“テレビ局の強み”を活かしたメ~テレCVCの取組み【インタビュー】
編集部
名古屋テレビ放送株式会社(メ~テレ)は2017年4月、「東海地方から世界を変える、世界から東海地方を変える」をミッションに、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の名古屋テレビ・ベンチャーズを設立した。
設立から2年、投資先も順調に増えている今、改めてテレビ局がベンチャーに投資する狙いと、そこから見えてきた今後のビジネス展開について、同社 経営戦略局 事業開発部長 片桐千秋氏に話を聞いた。
<片桐千秋氏プロフィール >
1990年名古屋テレビ放送株式会社に入社。東京支社・本社などで営業関連業務に従事したのち、東京コンテンツ事業部長・東京制作部長として映画や海外ドラマなどのコンテンツ投資事業を推進。2016年より事業開発部長。2017年4月名古屋テレビ・ベンチャーズの設立に参画。
■テレビ局がベンチャーに投資する狙い
時代が大きく変化しつつあり、まもなく来る第4次産業革命は、私たちテレビ業界に想像もできないような影響を与えるかもしれない。そんな意識改革が待ったなしの2016年1月、新事業の創出を担う新設部署、事業開発部が立ち上がった。その部署に異動した片桐氏がまず行ったことは、会社のリソースの徹底的な分析。他社比較も行い、強み弱みを正確に把握したうえで、私たちテレビ局が新事業を創出するには外部リソース(人材、技術)が必要と判断し、R&D要素も兼ねるCVC設立に着手した。ANN系列グループの朝日放送が、ABCドリームベンチャーズというCVCを既に立ち上げていたことも後押しとなった。
片桐氏は「CVCでは投資リターンも当然重要だが、ベンチャーとの接点を作ることで、そこから学んだり、人材育成にもつながったりする。テレビ局はインターネット関連事業に弱いというイメージがあるが、自分たちだけでは不可能なことも、ベンチャー企業のスピードや人材リソースにより強化できるなど、新事業の創出においても必須だと考えた」と設立理由を明かす。
一方、ベンチャー側にとってのメリットも大きい。「ベンチャー企業がゼロから信用を築いて取引先を開拓するのは大変だが、多くのスポンサー企業に恵まれているテレビ局と連携することで信頼性が増し、高品質なコンテンツ制作の付加価値といったシナジー効果が得られる場合もある。また、私たちが間に入り、企業とベンチャー企業をマッチングすることや広告宣伝の支援も可能である」と双方にとってメリットがあると片桐氏は強調した。
現在、大手投資信託運用会社にてアナリスト業務経験のある部員と投資活動をおこなっている。
■世界から東海地方に人と情報が集まる環境作りを提案
同社の投資先は、メディア、エンターテインメント、動画ビジネス、インターネット全般と多岐にわたる。これまでの協業事業として、バーティカルメディア構築等を行っており、今後も様々な事業構築を準備している。
同社の投資スタンスとしては、基本的にはIT領域のサービスに特化しつつも、投資領域をあえてフォーカスせず、トレンドに応じて有力スタートアップに柔軟に投資していく戦略を掲げているが、テレビ局のCVCとしての指針は下記3つがあると言う。
1.テレビの付加価値向上
2.コンテンツ連携および販路の拡大
3.東海地方の産業振興
特に、3について片桐氏は、「東海地方は、まだまだ東京に比べるとベンチャーの数は少ないが、VC(ベンチャーキャピタル)の数も少ないので、その点ではチャンス」と述べ、「東海地方の信頼されるVCとして、宣伝PRが必要なベンチャー企業には、必ず声を掛けていただけるようなパートナーでありたい」そして「世界から東海地方に人や情報が集まるような環境作り、ならびに起業家同士が集う情報交換の場作りも手伝っていきたい」と地方局としての使命を語る。
では、ベンチャーと接点を持ったことで、社内の雰囲気はどのように変化したのか。「正直、まだまだの部分もあるが、上長から『スピード』と『前例無視』を求められており、私の部署はくじけずに前に進むことだけを考えている。私たちがその先に目指しているのはオープンイノベーション。外からベンチャーの風を社内に取り込み、会社全体が変わっていくエンジンの役割を果たさなければならないと考えている。先日も投資先であるインフルエンサーマーケティングのトータルソリューションを展開する株式会社BitStarの社長による社内講演会を実施した。今後、どんどんこのような勉強会を開催していく。そして、少しずつでもいいので社内の雰囲気とみんなの考え方が変わってくることに期待をしている。同時に、今この時代にテレビを選んで就職してくれた若い後輩達が、安心して働けるよう、将来を見据えた事業基盤を早く構築したい」と片桐氏。少しずつではあるが、デジタル領域を取り入れた新しい取組みも開始されている。
同社では今月から社内起業家制度を設け、社内ベンチャー社長の募集を開始した。「新しい事業を立ち上げていくには、経営人材も育成しなければならない。ベンチャー投資をすることで新たな風を社内に入れつつ、社内では起業家制度を作り、たくさんの人がビジネスモデルを考えて、そして実際に事業を立ち上げる経験をしてもらいたい」と社内からも変わって行こうと呼びかける。
今後も同社の動向を追っていきたい。