13 SEP

生活者が「テレビを見る」で想起するものは?〜メディア環境研究所「メディア定点調査2023」レポート

編集部 2023/9/13 08:00

博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所主催「メディア環境研究所 プレミアムフォーラム2023夏」が2023年7月4日、大手町三井ホールで開催された。今回のテーマは「膨張するメディアリアリティ」。対話型AIやメタバース、仮想人格などのテクノロジーが急速に進化するなか、拡張する生活者のリアリティという観点からメディアとしてのアプローチのヒントを探った。

【関連記事】現実とデジタルの「リアリティ融合者」に企業はどう向き合うか 〜メディア環境研究所「メディア定点調査2023」レポート

今回は前後編に分けて、このフォーラムの模様をレポート。本記事では、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員・新美妙子氏による発表「メディア定点2023のご報告」の内容を伝える。

新美妙子氏

本発表で取り上げる「メディア定点調査」は、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が生活者のメディア接触状況の把握を目的として2006年より毎年1回実施している調査。18回目となる今回は、今年1月末から2月初旬にかけて東京都内の15〜69歳男女629名に対して実施された。

■メディア総接触時間は443.5分。2年連続微減もコロナ禍前と比較すると高水準キープ。

今年のメディア総接触時間(1日あたり/週平均)は443.5分で、昨年から2分減少。過去最高の450.9分を記録した2021年から2年連続で減少となったが、依然として高い水準をキープした。このうち「携帯電話/スマートフォン」の接触時間は、初めて首位を記録した昨年の146.9分からさらに伸び、151.6分を記録。対してテレビの接触時間は昨年の143.6分から135.4分に減少し、両者の差がさらに拡大した。

一方、昨年減少したラジオは28分と2021年並みの水準に回復。新聞、雑誌、パソコン、タブレット端末に大きな変化は見られなかった。

■携帯/スマホのシェアは初の1/3超。シニア層にも“オンライン常態化”の流れが徐々に浸透。

接触時間の構成比では、「携帯電話/スマートフォン」の割合が34.2%に達し、2006年の調査開始以来初の1/3を突破。すべてのメディア中、もっとも高い比率を保った。これにパソコン、タブレット端末を加えたデジタルメディアの合計は57.7%となり、昨年の57.1%から微増。新美氏は「オンライン常態化は継続している」と指摘する。

性年代別では20代男性のメディア総接触時間が518.1分と、すべての性年代において唯一の500分超えを継続。この状態は2021年から3年連続となっている。

「若年層のメディア接触先はその大半がデジタルであり、『携帯電話/スマートフォン』の接触時間はいずれも200分を超えている」(新美氏)。なお、テレビの接触時間は60代女性が突出して高く、225.3分を記録。メディア接触の年代差は依然としてある一方、60代男女におけるデジタルメディアの接触比率も徐々に上がってきており、今年は36.1%と、60代でもデジタルはメディア接触全体の1/3を占めている。

■テレビ視聴環境のデジタルシフトが鮮明に。TVer利用率は4割目前

続いて新美氏は、情報機器・インフラ利用の推移を紹介。

「テレビのインターネット接続」(=コネクテッドTV)の割合は、初の過半数となった昨年からさらに54.9%に続伸。ストリーミングデバイスの所有は33.7%で、初の3割超えとなった。ハードディスクレコーダーの所有は調査開始時の2016年から10ポイント強減少して71%と、「テレビのインターネット接続」との差が縮まりつつある。テレビ視聴環境のデジタルシフトがより鮮明となった。

配信サービス利用の推移では「動画共有・配信サイト」が81.3%と、調査開始時の2016年から高い水準をキープ。一方、定額制動画配信サービスは昨年伸びが止まったが、ふたたび上昇に転じ、54.6%を記録。昨年3割超えとなったTVerも今年39.5%に達し、4割が視野に入ってきた。

これらの結果を踏まえ、新美氏は「テレビが『最大のスクリーン』となった」とコメント。「スクリーンとコンテンツのかけあわせが増加している」とし、さまざまなスクリーンが“テレビ視聴”の場として機能していることをあらためて強調した。

■「『テレビを見る時間』で想起するものは?」若年層の“多様化”が顕著に

「スクリーンとコンテンツのかけあわせが増加してさまざまなスクリーンでテレビコンテンツを視聴するケースが増え、メディア接触の正確な実態を追いきれない状況となってきた」と新美氏。

