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TVerリアルタイム配信スタート1年、見えてきた課題と可能性 〜『PLAY NEXT 2023』レポート

編集部 2023/4/3 17:00

渋谷ストリームホールにて株式会社PLAY主催のカンファレンスイベント『PLAY NEXT 2023』が2023年2月10日に開催。動画配信における効率化ソリューションをはじめ、視聴者に寄り添った機能や新たな視聴スタイルをテーマに放送局や配信事業者が展示やトークセッションを行った。

今回はこの中からトークセッション「TVerでリアルタイム配信を始めて1年、見えてきた課題と可能性」の模様をレポート。

株式会社TVer 取締役COOの蜷川新治郎氏、同サービス事業本部 プロダクトタスクマネージャーの穗坂怜氏が登壇し、民放公式テレビ配信サービス「TVer」で2022年4月より民放5系列揃ってスタートしたリアルタイム配信立ち上げの経緯から実際の運用体制、今後の展望について語った。

左から穗坂怜氏、蜷川新治郎氏

■「一緒に過ぎる時間を味わいたい」開始1年で見えた“リアルタイム視聴”ニーズの大きさ

1月31日現在、TVerのアプリダウンロード数は5700万を突破し、再生数も2億8000万を突破。MUB(月間ユニークブラウザ)数もサービス開始以来初となる2700万を突破するなど、右肩上がりの成長が続いている。

2022年4月よりスタートしたリアルタイム配信(地上波同時配信)では民放5系列のGP帯番組をはじめ、日本シリーズの全試合中継など特色豊かなコンテンツを多数配信。2022年〜2023年の年末年始は若年層を中心に長時間バラエティが大きな人気を集め、通常時の約2倍にのぼるアクセスを記録した。

リアルタイム配信開始の経緯について、「放送として放たれた瞬間からユーザーがどんな環境でも番組を楽しめる環境を作りたいという思いがあった」と蜷川氏。「(リアルタイム同時配信を通じて)外出した人にもリアルタイムで接してもらうことができ、テレビを持っていない人にも番組を楽しんでいただくことができる」といい、「ドラマの盛り上がりからも見られる『リアルタイム視聴』のニーズに答えることが目的だった」と語る。

「すでに番組の多くがキャッチアップ配信を実施していたことから、当初リアルタイム配信はそこまで見られないのではないかと考えていたが、いざスタートすると年末年始番組の視聴ニーズや、ドラマなどを一刻も早く観たいというニーズがあることがわかった」(蜷川氏)

「これまでは『テレビの前で家族とともに』という考えが大きかったが、いまは『世の中と一緒に過ぎていく時間を味わいたい』というニーズを感じる」と蜷川氏。「特にドラマはSNSに感想がすぐ出てくる」とし、「心が動いた瞬間にすぐそれをみんなと分かち合いたい、共感しあいたいという思いがユーザーのみなさまにあることを知った」と、サービス開始からの約1年を振り返った。

■「内製化」と「独自の負荷予測」で快適な視聴体験を実現するTVerリアルタイム配信

続いて穗坂氏が、TVerのリアルタイム配信を支える技術について解説。開始のタイミングであった2022年4月のサービスリニューアルの際に、バックエンド部分をすべて内製化し、開発スピードの向上を図ったという。

一方、リアルタイム配信開始にあたっては、これまでのキャッチアップ(見逃し配信)に加え、地上波放送と同タイミングでの広告挿入や、多くの同時接続に耐えうる配信基盤の確立、ザッピングや追いかけ再生などの新機能、突発的な緊急編成への対応や監視体制の強化といった技術的課題が山積みに。「これらすべてをスクラッチで作るのは現実的ではない」(穗坂氏)として、これらの機能の開発においてPLAY社の協力を仰いだという。

広告挿入や番組情報の取得といった根幹部分には同社のOVP(動画配信プラットフォーム)「STREAKS」が採用されているほか、クライアント側のプレーヤー開発でも同社が構築を担当。放送特有の複雑な広告枠管理に細かく対応するほか、広告サーバーへの負荷集中を防ぐ仕組みも導入されているという。

