する高速モニタリング分析や効率改善のための最適化アクションが重要になってきている」と川上氏。「テレビの既存価値に加え、テレビ・デジタル共通での測定手法の導入や、最適化のための業務フロー開発、システムの連携に対応していくことがテレビの次世代化には重要だ」と強調する。

これに加え、「広告主発想に立ち、広告主の方々の日々のマーケティング活動に寄り添うということも非常に重要」と川上氏。「広告主のみなさまに『その手があったか』と驚いていただけるようなコミュニケーションを作り、テレビが投資対象として真っ先に選ばれるメディアにならなければいけない」と語る。

「『テレビvsデジタル』の風潮がここ数年強まっていたが、もはや時代は一周し、テレビとデジタルそれぞれの良さを効果的に組み合わせる時代に突入した」と石渡氏。「放送と配信がボーダーレスな時代に突入しているからこその広告ビジネスを、テレビは作らなければいけない」と語る。

「コンテンツはすべての源。われわれはコンテンツを持っている。そこからどれだけ新しいビジネスも含め、広げていくのかが大事ではないか」(石渡氏)

■「変わりゆく届け方」のなかで一層求められる、テレビの「変わらない制作力」

これからの時代、テレビメディアが見据えるべきポイントはどこなのか。川上氏はセッションを振り返り、「変わらない制作力」「変わりゆく届け方」の2つをキーワードとして掲げる。

「いまネット上で話題になっているバラエティーやドラマには、過去にテレビ局の方々が制作し、“世の中の燃料”にしてきたものを現代版にアレンジしたものも多い。まだまだテレビの制作力は強く、広告主は世の中に大きな影響を与えるキングコンテンツを求めている。これからも素晴らしい番組を作り、世の中に届けていただきたい」(川上氏)

川上氏は「2022年10月ごろから、一社提供番組が例年以上に多くスタートしている」といい、「番組と広告主の方々の商品やサービスが一体となって共感を生み、ファンをつくる取り組みが進んでいるということの成果が出ている」とコメント。「生活者のデジタルシフトが進む今だからこそ、改めて放送局の皆様の施策に対する広告主様の強い期待を実感する」と力を込める。

「配信をはじめ、映画、イベント、ゲームと、生活者がコンテンツに接する場面が非常に多面的になったことは非常に大きなチャンス。戦略的なデジタル活用を進め、ショート動画など、デジタル時代の生活者ニーズにアジャストしていく必要がある」(川上氏)

そのうえで、「放送局が集まって大きなプラットフォームになったTVerは、こうした『新しい届け方』にチャレンジする場としては非常に有効」と川上氏。「広告会社の立場として、生活者との接点作りに一緒に取り組み、さらにさらに世の中にうねりを起こしていきたい」と期待を述べた。

「今まで築き上げてきたタイム・スポット市場ビジネスのニーズはまだまだあるが、これから始まるデジタル動画広告市場ももっと伸びていく。それぞれを別々のビジネスとして成立させていくだけではもったいない」と石渡氏。「テレビとデジタルの両方を兼ね備えた売り方が今後とても重要になってくる」といい、「放送コンテンツがこれだけの人々に届いている、その価値がこれだけあるというものをみなさんと具現化していきたい」と語った。

両氏の言葉を受け、「われわれビデオリサーチもその中の一員として、データの提供や利活用といったバックヤードの面から引き続き尽力させていただきたい」と板東氏。「どこか一社だけによるデータの整備は今後ますます難しい状況になっていく」とし、「関係者の皆様のお力をお借りしながら、テレビメディアの価値最大化に向けてご一緒させていただければ」と締めくくった。