「『テレビを見る時間』として何を思い浮かべるか?」という質問では、「テレビ番組(リアルタイム)」「テレビ番組(録画)」という従来通りのテレビ視聴が引き続き上位を占める一方、「テレビ番組(見逃し視聴サービス)」「有料動画」「無料動画」の割合がいずれも30%弱に。特に「テレビ番組(見逃し視聴サービス)」は昨年の17.7%から26.2%へと10ポイント近く上昇し、急速な浸透がデータの面でも明らかになった。

「このように『テレビを見る時間』のとらえ方の変化は、若年層に顕著に見られる」と新美氏。20代は60代に比べて「テレビ番組(リアルタイム)」が少なく、「見逃し視聴サービス、有料動画、無料動画、インターネットテレビが多くなっており『テレビを見る時間』のとらえ方の多様化が顕著であることがわかる」とコメントした。

■外出中や食事中、入浴中も… 「四六時中スクリーンに触れている」生活者

スクリーンとコンテンツの掛け合わせが増加している現状を踏まえ、新美氏は同研究所が新たに実施した「メディア定点annex調査」の結果を紹介。今年4月に実施されたこの調査では、全国7地区、12〜74歳の男女に対してWEBアンケートを行い、メディア環境の現在をスクリーンという視点からとらえた。

生活者が「スクリーンに触れていない時間」は意識ベースで、3時間25分(1日あたり/週平均)。「睡眠時間を除いて答えてもらっており、起きている時間、3時間25分以外はスクリーンに触れていると生活者は認識している」と新美氏。性年代別で比較すると、「スクリーンに触れている時間がもっとも短い」70代女性と「スクリーンに触れている時間がもっとも長い」20代男性との間には、2倍近い開きが見られた。

続いて新美氏は、「スクリーンに触れていない時間に取る行動」の結果を紹介。最も多い7割以上が「入浴」を例に挙げて、「裏を返せば、約3割が入浴中もスクリーンに触れているということ」と指摘する。

「同様に、身支度や家事、友人・家族と食事をしているときにスクリーンに触れている人が6割弱、家族・友人・知人と外出しているときは7割以上がスクリーンに触れているとも言える。生活者は四六時中スクリーンに触れている生活を送っているのではないか」(新美氏)

■スクリーン接触時間は、スマホ・テレビでほぼ同じ。「テレビの見られ方」も多様化

スクリーンごとの各サービス接触時間を見るとスマートフォンのスクリーン、タブレット端末のスクリーンともに「無料の動画配信サービス」がトップ。テレビスクリーンでは「テレビ番組(リアルタイム)」が圧倒的に接触時間が長く、続いて「テレビ番組(録画)」「有料の動画配信サービス」が並ぶ。

「スマートフォン・テレビ両スクリーンの接触時間は、それぞれ238.3分、236.0分と、ほぼ同程度。テレビ・動画に絞って各スクリーンの接触時間を見ると、リアルタイムのテレビ番組はテレビスクリーンでの接触時間が長いものの、スマートフォン、パソコン、タブレット端末、プロジェクターにおいても接触されている。また、見逃し配信サービスでのテレビ番組や有料・無料の動画配信サービスでは、各スクリーンが使い分けられている様子が伺え、テレビの見られ方が多様化してきていることがわかる」(新美氏)

最後に新美氏は、サービスごとのスクリーン接触時間の合計が12時間11分(731.2分)に達することに言及。「総務省の社会生活基本調査によれば、日本人の平均睡眠時間は7時間54分」といい、「これに『スクリーンに接触していない』3時間25分を加えると、ほぼ1日分の時間に相当する」と指摘する。

「『メディア定点annex調査』を通じ、生活者が生活時間に重ねて四六時中メディアコンテンツの接触にあてている実態が見えてきた」と新美氏。「スクリーン、コンテンツ、時間、場所の掛け合わせがこれまでにないほど多様化したメディア環境にいま、生活者がいる」と締めくくった。

※「メディア定点annex調査」は2023/9/12発表のリリースで、「スクリーン利用実態調査」」と改称いたしました。

 

【関連記事】現実とデジタルの「リアリティ融合者」に企業はどう向き合うか