「放送局プレイアウトとTVerシステム間の『Ad Proxy連携』においては、ステブレ(番組間のCM枠)とカウキャッチャー(番組開始前のCM枠)を同一枠として扱ったり、『前半がローカルセールス、後半がネットワークセールス』といった特殊な枠にも対応する。また、同時視聴数が増えた場合に広告サーバへの負荷集中を防ぐために、広告リクエストのタイミングを分散する仕組みも実現している」(穗坂氏)

「リアルタイム配信では放送と同タイミングでの広告挿入が必要となる。放送局にもプレイアウトの面で多大なご協力をいただき“チラ見え”が起こらないフレーム単位での広告挿入を実現できた」と穗坂氏。現在、番組表データは「STREAKS」のAPIを経由して取得する仕組みとなっているなど、「TVerのリアルタイム配信はまさにPLAY社に支えられている」と強調する。

また、バックエンドシステムのアクセス負荷対策においては「視聴体験の可視化」を軸とした監視体制を導入。番組や出演者への注目度や、番組内でのTVerへの案内状況、「TVer限定」といったコンテンツとしての優位性を示す情報を負荷予測のパラメーターとして活用し、あらかじめ必要なサーバー台数を算出することにより、安定稼働とコストの最適化を図っているという。

「バックエンドチームが週1回のペースでコンテンツ運用のチームやマーケティング・PRの担当チームと連携しながら、負荷対策に向けたきめ細かい準備を行っている。コストを最適化しながらユーザー体験をいかに快適にするか、日々改善に取り組んでいる」(穗坂氏)

■配信全日化やローカル局対応に意欲「『起動すれば何かに出会える』イメージを作る」

後半のテーマは、リアルタイム配信の今後について。現在は配信対象が民放5系列のGP帯番組に限られているが、「今後はオリジナルコンテンツのライブ配信やFAST(タイムテーブル編成型)の配信も検討している」(蜷川氏)という。

「『何か面白い番組をやっていないか』と画面をつけ、たまたま流れてきた映像でコンテンツを知れるのはテレビの専売特許」と蜷川氏。「あらかじめ見る番組を念頭においた『目的型視聴』では見つからない『ちょっと外れたもの』に出会っていただくことも重要」とし、「FASTをふくめ、『アプリを起動したら何かに出会える』というイメージを作っていくことが今後につながる」と、リアルタイム配信の拡大やローカル発番組局への対応にも期待を見せる。

「さらにリアルタイム配信を視聴していただくためには、とにかく“1日中やっている”ことが必要。TVerで配信中のコンテンツが数珠つなぎ式に流れるショーウィンドウ的な配信があってもよいと思う。ブランド力のある、テレビならではのコンテンツをより多くの方に見ていただくきっかけを作ることが重要」(蜷川氏)

さらに蜷川氏は「テレビデバイスはテレビだけのものではなくなってきている」と、テレビデバイス向けのリアルタイム配信にも言及。テレビデバイスに対応したOTTサービスが普及するなか、「ここ(テレビデバイス)にコンテンツを出していかなければ選んでもらえない時代」と危機感をのぞかせ、「放送だけ、配信だけという二元論ではなく、いつかはテレビデバイスによるリアルタイム配信をやらなければいけない」と語る。

「テレビは多くの方々に見ていただくことに最大の価値を求めているようなコンテンツがほとんど。特定のセグメントの方にだけ当たれば良いというものではない。国民的なコンテンツを目指していくことを考えても、ユーザーのみなさんが利便性を感じる場所に出て行かなくてはならない。 “本丸”であるテレビデバイスを通じてコンテンツに触れていただけくため、粛々と技術的な準備を進めていきたい」(蜷川氏)

PLAY社との今後の連携について、蜷川氏は「テレビならではのロジックが考慮されたSaaS(Software as a Service)環境があり、一気通貫で開発も担当していただける点が非常に心強い」とコメント。穗坂氏も「自分たちが持つ競争力を見極めたうえで、システムのどの部分を内製化していくべきか考えたい」としつつ、「引き続きPLAYさんにはコミットしていただけると有り難い」と語る。

「セグメントとは対をなす概念かもしれないが、国民の方全員に格差なく無料でエンターテイメントを楽しんでいただくという意味で、テレビが果たしてきた役割は大きい」と蜷川氏。「全国のクリエイターが作った番組を1人でも多くの方にご覧いただける“きっかけの中心”として、今後もTVerを成長させていきたい」と抱負を述べた。

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